不可抗力条項の意義:帰責事由要件との関係

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:条項がなくても免責されるのではないか

不可抗力条項のレビューで、こういう指摘に出会うことがあります。「これは民法どおりのことを書いているだけだから、あってもなくても結論は同じです」。

実務書にも、同じ趣旨の記述があります。「不可抗力」とだけ書いた免責条項について、民法上のルールを確認するための条項となり、契約書にあえて記載する意義が乏しい、という指摘です(注1)。

言われてみればそのとおりに見えます。地震で工場が倒れて納品できなくなったとき、売主は債務不履行責任を負うのか。民法415条1項ただし書は、債務の不履行が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」は損害賠償を請求できないと定めています。不可抗力に起因する不履行であれば債務者に帰責事由が認められず、責任を負わないという帰結になります(注2)。買主の側も、代金の支払を拒めます(民法536条1項)。契約書に何も書かなくても、一応の解決はつきます。

それなら、企業間契約のほとんどに不可抗力条項が入っているのはなぜか。

この記事は、条項があることで何が変わるのかを扱います。改正民法が帰責事由を「契約その他の債務の発生原因……に照らして」判断すると定めた以上、契約書に何を不可抗力と書いたかは、免責されるかどうかの判断そのものに入ってきます。確認のための条項だという評価は、条項に何を書いたかによって、当たることもあれば外れることもあります。


二 制度の枠組み

1 民法415条1項ただし書が判断の入口を契約に開いた

条文はこうです。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。(注3)

2017年の改正前は、契約上の債務の不履行に基づく損害賠償責任について、債務者の帰責事由、すなわち故意・過失または信義則上これと同視すべき事由が必要とされていました。過失責任主義です(注4)。

改正民法はこれを修正しました。「責めに帰することができない事由」とは、故意・過失または信義則上これと同視すべき事由以外の事由という意味ではなく、契約の内容や取引上の通念等に照らして、債務者が損害賠償責任を負うものではないと評価される事由を意味すると一般に解されています(注4)。

過失があったかどうかではなく、この契約でこのリスクを誰が負うことになっていたか、が問われる建て付けに変わったということです。契約書はその判断の材料そのものになります。

2 「不可抗力」の定義規定は、どこにもない

民法をはじめとする各種法律に「不可抗力」という言葉はたびたび登場しますが、その具体的内容を定義する規定はありません(注5)。

一般的な学説は、外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないものと説明しています(注5)。元来人の力による支配・統制を観念することのできない自然現象や社会現象、たとえば洪水、台風、地震、津波、地滑り、火災、伝染病、海難、戦争、大規模騒乱等を意味します(注6)。

もっとも、不可抗力についてはこれまで判例・学説で十分な議論がし尽くされたとはいいがたい面があり、その外縁は必ずしも明らかではありません(注5)。旧法下でも、具体的に何が不可抗力に当たるのかは実務上その外縁が明らかではありませんでした(注7)。

定義がないところに、条項を書く余地が生まれます。

3 条項がない場合に何が起きるか

契約書に不可抗力条項を置かなかった場合、民法の原則によれば次のように処理されます。

場面根拠帰結
売主の引渡債務が不可抗力で履行不能になった民法415条1項ただし書売主は損害賠償責任を負わない
買主の代金支払債務民法536条1項買主は反対給付の履行を拒める
買主が金銭債務の履行を遅滞した民法419条3項遅延損害金について不可抗力の抗弁は立たない
契約から離脱したい民法542条1項1号ほか帰責事由を問わず解除できる

民法419条3項は、金銭債務の遅延損害金について「債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない」と定めています(注8)。この規定の反対解釈として、改正前から、金銭の支払債務以外の債務は不可抗力の場合には責任を免れると解されてきました(注9)。

ここまでで一応の解決はつきます。ただし、不可抗力により免責されるための要件は必ずしも明確といえず、債務者には将来「不可抗力」該当性をめぐり紛争化するリスクが依然として残ります(注10)。


三 解釈:条項は免責の要件を作るのか、確認するのか

1 本来の不可抗力を並べる限りでは、確認になる

天災地変、戦争、暴動、内乱といった事由だけを並べた条項は、民法が免責を認めるであろう場面を書き出したものです。この限りでは、条項は民法上のルールの確認にとどまります。冒頭に挙げた「あってもなくても同じ」という評価は、免責の可否という結論に限れば、この範囲では当たっています。

もっとも、確認であることは無意味であることを意味しません。要件面における不可抗力条項の意義は、当該契約において不可抗力により免責される場面がより明確になり、当事者の予見可能性が確保されるとともに、将来の紛争リスクを低減することが可能となる点にあります(注10)。効果面でも同じことがいえます(注10)。

書いてあれば、発生した事象が条項に列挙されているかどうかという争い方になります。書いていなければ、そもそも不可抗力とは何かという争いから始まります。立証の負担が違います。発生した事象が具体的に列挙されている場合には、不可抗力条項の発動を求める側の立証負担は相当軽減されます(注11)。

2 実際の条項は、確認の範囲を超えている

当事者間の合意により免責の対象とする事由は、本来の意味における不可抗力事由に該当し得るものに限定しなければならないわけではありません(注12)。このため、本来の意味における不可抗力事由にただちに該当し得ない可能性がある事由についても、免責の対象として定めている条項例がみられます(注12)。

たとえば、次のような条項です。

天災地変、戦争、暴動、内乱、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、争議行為、輸送機関の事故、取引先の債務不履行、原材料の調達困難その他自らの支配・統制の及ばない外部原因による本契約に基づく債務の全部または一部の履行遅滞もしくは不履行については、甲は責任を負わない。(注13)

「取引先の債務不履行」と「原材料の調達困難」が入っています。下請の遅れも原材料が手に入らないことも、それ自体は人の力の及ばない自然現象や社会現象とは限りません。民法の原則だけで処理すれば供給者が免責されるとは限らない場面を、この条項は免責の側に寄せています。

サイバー攻撃も同じ位置にあります。近時、ランサムウェアやウイルスによるサイバーインシデントを免責事由として列挙することが提唱されていますが、その理由は、サイバー攻撃が性質上、本来的に不可抗力に該当するか否かが明らかでない点にあります(注14)。

つまり、不可抗力条項が確認的な条項なのか、それとも民法と異なる責任分配を作る条項なのかは、条項の性質としてあらかじめ決まっているのではありません。書いた中身によって決まります。レビューで見るべきなのは、列挙された事由のうちどれが民法の外側にあるかです。

3 外側に出れば、限界も出てくる

契約自由の原則により、不可抗力条項は通常、有効なものとして取り扱われます(注15)。

ただし、不可抗力条項の中には、本来的に不可抗力には該当しない事由を挙げて免責している条項例や、不可抗力を起因とする場合には常に免責を認める条項例もみられます。このような場合には、消費者契約法などの強行規定に違反するおそれがあり、違反する場合には定めたとおりの効力は認められません(注15)。

事業者間の契約であっても、免責の範囲が広くなるほど、その条項を持ち出したときの交渉上の抵抗は強くなります。相手方がその事由による停止のリスクを引き受けているという説明が立つかどうかが、実際の分かれ目になります。


四 契約実務への還元

1 条項は、帰責事由の判断材料として書く

不可抗力条項の意義を、免責の要件を作ることに求める必要はありません。415条1項ただし書が判断の材料として契約を挙げている以上、条項に書いた内容は、条項が直接に適用される場面でなくても、帰責事由の判断に流れ込みます。

このことは、条項の書き方に跳ね返ります。「その他不可抗力による場合」とだけ書いた条項は、帰責事由の判断材料としてほとんど何も提供しません。他方、供給者の立場から「原材料の調達困難」を書き込んでおけば、仮にその条項の適用が争われて否定されたとしても、この契約が調達リスクを供給者だけに負わせる趣旨ではなかったという事情は残ります。

書くこと自体に、条項の適用とは別の意味があります。

2 事由を並べるだけでは足りない

見落とされやすいのは、原因と結果のつながりです。

契約の内容や取引上の通念等に照らして、いかなる事由が生じた場合にいかなる損害が「責めに帰することのできない事由によるもの」として免責されるべきと評価されるのかについては、履行遅滞または不履行をもたらした原因が何であるのかという点のみならず、当該原因により履行遅滞または不履行がもたらされるに至った経緯が免責されるべきと評価できるものかという点が問題となる(注16)

代表的な不可抗力事由である地震が債務不履行の起因となった場合であっても、当該地震から債務不履行という結果に至るまでの因果関係や、結果の回避・軽減可能性の有無によっては、免責されるべきではないと評価される場合もあり得ます(注16)。

同じことが、条項を援用する側にも返ってきます。もっとも、通常の不可抗力条項は、事由が発生すれば経緯を問わず免責する形で書かれており、回避・軽減できたはずの不履行まで免責してしまうことがあります。

そこで、事由の列挙とあわせて次の2つを置きます。

通知義務。免責事由が発生した場合に相手方に通知する義務を課している条項例があります。通知義務の履行を、免責という効果の発生条件としている例もみられます(注17)。別の条項例も、影響を受けた当事者に対し、事由の発生を速やかに相手方へ通知するとともに、回復するための最善の努力をすることを求めています(注18)。

軽減義務。免責事由に基づく債務の履行遅滞または不履行という結果をもたらすことの回避または軽減のための努力義務を定めている条項例があります(注19)。

2 前項に定める不可抗力事由が生じた場合には、甲および乙は、同事由により本契約に定める債務の履行に対して生じる影響を最小限にとどめるための努力を行わなければならない。(注19)

サイバー攻撃を免責事由に入れる場合には、これが特に効きます。不可抗力事由にサイバー攻撃を記載したとしても、裁判で争いになった場合には、サイバー攻撃に対する企業側の体制が問題とされ、体制に不備が認められれば不可抗力として認められない可能性があります(注20)。攻撃を受けた当事者において適切なセキュリティを構築していたことを必要とすべきとする見解もみられます(注14)。

内閣府の事業継続ガイドラインに従った事業継続計画を策定しているか等は参考になると考えられており、同ガイドライン等を参照してサイバー攻撃を含めた起こりうるリスクを洗い出し、それに対する対策及びリスクが発生した場合の復旧対策等の計画を策定していれば、必要な対策を講じていたと認められやすくなると考えられます(注21)。

3 誰の債務を免責するのか

条項例の多くは「甲は責任を負わない」という形をとっています。売買契約の売主側など、物やサービスを提供する側の債務について免責の対象として定めている記載例が多くみられます(注22)。国内の契約のほとんどは一方が物やサービスを提供し、他方がその対価としての金員の支払債務を負担するため、免責の対象となるのは金員の支払義務を負担しない契約当事者のみと定めることとなります(注22)。

もっとも、金員の支払債務を負担する当事者も、原料の供給債務や貸与品の貸与債務といった金銭以外の債務を負うことがあります。そのため、免責の対象を物やサービスを提供する側に特定せず、全契約当事者の債務としている記載例も存在します(注23)。

ここで注意が要ります。免責事由を明確に定める条項は、当事者双方の債務を免責の対象とした場合であっても、実際には物・サービスを提供する側にとってより有利な条項となる可能性が高い(注24)。双方向に書き換えれば公平になる、という直感は当たりません。金員の支払債務を負担する当事者側にとっては、免責事由を限定列挙の形で書き、かつ本来的な意味における不可抗力事由に限定して定めておくことが望ましいとも考えられます(注24)。

自社がどちら側かによって、同じ条項の意味が変わります。


参考文献等

註

(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問14(不可抗力の内容が不明確な場合)の問題点②
(注2)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)614頁
(注3)民法415条1項
(注4)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)87〜88頁
(注5)前掲注2・614頁。同書は我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法──総則・物権・債権〔第8版〕』(日本評論社、2022)826〜827頁を引きます
(注6)前掲注2・614頁。同書は法制審議会民法(債権)部会「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)詳細版」(2010年)31頁を引き、最近では政府による拘禁・拘束も含まれるとするのが通説であり、さらには全面的交通封鎖、ストライキ、ロックアウト、サボタージュも含むとする見解も少なくないとされている旨を紹介しています
(注7)前掲注4・88頁
(注8)民法419条3項。同項が対象とするのは同条1項の損害賠償、すなわち法定利率または約定利率による遅延損害金です
(注9)前掲注4・88頁
(注10)前掲注2・615〜616頁
(注11)前掲注2・617頁
(注12)前掲注4・90頁
(注13)前掲注4・91頁の記載例②
(注14)前掲注4・91頁
(注15)前掲注4・89頁
(注16)前掲注4・89頁
(注17)前掲注4・96〜97頁、97頁の記載例⑦
(注18)前掲注2・617頁の条項例1項ただし書
(注19)前掲注4・97頁の記載例⑧
(注20)前掲注2・618頁注17
(注21)前掲注2・618〜619頁。同書は内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)1頁を引きます
(注22)前掲注4・91〜92頁
(注23)前掲注4・92頁の記載例③についての説明
(注24)前掲注4・93頁


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