レビューの手順を型にする

06 契約審査・レビューの方法

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:契約書が回ってきた

事業部門から、Wordファイルが1つ送られてきます。「この契約書、見ておいてください」。取引の相手方が作ったひな型で、来週には署名したいそうです。

ここから始まる作業を、契約審査、あるいはレビューと呼びます。本稿が扱うのはこの作業で、自分でゼロから契約書を起案する作業は含みません。すでに原案があり、それを読んで直す。この二つを別の概念として整理することもあります(注1)。作るのと直すのとでは、必要な技術が違うからです。

対象は「契約書」という名前の文書に限りません。合意書、協定書、覚書といった名称の文書も、当事者が合意している以上は契約としての効果が生じますから、同じように審査の対象になります(注2)。表題で判断しない。この作業の最初の心得です。

さて、ファイルを開きました。ここから何をするか。

多くの人は、上から読み始めます。第1条、第2条と目で追い、気になる文言が出てきたらコメントを入れ、修正案を書き込み、また続きを読む。最後まで行ったら、赤の入ったファイルを返す。

一見すると効率的です。一度読むだけで済みますから。ところが実際には、この進め方をすると、レビューに時間がかかり、しかも大事なところを落としがちです。

性質の違う5つの作業を、同時にやろうとしているからです。


二 何を見るか:手順を5段階に分ける

契約書のチェック業務では、各条項が不当な内容になっていないかということや、必要となる条項がきちんと網羅されているかを適切に判断することが重要です(注3)。書いてある条項の当否と、書いていない条項の有無。この2つは、目の動かし方が違います。

同じことが、レビューという一語で呼ばれている作業の全体にも当てはまります。この作業は、次の5段階に分けて考えることができます。

段階この段階で決めることこの段階でしないこと
1 通読何の取引か、誰が何を負うか文言の当否の判断
2 構造把握条項の並びと、欠けているもの個別条項の修正
3 リスク抽出自社にとって何が危ないか直し方の検討
4 修正案の作成どこを、どう直すか通す・通さないの見込み
5 説明なぜ直すのかをどう伝えるか修正内容の追加

1 通読

何の取引なのか。当事者は誰と誰か。どちらが何を負い、何を得るのか。金額と期間はどうなっているか。

この段階でやるのは、それだけです。契約書の全体像を頭に入れる。文言の当否はまだ考えません。

通読で押さえるのは条項ではなく取引です。「業務委託契約書という表題だが、実質は請負なのか準委任なのか」「支払は成果物の引渡しと連動しているのか、月額固定なのか」。取引の骨格にあたる部分を見ます。

2 構造把握

次に、条項の並びを見ます。何がどの順で並んでいるか。そして、何がないか。

契約書は、おおむね決まった機能の条項の組み合わせでできています。目的と定義があり、給付と対価があり、期間と終了があり、リスクの配分があり、紛争解決がある。この分類を頭に入れておくと、目の前の契約書に何が欠けているかが見えます。分類の中身は、別稿「共通条項の機能分類:リスク配分/手続/終了処理/紛争解決」で扱います。

書いてあることは読めば分かります。書いていないことは見えません。構造から逆算するほかなく、ここが技術の要るところで、別稿「抜けている条項を見つける技術:チェックリストと、取引からの逆算」がこれを主題にします。

3 リスク抽出

三つめが、自社にとって何が危ないかの抽出です。

ここで初めて、立場が問題になります。同じ条項が、売主にとって有利で買主にとって不利ということは普通にあります。相手方が作ったひな型は、相手方に都合よく書かれている。当然のことで、非難すべきことでもありません。問題は、読む側がその前提を忘れて、これが標準的な契約書だと思い込むことです。別稿「自社の立場で読み替える」がこれを扱います。

この段階は二つに分けて考えると整理しやすくなります。契約書の文言だけから分かる一般的なリスクと、取引の実情を聞いて初めて見えるこの取引特有のリスク(注4)。前者は契約書を読めば抽出できますが、後者は、ヒアリングなどで取引の実情を把握して初めて抽出できます(注4)。契約書だけを見て表面的・形式的にチェックするのが審査ではない、というのは、この後者のことです(注5)。

4 修正案の作成

抽出したリスクのうち、どれを、どう直すか。

削るのか、足すのか、書き換えるのか。原文をどこまで残すか。そして、なぜ直すのかをどう書くか。別稿「修正案の作り方と修正理由の書き方:法的根拠・取引上の実害・代替案」がここを扱います。

5 説明

最後が説明です。事業部門に対して、なぜこの修正が必要かを説明する。そして、事業部門を通じて相手方に伝わる形にする。

法務が出した修正案は、そのまま相手方に届くわけではありません。多くの場合、相手方と交渉するのは事業部門の担当者です。担当者が理解できない修正理由は、相手方には伝わりません。


三 直し方:どの段階で何をしないか

段階に分ける意味は、各段階で何をするかより、何をしないかにあります。冒頭に掲げた表の右の列が、この節の主題です。

1 通読の段階で赤を入れない

最初の読みで気になった文言に、その場でコメントを付けたくなります。これを我慢します。

その文言が問題かどうかは、まだ判断できません。第5条の「甲の指示に従い」という一句が問題になるかどうかは、第12条にどういう責任分配が書いてあるかによって変わります。最後まで読まなければ決まらないことに、途中で答えを出そうとしている。後で書き直すことになりますし、書き直しに気づかなければ、噛み合わない修正案がそのまま残ります。

もっと厄介なのは、読み方そのものが変わってしまうことです。直す目で読むと、直せる箇所に目が行きます。文言の細部に意識が向き、取引の骨格が頭に入りません。通読は、直す目を止めて読む時間です。

実務的には、通読の段階で残してよいのは印だけです。気になった箇所に印を付け、内容は書かない。二周目で戻ってきます。

2 構造を見る前に文言を直さない

第3条の文言を直すかどうかは、第3条だけを見ても決まりません。

たとえば、契約不適合責任の期間を「引渡しから6か月」と定める条項があったとします。これを1年に延ばすべきかどうかは、その契約に検収条項があるか、あるとしてどういう検収かによって変わります。検収が形式的なものであれば6か月では短すぎるかもしれませんし、実質的な検収を経る取引であれば6か月でも足りることがあります。

条項は単独では評価できません。構造を見てから文言に降りる。この順序を逆にすると、直した結果ほかの条項と噛み合わなくなる、という事故が起きます。

段階を分けるといっても、5段階を一直線に進めるという意味ではありません。ヒアリングで取引の実情が分かった結果、リスク抽出をやり直すことはあります。交渉の結果を受けて第2次案を作ることもあります(注6)。戻ることは前提です。避けるべきなのは、段階を混ぜたまま進むことのほうです。


四 相手方への説明のしかた:この章の見取り図

説明の相手は二人います。事業部門と、相手方。この二人に対する説明は別物です。

事業部門に対しては、法的なリスクと事業上のリスクを分けて伝えることが要点になります。決めるのは事業部門で、法務が渡すのは判断の材料です。別稿「事業部門への説明:法的リスクと事業判断を分けて伝える」がこれを扱います。

相手方に対しては、修正の必要性を、相手方が受け入れられる形で示すことが要点になります。ここで効くのが修正理由の書き方です。「この条項は不利です」だけでは相手方は動きません。

そして、この二つの説明のあいだに、実務上の落とし穴があります。事業部門に向けた説明が、そのまま相手方に転送されることがある。社内向けの率直な評価が相手方に届けば、それは交渉の材料になります。事業部門に渡す文書は、外に出てもよい形で書く。章全体を通じた前提です。

伝える手段の側にも実務があります。変更履歴を付けて返すのか、クリーン版を添えるのか。受け取ったファイルに前の交渉相手とのやりとりが残っていないか。別稿「Wordの変更履歴・比較を使ったレビュー実務:返す前に消すもの、残すもの」がこれを扱います。


五 どこまで直すか:段階を分けて決める

契約審査の目的は、取引におけるリスクを避け、また軽くすることにあります(注6)。裏を返せば、リスクの軽減に寄与しない修正は、この目的から外れます。

ところが、5段階を同時にやっていると、この判断ができません。読みながら赤を入れていく進め方では、目についた順に直すことになり、重いものと軽いものが並列に並びます。その修正案を受け取った相手方は、全部は飲めないと考え、いちばん大事な1点も通らなくなります。

段階を分けると、リスク抽出が終わった時点で、危ない箇所の一覧が手元にできます。この一覧を前にして初めて、どれが譲れず、どれが譲れるかという仕分けができます。優先順位は、修正案を作る前に決まっている必要があります。別稿「どこまで直すか:譲れない・譲れる・どちらでもよい」が、この仕分けの基準を扱います。

契約締結交渉は相手方のいる話ですから、いついかなる場合にもこちらに最も有利な修正案をひたすら提示していくということが全てではありません(注7)。お互いの関係性や立場の優位性、各条項の相対的な重要度・優先度など、さまざまな要因に応じて、どこまでの修正を求めるかの判断は変わります(注7)。

架空の設例ですが、具体的な例があります。検収・契約不適合責任の部分に比べて重要度の低い論点であった振込手数料の点や、支払日が金融機関休業日の場合の支払期日の問題については、あえてこちらに有利な変更まで求めないという判断をしています。ただし、相手への優位性が確保できていれば違った判断となった可能性も十分あります(注7)。同じ条項でも、力関係が違えば線の引き方が変わります。

最終的には、これ以上の修正は現実的ではないという判断を、法務と事業部門の双方が行ったうえで、契約を締結する、あるいは締結しないという決断に至ります(注8)。レビューは、この決断のための材料を作る作業です。材料が整理されていなければ、決断はできません。

本稿で扱わなかったこと

本稿は、契約書を開いてから修正案を返すまでの作業だけを見ました。実際の仕事は、その前後にも延びています。

前に延びるのは、依頼を受け付ける段階です。契約書だけを渡されてレビューを始めるのは、症状だけ聞いて処方するのに似ています。何を出してもらうか、どこまで聞くか。別稿「依頼を受け付ける:何を出してもらうか」と別稿「事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか」がここを扱います。第3段階で述べた、この取引特有のリスクを拾うための工程です。

後に延びるのは、交渉を経た最終案の確認です。相手方とのやりとりを経て戻ってきた契約書が、自分の出した修正案どおりとは限りません。1条項だけ直した結果、ほかの条項と矛盾していることもあります。別稿「最終案の審査と、締結後に法務がやること:差分を取るのが最後の仕事」が、差分の取り方と締結後の引継ぎを扱います。

もう一つ、本稿は人がやることを前提に書きました。5段階のうち、どこを機械に任せられるのかという問題が残ります。結論を先に言えば、任せられるのは構造把握の一部で、この取引で何が起きうるかの想像は任せられません。別稿「AI契約審査サービスとの付き合い方:書いてあることと、起きうること」が、この線引きを扱います。


参考文献等

註

(注1)愛知県弁護士会研修センター運営委員会法律研究部契約審査チーム編『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018)5頁は、審査担当者は契約書案を作成するのではなく既に原案が存在するものを審査していくとして、契約審査手続を「契約書(案)の作成」とは異なる概念として捉えるとします。
(注2)同5頁
(注3)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)2頁
(注4)前掲注1・6頁。同書は、まず契約書の文言をチェックして一般的なリスクや問題点を抽出し、次に依頼部署からのヒアリングを経て当該契約特有のリスクや問題点を更に抽出する、という順序で契約審査手続の流れを説明します。
(注5)同3頁。同書は、契約審査手続は「契約書案の文言を表面的・形式的にチェックするだけではなく、取引の実情や具体的な内容を十分把握した上で、実際の取引内容に照らし合わせて審査をすることが大切です」とします。
(注6)前掲注1・6頁
(注7)前掲注3・19〜20頁
(注8)前掲注1・6頁


あわせて読む

共通条項の機能分類:リスク配分/手続/終了処理/紛争解決【基礎実務】共通条項を9つの機能グループに分ける方法と、その使い方を説明します。分類は整理のためではなく、契約書に何が欠けているかを見つけるための道具です。粗い4分類と細かい9分類を用意し、自社のひな型を並べ直す手順まで扱います。自社の立場で読み替える【基礎実務】相手方から届いた契約書のひな型を、自社の立場で読み替える方法を説明します。条項を裏返して読む、相互条項に見えて片務的なものを見分ける、甲乙を入れ替えた版を作って読む、という3つの手順を扱います。抜けている条項を見つける技術:チェックリストと、取引からの逆算【基礎実務】相手方の契約書案は、相手方が必要と考えた条項でできています。書いてある条項の良し悪しは読めば分かりますが、書いていない条項は見えません。チェックリストと照らし合わせる方法と、取引の中身から逆算する方法を組み合わせて欠落を見つけ、どこまで埋めるかを分けて判断します。修正案の作り方と修正理由の書き方:法的根拠・取引上の実害・代替案【基礎実務】「当社に不利なため」とだけ書いた修正案は、同じ理由で元に戻されます。修正理由は、社内を動かす理由と相手方を動かす理由の二通りが要ります。相手方向けには、法的根拠・取引上の実害・代替案の3層で書く。削る・足す・書き換えるの使い分けと、修正履歴での見せ方もあわせて整理します。事業部門への説明:法的リスクと事業判断を分けて伝える【基礎実務】事業部門は、その契約を締結すべきだと考えて審査を依頼してきます。「リスクがあります」とだけ返せば、法務は取引を止める部署になります。踏めないリスクと、踏むかどうかを選べるリスクを分け、確率と大きさ、選択肢をそろえて渡す。判断は事業部門がし、その過程を記録に残す、という伝え方を整理します。どこまで直すか:譲れない・譲れる・どちらでもよい【基礎実務】気になる箇所に全部赤を入れた修正案は、相手方に「全部は飲めない」と思わせ、いちばん大事な1点も通りにくくします。修正したい箇所を、譲れない・譲れる・どちらでもよいの3つに仕分け、金額・確率・取引の重要度と力関係で判断し、譲る箇所を交渉の材料として使う方法を整理します。Wordの変更履歴・比較を使ったレビュー実務:返す前に消すもの、残すもの【基礎実務】変更履歴は、修正を見せる道具であると同時に、見せるつもりのないものまで相手方に渡してしまう道具です。表示を「変更履歴なし」に切り替えても履歴は文書に残ります。比較機能で差分を取る、回ごとに色を分けて返す、送る前にドキュメント検査で内部コメントや作成者情報を消す。Wordでのレビューの作業手順を整理します。AI契約審査サービスとの付き合い方:書いてあることと、起きうること【基礎実務】AI契約審査サービスが得意なのは、契約書に書いてあることの処理です。欠落条項や表記ゆれの洗い出しは任せられますが、この取引で何が起きうるかの判断は任せられません。修正案の文言というグレーゾーンの扱い方、1件の審査での手順、組織として導入するときのポイント、採用の最終判断を人に残す理由を整理します。依頼を受け付ける:何を出してもらうか【基礎実務】契約書だけを渡されてレビューを始める前に、何を出してもらうか。取引の背景、どちらが作った契約書か、締切とその理由、決裁ライン、過去の同種契約の5つを押さえる方法と、依頼フォームの作り方を扱います。事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか【基礎実務】契約書のレビューに必要な情報を、事業部門からどう聞き取るか。「取引の全体を教えてください」では条項が決まりません。商流・支払・成果物・トラブル・力関係の5領域を、条項から逆算して聞く方法を扱います。最終案の審査と、締結後に法務がやること:差分を取るのが最後の仕事【基礎実務】レビューは修正案を出したら終わりではありません。交渉を経た最終版は、法務が出した修正案と同じとは限らないからです。自社の最終修正案と最終版を比較して差分を確かめ、交渉で直した条項と他の条項の噛み合わせ、別紙の版、体裁を確認し、交渉記録と一緒に保管する。締結前チェックリストの形で整理します。

「06 契約審査・レビューの方法」の目次へ / 契約法務ライブラリの総目次へ

タイトルとURLをコピーしました