英文契約由来の条項が和文契約に流入した経緯:来たのは条項だけだった

09 共通条項総論

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:民法にない条項がなぜ和文契約にあるのか

国内の会社同士が日本語で結ぶ取引基本契約に、表明保証、完全合意、分離可能性、権利不放棄といった条項が並んでいます。民法には、こうした名前の制度はありません。

本来は英米法の概念、またスタイルであった条項が、日本の契約書に用いられることが多くなってきました。不可抗力条項やChange of Control条項も、その一例です(注1)。完全合意条項も、もともと英米法圏との取引で用いられることが多かったものですが、近時は日本の国内企業同士の契約でも用いられています(注2)。

英米法の契約書では、条項の外側に、その条項が前提にしている法のルールがあります。日本に入ってきたのは条項の文言で、外側のルールは一緒に来ていません。同じ文言でも、日本法のもとでは働き方が変わる。この記事は、その変わり方を扱います。


二 制度の枠組み

1 どの条項が英文由来か

「英文契約から由来する条項」として、次の8つがあります(注3)。

条項英文での呼び名説明の要点
前文Premises, Recitals英文では契約に至った動機や経緯が意思解釈で重要になることがあり、延々と書くことがある
定義Definitions用語を冒頭でまとめて定義する。解釈をめぐるトラブルを避けるため
表明保証Representations and WarrantiesM&A関連契約で用いられ、1990年代後半に日本のM&A契約へ、近年は売買契約などにも広がった
完全合意Entire Agreement英米法の口頭証拠排除法則がルーツ
書面による変更amendment完全合意条項とセットで規定されることが多い
譲渡禁止Non Assignment英米法では原則として契約上の地位を自由に譲渡できるので、それを禁止する
分離独立(分離可能性)Severability一部の条項が無効でも契約全体は無効にならないことを念のために定める
存続survival英文契約では存続条項そのものも存続対象として書く

(注3)

このほか、権利不放棄条項も英文契約に由来する条項で、英米法上の懈怠(laches)の抗弁を封ずるための規定です(注4)。

2 英米法での機能

英米法の中で、これらの条項が何をしていたかを見ます。

英米の契約法には、統合された完全かつ最終的な合意として締結した契約書がある場合には、当事者は契約交渉の過程で作成等された証拠を提出することができないとする口頭証拠排除の準則(parol evidence rule)があります。「Entire Agreement Clause」は、その準則の適用を受ける契約書であることを示すために設けられているものです(注5)。もっとも、米国法では、契約書が最終的な合意であっても完全かつ排他的な合意でなければ、これを補充・説明する合意の効力は否定されないなど、準則の意味するところは一義的ではありません(注5)。

権利不放棄条項は、不合理に請求を遅滞した者は保護されないという衡平法の懈怠の法理に対し、権利行使を受けた側がこの抗弁を出せないようにするために置かれます(注4)。譲渡禁止条項は、英米法では契約当事者が原則として自由に契約上の地位を譲渡できることを前提に、それを契約で止める条項です(注6)。英米法でも、元の当事者が義務から抜ける当事者の交替(novation)には相手方の同意が要ります。

表明保証条項については、株式を買うことは会社を買うことだが、会社は物品と違って中身や状態が見えにくいので、売主が中身や状態を表明保証し、前提が崩れたら取引を実行しない、あるいは違反者が金銭補償する、という形で解決を図る仕組みです(注7)。

英米法の条項は、証拠の準則、衡平法の抗弁、権利の自由譲渡の原則といった既存のルールを、使う・封じる・変えるために書かれています。

3 日本法に移したときに何が変わるか

前提のルールがない国に持ってくると、条項の働きが変わります。変わり方は、条項によって向きが違います。

条項英米法での前提日本法での状況日本の契約での働き
完全合意口頭証拠排除の準則準則は適用されず、相当する一般的な準則もない(注5)口頭の約定も証明できれば契約と認められるという民法の原則を、排する合意になる(注2)
権利不放棄懈怠の抗弁日本法を準拠法とする契約では必ずしも必要ではない(注4)黙示の承認といった議論に備える意味は残る(注4)
譲渡禁止(契約上の地位)契約上の地位を原則として自由に譲渡できる(注6)相手方の承諾がなければ移転しない(注8)単なる注意規定にとどまる(注6)
分離可能性Severability条項がなくても、一部無効にとどまる場合がある(注9)念のために合意しておく意義はある(注9)
存続survival契約が終わっても、すべての権利義務が当然に消えるわけではない(注10)確認の条項と、効力を続けさせる合意の条項が混在する(注10)

完全合意条項は、英米法では既存の準則に乗る条項でしたが、日本法のもとでは、民法の原則を契約で外す条項として働きます(注2)。反対に、譲渡禁止条項は、英米法では契約上の地位の自由譲渡という原則を変える条項でしたが、契約上の地位については日本の民法がすでに同じことを定めているので、確認の意味しか持ちません(注6)。

なお、同じ譲渡禁止条項でも、代金債権のような債権の譲渡を禁止する部分は別です。民法は、当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたときであっても、債権の譲渡はその効力を妨げられない、としています(注8)。条項を置いても、譲渡そのものは止まりません。条項が働くのは、譲渡制限を知っていたか重大な過失で知らなかった譲受人に対して、債務者が履行を拒み、譲渡人への弁済などを対抗できる場面です(民法466条3項)。

分離可能性条項については、条項が合意されている場合にどのような効力が生じるかを真っ向から明確に判示した最高裁判所の裁判例は見当たりません。もっとも、当事者が残余の部分に影響させない意思をあえて明らかにしている以上、不合理な例外的場合を除き、定めたとおりの効力を有するものと解釈される可能性が高いところです(注11)。


三 解釈:日本法のもとでどう位置づけられるか

1 完全合意条項の効力を認めた裁判例

完全合意条項は、下級審裁判例で有効性が認められています(注12)。該当するのは、東京地判平成7年12月13日、東京地判平成18年12月25日、名古屋地決平成19年11月12日、東京地判平成31年2月27日で、後の2件は有効性を直接判断したものではなく、有効であることを前提に契約条項を解釈したものです(注12)。

最初のケースである東京地判平成7年12月13日は、英文の株式売買契約の完全合意条項について、締結に関与したのが会社の役員や弁護士で、条項の意味内容を十分理解し得る能力を有していたことを挙げたうえで、次のように述べています(注13)。

本件においては,右条項にその文言どおりの効力を認めるべきである。すなわち、SPSA契約の解釈にあたっては、契約書(甲一)以外の外部の証拠によって、各条項の意味内容を変更したり、補充したりすることはできず、専ら各条項の文言のみに基づいて当事者の意思を確定しなければならない。(注13)

裁判所は、英米法の準則を適用したわけではありません。締結した当事者が条項を理解できる者だったことを理由に、合意した文言どおりの効力を認めています。

2 2つの英文由来条項が、一緒に解釈を方向づけた例

名古屋地決平成19年11月12日は、上場企業同士の合意書について、合意内容に高度の明確性が要請されることに加え、権利義務等の変更は記名押印のある書面によってのみなされるとする27条と、合意書が当事者間の合意のすべてを構成する唯一のもので従来の交渉や申し合わせの一切に優先するとする29条があることに照らすと、合意内容の解釈は合意書の明文の規定により確定することが予定されている、としました(注14)。そのうえで、合意書に明文の規定がない以上、第三者の参画をおよそ禁止する合意があったとするには疑問がある、としています(注14)。

書面による変更の条項は、英米法に由来する完全合意条項とセットで規定されることも多くあります(注3)。この決定では、その2つが並んでいることが、文言に沿った解釈を支える事情として働いています。

3 表明保証は、性質論を待たずに使われている

表明保証の法的性質については、学説が分かれています。もっとも、契約の実務では性質論に関係なく、表明保証の事実が真実または正確でないことが判明した場合は損害賠償および契約を解除できる旨の特約を定めておけば足ります(注15)。英米法で条項の外側にあった判例法の代わりに、効果を条項の中に書き込んでおく、という対応です。


四 契約実務への還元

1 由来を知らずに訳文を使うと起きること

英文の条項を訳して入れると、英米法では外側のルールが担っていた部分が、日本の契約書では空白になります。よく起きるのは次の場面です。

完全合意条項を置くと、交渉の途中で合意したことまで効力を失います。完全合意条項を設ける場合は、必要となる合意事項は完全合意から除く旨を記載しないと、契約交渉時の合意事項はすべて効力を有しないこととなるので、注意しなければなりません(注16)。契約書の記載が絶対となるので、取り交わすときは、必要な条項が含まれているかを慎重に確認する必要があります(注2)。

存続条項は、英文の型をそのまま使うと広がりすぎます。自社に有利な規定のほとんどすべてを存続条項とする契約書もありますが、いきすぎると、何のために契約関係を終了しようとするのかが分からなくなります。合意管轄条項は解除によっても影響を受けないと解されているので、存続条項の対象とする必要はありません(注10)。

譲渡禁止条項を置いたから代金債権は譲渡されない、と考えるのも、英文の条項名に引きずられた読み方です。二の3で見たとおり、債権の譲渡は条項があっても効力を妨げられません(注8)。

2 英文由来の条項を和文契約に入れるかどうかの判断

入れるかどうかは、その条項が日本法のもとで何をするかを1行で言えるかで決めます。

条項日本法の契約で入れる意味入れるときに確かめること
完全合意締結前のやり取りを契約内容から遮りたいとき締結前の合意で残すものを、契約書に取り込んだか(注16)
書面による変更担当者の口約束で契約が変わるのを防ぎたいとき実際の変更手続が条項どおりに回るか
分離可能性無効とされるおそれのある条項を含むとき中核的事項に無効事由があれば契約全体が無効とされうる(注17)
権利不放棄相手方が英米法圏で、条項の有無を気にするとき日本法の契約では必須ではない(注4)
譲渡禁止契約上の地位については確認の意味。債権については目的を決めて書く債権の譲渡そのものは止まらない(注8)
存続契約終了後も残したい義務があるとき残す条項と期間を特定したか(注10)
表明保証相手方や対象の状態を前提に取引するとき違反したときの補償・解除を書いたか(注15)

本稿で扱わなかったこと

個々の条項の設計は、10章の各記事が扱っています。表明保証は別稿「表明保証とは何か:英文契約からの流入と和文契約での機能」、完全合意は別稿「完全合意条項の機能:交渉経緯の遮断は、自分にも効く」、分離可能性は別稿「分離可能性条項と一部無効:入れておけば安心、ではない」、権利不放棄は別稿「権利不放棄条項:見逃してきたことを、なかったことにできるか」、債権の譲渡制限は別稿『債権譲渡制限特約の効力:「譲渡を禁止する」と書いても譲渡は止まらない』、契約上の地位の移転は別稿「債務引受と契約上の地位の移転:条文が答えていないことを、条項が決める」、存続は別稿「どの条項を残すか:ほとんどは確認、ときどき創設」、書面による変更は別稿「変更手続を条項で縛る:書面・署名者・運用とのずれ」、前文は別稿「前文(頭書き)に何を書くか:当事者の表示と、書き足せる一文」、定義は別稿「定義条項の作り方:定義が効く範囲と、定義しすぎの弊害」です。表明保証に付ける補償と責任上限の噛み合わせは、別稿「補償条項の設計」が扱い、条項の組み合わせ全般は別稿「条項どうしの相互作用:条項は単独では動かない」で扱いました。英文契約そのものの定型条項の読み方は、28章(英文契約・国際契約)で扱います。


参考文献等

註

(注1)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)220頁
(注2)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)641頁
(注3)前掲注1・220〜230頁
(注4)弁護士法人イノベンティア編著『英和対訳 ソフトウェアライセンス契約の実務』(商事法務、2021)225頁
(注5)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)195頁
(注6)前掲注1・228頁
(注7)前掲注2・271〜272頁
(注8)民法539条の2、466条2項・3項
(注9)前掲注1・229頁
(注10)前掲注1・231〜232頁
(注11)前掲注5・207〜208頁
(注12)前掲注1・226頁。東京地判平成18年12月25日判時1964号106頁(平成18年(ワ)第1710号)、東京地判平成31年2月27日金法2138号100頁(平成29年(ワ)第9320号)
(注13)東京地判平成7年12月13日判タ938号160頁(昭和63年(ワ)第16921号)
(注14)名古屋地決平成19年11月12日金判1319号50頁(平成19年(ヨ)第498号)
(注15)前掲注1・225頁
(注16)前掲注1・226頁の*27
(注17)前掲注2・640〜641頁


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