一 この条項は何をしているのか
1 「共通条項」と呼ばれるものの正体
売買契約書、業務委託契約書、賃貸借契約書、秘密保持契約書。取引の内容はまるで違うのに、後ろのほうを見ると、同じような条項が並んでいます。
第○条(秘密保持) 第○条(反社会的勢力の排除) 第○条(権利義務の譲渡禁止) 第○条(協議) 第○条(合意管轄)
この、契約類型をまたいで共通して現れる条項の束を、本記事のシリーズでは共通条項と呼びます。
では、共通条項とは何かという問いに、明確な定義があるでしょうか。ありません。共通条項(一般条項)という語に、確たる定義はありません(注1)。
もっとも、輪郭は決まっています。次の二つの言い方は、実質的に同じことを指しています。
消去法による輪郭。その契約の種類や目的によって内容が異なる条項は含まれない。言い換えると、その契約に基づいて当事者がどういう債権を持ち、どういう債務を負うのかに関する条項以外の条項が、広い意味での共通条項にあたる(注1)。
中核かどうかによる輪郭。売買契約であれば目的物・引渡し・代金支払の規定が中核であり、共通条項はその中核的な規定ではない(注2)。
頻度による輪郭もあります。どの契約書にも一般的に規定されている条項、という意味で一般条項の語を用い、これと対に、リスク管理のために有益である条項をリスク管理条項と呼ぶ整理です(注3)。
前の二つは、共通条項は「その取引が何であるか」を決める条項ではないという点で一致します。何を売るのか、いくらで買うのか、いつ納めるのか。これらを決めるのが本体で、共通条項はそれ以外です。三つめの言い方は、そこを問いません。現れる頻度だけで括ります。定義が定まらないと言われるのは、こうして基準が並び立っているからです。
2 契約類型が違っても同じ条項が並ぶ理由
なぜ、取引の内容が違っても同じ条項が並ぶのか。共通条項が扱っているのは、取引の内容そのものではありません。取引がうまくいかなかったときの処理です。
売買でも業務委託でも、相手方が約束を守らないことはあります。情報が漏れることもあります。相手方の信用が悪化することも、契約を途中でやめたくなることも、紛争になることもあります。これらは取引の種類を問わず起こります。だから、対処する条項も共通になります。
ここで重要なのは、こうした場面のルールが、契約書に何も書かなくても存在するという点です。トラブル時のルールについては、多くの場合に民法・商法の原則が用意されており、契約条項がなければその原則が適用されます(注4)。
では、なぜ書くのか。原則のままでは不都合なことが多いからです(注4)。民法が定める解除の要件では手続が重すぎる。損害賠償の範囲が予測できない。どこの裁判所で争うことになるかが前もって決まらない。取引の実情に合わせて原則と違う内容を定めるために、条項を置きます。
この構図が、本記事のシリーズ全体を通じた見方です。共通条項の記事はどれも、まず「書かなければどうなるか」を示し、そのうえで「だから書く」に進みます。
3 用語の整理:一般条項、ボイラープレート、雑則
同じものが、いくつもの名前で呼ばれています。
| 呼び方 | 出どころ・使われ方 |
|---|---|
| 一般条項 | 多くの実務書が使う。本記事のシリーズが「共通条項」と呼ぶものと同じ範囲を指す |
| 共通条項/各契約に共通する条項 | 契約書の書式集で使われる。共通していることに着目した呼び方 |
| ボイラープレート条項 | 英米法系の実務に由来する。定型文という含みがある |
| 雑則/一般 | 契約書の中の部の見出しとして使われる。実際の条項の並びに現れる |
(「各契約に共通する条項」は注2の書の第15章の章名)
本記事のシリーズでは「共通条項」を使います。「一般条項」という語が民法の一般条項と紛らわしいからです。信義誠実の原則(民法1条2項)や公序良俗(同90条)のように、個別の規定を超えて機能する規範のことを一般条項と呼ぶ用法があり、契約書の条項の束を指す用法とは別のものです(注5)。契約書の条項を扱う記事で「一般条項」と書くと、どちらの意味かが読者に伝わりません。
「ボイラープレート条項」という呼び方については、英米法に由来する条項が日本法の下でどう機能するかという別の論点があります。この点は別稿「英文契約由来の条項が和文契約に流入した経緯:来たのは条項だけだった」で扱います。
二 よくある条項例:どの契約書にもある条項
具体的に、何が共通条項なのか。共通条項に当たる項目を並べると、おおむね次のようになります(注6)。
| 場面 | 条項 |
|---|---|
| 契約の時間 | 契約期間、自動更新、中途解約 |
| 履行に問題が生じたとき | 期限の利益喪失、損害賠償、不可抗力 |
| 契約を終わらせるとき | 解除、契約終了時の取扱い、存続条項 |
| 情報と権利 | 秘密保持、個人情報の取扱い、知的財産権の帰属 |
| 相手方の変動と信用 | 権利義務の譲渡禁止、反社会的勢力の排除 |
| 契約書の解釈 | 完全合意、分離可能性、見出し |
| 事務手続 | 通知、契約の修正 |
| 紛争解決 | 誠実協議、合意管轄、仲裁 |
| 契約書の体裁 | 後文、署名欄、電子署名 |
どこまでを共通条項に含めるかは文献によって違いますが、上の表の条項は、おおむね共通条項として扱われています。共通条項という語に定義がなくても実務が困らないのは、このためです。
では、この共通条項は契約書のどれくらいを占めるのでしょうか。これについての調査や統計はありませんが、実務的な感覚として、条項数でいえば平均して3割から5割程度、5割を超えることもないわけではありません。契約の種類や、本体の条項をどこまで細かく書くかによって変わります(注7)。
思っていたより多いと感じる人が多いはずです。契約書の半分近くが共通条項であるということは、共通条項にも、本体の条項と同じように時間をかけて読む必要がある、ということでもあります。実際にはそうなっていません。次の節がその話です。
三 問題点
1 「どうせ定型だから」と読み飛ばされる
共通条項は、契約書の中核的な規定ではないため、契約書では通常、後ろのほうに置かれます。そして、契約書の作成や検討に際しても後回しになりがちです。規定の内容も契約書ごとに共通した言い回しであることが多いため、詳細な確認や検討を怠りがちにもなります(注2)。
これは、個々の担当者が怠けているという話ではありません。共通条項という条項群そのものが持っている性質です。後ろにあり、似ていて、取引の中身に関係しない。だから飛ばされます。
しかし、中核的でないことは、出番がないことを意味しません。むしろ、契約締結の時点では想定していなかった事態が生じ、履行に問題が起きたり紛争になったりした場面において、適用すべき条項が多くあります(注2)。秘密保持や通知のように取引が順調なあいだも働き続ける条項もありますが、共通条項の真価が問われるのは、うまくいかなくなったときです。
そして、規定の仕方が不十分であったり欠落していたりしたために、トラブルに対処できず不利益を被るおそれは大いにあります(注2)。読み飛ばした結果は、契約の終盤に出ます。
2 ひな型から機械的にコピーされ、その契約に合っていない
読み飛ばしと表裏の問題が、これです。
共通条項は、内容や表現が定型的になりがちです。しかし、それぞれに背景や根拠があります。単にひな型をそのまま写して利用するのではなく、今回の取引において、ひな型や書式の各条項例が必要で適切なのか、追加や修正をすべき点はないかを十分に検討すべきです(注4)。
具体的な事故の形は、たとえば次のようなものです。
- モノの取引のひな型を、情報の取引に流用した。「引渡し」「検収」「返還」という語が残っているが、対象がデータなので何を返還するのか決まらない
- 継続的取引のひな型を、単発の取引に流用した。自動更新条項が残っていて、1回の売買のはずが毎年更新されることになっている
- 国内取引のひな型を、越境取引に流用した。準拠法の条項がないまま、相手方が外国法人である
いずれも、条項の文言自体はごく標準的です。問題は文言ではなく、その文言がこの取引に合っていないことです。
3 条項どうしが矛盾したまま残っている
三つめは、複数の条項を組み合わせたときに起きる問題です。
責任の上限を定める条項と、損害賠償額の予定を定める条項が、それぞれ別の条項として置かれている。存続条項に挙げられている条項番号が、交渉の途中で条項を1つ削ったために1つずれている。解除の効果を定める条項と、契約終了時の取扱いを定める条項が、違うことを書いている。
これは、共通条項を1つずつ検討していると見えません。条項どうしの噛み合いを見る作業が別に必要です。別稿「条項どうしの相互作用:条項は単独では動かない」がこれを扱います。
四 改善例:共通条項こそ取引に合わせて選ぶ
以上を裏返すと、共通条項の扱い方が決まります。
まず、共通条項を先に読みます。後ろにあるから後回しになるのであれば、順序を変えるだけで対処できます。契約書が回ってきたら、まず後ろから読む。あるいは、最初の通読では前から読み、二周目は共通条項から入る。
次に、ひな型の共通条項に「なぜこれがあるのか」を書いておきます。自社のひな型を持っているのであれば、各条項に社内向けの注記を付けておく。この条項は何のために置いてあり、どういう場合に落としてよいのか。注記があれば、流用したときに合わない条項が残る事故は減ります。
そして、定型的だから検討を省略するという判断をしません。結果として定型的な表現に落ち着くことが多いとしても、相手方から提示された契約書案に自分たちに不利益となる条件が含まれていることは大いに考えられるので、定型的な条項・表現だからといって検討を省略するのは適切ではありません(注4)。
定型的な条項を「検討したうえで、定型のまま通す」のと、「定型だから見ない」のとは別のことです。外形は同じですが、後者は判断をしていません。
最後に、共通条項の中でも重い条項を決めておきます。すべてを同じ密度で検討するのは現実的ではありません。民法の損害賠償の規定と異なる条項、損害賠償額の予定に関する条項、損害賠償の範囲に関する条項、表明保証条項、完全合意条項などは、念入りな審査を要する条項です(注8)。重い条項の一覧を自社で持つことが、優先順位のつけ方になります。
五 書き分けの分岐:契約の重さによる濃淡
共通条項をどこまで書き込むかは、契約の重さによって変わります。
取引額が小さく、期間も短い契約では、共通条項を薄くします。管轄と秘密保持と反社会的勢力の排除があれば足りることも多い。損害賠償の上限を細かく設計しても、そこまでの損害が生じない取引であれば、交渉のコストのほうが大きくなります。
継続的な取引や、金額の大きい契約では、共通条項を厚くします。期間と更新と中途解約、期限の利益喪失、責任の上限、存続条項。取引が長く続くほど、途中で事情が変わる確率が上がるからです。
相手方の信用に不安がある契約では、相手方の変動と信用に関する条項を厚くします。期限の利益喪失、譲渡禁止、支配権の変動、倒産時の取扱い。
技術やデータが動く契約では、情報と権利の条項を厚くします。秘密保持、個人情報、知的財産権の帰属。
ここで注意すべきことが一つあります。共通条項を紹介する順序は、実際の契約書における条項の順序でも、重要性の大小でもありません(注9)。本記事のシリーズも同じです。共通条項を機能ごとに並べていますが、その並びは契約書に書く順序でも、重要性の順でもありません。どの条項が重いかは、その取引によって決まります。
本稿で扱わなかったこと
本稿は、共通条項とは何かという輪郭を示しただけです。輪郭を示しただけでは、契約書に何が欠けているかは分かりません。
欠落を見つけるには、共通条項を機能ごとに分類したうえで、その分類を目の前の契約書に当てて照らす必要があります。分類そのものを扱うのが別稿「共通条項の機能分類:リスク配分/手続/終了処理/紛争解決」で、その分類をレビューのチェックリストとして使う方法を扱うのが別稿「抜けている条項を見つける技術:チェックリストと、取引からの逆算」です。
もう一つ、本稿は条項を1つずつ見る前提で書きました。実際の契約書では条項どうしが噛み合って動きます。噛み合わせの問題と、条項が食い違ったまま残っている場合の読まれ方は、別稿「条項どうしの相互作用:条項は単独では動かない」が扱います。
そのうえで、条項ごとの解説に入ることになります。どこから読んでも構いません。条項ごとの記事はそれぞれ単独で読めるように書いてあり、読む順序に意味はないからです。自社のひな型を手元に置き、いま気になっている条項から入るのが、いちばん早いと思います。
参考文献等
註
(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)2頁。同書は、契約書の一般条項について確たる定義付けがなされているものではないとしたうえで、その契約の種類や目的等によって通常は内容が異なる条項は一般条項には含まれないとされていること、このため、締結された契約に基づき各契約当事者がいかなる債権を有し、いかなる債務を負担するのかに関する条項以外の条項を、広義では一般条項と呼ぶことが多いことを述べます。
(注2)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)591頁
(注3)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)133頁。同書は、いずれも一般的な名称ではないと断ったうえでこの2語を用い、両者は厳密に分類できるわけではなく、一般条項の多くは同時にリスク管理条項でもあるとします。
(注4)前掲注2・592頁
(注5)民法1条2項・90条。なお、書名に「一般条項」を含む文献のうち、小賀野晶一ほか編著『一般条項の理論・実務・判例』(勁草書房、2023)が扱うのは民法上の一般条項であり、契約書の条項の束を指す本稿の対象とは別のものです。
(注6)前掲注2・591〜649頁が「各契約に共通する条項」として挙げる15項目、および前掲注1・2〜3頁が広義の一般条項として挙げる27項目を整理したものです。分類の枠組みは本記事のシリーズによるものです。
(注7)前掲注1・4頁。同書は、この点についての調査や統計はみたことがないとしたうえで、実務的な感覚として、広義の一般条項が契約書全体に占める割合は条項数でいえば平均して3割から5割程度であり、5割を超えることもないわけではないとします。
(注8)愛知県弁護士会研修センター運営委員会法律研究部契約審査チーム編『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018)78頁
(注9)前掲注1・3〜4頁
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