一 この条項は何をしているのか
不可抗力条項の中心は、事由の列挙です。天災地変、戦争、暴動、内乱、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、争議行為、輸送機関の事故。どの契約書でも似た並びが出てきます。
この列挙は、何のために置かれているのか。
免責の範囲を確定するためだ、と考えるのが素直です。しかしそれだけなら、列挙のない条項でも民法の帰責事由の判断で処理できます。列挙が実際に果たしているのは、発生した事象が不可抗力に当たるかどうかを判断するときの、解釈の指針を与えるという働きです。
この見方をとると、レビューの着眼点が変わります。見るのは列挙の長さではありません。列挙が例示なのか限定なのかが、条項の文面から読めるように書けているかどうかです。
二 よくある条項例
まず、列挙のない条項から見ます。
(不可抗力) 第○条 不可抗力による本契約の債務不履行が生じた場合には、いずれの当事者もその責任を負わない。(注1)
この条項には2つの問題があります。「不可抗力」の内容が不明確であり、具体的事案において「不可抗力」の該当性の判断をめぐり争いが生じるおそれがあること。そして、民法上のルールを確認するための条項となり、契約書にあえて記載する意義が乏しいことです(注2)。
そこで、具体的事象を列挙する形にします。
(不可抗力) 第○条 地震、暴風雨、洪水その他の天災地変、戦争・暴動・内乱、火災、法令の改廃制定、公権力による命令処分その他政府による行為、ストライキその他の労働争議、輸送機関・通信回線の事故等の不可抗力による本契約の債務不履行が生じた場合には、いずれの当事者もその責任を負わない。(注3)
不可抗力免責に関する条項を契約書に置く場合には、可能な限り、不可抗力に該当する具体的事象を列挙し、内容を明確化すべきである、というのがこの改善の趣旨です(注4)。
具体的事象を列挙すべき理由は、ほかにもあります。履行の障害となり得る事象は多数存在するうえに、台風、サイクロン、ハリケーンなどのように近似した事象を表現する用語が複数存在し、それぞれの射程・包摂関係が法的に明瞭でない場合も少なくありません。そのため、不可抗力条項を規定する場合には、可能な限り具体的事象を列挙することが重要な作業になります(注5)。
三 問題点
1 列挙にないものは、不可抗力でないと読まれるか
列挙を充実させると、裏側の問題が生まれます。書いていない事象は不可抗力ではない、と読まれる可能性です。
契約書の文言は、まずその文言どおりに解釈されます。7つの事由を並べた条項があれば、そこに挙がっていない8つ目の事象について、当事者はこれを不可抗力から外す合意をしたのだ、という読み方が成り立ちます。列挙を厚くする作業は、この意味では両刃です。
実際に、そう判断された事案があります。強風のためにイベントが中止され、チケット代金の返還が争われた事件です。主催者の規約は、返金を要しない事由として「戦争、暴動、騒乱、労働争議、地震、噴火、大雨、洪水、津波、火災、停電、感染症拡大、その他の非常事態により、本サービスの提供が通常どおりできなくなった場合」と定めていました(注6)。
裁判所は、この列挙をこう読みました。
チケット規約2条には、被告がイベントの運営を中止した場合にチケット代金の返還を要しない事由として、〔1〕「戦争、暴動、騒乱、労働争議」といった治安や社会秩序の混乱が想定されるとき、〔2〕「地震、噴火、大雨、洪水、津波」といった天災が発生したときが挙げられており、加えて、〔3〕「火災、停電」といったイベント開催の対象施設等が使用不能等となる事態が想定されるとき、〔4〕「感染症拡大」といった公衆衛生上の必要性が生じたときが具体的に列挙されているが、その一方で、強風によるイベント中止の場合にチケット代金の返還を要しないことを直接規定する条項はなく、強風が不返金の対象事由となることを推知させるような文言等も存しない(注6)
大雨は書いてあるのに、強風は書いていない。そこを突かれました。主催者は、大雨が対象事由なら強風も同じに扱うべきだと主張しましたが、容れられていません(注6)。
これを避けるために置かれるのが、包括的な文言です。条項例には、具体的事象を列挙しつつ、適宜一般的・包括的文言、たとえば「天変地異」「政府行為」「その他不可抗力」を挿入することにより、明示的に列挙されていない事象についても包摂されるよう工夫したものがあります(注7)。免責事由の定め方としては、通常、さまざまな具体的な事由を例示列挙して明確化したうえで「その他不可抗力」といったバスケット文言を加えておくことが多いといえます(注8)。
2 「その他不可抗力」は、どこまでを拾うか
バスケット文言を置けば安心か、というと、そうはいきません。
「その他不可抗力」という語は、その前に並んだ事由から意味を汲み取られます。自然災害と戦争と法令改正が並んだ後の「その他不可抗力」は、それらと同じ性質のもの、つまり当事者の支配の外にある外部的な事象を指すと読むのが自然です。列挙が長いほど、バスケットが拾う範囲は列挙の色に染まります。
先ほどの事件で、主催者は「その他の非常事態」に当たると主張しました。裁判所の判断です。
強風注意報は、強風により災害が発生するおそれがあると予想されるときに、注意を呼びかける目的で発表される予報であり(乙1、弁論の全趣旨)、現に災害が発生し、或いは、災害発生の具体的蓋然性が認められるような場合(チケット規約2条に「非常事態」という文言が用いられている以上、気象状況に由来する事態としては、当然、そのような場合が想定されていると解すべきである。)とは自ずから状況を異にするというべく……それが直ちに前記〔5〕の非常事態に該当するとは認められない(注6)
裁判所は、「非常事態」という文言が使われている以上、気象状況に由来する事態としては、現に災害が発生し、または災害発生の具体的蓋然性が認められるような場合が想定されていると解し、強風注意報が出ていただけではこれに当たらないとしました。バスケット文言は、その語自体の意味によって範囲を画され、列挙を超えて広がりませんでした。
さらに、条項を作った側であることも不利に働いています。
チケット規約2条を作成、準備したのは被告自身であり、強風による影響を大きく受ける内容の本件イベントを企画したのも被告である。……その解釈においては、規約内容の合理性はもとより、規約を読んだ消費者の理解の明確性にも十分配慮をすべき筋合いにある(注6)
消費者契約の事案なので、事業者間の契約にそのまま及ぶわけではありません。それでも、自社が作った条項の書き落としは自社に返ってくるという点は、場面を問わず動きません。
ここに、条項の書き方の分かれ目があります。「その他不可抗力」ではなく、「その他自らの支配・統制の及ばない外部原因」と書いた条項例があります(注9)。前者は不可抗力という定義のない語に戻ってしまいますが、後者は判断の基準を条項の中に置いています。何が支配・統制の外にあるかという議論に移せる分だけ、争点が具体的になります。
3 経済的な事情は、書かなければ入らない
実務でいちばん問題になるのが、原材料の高騰と調達難です。
不可抗力事由の例示を、天災、人災、政治的事象、経済的事象、労働関係事象、インフラ関係事象の6類型に整理した表があります。このうち経済的事象として挙がっているのは、国有化措置と為替市場等の閉鎖です(注10)。価格の高騰そのものは、この整理に入っていません。
一方で、原材料の調達困難を免責事由として明示している条項例もあります(価格の高騰そのものを挙げているわけではありません)。
天災地変、戦争、暴動、内乱、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、争議行為、輸送機関の事故、取引先の債務不履行、原材料の調達困難その他自らの支配・統制の及ばない外部原因による本契約に基づく債務の全部または一部の履行遅滞もしくは不履行については、甲は責任を負わない。(注9)
当事者間の合意により免責の対象とする事由は、必ずしも本来の意味における不可抗力事由に該当し得るものに限定しなければならないものではありません(注11)。逆に、相手方当事者の取引先の債務不履行等については同条項による免責の対象にはならない旨を定めている記載例もみられます(注12)。
つまり、原材料の調達難を確実に免責の対象にしたいなら、書いておくしかありません。書いていなくても、条項の一般的な要件(当事者の支配の及ばない事由であることなど)に当たれば対象になり得ますが、当たるかどうかは相手方との争いになります。供給側が調達難などを免責事由として使いたいのであれば、「その他不可抗力」に含まれることを期待せず、明示しておくべきです。
なお、新型コロナウイルス感染症の流行下では、感染症の流行・拡大等を例示列挙に明記すべきとの議論がみられました。もっとも、その後の状況をみる限り、これを明確に例示列挙として挙げている例はそれほど多くないようです(注13)。
四 改善の方向
1 例示であることを、条項の中で示す
列挙が例示であることを読み手に伝える方法は、いくつかあります。
- 「その他不可抗力による」のように包括文言で閉じる
- 「地震、暴風雨、洪水その他の天災地変」のように、具体例と上位概念を組で書く
- 「以下に例示する事由を含むがこれに限られない」と明記する
2つ目の書き方は、二で見た改善例が採っている形です(注3)。具体例が上位概念の例示であることが、条項の文面から読み取れます。
2 一般要件を置いて、列挙をその例示にする
より踏み込むなら、列挙の前後に一般要件を置きます。当事者の支配・統制が及ばない外部原因であること、という要件です(注9)。
この形にすると、条項の構造が変わります。列挙は要件そのものから、要件を満たす典型例の提示へと位置づけが変わります。列挙にない事象が起きても、一般要件に当てはまるかどうかで判断でき、書き落としが致命傷になりません。
もっとも、一般要件を置けば何でも入るわけではありません。前提として、その事象から履行不能・履行遅滞に至った経緯が免責に値するかが問われます。免責事由の発生と結果との間の因果関係、そして回避・軽減可能性の有無は、別に検討されます(注8)。
五 書き分けの分岐:立場によって、望ましい形が逆になる
ここが実務上いちばん大事な点です。
免責事由を明確に定める条項は、当事者双方の債務を免責の対象とする条項を定めた場合であっても、実際には、物・サービスを提供する側にとってより有利な条項となる可能性が高いといえます(注14)。理由は単純で、不可抗力条項が金銭の支払債務の履行遅滞や不履行に適用される場面はあまり考えられず、適用される場合のほとんどは物・サービスを提供する側の債務についてだからです(注14)。
そこから、次の帰結が導かれます。
このため、金員の支払債務を負担する当事者側にとっては、免責事由を例示列挙する形ではなく、限定列挙とし、かつ、本来的な意味における不可抗力事由に限定して定めておくことが望ましいとも考えられる(注14)
供給側にとっては、列挙は例示であるべきです。書き落とした事象で足をすくわれないためです。支払側にとっては、列挙は限定であるべきです。供給側が広い免責を使えないようにするためです。
同じ「列挙の網羅性」という論点が、立場によって正反対の答えになります。レビューのとき、まず確かめるのは、自社がどちらの債務を負っているかです。
なお、金銭債務については民法419条3項が、不可抗力をもって抗弁とすることができない旨を定めています。不可抗力免責に関する条項に金銭債務についての特段の言及がなければ、当該条項は同項と同じく金銭債務には適用されないとの解釈になると考えられます(注15)。反対に、金銭債務も対象となることを明記すれば、当事者間の契約関係において同項と異なるルールを採用することも可能であると考えられます(注16)。同項は強行規定とまでは解し得ず任意規定であると解されるものの、金員の支払債務の不履行の場合においても免責する趣旨であれば、その旨を明らかにしておくことが適切でしょう(注17)。
もっとも、金員の支払債務の不履行について不可抗力による免責を合意する条項は、実際にはあまりみられないのが実情です(注17)。
参考文献等
註
(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問14(不可抗力の内容が不明確な場合)の条項例
(注2)前掲注1の設問14の問題点①②
(注3)前掲注1の設問14の改善例
(注4)前掲注1の設問14の解説1
(注5)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)617頁
(注6)大阪地判令和7年11月7日(令和5年(ワ)第3112号、LEX/DB文献番号25574690)。消費者裁判手続特例法に基づく共通義務確認訴訟の第一審判決です
(注7)前掲注5・617頁
(注8)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)89〜90頁
(注9)前掲注8・91頁の記載例②
(注10)前掲注5・616頁の表1(不可抗力事由の例示)
(注11)前掲注8・90頁
(注12)前掲注8・91頁
(注13)前掲注8・90頁
(注14)前掲注8・93頁
(注15)前掲注1の設問14の解説2
(注16)前掲注1の設問14の解説2の末尾
(注17)前掲注8・93頁
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