ひな型の選び方と、ひな型が前提にしている取引像

05 契約書を作成する技術

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:ひな型を探すところから始まる

契約書の第一案は、ゼロから書くより、既にある契約書をベースにして作るのが効率的です(注1)。第一案のベースになる契約書の準備方法は、①自社のひな形、②自社の過去事例、③定評のある書籍のひな形、④契約書レビューツールが提供するひな形、⑤インターネットで検索したひな形、の順に挙げられます(注1)。どれを使う場合も、事案に合わせた修正が必要だという点は同じです(注1)。

ひな型を用意する大きな理由の1つは、契約書に必要な事項・要件のチェックリストとすることです(注2)。ひな型は一面便利なもので、具体的取引に応じて空欄を埋めていけば、法務の初級者でもひととおりの契約書案を作成できます。しかし、ひな型はいわばレディーメイド(既製品)であり、実際の個別の契約書はオーダーメイド(特注品)です(注2)。個々の取引に合わせた契約書案を作成しないと、ピントのずれた、取引の実情にそぐわないものとなり、契約交渉が難航することにもなりかねません(注2)。


二 何を見るか

1 そのひな型はどちらの立場で書かれているか

市販のひな型を使う場合は、まず、ひな型が利用する会社や締結対象となる取引内容を前提としておらず、似たようなものを選んだとしても、会社が置かれた状況や実際の取引内容とズレが生じます(注3)。次に、市販のひな型の中には売主有利版・買主有利版といった指定がないものが多く、売主の立場で売買契約書のひな型を使用したのに買主有利のひな型であり、自社の利益が損なわれる可能性もあります(注3)。

自社の過去の契約書を使う場合も同じです。過去事例で自社が売主だったのに、今回の取引では自社が買主だという場合、その契約書をそのまま使うのはリスクが高いといえます(注4)。

立場は、条項を数本読めば分かります。

見る条項売主(受託者)寄りのひな型買主(委託者)寄りのひな型
検収期間が短い、みなし合格がある期間が長い、不合格時の処理が細かい
契約不適合責任期間が短い、範囲が限定的期間が長い、追完方法を買主が選べる
損害賠償上限がある、間接損害を除外上限がない、弁護士費用を含む
支払前払い・短いサイト検収後・長いサイト

2 どんな取引を想定しているか

同じ「業務委託契約書」でも、単発の制作と継続的な運用保守では、必要な条項が違います。規模、期間、継続性、当事者の数を、ひな型の条項から逆算して読み取ります。

過去事例を使う場合は、自社の立場に加えて、過去事例と比べたときの自社の交渉力や、取引で重視すべきポイントにも差があるのが通常です。必要に応じて、当時の担当者へのヒアリングや過去事例の資料の確認を行うことも有用です(注4)。

3 いつのものか

ひな型は、作られてから見直されないまま使われ続けることがあります(注5)。時々はひな型を見直して、法令の改廃によって用いられなくなった用語は使わないようにします。期限の利益喪失事由の1つとして「会社整理」(会社法成立により廃止)を挙げる契約書案はいまだに時折見かけますし、不渡り処分に関する「手形交換所」は廃止されて電子交換所になりました(注5)。

ひな形の作成時点で想定できる問題点を網羅していたとしても、時間の経過とともに新たな問題点が発生または発見される可能性があります。自社ひな形を使う場合でも、法改正、新たな判例、社会情勢の変化などを踏まえた修正が必要になることがあります(注1)。

市販のひな型については、そもそも正しいものか否か分からず、ひな型自体が間違っている、あるいは不十分である可能性もあります(注3)。インターネットで探したひな型は、内容が信用できるかに注意が必要で、一定のリテラシーが要るため、契約書レビューの経験が乏しいうちは避けたほうがよいでしょう(注1)。


三 直し方

1 ひな型の前提と目の前の取引の差を洗い出す

ひな型を使う前に、ひな型が想定している取引と、目の前の取引を並べます。

比べる点ひな型の前提目の前の取引
自社の立場
取引の期間・継続性
目的物・役務の性質
当事者の数・関係
関係する法令(業法・取適法(旧下請法)など)
ひな型が作られた時期

差が出た行が、直すべき条項の一覧になります。

2 差が大きければ別のひな型を探す

一定の類型の取引を繰り返し行う場合に雛形を使うと、類型的に検討すべき項目の漏れを防いでリスクを排除でき、雛形からの逸脱をチェックする体制にしておけば、業務の標準化・効率化を図れます(注6)。他方で、特殊な取引や特別な状況にあるのに、取引の個性に応じてリスクを抽出せず、漫然と雛形に頼って契約を締結すれば、意図した法律効果が得られなかったり、想定しなかったリスクに対処できなかったりして、トラブルの素となる可能性が高くなります(注6)。

取引の内容を検討した上で、個別の取引に応じて修正すべき点はないか、あるいは雛形を使わず一から契約書を作成すべきかを見極めることが、重要なポイントです(注6)。

差が大きいひな型を直して使うと、条項どうしの整合が崩れます。前提が違うひな型を直し続けるより、前提が近いひな型に替えるか、一から作るほうが早いことが多いです。


四 相手方への説明のしかた

自社のひな型で交渉すると、相手方から「この条項はうちの取引に合わない」と指摘されることがあります。自社のひな型を使う場合、ややもするとひな型の空欄部分を補充することで満足してしまい、取引の実情に合わないひな型の条項をそのまま残したりして、具体的な取引の実情にそぐわない契約書案を作成することがあります(注7)。

相手方の指摘が取引の実情に基づくものなら、ひな型に固執せず直すほうが、交渉は早く進みます。ひな型は社内の出発点であって、相手方に説明する根拠ではないからです。


五 どこまで直すか

ひな型を利用する場合はあくまでも自社のひな型を利用すべきであり、また、ひな型をチェックリストとして利用する意識をもって、個別具体的な契約ごとに取引の実情を十分に反映させた契約書案を作成しなければなりません(注7)。市販のひな型は単体で用いず、チェックマニュアルと共に用いる習慣を付けるべきです(注3)。

直す範囲の目安は、三の1の表で差が出た行です。差がない行まで手を入れると、ひな型が持っていた条項どうしの整合を自分で壊すことになります。

すべてのひな型は、ある特定の取引を想定して書かれています。前提を読み取らずに使うことが、いちばん多い事故です。

本稿で扱わなかったこと

自社ひな型で進めるか相手方ひな型を直すかの判断は、別稿「自社ひな型を作るか、相手方ひな型を直すか」が扱います。自社ひな型の作り方と改訂サイクルは31章で扱います。


参考文献等

註

(注1)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)23〜25頁
(注2)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)97〜98頁
(注3)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)25頁(Q3)
(注4)前掲注1・24頁
(注5)前掲注2・97頁
(注6)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)4〜5頁
(注7)前掲注2・99頁


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