譲受人の主観的態様と表明保証責任

10 共通条項の条項別解説

【専門】最終確認:2026年10月25日

一 どんな事案か:買主は知っていたのか

消費者金融会社の全株式を取得した買主が、売主に対して表明保証違反による責任を追及した事案です(注1)。

対象会社は、決算対策として、和解契約に基づく返済金の充当方法を元本優先から利息優先に切り替え、同額の元本についての貸倒引当金を計上しませんでした。この処理により、2億7538万5023円が架空の利益として計上されていました。決算書に注記はされていません。

株式譲渡契約には、対象会社の財務内容について表明保証する条項が置かれていました。買主は買収後にこの処理を発見し、表明保証違反を理由に補償を請求しました。

これに対して売主は、買主は買収監査(デューディリジェンス)を行っており、資料も渡していたのだから、違反を知っていたか、少なくとも知らなかったことに重大な過失があると主張しました。

争点は、買主が違反を知っていた場合、あるいは知り得た場合に、表明保証責任を追及できるかです。


二 裁判所は何を判断したか

判断は3段階に分かれます。

出発点は、買主が違反を知らなかったという認定です。買主が問題の処理を発見したのは買収後であり、契約締結時において表明保証を行った事項に関して違反があることについて悪意であったということはできない、とされています。

そのうえで、重大な過失があれば悪意と同視される余地が示されました。

本件において,原告が,本件株式譲渡契約締結時において,わずかの注意を払いさえすれば,本件和解債権処理を発見し,被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず,漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合,すなわち,原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には,公平の見地に照らし,悪意の場合と同視し,被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである(注1)

結論として、本件では重大な過失は認められませんでした。買主に責任追及を認め、3億0529万3523円の支払が命じられています。

認容額の内訳は、株式の譲渡価格が水増しされた額2億7538万5023円のほか、処理をあるべき形に戻すためのシステム修正費用168万円、訴訟のための意見書・陳述書の作成および証言に要した費用122万8500円、そして弁護士費用です。契約に「合理的な範囲内の費用(弁護士費用を含む。)を負担する」と書かれていたため、違反そのものによる損失を超えて、対応にかかった合理的な範囲の費用まで認められています。


三 なぜそう判断されたのか

1 デューディリジェンスは義務ではない

重大な過失を否定した理由の中心は、買収監査の位置づけです。

裁判所は、企業買収におけるデューディリジェンスは買主の権利であって義務ではなく、主としてその買収交渉における価格決定のために、限られた期間で売主の提供する資料に基づき、資産の実在性とその評価、負債の網羅性(簿外負債の発見)という限られた範囲で行われるものである、と述べました。

そのうえで、この事案の監査人が和解債権について返済の実態確認を行わず、抽出された35件全部の照合をしなかったことについて「特段の問題はない」とし、対象会社が監査法人の監査を受けていたことから財務諸表が会計原則に従って処理されていることを前提として監査を行ったことも「通常の処理であって、このこと自体は特段非難されるべきでない」としています。

買主が調べなかったことを責める前に、売主が隠したことが問われます。判決は、売主および対象会社が問題の処理を故意に秘匿したことが「取り分け……重視されなければならない」と明言しています。

2 表明保証の趣旨をどう捉えるか

この判断は、表明保証が何のための条項かという理解と整合します。

表明保証条項の意義は、契約における具体的な義務以外の事項、たとえば契約を締結する前提となっている事実関係等の存在や契約目的物の性質・仕様等について、契約の一方当事者に保証させることによって、保証に違反する事実等があった場合には当該保証を行った契約違反の責任を負担させる点にあります(注2)。

つまり、表明保証は情報の非対称を金銭で調整する仕組みです。対象会社の中身をいちばんよく知っているのは売主であり、買主は限られた時間で外から確かめるほかない。その差を、違反があったときの補償で埋める。

この趣旨からすれば、買主が調査を尽くさなかったことを理由に売主が免責されるのでは、条項を置いた意味が薄れます。判決が重大な過失という高い水準を設定したのは、この趣旨に沿った処理といえます。

3 知っていたときはどうか

もっとも、判決は買主の主観をまったく問わないとはしていません。悪意の場合について正面から判断していない一方で、重大な過失は「悪意の場合と同視」しうるとしています。悪意であれば免責されうるという理解を前提にしていると読めます。

学説も同じ方向を示しています。表明された事項が真実でないことを知らなかったことにつき相手方に重大な不注意(重過失)が存在するときも、錯誤におけるのと同様に、相手方は表明された事項が真実であることに対する信頼の保護を主張するに値する地位にあるとはいえず、表明保証条項に基づく権利主張は権利濫用・信義則により封じられるのが適切である、とされています(注3)。

ただし、同じ箇所は歯止めも置いています。表意者に故意がある場合には、当該事実の不知についての相手方の重過失を主張することはクリーン・ハンズの原則に反するものというべきである、というものです(注3)。判決自体はクリーン・ハンズの原則には触れていませんが、判断の重心は同じところにあります。判決は、デューディリジェンスの性格や監査の手続に特段の問題がないことを述べたうえで、「取り分け……重視されなければならない」事情として、売主および対象会社が問題の処理を故意に秘匿した点を挙げています。

譲受人が表明保証違反を主張すると、譲渡人からは、当該事項は説明済みで譲受人は知ったうえで契約した、あるいはデューディリジェンスで開示した資料から容易に知り得たので知らないことに重大な過失がある等として、免責の主張がなされることがあります(注4)。

この主張を封じるかどうかが、契約書の書き方の問題になります。

買主が表明保証の内容が正しくないことを知りながら取引を実行し、実行後に売主へ補償を請求することを、サンドバッギング(sandbagging)と呼びます(注5)。これを認める規定がプロ・サンドバッギング条項、認めない規定がアンチ・サンドバッギング条項です(注5)。アメリカのM&A実務から来た用語で、向こうでは開示されたM&A契約548件のうち、プロ・サンドバッギング条項を含むものが258件(47.1パーセント)、アンチ・サンドバッギング条項を含むものが30件(5.5パーセント)、可否を規定していないものが260件(47.4パーセント)という調査があります(注5)。


四 この判断から契約書に持ち帰るもの

1 「知っていても請求できる」と書くか

判決が示した枠組みは、契約書に何も書かれていない場合のものです。書けば変えられます。

改善例は、次の形です(注6)。

(表明及び保証) 第○条 売主は、買主に対し、以下の事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。 (中略) ○ 本条において、売主が表明し保証した事項に関する買主の認識及び認識可能性は、本条違反に基づく賠償又は補償の効力に一切の影響を及ぼさない。(注6)

この一文は、二で見た、重大な過失があれば悪意と同視して免責する余地があるという処理を、当事者の合意で外すものです。表明保証違反を主張する譲受人には善意無重過失が求められると解釈されないよう、譲受人の認識または認識可能性が表明保証違反の判断に影響を与えない旨の確認規定を設けるのが有効です(注4)。

ただし、書けば必ず通るわけではありません。このように規定した場合であっても、表明保証の主たる趣旨が譲受人の被る不測の損害を填補するものであることを重視し、デューディリジェンスにおいて譲受人に提供された情報やこれに対する譲受人の対応といった事情次第では、信義則等を理由に表明保証責任が否定される場合もあり得ることに、留意が必要です(注4)。

確認規定は、免責の主張を封じる決定打ではなく、争点を1つ潰す道具です。それでも入れる価値はあります。この一文がなければ、売主は「知っていたはずだ」という主張を正面から立てられるからです。

もう1つ、日本ではまだ確かめられていないことがあります。アメリカでは、サンドバッギングの可否についての当事者の合意は裁判所に尊重されています(注5)。これに対して日本では、プロ・サンドバッギング条項が置かれたM&A契約の表明保証違反が争われた公表裁判例が見当たらず、二で見た判決が条項のない場合の扱いを示したにとどまるのか、条項があっても買主の主観を問題にする趣旨なのかは、はっきりしません(注5)。

裁判官からは、契約で当事者が前提にしていることを表したのが表明保証だとすれば、その内容と違うことを知っている場合に相手に責任を問うのはおかしく、デフォルトとしてはアンチ・サンドバッギングがよいという感覚が示されています(注7)。もっとも、成熟した当事者が代理人を付けて契約をどう作り込んだかという事情いかんによっては、違う捉え方ができるとも述べられています(注7)。この点は、契約書に何をどこまで書き込んだかが効いてくるところです。

2 立場によって、入れるか外すかが逆になる

この条項は、買主にとって有利で、売主にとって不利です。したがって交渉になります。

立場望む形
買主(譲受人)認識・認識可能性は影響を及ぼさない旨を明記する
売主(譲渡人)この規定を置かない。さらに進めて、買主が知っていた事項については請求できない旨を書く

売主側から出てくる文言は、たとえば「買主が本契約締結時において知り、または重大な過失により知らなかった事項については、本条に基づく請求をすることができない」という形です。これは判決の枠組みを条項として固定するものであり、買主から見れば、争えたはずの水準(重大な過失の有無)を争えなくする条項になります。

落としどころとして使えるのは、範囲の切り分けです。デューディリジェンスで実際に開示された事項に限って請求を制限し、それ以外の事項については認識を問わないとする。この形なら、売主は「開示したものについては責任を負わない」という利益を得られ、買主は「隠されたものについては責任を追及できる」という利益を保てます。

3 開示した事項を別紙に落とす意味

範囲を切り分けるなら、何が開示されたのかを確定させる必要があります。

判決が示したとおり、デューディリジェンスで渡された資料の中に手がかりがあったかどうかは、事後に争われます。この事案でも、売主は生データを交付したと主張しましたが、裁判所は「上記生データ等の交付をもって本件和解債権処理を開示したということはできない」と退けています。渡したことと、開示したことは別に判断されます。

そこで、表明保証の例外として開示事項を別紙(ディスクロージャー・スケジュール)に列挙する方法がとられます。別紙に書いた事項については表明保証の対象から外し、書かなかった事項については表明保証が及ぶ。境目が文書で固定されます。

この別紙は、売主のためだけの道具ではありません。買主にとっても、別紙に載っていない事項について「開示済みだった」と後から主張されるのを防ぐ効果があります。一と四の3で見たとおり、資料を渡したかどうかが争点になる事案では、この境目が結論を分けます。

作るときの要点は、抽象度です。「対象会社には係争中の案件がある」とだけ書けば、あらゆる係争が開示済みになります。案件を特定し、金額の見込みを書く。そこまで書いて初めて、開示の範囲が確定します。

4 補償の条項とセットで読む

表明保証違反に金銭を確実に結びつけるのは補償条項です。認識の有無を問わない旨を書くときは、その効果が補償条項にも及ぶように書きます。

前記の改善例も「本条違反に基づく賠償又は補償の効力に一切の影響を及ぼさない」と、賠償と補償の両方を挙げています(注6)。片方だけを書くと、もう一方の請求について同じ争いが残ります。

本稿で扱わなかったこと

表明保証条項そのものの意義と対象は、別稿「表明保証とは何か:英文契約からの流入と和文契約での機能」が扱います。

補償条項の設計は、別稿「補償条項の設計」が扱います。四の4で述べた賠償と補償の書き分けは、そちらの主題です。

表明保証違反に重大性の限定をかける場合の扱いは、別稿「重大性による限定(マテリアリティ)」が扱います。本稿は、買主が知っていたかどうかという主観の側の論点に絞りました。

M&A取引に固有の問題(買収監査の設計、価格調整との関係)は、本稿では扱いません。


参考文献等

註

(注1)東京地判平成18年1月17日判時1920号136頁(平成16年(ワ)第8241号)
(注2)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)79〜80頁
(注3)北川善太郎=潮見佳男〔§415〕奥田昌道編『新版注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)債権の目的・効力(2)』(有斐閣、2011)55頁
(注4)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問64(表明保証違反に基づく責任追及が譲受人の主観的態様により左右される場合)
(注5)道垣内弘人ほか「〔座談会〕表明保証条項違反を理由とする損害賠償請求訴訟」(現代訴訟の論点と法理論の検討・第2回)論究ジュリスト22号(2017)156頁。サンドバッギングの定義とアメリカの状況は同167頁、公表裁判例が見当たらない旨は同168頁(いずれも星明男発言)。調査は Charles K. Whitehead, *Sandbagging: Default Rules and Acquisition Agreements*, 36 Del. J. Corp. L. 1081 (2011) を同167頁が引くもの
(注6)前掲注4・設問64の改善例
(注7)前掲注5・169頁および170頁(山田真紀発言)

この条項の他の記事表明保証・補償

あわせて読む

「10 共通条項の条項別解説」の目次へ / 契約法務ライブラリの総目次へ

タイトルとURLをコピーしました