一 問題の所在:「締結日から1年間」はいつ終わるか
契約書のいちばん後ろのほうに、こういう条項があります。
第○条(有効期間) 本契約の有効期間は、本契約締結日から1年間とする。(注1)
締結日が2024年10月1日だとして、この契約はいつ終わるでしょうか。2025年9月30日か、10月1日か。
答えは2025年10月1日の終了時です(注2)。初日は算入しないので、起算日は10月2日、そこから1年を数えて2025年10月1日の末日に満了します。
では、次の書き方ならどうでしょうか。
第○条(有効期間) 本契約の有効期間は、2024年10月1日から1年間とする。(注1)
こちらは2025年9月30日の終了時です(注2)。起算日を具体的な日付で特定している場合は、通常その期間は午前零時から始まる趣旨と考えられるためです(注2)。
同じ「1年間」でも、書き方で満了日が1日ずれます。1日のずれが問題になるのは、更新拒絶の通知期限を「満了の3か月前まで」と数えるときです。
この記事は、期間の計算がどう決まっているか、そして契約書でどう書けば争いにならないかを扱います。
二 制度の枠組み
1 期間条項は、契約を終わらせるための条項である
先に、この条項が何のためにあるかを押さえます。
契約に定める当事者の履行すべき各義務の内容が一回的なものであり、その完了が観念できる場合には、これらの義務がすべて履行されれば契約の目的は達成されるため、契約の効力の終了時点を論じる意味はあまりありません(注3)。売買契約で目的物を引き渡して代金を払えば、それで終わりです。
問題になるのは、賃貸借契約や取引基本契約のように、当事者の履行すべき各義務が一回的なものではない継続的な契約です。契約の効力が存続する限り、各当事者は契約に定める義務を免れ得ないことから、これを明らかにしておく必要があります(注3)。
そして、原則として、契約は、特に契約の有効期間を定めていない場合には、その契約が解除等されない限り、その効力はずっと続くものと考えられます(注3)。
このため、契約の有効期間の条項は、一定の期間が満了した時点で、契約当事者を契約の拘束力から解放することに意義を有することになります(注3)。期間条項は、契約を続けるための条項ではありません。終わらせるための条項です。
2 初日不算入の原則(民法140条)
期間の計算は、法令や契約に別段の定めがなければ、民法の規定に従います(注4)。
(期間の起算) 第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。(注5)
初日不算入とは、始期となる事実が発生した初日を切り捨てて、その翌日を起算日とするという意味です(注4)。ただし、期間が午前零時から始まる場合は、初日が24時間ありますので、例外的に初日から起算します(注4)。
一の2つの例が分かれたのは、ここです。「本契約締結日から」と書いた場合、契約締結日の午前零時を期間の起算日とする趣旨とは通常は考えられないため、締結日は不算入になります(注2)。これに対して、「2024年10月1日から」と日付で特定した場合は、通常その期間は午前零時から始まる趣旨と考えられます(注2)。
3 期間の満了(民法141条)と休日(民法142条)
期間の到来は、末日の終了(午後12時の経過)をもって満了します(注4)。
(期間の満了) 第141条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。(注5)
末日が休日にあたる場合には、次の規定があります。
(期間の満了) 第142条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。(注5)
条文には「その日に取引をしない慣習がある場合に限り」という限定が付いています。休日なら自動的に翌日に延びるわけではありません。
土曜日と年末年始は、条文に書かれていません。実務上は、末日が土曜日の場合、行政機関や銀行など土曜日を休日と定める法律があるため、翌週の月曜日の終了をもって満了する考えが一般的です(注4)。末日が年末年始にかかる場合は、明けた1月4日の終了をもって期間満了となるのが一般的です(注4)。
なお民事訴訟法は、期間の末日が日曜日、土曜日、祝日、1月2日、1月3日または12月29日から12月31日までの日に当たるときは、期間はその翌日に満了する、としています(民事訴訟法95条3項)(注4)。民法より広く休日を拾っています。契約書の期間計算にこの規定が当然に及ぶわけではないので、混同しないよう注意が要ります。
4 強行規定と公序良俗による限界
契約の有効期間の条項は、原則として、その定めるとおりの効力を有します(注6)。もっとも、強行規定に抵触する場合には、定めたとおりの効力は認められません(注6)。
借地借家法が適用される賃貸借契約には、次の制限が付きます(注6)。
| 契約類型 | 期間の制限 |
|---|---|
| 通常の土地賃貸借契約 | 30年以上 |
| 一般定期土地賃貸借契約 | 50年以上 |
| 事業用定期土地賃貸借契約 | 10年以上50年未満 |
| 建物譲渡特約付定期土地賃貸借契約 | 30年以上 |
| 通常の建物賃貸借契約 | 1年以上(1年未満の期間を定めた場合には、期間の定めのない建物賃貸借契約となる) |
表は現行法の主な期間の目安です。借地の用途、更新などを排除する特約、書面や公正証書の要件、旧法の適用関係は別に確認が要ります。
また、当事者が合意した契約期間の定めが公序良俗に違反するとして、その効力が否定されることもあります(注6)。長ければ長いほど安定する、というものではありません。
5 長すぎる期間が無効とされた裁判例
実際に契約期間の定めが無効とされた事案があります。雑誌等の販売委託契約で、期間を20年とし、あわせて指定以外の卸業者からの仕入れを禁じたものです(注7)。
無効とされたのは、期間20年の側です。仕入先を限る約定(排他的取引の約定)のほうは、委託者の市場占有率がごく僅かであることなどから、相手方の事業活動を不当に拘束する条件とはいえないとされています(注7)。
判決は、委託者が従業員約100名・年商約120億円の卸業者であるのに対して受託者は資産や特別の技能を有しないこと、販売地域が限定され他業者からの仕入れが禁じられていたことに加えて、業界の実情を挙げます。
書籍、雑誌等の卸業界においては、その殆どが期間を定めない取引契約を結んでおり、一部で期間一年とする契約をみるにすぎない実情にある(注7)
そのうえで、受託者の開業にあたり委託者が教育と投資に多くを費やし、受託者が委託者の実質的な営業所に近い性格であったことを考慮しても、として、次のように結論しました。
原告が取引上優越した地位を利用して、正常な商慣習に照らして、期間二〇年の拘束という不当に不利益な条件を科したものであり、原告は、取引上の優越的な地位の不当利用という行為自体により、企業努力を基本とする公正な競争秩序を阻害したものというべきであるから、独禁法一九条、二条九項五号及び一般指定一〇にいう不公正な取引方法を用いたものと解され、しかもその違法の程度は重く、公序良俗に違反し、私法上無効というべきものである(注7)
業界の実情との落差が、判断の材料になっています。期間を定めないのが通常の業界で20年と書いたことが、優越的地位の濫用と評価されました。
もう1つ、この判決には見落とせない先があります。期間の定めが無効になると、契約は期間の定めのないものとして扱われるという点です。判決は、拘束期間の約定が無効であるから期間の定めないものと解するほかない、としたうえで、解約には相当な予告期間(この事案では6か月)が必要だと判断しました(注7)。
優越的な地位にある側が業界の実情からかけ離れた長い期間を課すと、期間の定めが丸ごと落ちて、相当の予告さえ置けば解約できる契約になることがあります。縛りたい側にとっては、狙いと逆の結果です。
三 解釈:契約書で「初日を算入する」と書けるか
書けます。民法140条は、法令や契約に別段の定めがなければ適用される規定だからです(注4)。
もっとも、実務で使うのは「初日を算入する」という書き方ではありません。起算日そのものを書いてしまうほうが確実です。
条項例の記載は、民法の規定に従えば解釈上の疑義は生じませんが、一般的には誤解を与えるおそれがあります。次の表現で起算日を特定することが望ましいところです(注8)。
| もとの書き方 | 直した書き方 |
|---|---|
| 商品受領後5営業日が経過するまでに検品を行い | 商品受領日の「翌日から起算して」5営業日(ただし、土、日又は祝日の場合はその翌営業日)までに検品を行い |
| 毎月末日の5日前までに書面で成約件数を報告 | 毎月末日の「前日から起算して」5日前(ただし、土、日又は祝日の場合はその前日)までに書面で成約件数を報告 |
「翌日から起算して」「前日から起算して」の一言で、民法140条を持ち出す必要がなくなります。
休日についても、法律上の定めがある場合は解釈上疑義は生じませんが、実務上は「ただし、土、日又は祝日の場合はその翌営業日」「ただし、土、日又は祝日の場合はその前日」といった形で注記することが望ましいといえます(注8)。
特に、土曜日・日曜日または祝日の前日に期間満了する扱いにしたいときは、契約書に「前日をもって期間が満了する」旨の規定が必要になります(注8)。民法142条は翌日に延ばす規定なので、前倒しにしたいなら書くしかありません。
四 契約実務への還元
1 始期と終期を、日付で書く
いちばん確実なのは、期間を日付で書き切ることです。
改善例は、次の形です(注9)。
(契約期間) 第○条 本契約の有効期間は、○年○月○日から△年○月○日までの○年間とする。(注9)
始期も終期も日付なので、初日不算入も末日の計算も出てきません。計算しなくてよい書き方が、いちばん強い書き方です。
有効期間の定め方には3つあります(注10)。
| 書き方 | 満了日 |
|---|---|
| i 本契約締結日から○年間 | 締結日を算入せずに計算する |
| ii ○年○月○日から○年間 | 起算日の前日の応当日に満了する |
| iii ○年○月○日から○年○月○日まで | 書いてあるとおり |
実務的には i の定め方が一番よく用いられているようですが(注10)、争いを避けるなら iii です。
2 「本契約締結日」が何を指すかを確かめる
i の書き方を使うなら、「本契約締結日」がいつなのかが決まっている必要があります。
これは当事者の合理的意思解釈により、実際に契約を合意した日ではなく、契約書に記載されている契約日付を意味するものと解されるのが通常です(注10)。したがって、契約書に契約日付が明記されているか否か、明記されている契約日付がいつであるのかについて、注意が必要です(注10)。
実務では、その場で双方が調印するとは限りません。相手方より押印した契約書が送付され、会社で押印して返送するということも行われています(注9)。その場合に、契約日を双方の契約書で既に記載してあればよいのですが、契約締結日を双方で個々に記入するという場合も少なくありません(注9)。そうなると契約の締結日の認識に不一致が生じ、契約期間の起算日が不明確となり、契約の有効期間が不明確となります(注9)。
日付欄が空欄のまま押印して送る運用は、ここで効いてきます。契約期間の起算日は明確にするべきであり、契約締結日からという記載は避けるべきです(注9)。
3 効力発生日を、締結日より前に置くことができる
ii や iii の定め方の場合には、契約書に記載されている契約日付より遡った日付を契約の有効期間の始期とすることも可能です(注10)。
取引が先に始まってしまい、契約書の作成が後追いになることがあります。そのときは、ii や iii の書き方で「○年4月1日から」と遡らせれば、当事者間では実際の取引開始時点から契約を及ぼすことができます(注10)。i の書き方では、これができません。
4 レビューでは、3か所を突き合わせる
相手方から示された契約書を見るときは、期間に関わる記載を3か所そろえて読みます。
| 見る場所 | 確かめること |
|---|---|
| 有効期間の条項 | 始期の書き方(締結日か日付か)。終期が書かれているか |
| 更新の条項 | 更新拒絶の通知期限が「満了の○か月前まで」となっているか。その○か月をどこから数えるか |
| 契約書の日付欄 | 空欄になっていないか。前文や後文の日付と食い違っていないか |
この3か所がそろって初めて、更新拒絶の期限が何月何日かが決まります。有効期間の条項だけを見て「1年間だから来年の同じ日まで」と決めてかかると、始期を日付で書いた契約では、一で見たとおり1日ずれます。
自社が更新拒絶をする側に回る可能性があるなら、締結の段階でカレンダーに落としておきます。通知期限を1日過ぎれば、その契約はもう1年続きます。
5 期間の長さは、更新とセットで決める
「○年間」を具体的に何年間とするのかは当事者の自由ですが、実際に定められているのは1年間とするものが多くあります(注10)。
企業間の契約では、最初の契約締結時において、どの程度の期間の間、契約を継続するかが決まっていないことが多い(注11)。このような場合には、契約の有効期間を1年間(長くても数年間)程度としたうえで、その後に更新というかたちで契約を続けるか否かを当事者が決定できるような形で合意することが多くみられます(注11)。
短く切って更新で延ばす、という組み立てです。その更新の側をどう書くかは、別稿「自動更新条項:意義と留意点」が扱います。
本稿で扱わなかったこと
期間が満了したあとに契約を延ばす仕組みは、別稿「自動更新条項:意義と留意点」が扱います。四の5で触れた「短く切って更新で延ばす」の後半です。
更新後の期間が書かれていない場合の処理は、別稿「更新後の期間・条件が定まっていない場合」が扱います。
期間の途中で契約を終わらせる条項は、別稿「中途解約条項:留保しないとどうなるか」が扱います。
契約書の日付欄と効力発生日を分けて書く技術は、別稿「契約締結日前に遡らせる意味と限界:バックデートと遡及条項」が扱います。
相手方から示された契約書で「前」「後」「以前」「以後」を読み分ける技術は、別稿『「前」「後」と「以前」「以後」:期間の起算』が扱います。
参考文献等
註
(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)6頁の記載例①・記載例②の第1文。記載例②の日付は、同書12頁の計算例に合わせて2024年10月1日に置き換えています。
(注2)同11〜12頁
(注3)同7頁
(注4)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問5(初日を算入するか、日曜日や祝日を除くか文言上一義的でない場合)
(注5)民法140条・141条・142条
(注6)前掲注1・7〜8頁
(注7)東京地判昭和56年9月30日(昭和53年(ワ)第9905号、下級裁判所民事裁判例集32巻9〜12号888頁、判例タイムズ456号112頁、判例時報1045号105頁)。引用中の条文番号および「一般指定」の号数は判決当時のもので、一般指定はその後全面的に改められているため、現在の号数とは対応しません。
(注8)前掲注4の設問5の条項例・改善例および解説2
(注9)前掲注4の設問4(契約期間の起算日を「契約締結日」と定める場合)およびその改善例
(注10)前掲注1・11〜12頁
(注11)同8頁
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