書式の戦い:発注書と注文請書、約款の応酬

04 契約締結過程と契約の成立

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 いつ・誰が・何をするのか:双方が自社の書式を送り合う

買主の購買担当者が、自社の注文書を送ります。裏面には自社の取引約款が印刷されています。売主の営業担当者は、自社の注文請書を返します。その裏面にも、売主の取引約款が印刷されています。

2つの約款の中身は、たいてい食い違っています。検収の期間、契約不適合責任の期間、損害賠償の上限、管轄裁判所。それでも取引は始まり、商品は納品され、代金は支払われます。

この状態を「書式の戦い(battle of forms)」といいます。現代の重要な取引は事前の交渉を経て契約が締結され、かつ契約書の条項ごとに合意の有無が争われます(注1)。英文契約の話だと思われがちですが、日本の取引基本契約の実務でも同じことが起きています。


二 手順(実際に起きること)

1 買主が自社書式の注文書を送る

注文書は、多くの場合、申込みにあたります。

2 売主が自社書式の注文請書を返す

注文請書の裏面に、注文書と違う約款が印刷されている場合、民法の条文どおりに読めば、承諾者が申込みに変更を加えて承諾したことになり、申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなされます(民法528条)。

3 裏面約款が食い違っている

実務でよくみられるように、それぞれ定型条項が裏面に印刷された注文書や注文承り書をやりとりして、当事者がどちらかといえば自動的に自己の定型条項に言及したに過ぎない場合には、お互いの定型条項の間に抵触があることに気づいてさえいないのが通常です(注2)。

4 そのまま取引が始まる

どちらも異議を述べないまま、納品と支払が進みます。約款の食い違いが問題になるのは、納品後に不具合が見つかった、支払が滞ったといった、揉めたときです。


三 つまずきやすいところ

1 どちらの約款が契約内容になるか

申込みと承諾の枠組みで考えると、答えは「最後に送られた書式」に傾きます。申込みと承諾による一般的準則を当てはめると、相手方が承諾としてした応答は反対申込みとなり、契約は存在しないことになるか、両当事者がそれぞれ定型条項に異議を述べることなく履行を開始していれば、最後に送付ないし言及された条項(「ラスト・ショット」)に基づく契約が締結されたことになります(注2)。

2 ラストショット・ルールとノックアウト・ルール

これに対して、国際的な契約原則には別の考え方があります。ユニドロワ国際商事契約原則2.1.22条は、当事者双方が定型条項を使用し、これらの定型条項以外について合意に達したときには、契約はその合意された内容および定型条項のうち内容的に共通する条項について締結されたものとする、と定めています(「ノック・アウト」理論)(注2)。書式の戦いにおいては、申込みと承諾による契約の成立という概念が必ずしも当てはまりません(注2)。

考え方契約内容になるもの
ラストショット・ルール最後に送付・言及された書式の条項(注2)
ノックアウト・ルール合意した内容と、双方の書式に共通する条項。食い違う部分は脱落する(注2)

ラストショット・ルールであれば我慢強く立ち回って最後の発砲者となることができるので、交渉力の強い当事者であれば書式の戦いでも十分な勝算が見込まれます(注3)。ノックアウト・ルールの下では、自社の契約書式が契約内容から排除されてしまう事態が想定されます(注4)。

3 日本では、申込みと承諾の分析自体がされにくい

日本の実務は、どちらのルールにも素直には乗りません。我が国では、どの行為が申込みで、どの行為が承諾かという詳細な分析は行われません。一方当事者が変更不可と宣言したうえで提示した書式であっても、相手方が諾否を明確にしない限り、そこに契約書式についての合意があったと認めてもらえるとは限りません(注5)。契約合意は、裁判官の心証の下、交渉経緯を踏まえた事実問題として取り扱われる、という説明です(注5)。

「最後に送った側が勝つ」とも「共通部分だけが残る」とも言い切れず、争いになってから交渉経緯の全体で判断される、ということです。そのため、争いになるまで誰も気づかないまま、どちらの約款が効くか分からない取引が積み上がります。


四 仕組みにする

1 基本契約を先に結ぶ

継続的な取引なら、注文書と注文請書の裏面約款に頼らず、取引基本契約を先に結んでおきます。基本契約に、個別契約との優先関係と、注文書・注文請書の裏面約款は適用しない旨を書いておけば、裏面約款どうしの食い違いは問題になりにくくなります。

2 個別契約の成立要件を決める

基本契約の中で、個別契約がいつ成立するかを定めておきます。「注文書の受領後○営業日以内に注文請書を発行したときに成立する」「○営業日以内に諾否の通知がないときは承諾したものとみなす」といった形です。

3 自社書式以外に拘束されない旨を明示しておく

基本契約を結ばない取引で自社の約款を効かせたいなら、その意思をあらかじめ明示しておきます。ノックアウト・ルールを採用したユニドロワ原則2.1.22条でも、当事者の一方が自己の書式に基づかない契約に拘束される意思のないことをあらかじめ明示していた場合には、ノックアウト・ルールは適用されないと規定されています(注4)。

自社の立場打つ手
継続的な取引取引基本契約を先に結ぶ。裏面約款の不適用を明記する
単発の取引で自社約款を使いたい注文書に「当社約款以外の条件には拘束されない」旨を明示し、相手方の署名入りの請書を取る
相手方の約款で取引が始まってしまった納品・検収の前に、食い違う重要条項(責任期間・上限・管轄)だけでも書面で確認する

本稿で扱わなかったこと

申込みと承諾の基本的な仕組みは、別稿「申込みと承諾:契約はいつ成立するか」が扱います。交渉の全体から契約の成立を認定する日本の裁判実務は別稿「日本の契約成立は『総合判断』で認定される:申込み・承諾型との違い」、個別契約の成立要件の書き方は11章、基本契約と個別契約の優先関係の読み方は別稿「別紙・仕様書・発注書との関係と優先順位条項:契約はどの文書でできているか」で扱います。


参考文献等

註

(注1)喜多村勝德『契約の法務〔第2版〕』(勁草書房、2019)17頁
(注2)前掲注1・17〜18頁
(注3)小林一郎『日本の契約実務と契約法──日本的契約慣行の研究』(商事法務、2024)55〜56頁
(注4)前掲注3・56頁
(注5)前掲注3・42頁


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