事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか

06 契約審査・レビューの方法

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:依頼を受けたが取引の実態が分からない

契約書案と依頼書は手元にあります。ひと通り読みました。しかし、直せません。

第9条に「乙は、本件業務の完了後、速やかに成果物を甲に納入する」とあります。この条項が問題かどうかは、成果物が何であるかによって変わります。プログラムなのか報告書なのか、データなのか。誰がどうやって完了を判定するのか。契約書には書いていません。

第14条に「本件業務に関して甲の指示に従う」とあります。この条項が問題かどうかは、実際にどの程度の指示が出るかによって変わります。月1回の進捗確認なのか、日々の作業指示なのか。前者なら準委任として自然ですが、後者に近ければ労働者派遣に当たらないかという別の論点が出てきます。

契約書だけを読んでいても、この差は埋まりません。埋めるのがヒアリングです。ヒアリングでは、契約書案や添付資料だけからは明らかにならない事項、すなわち取引の相手方の信用、取引の経緯、取引の具体的な内容、書面によらない口頭の契約の有無、契約書案の記載と異なる取引慣行の有無、当該契約書案に潜むリスクの内容など、多岐にわたる情報を得ることになります(注1)。

依頼を受け付ける時点で何を出してもらうかは、別稿「依頼を受け付ける:何を出してもらうか」で扱いました。本稿はその次の工程です。

ヒアリングは省略できる工程ではありません。契約審査手続において、依頼部署へのヒアリングは原則として必要です(注2)。


二 何を見るか:条項から逆算して聞く

聞き方の原則

最初に、聞き方の原則を一つ置きます。「取引の全体を教えてください」では機能しません。

この聞き方をすると、事業部門は取引の経緯を時系列で話し始めます。その話には、契約書の条項に関係のない情報が大量に含まれます。1時間話を聞いて、条項が1つも決まらない、ということが起きます。

条項から逆算して聞きます。契約書のどの条項を決めるために、何を聞くのか。これを先に決めてから質問を作ります。ヒアリングの準備としては、契約内容のポイント(当事者、取引内容、契約類型)を把握し、具体的な取引場面をイメージしながらヒアリングすべき事項を列挙します(注3)。

以下、聞くべき5つの領域を挙げます。それぞれに、その質問が決める条項を添えます。

1 商流:誰から誰へ、モノ・カネ・情報が動くか

決まる条項 当事者の表示、目的、再委託、譲渡禁止、知的財産権の帰属

最初に、取引の構造を確認します。当事者が誰と誰なのか。モノ、カネ、情報が、それぞれ誰から誰へ動くのか。

ヒアリングの冒頭で、当事者関係図を示して当事者を確認し、契約目的を確認する。そのうえで契約書案の条項に沿って確認していけば、流れの良いヒアリングができます(注4)。当事者関係図は依頼の段階で作ってもらうものですが、ヒアリングの冒頭で使う道具でもあります。

ここで見つかることが多いのが、契約書に出てこない第三者です。「実際の作業は協力会社にやってもらいます」「データは当社のクラウド事業者のサーバーに置きます」。契約書の当事者は2社なのに、実質的には3社が関与している。この場合、再委託の条項と秘密保持の条項を見直すことになります。

2 支払:いつ、いくら、どういう条件で

決まる条項 支払(時期・場所・方法)、遅延損害金、相殺、期限の利益喪失

具体的な取引の内容としては、目的物や業務の特定方法、数量、納入方法、価格決定の経緯、代金支払の方法などを列挙して聞きます(注5)。

価格決定の経緯は、意外に効きます。「相場より安いが、初回だから」という答えであれば、2回目以降の価格改定の条項が要ります。「先方の言い値を飲んだ」という答えであれば、力関係が分かります。

支払条件については、契約書の文言よりも実際の運用を聞きます。「請求書はいつ出しますか」「検収から入金まで何日かかりますか」。契約書に「月末締め翌月末払い」と書いてあっても、実際には検収に2か月かかっていれば、資金繰りは契約書のとおりになりません。

3 成果物・納品物:何をもって完了か

決まる条項 検収、契約不適合責任、危険負担、知的財産権の帰属

ここが、条項から逆算する聞き方の効果がいちばん出る領域です。

「検収は誰が、どうやってやりますか」と聞きます。この一問で、いくつもの条項が決まります。

  • 検収の基準が仕様書にあるなら、仕様書を契約の一部にする条項が要る
  • 検収の期間が決まっていないなら、みなし検収の条項を検討する
  • 検収をする人が事業部門ではなく最終顧客なら、その関係を条項に落とす必要がある
  • そもそも検収という工程がないなら、引渡しや業務の完了をどの時点で確認し、消滅時効をどの時点から数えるかを確認する。種類・品質の不適合の通知期間は、民法では買主(注文者)が不適合を知った時から1年で(民法566条・637条。売主・請負人が悪意・重過失の場合を除く)、商人間の売買では受領後の検査と直ちの通知が求められるので(商法526条)、契約で別の期間を定めるなら、その起算点も決めておく

契約不適合責任の通知期間を6か月にするか1年にするかは、この一問の答えの後でなければ決まりません。

検査方法と通知期間も、同じ順序で考えます。検査方法について、商法526条は具体的に定めていないので、紛争防止の観点からは契約書で具体的に定めておくべきです。ただし、どのような検査を行うべきかは目的物の内容・性質によって異なるので、事業部門へのヒアリングを踏まえて判断していく必要があります(注6)。検査結果の通知期間についても、「遅滞なく」「直ちに」といった解釈の余地のある表現では当事者間で争いになりうるので具体的な期間を定めておくべきであり、どのくらいの期間が妥当かは、やはり事業部門へのヒアリングを踏まえて判断します(注6)。

条項を具体的に書くべきだという結論と、ヒアリングが要るという結論は、同じところから出ています。具体的に書くには中身を知らなければならず、中身を知っているのは事業部門だからです。

4 想定されるトラブル:過去に何が起きたか

決まる条項 解除、損害賠償、責任制限、不可抗力、期限の利益喪失

「これまで、この種の取引で何かトラブルはありましたか」と聞きます。

この質問が効くのは、事業部門が持っている情報のうち、契約書に反映されにくいものが、ここに集まっているからです。「前に納期が2か月遅れたことがあります」「先方の担当者が変わると話が変わることがあります」「以前、同じような案件で在庫を引き取ってもらえなくて困りました」。

損害賠償条項を確認するにあたっては、どのような損害が生じる可能性があるのかを依頼担当者に聞いてみるのもよい方法です(注7)。損害賠償の上限をいくらにするかという問いは、抽象的には答えが出ません。起こりうる損害を具体的に挙げてもらってから、その額を見て決めます。

過去の相手方との取引でトラブルがあったかどうかも、聞くべき項目です(注8)。

5 相手方との力関係と、この取引の重要度

決まる条項 (どの条項を直すかの優先順位そのもの)

取引の相手方については、主な業務、本社の所在地、資本構成、自社との取引内容、過去の取引におけるトラブルの有無、今回の取引の担当者の役職と人柄、契約交渉における力関係などについて聞くことになります(注8)。

「担当者の人柄」まで聞く、という点に注意してください。これは修正案の書き方に影響します。細かく直すと機嫌を損ねる相手なのか、書面で詰めたほうが早い相手なのか。修正の内容は法的な判断ですが、修正の見せ方は相手方によって変わります。

そして、この取引が自社にとってどれだけ重要かを聞きます。「この取引が流れたら困りますか」という質問です。困るのであれば、修正の点数を絞ることになります。

聞き忘れやすい2つ

以上の5領域とは別に、特に聞いておきたい項目が2つあります。どちらも、契約書を読んでいるだけでは思いつかない質問です。

書面によらない口頭の契約や、契約書案の記載と異なる取引慣行の有無(注9)。「契約書にはこう書いてありますが、実際は違う運用をしていませんか」と聞く。あれば、その内容も確認します(注9)。契約書と実際の運用がずれている場合、契約書のほうを直すのか運用のほうを直すのかという判断が要ります。ずれたまま放置すると、紛争になったときに契約書が武器にならなくなります。

そして、あるべき条項がない理由。契約類型からして約定しておくべき事項が契約書案に記載されていない場合には、その理由を確認しておかなければなりません(注7)。

これは重要です。欠落には2種類あるからです。気づかずに落ちた欠落と、交渉の結果として落とした欠落。前者なら足せばよいのですが、後者を足すと、すでに終わった交渉を蒸し返すことになります。足す前に理由を聞きます。

条項の中身に踏み込んだ聞き方も、同じ形をとります。秘密保持条項で、承諾なしに開示できる相手をあらかじめ列挙する場合、自社がグループ会社(親会社や子会社)に情報の開示を予定しているなら、開示先にグループ会社を加えておかなければなりません。これも事業部門へのヒアリングで必要性を確認しておく必要があります(注10)。契約書を読んでいるだけでは、その会社にグループ会社があるのかどうかも分かりません。


三 直し方:ヒアリングシートを作る

質問事項が列挙できたら、どのような順序で質問するかを考えます(注4)。

質問事項が整理されていると、聞くべき事項を落とすことがなくなります。話の流れが良くなって相手も話しやすくなり、周辺情報を聞くこともできるようになり、ヒアリングに要する時間も短縮できる(注4)。

順序の基本形は、当事者関係図で当事者を確認し、契約目的を確認したうえで、契約書案の条項に沿って確認していくというものです(注4)。ただし、これは契約書案の条項が整然と並んでいることが前提です(注4)。並びが乱れている契約書案では、条項順に聞くと話が行ったり来たりします。その場合は、二で挙げた領域の順に聞くほうが流れます。

質問事項は、ヒアリングシートにまとめます(注11)。シートには3つの役割があります(注11)。

役割中身
質問の漏れ防止ヒアリングの際に漏れなく質問するためのメモになる
記録回答をその場で記載することでヒアリングの記録になる
報告上司への報告の際の資料になる

3つめが見落とされがちです。ヒアリングの内容を後から思い出して報告書を書くのは手間がかかりますし、記憶は変わります。その場で書き込めるシートにしておけば、報告と記録が一度で済みます。

シートの作り方は、二で挙げた5領域を大項目にし、その下に質問を並べ、右に回答欄を置く形が基本です。契約類型ごとに分けておくと、質問の精度が上がります。


四 相手方への説明のしかた

ヒアリングは、情報を得るだけの場ではありません。その場で、把握できている問題点を依頼担当者に説明します(注12)。

依頼担当者が契約に潜むリスクを理解したうえで相手方と交渉することが望ましいからです(注13)。そのため、なるべく早い段階で契約のリスクを指摘すべきであり、早い段階で指摘しておけば、依頼担当者のほうからリスクを回避する修正案が出てくるかもしれません(注13)。

ただし、伝え方に注意が要ります。依頼部署は、その契約は締結可能であり、かつ締結すべきであると考えて審査を依頼しています。ですから、契約を否定する発言には敏感になっています。不用意に否定的な発言をすると、依頼担当者との信頼関係を害してしまうことがあります(注13)。

言い方は、例えば次のような形です(注13)。

当該契約には、こんなリスクがありそうなので、このままでは難しいかもしれないが、こんな工夫をすればリスクが回避できそうだ(注13)

「難しい」で止めず、対案まで一続きで言う。さらに、相手方と交渉する際の武器を提供できれば、依頼部署からの信頼を得ることができるようになります(注13)。

まれに、依頼部署が契約内容を確認しないまま審査依頼をしてくることがあります。その場合は、一緒に契約内容を確認して、依頼担当者に内容を理解してもらうという工夫が要ります(注13)。ヒアリングが、そのまま契約書の読み合わせになる場面です。

なお、ヒアリングに出向くと、審査に要する期間の見通しを聞かれます(注14)。契約審査に要する期間は問題点の内容によって変動しますし、ヒアリングをして初めて発見される問題点も多いため、この段階で正確な見通しを立てることは難しい(注14)。それでも依頼部署は今後の見通しに大きな関心を持っていますから、答えないという選択肢はありません。幅を持たせたうえで、何が決まれば確定するかを添えて答えます。


五 どこまで直すか:聞きすぎない

ヒアリングには上限があります。

依頼担当者の時間は有限で、しかも本来の業務は取引を進めることです。質問が多すぎると、次から相談が来なくなります。法務に相談すると時間がかかるという評判が立つと、契約書が回ってこなくなり、締結後に問題が発覚するようになります。これが、聞きすぎることの最も大きな害です。

聞く量を決める基準は、その質問の答えによって、条項の書き方が変わるかどうかです。

答えが変わっても条項が変わらない質問は、しません。「先方の担当者は何年目の方ですか」は、修正の見せ方に影響する範囲でのみ意味があります。「先方の会社の設立年は」は、信用の判断に使わないのであれば聞く必要がありません。

二で挙げた5領域に絞れば、1時間で足ります。それ以上になるときは、質問が条項から逆算されていない可能性があります。

聞く姿勢についても一点。その取引については、依頼担当者のほうが詳しいという前提を崩さないことです。ヒアリングには、必要な情報を教えてもらうという姿勢で臨みます(注15)。審査する側が取引に詳しいわけではありません。詳しくないから聞いているのであって、確認や試験をしているのではありません。

なお、ヒアリングには副次的な効果があります。依頼部署は、類似の契約を多数締結することが考えられます。今回の契約審査で適切なアドバイスができれば、以後の類似の契約においても反映される。依頼部署への適切なアドバイスは、今後の契約審査にも影響します(注13)。今回1時間かけて説明した内容は、以後の依頼書の精度を上げます。

本稿で扱わなかったこと

本稿は、取引の実態を聞き取るところまでを扱いました。聞き取った内容を、どう条項に落とすかは別の話です。

聞き取った結果、契約書に足すべき条項が見つかったとします。しかし、足すべき条項をどう見つけるかには、ヒアリングとは別の技術があります。取引構造からの逆算だけでは、既知のリスクしか拾えません。チェックリストと組み合わせる必要があります。別稿「抜けている条項を見つける技術」がこれを扱い、その前提となる条項の分類は別稿「共通条項の機能分類」が示します。

また、本稿の四で触れた「否定的な発言を避ける」という点は、修正案を出した後の説明の場面で本格的に問題になります。法務が決めるのは法的にどうかまでで、やるかやらないかは事業部門が決める。この線引きを扱うのが別稿「事業部門への説明」です。

聞き取った内容から商流図を作る作業については、別稿「商流図とお金・モノ・情報の流れを描く」で扱います。


参考文献等

註

(注1)愛知県弁護士会研修センター運営委員会法律研究部契約審査チーム編『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018)24頁
(注2)同20頁
(注3)同24頁
(注4)同27頁
(注5)同27頁。同書は、売買契約や賃貸借契約であればその目的物、業務委託契約であればその具体的な業務の内容、目的物や業務の特定方法、数量、納入方法、価格決定の経緯、代金支払の方法、成果物の取扱いなどを列挙するとします。
(注6)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)241〜242頁
(注7)前掲注1・27頁
(注8)前掲注1・27頁。同書は、取引の相手方について、主な業務、本社の所在地、資本構成、自社との取引内容、過去の取引におけるトラブルの有無、今回の取引の担当者の役職と人柄、契約交渉における力関係などを挙げます。
(注9)前掲注1・24頁・27頁
(注10)前掲注6・132頁
(注11)前掲注1・27頁
(注12)前掲注1・24頁
(注13)前掲注1・25頁
(注14)前掲注1・27〜28頁
(注15)前掲注1・24頁


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