一 この条項は何をしているのか
1 書かなければどうなるか
損害賠償の条項を置かなくても、契約違反があれば賠償義務は生じます。民法415条があるからです。範囲は民法416条が決めます。通常損害と、予見すべきであった特別損害のすべてです。
したがって、次のような条項は確認的な意味しか持ちません。
本契約に定めるほか、甲または乙のいずれかが、本契約に違反して相手方に損害を与えたときには、その損害を賠償する。(注1)
契約に違反した場合に相手方に対して損害を賠償する旨だけを定める損害賠償条項を契約書において設ける意義は、原則として確認的意義のみです(注2)。
もっとも、確認的意義のみを有する損害賠償条項を契約書中に定めている例は意外に多くみられます。契約違反には制裁が科されることを明記することによって契約当事者に契約の履行を強く促すためであろうと考えられ、特に不作為義務の履行を定めている秘密保持契約書などで設けられることが多いといえます(注2)。
この記事が扱うのは、確認的意義を超える条項です。民法がそのまま適用される場合と比較して当事者のリスクを低減する条項(注3)。つまり、賠償の範囲を狭める条項です。
2 限定の方法は3つ
賠償義務を免責(多くは一部免責)する条項としてよくみられるのは、次の3つです(注4)。
| 限定の方法 | 内容 |
|---|---|
| ① 帰責事由を制限する | 故意または重過失がある場合にのみ賠償義務を負う(軽過失は免責) |
| ② 損害の範囲を制限する | 特別損害を除く、逸失利益を除く、といった形で対象を絞る |
| ③ 損害の金額を制限する | 上限額を設ける、または一定額以下の損害は賠償しない |
本稿が扱うのは②です。①は別稿「免責条項の限界:公序良俗・信義則」が、③は別稿「責任上限条項の設計と相場」が扱います。
②はさらに2つに分かれます。一定の性質・種類の損害について賠償義務を負わない旨を定めるもの(たとえば特別損害を除く)と、特定の損害について賠償義務を負わない旨を定めるもの(たとえば逸失利益を除く)です(注4)。
この2つの違いが、本稿の主題になります。
二 よくある条項例
1 抽象的に絞る形
いちばん多く見る形です。
甲又は乙が、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、直接かつ現実に生じた通常の損害につき賠償する責任を負う。(注5)
「通常の損害」「直接」「現実に生じた」。3つの限定がかかっています。
同種の条項例として、次の形もあります。
乙は、本契約に違反したことにより甲に損害を生じさせた場合には、その損害を賠償する。ただし、乙が賠償する損害は、通常生ずべき損害であり、かつ、直接かつ現実に生じた損害に限るものとする。(注6)
2 項目を名指しする形
対して、こちらは落とす損害を列挙します。
乙は、本契約に違反したことにより甲に損害を生じさせた場合には、その損害を賠償する。ただし、乙は、甲に生じた逸失利益(本契約の対象となる製品を販売して得られたはずの利益を含むが、これに限られない)、信用毀損による損害および甲が負担することとなる弁護士費用については、賠償する義務を負わない。(注7)
3 含める側を書く形
限定ではなく拡張ですが、対で理解しておく価値があります。
甲又は乙は、本契約の履行又は不履行に関して相手方又は第三者に損害(弁護士費用を含む)を与えたときは、これを賠償する責任を負うものとする。(注8)
「弁護士費用を含む」を書いています。別稿「損害の範囲と予見可能性」で見たとおり、債務不履行訴訟の弁護士費用は損害として認められにくい傾向があるため(注9)、含めるなら明記が要ります。
三 問題点
1 「通常生ずべき損害に限る」は、ほとんど何も変えていない
二の1の形には、根本的な問題があります。
民法416条1項は、もともと通常損害の賠償を目的とすると定めています。同条2項が特別損害を加えるのは、当事者がその事情を予見すべきであったときに限られます。「通常損害に限る」と書くことで落ちるのは、予見すべきであった特別損害の部分だけです。
そして、別稿「損害の範囲と予見可能性」で見たとおり、何が通常損害で何が特別損害かについて一般的な基準は存在せず、契約類型ごとに個別具体的に判断するほかありません(注10)。
落とせる範囲が最初から曖昧なうえ、その境目も事案ごとに決まる。この条項を置いても、争いになれば結局どちらに区分されるかを争うことになります。
2 「直接」「現実に」が定義されていない
同じ問題が、より深刻な形で出ます。
民法416条を踏まえた「通常損害」「特別損害」という用語ですら、実際に生じた損害のうちどれがどちらに区分されるかは明確ではありません。「直接損害」「間接損害」「現実に生じた損害」は、意味するところも明確ではありません(注11)。
「直接損害」も「間接損害」も、民法の用語ではありません。契約書で定義されていなければ、当事者がそれぞれ自分に有利に読みます。
したがって、このような用語・表現によって損害賠償の範囲を制限することは、後の紛争を生じさせるリスクが一定程度存在します(注11)。
3 条項が限定解釈される
書き方の問題を別にしても、条項の効力そのものが制限される場面があります。
判例では、当事者間の契約で免責条項・責任制限条項が定められている場合であっても、具体的事案における当事者間の衡平を考慮して、免責条項・責任制限条項の射程範囲を制限し、具体的事故についての債務者の責任を認めたものがあります(注12)。
ホテルの宿泊約款が問題になった事案があります。フロントに預けなかった物品について種類・価額の明告がなければ15万円を限度とする特則があり、宝飾品約2,846万円が盗難に遭いました。約款には重過失を除外する規定がありませんでした。
最判平成15年2月28日は、こう述べています(注13)。
このような本件特則の趣旨にかんがみても,ホテル側に故意又は重大な過失がある場合に,本件特則により,被上告人の損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは,著しく衡平を害するものであって,当事者の通常の意思に合致しないというべきである。したがって,本件特則は,ホテル側に故意又は重大な過失がある場合には適用されないと解するのが相当である(注13)
除外規定を書いていなくても、故意・重過失の場合には適用されません。原審は、本件特則に重大な過失がある場合の除外規定が設けられていないことも併せ考慮して、重過失があるときにも特則が適用されると判断していましたが、最高裁はこれを破棄しました。
4 広すぎると、実質的な免責になる
逸失利益を除く条項には、別の問題があります。
取引の性質によっては、逸失利益がほとんどすべての損害を占めます。販売店契約で商品が納入されなければ、販売店の損害の大部分は転売で得られたはずの利益です。ここで「逸失利益は賠償しない」と書けば、実質的な全部免責に近づきます。
債務者の故意・重過失を免責する条項は不当であり無効とする見解が支配的であり(注14)、軽過失を免責する条項は実務上多くみられるものの、個別具体的な事情によっては無効とされる場合もあり得ます(注15)。
損害の項目についても同じで、ある種の損害項目について責任を減免することが不当とされる場合があり得ます(人身損害について責任を減免する条項など)(注16)。
四 改善例
1 落とす項目を名指しする
三の1・2への対処は、これに尽きます。
抽象的な用語で範囲を絞るかわりに、賠償しない損害項目を列挙する。特定の損害は賠償する義務を負わない旨を明記しておくことは、紛争の回避という観点からは望ましいところです(注11)。
名指しできる項目には、次のようなものがあります。
- 逸失利益(得べかりし利益、転売利益、事業機会の喪失)
- 信用毀損・のれんの毀損による損害
- 第三者からの請求に基づき支払った金額
- データの滅失・毀損による損害
- 弁護士費用
書くときは、括弧書きで具体例を添えます。「逸失利益(本契約の対象となる製品を販売して得られたはずの利益を含むが、これに限られない)」(注7)という形です。項目名だけでは、その取引で何が該当するかが読み手によって変わります。
2 用語を定義する
「直接損害」という言葉をどうしても使うなら、定義を置きます。
定義を置かないまま使うと、三の2で見たとおり争点になります。定義を置くくらいなら、1で述べたとおり項目を名指しするほうが早い場面が多いのですが、相手方が「直接損害に限る」という文言に固執する場合には、その言葉を残したうえで定義を添える形が落としどころになります。
3 故意・重過失の除外を、自分から書く
三の3で見たホテル約款の事件では、除外の定めがなくても故意・重過失には特則が適用されないと判断されました。一般の条項でも当然に同じ結論になるとは限りません。そのうえで、書く理由が2つあります。
条項全体の合理性を支えるためです。別稿「債務不履行責任と不法行為責任の関係」で見た最判平成10年4月30日は、責任限度額が不法行為にも及ぶとした理由の一つに、故意・重過失の場合には一切の損害を賠償しなければならないことを挙げていました。除外があることが、制限が認められる根拠になっています。
交渉のためです。相手方から見て、故意・重過失まで免責される条項は飲めません。先に除外を提示することで、残りの制限が通りやすくなります。
なお、重過失の意義については、失火責任法の「重大ナル過失」について、最判昭和32年7月9日がこう述べています(注17)。
ここにいう重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す(注17)
かなり高い水準です。もっとも、多くの裁判例は重過失を「著しい注意義務違反」と捉えており(注18)、契約上の免責条項の文脈でどこまで厳格に解されるかは、事案によります。
4 法律による制限を確かめる
条項が無効になる場面を確認します。
消費者契約が相手なら、消費者契約法8条以下です。事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効となり、故意または重大な過失による場合の責任の一部を免除する条項も無効となります(注19)。不法行為責任についても同じです(同条1項3号・4号)。さらに、責任の一部を免除する条項は、軽過失による場合にのみ適用されることを条項で明らかにしていなければ無効です(同条3項)。
事業者間でも、公序良俗(民法90条)があります。故意または重過失による債務不履行がある場合に損害賠償義務を免責または制限する条項は、公序良俗に違反して無効とされるおそれが高い。一方、故意または重過失がない場合に損害賠償義務を免責または制限する条項は公序良俗には違反しないものと一般的には解されています(注20)。
五 書き分けの分岐
| 自社の立場 | 条項の作り方 |
|---|---|
| 損害を賠償する側になりやすい(売主・受託者) | 落とす項目を名指しで列挙する。故意・重過失の除外を自分から書く。上限額と併用する |
| 損害を受ける側になりやすい(買主・委託者) | 抽象的な限定(「通常損害に限る」「直接損害に限る」)を削る。削れないなら定義を求める |
| 双方が損害を受けうる | 双方に同じ制限をかける。用語を定義する |
| 逸失利益が損害の大部分を占める取引 | 逸失利益の除外は受け入れない。受け入れるなら除外の対象を狭めるか、重要な損害を除外の例外にする。上限額を上げても、除外された損害は戻らない |
この条項は、交渉でいちばん揉めます。一般条項の中で契約交渉においてもっとも激しい協議・交渉が行われるのは、損害賠償義務を一部免責する条項です。一方の損害賠償責任の一部を免責する条項を設けようとすると、相当多くの場合に相手方から削除や変更の要求が出されます(注21)。
契約書のチェックを十分にできなかったといった背景事情のもとで一部免責の条項を合意した後に、相手方の債務不履行により大きな損害が発生してから、このような条項は無効にならないのかという相談は、何度もあります。気持ちはわかりますが、いったん締結した契約書に明記されている条項が、その後の事情で無効になることは原則として難しいのです(注21)。
揉めるのは、揉めるだけの理由があるからです。時間をかける価値のある条項です。
本稿で扱わなかったこと
責任の上限額を設ける条項(一の2の③)は、別稿「責任上限条項の設計と相場」が扱います。上限額の設定は債務者の責任制限のために頻繁に用いられており、損害賠償額の予定との違いは、実損額が上限より低い場合に債務者は実損額を賠償すれば足りる点にあります(注22)。
故意・重過失の除外そのもの(同①)は、別稿「免責条項の限界:公序良俗・信義則」が扱います。本稿では四の3で、書く理由だけを述べました。
損害賠償額の予定・違約金の条項は、範囲を限定するのではなく額を固定するものです。別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」が扱います。
参考文献等
註
(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)62頁の記載例①
(注2)同63頁
(注3)同63〜64頁
(注4)同63〜65頁
(注5)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)611頁の条項例①
(注6)前掲注1・70頁の記載例④
(注7)同70頁の記載例⑤
(注8)前掲注5・612頁の条項例②
(注9)同612頁
(注10)同608頁
(注11)前掲注1・69〜70頁
(注12)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問11(債務者の責任を免除、制限する規定の効力が問題となる場合)
(注13)最判平成15年2月28日集民209号143頁(平成13年(受)第1061号)
(注14)前掲注5・611頁
(注15)同611頁
(注16)同612頁
(注17)最判昭和32年7月9日民集11巻7号1203頁(昭和27年(オ)第884号)
(注18)前掲注5・611頁
(注19)前掲注1・66〜67頁
(注20)同67頁
(注21)同73頁のColumn
(注22)前掲注5・612頁
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