一 この用語は何をしているのか
「以前」「以後」「以降」のように「以」の文字が使われている言葉は基準点を含み、「以」の文字がない「前」や「後」は基準点を含まない意味で使われます(注1)。「四月一日以前」なら四月一日を含んでそれより前、「四月一日前」なら四月一日を含まず三月三十一日までです(注1)。
契約書でも同じで、「3月3日以前」なら3月3日を含み、「前」「後」の場合は基準時点を含みません(注2)。「令和元年9月5日より前の原因により発生した債務」とは9月4日までの原因による債務を意味し、「9月5日以前」なら9月5日までの原因による債務を含みます(注3)。
「以」の1字で、基準の日が期間に入るかどうかが決まります。
二 期間の数え方
1 初日不算入の原則(民法140条)
日を単位に期間を数えるときは、もう1つ決まりがあります。民法は、日、週、月又は年によって期間を定めたときは期間の初日は算入しないとし、ただしその期間が午前零時から始まるときはこの限りでない、と定めています(注4)。期間は、その末日の終了をもって満了します(注4)。
例えば、4月1日に売買契約を結び、契約書に「代金の支払いは、契約日から五日以内とすること」とあれば、翌日の4月2日を起算日として5日以内、つまり4月6日までに支払えばよいことになります(注5)。「明日から五日以内」のように期間が午前零時から始まる場合は、初日から数えます(注5)。こうした民法の期間計算の決まりは公法上の期間計算にも適用され、行政法規の「当該事実があつた日から五日以内」という届出期限にも初日不算入が及びます(注5)。
2 「以後」と「以降」
「以降」も「以後」と同じく基準点を含みますが、「以降」には制度的に続く、継続的に続くというニュアンスが含まれます(注1)。どちらを使っても、基準の日を含むことに変わりはありません。
3 「〜から」と「〜から起算して」
初日を数えに入れたいときは、書き方を変えます。「〜の日から起算して」と「起算して」の文字を加えると初日不算入の原則の例外を定めたことになり、「代金の支払いは、契約日から起算して五日以内とすること」なら、支払期限は4月5日になります(注5)。行政手続法の「公示の日から起算して三十日以上」のように、法令でも初日を算入したい場合にはその旨を明記します(注5)。法令の施行期日に「公布の日から起算して」と書くのも、起算日の紛れをなくすためです(注5)。
なお、起点を示すときは「から」を使い、「より」は比較を示す場合に使うので時や場所の起点には使わない、とする見解もあります(注3)。
三 問題点
1 通知期限が1日ずれる
「から」と「から起算して」で1日、「前」と「以前」で1日、期限がずれます。
「毎月末日の5日前までに書面で成約件数を報告しなければならない」という条項例は、期間の起算日がいつからになるかが不明確です(注6)。民法の規定に従えば解釈上の疑義は生じませんが、一般的には誤解を与えるおそれがあります(注6)。
2 期間の末日が休日にあたる
民法は、期間の末日が日曜日、祝日その他の休日にあたるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、翌日に満了すると定めています(注4)。
末日が土曜日なら翌週の月曜日の終了、年末年始にかかるなら1月4日の終了をもって満了すると考えるのが一般的です(注6)。もっとも、契約書に「ただし、土、日又は祝日の場合はその翌営業日」「ただし、土、日又は祝日の場合はその前日」と注記するのが望ましく、休日の前日に満了させたいときは、その旨の規定が必要になります(注6)。
四 改善例:日付で書く
期間の数え方を覚えるより、日付で書いてしまうほうが確実です。
「本契約の有効期間は、本契約締結日から○年間とする」という条項例は、起算日も満了日も不明確です。改善例は、「○年○月○日から△年○月○日までの○年間とする」という書き方です(注7)。契約書を郵送でやり取りし、締結日をそれぞれが記入すると締結日の認識に食い違いが生じうる、というのが理由の1つです(注7)。満了日は更新拒絶の通知の期限を計算するうえでも意味を持つので、通知の失念や誤解を防ぐためにも、特定の日付を書くべきです(注7)。
日付で書けない期限は、起算日を書き込みます。「商品受領日の翌日から起算して5営業日(ただし、土、日又は祝日の場合はその翌営業日)までに検品を行い」という改善例があります(注6)。
| 書き方 | 4月1日を基準にしたときの結果 |
|---|---|
| 4月1日以前 | 4月1日を含む(注1) |
| 4月1日前 | 4月1日を含まない(3月31日まで)(注1) |
| 4月1日から5日以内 | 4月6日まで(初日不算入)。ただし期間が4月1日午前零時から始まるときは4月5日まで(民法140条ただし書)(注5) |
| 4月1日から起算して5日以内 | 4月5日まで(注5) |
| 2026年4月6日まで | 計算しなくてよい |
五 書き分けの分岐
| 期限の性質 | 書き方 |
|---|---|
| 日付が決まっている | 日付で書く |
| ある出来事から数える(受領、通知など) | 「〇〇日の翌日から起算して〇日以内」と起算日を書く |
| 基準の日を含めたい/含めたくない | 「以前」「以後」/「前」「後」を使い分ける |
| 末日が休日になりうる | 翌営業日にずらすか、その前日に繰り上げるかを書く(注6) |
本稿で扱わなかったこと
契約期間そのものの定め方(始期・終期、長すぎる期間の効力など)は、別稿「契約期間の始期・終期と期間の計算方法」が扱っています。通知がいつ届いたことになるかは、別稿「通知条項の設計:到達主義と通知方法」が扱います。「以上」「未満」などの数量の境目は、別稿「『その他』と『その他の』、『以上・以下・超・未満』:境目がどちらに入るか」で扱いました。
参考文献等
註
(注1)吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』(日本評論社、2022)22〜23頁
(注2)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)71頁
(注3)秦周平・仲晃一・山中俊郎編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問1
(注4)民法140条〜142条
(注5)前掲注1・64〜67頁
(注6)前掲注3・設問5
(注7)前掲注3・設問4
あわせて読む




