一 どういう場面か
分割払いの合意をしました。相手が1回滞りました。翌月は払ってきました。その次がまた滞りました。
契約書にはこう書いてあります。
(期限の利益の喪失) 第○条 借主は、第○条に定める分割金の支払を2回分怠ったときは、期限の利益を失う。(注1)
残額を一括で請求できるでしょうか。「2回分」がいつのことなのかが決まっていません。
この条項の問題点は、過怠約款の定めが不明確であり、期限の利益を喪失する場合が不明確なことです(注1)。
二 何を見るか
1 「2回分」が何を指すか
読み方は、3通りあります(注2)。
①分割金の支払を2回続けて怠ったときを意味するのか、②通算して2回支払を怠ったときをも含むのか、③一部弁済がなされその滞納額が2回分に達していない場合をも含むのかが不明確です。(注2)
冒頭の場面は②です。①と読めば、まだ喪失していません。
この差は、そのまま一括請求ができるかどうかの差になります。期限の利益を喪失したか否かで紛争になる可能性があり、貸主は一括弁済を求められない事態となりかねません(注2)。
そもそも過怠約款は何のためにあるのか。次のとおりです。
分割弁済が定められ、借主に期限の利益が付与されている場合には、当該分割金の弁済を怠った場合に備え、期限の利益を喪失し一括弁済しなければならないことを定めるいわゆる過怠約款が定められることが一般的です。貸主及び借主にとっても、過怠約款に該当する事態になるか否かは、期限の利益を失うか否かの判断基準になりますので、明確に定められる必要があります。(注3)
判断基準として使えないなら、置いている意味がありません。
2 当然喪失か請求喪失か
次に見るのは、喪失のしかたです。条項例は「期限の利益を失う」とだけ書いていて、貸主の請求が要るのかどうかが読み取れません。
過怠約款には、定める条件が成就すれば当然に喪失する当然喪失条項と、貸主による請求を要する等の手続を要する請求喪失条項があります(注4)。この2つの型の一般論は、別稿(期限の利益喪失:自動で効くほうが有利、とは限らない)が扱います。
この場面では、貸主側は当然喪失にすべきです。理由は次のとおりです。
貸主としては、請求喪失条項として定める場合、分割金の支払を遅滞するような場面ですから、借主の失踪や受領拒絶等により、借主がかかる意思表示を受領しない可能性があります。そのため、貸主側としては、当然に期限の利益を喪失すると定めておく方がよいでしょう。(注4)
分割払いが滞る場面では、相手に通知が届かないことがある。これは請求喪失型の弱点です。
3 当然喪失にするなら、時効の管理がついてくる
ただし、この推奨には留保があります。当然に期限の利益が喪失する旨を定めている場合の消滅時効の起算点に関する判例があり、債権管理の際には注意が必要です(注4)。その判例が、次の最高裁判決です。
割賦金弁済契約において、割賦払の約定に違反したときは債務者は債権者の請求により償還期限にかかわらず直ちに残債務全額を弁済すべき旨の約定が存する場合には、一回の不履行があつても、各割賦金額につき約定弁済期の到来毎に順次消滅時効が進行し、債権者が特に残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をした場合にかぎり、その時から右全額について消滅時効が進行するものと解すべきである(注5)
請求喪失型についての判示です。裏返すと、当然喪失型なら喪失事由が起きた時点から全額の時効が走り出します。詳細は別稿(期限の利益喪失)が扱っています。
レビューでは、この2つをセットで見ます。当然喪失にすると決めたなら、いつ喪失したかを記録して時効を管理する運用まで含めて相手方に伝えることになります。
4 催告が要るかどうか
条項に催告の定めがなくても、実際に喪失を主張できるとは限りません。裁判例には、軽微な違反について催告を要するとしたものがあります(注6)。この点は別稿(期限の利益喪失)の三の3で扱いました。
過怠約款は、軽微な違反の類型ではありません。分割金の不払いは、契約の中心的な債務の不履行だからです。それでも、①の読み方(2回続けて)を採るか②の読み方(通算2回)を採るかで、実質は変わります。通算2回で自動的に全額の弁済期が来る条項は、遅れがちな相手を抱える取引では相手方から抵抗を受けます。
三 直し方
1 条件を数と金額で書く
改善例は、次のとおりです。
(期限の利益の喪失) 第○条 借主は、第○条に定める分割金の支払を2回以上怠り、かつ、その額が○○円に達したときは、期限の利益を失う。(注7)
「2回以上」で回数を、「その額が○○円に達したとき」で一部弁済の扱いを具体化しています。ただし、この例では通算か連続かが残ります。通算なら「通算して2回以上」、連続に限るなら「連続して2回以上」と書き、「その額」がその時点の未払額を指すことも明確にしておくと、二の1の読み方の揺れがなくなります。
期限の利益を喪失する条件は、明確に定める必要があります(注2)。
2 当然喪失であることを書く
条項例は「期限の利益を失う」としか書いていません。当然喪失にするなら、そう読めるように書きます。
書き足すのは「貸主の請求を要することなく、当然に」といった一句です。逆に請求喪失にするなら「貸主の請求により」と書きます。どちらとも読める書き方を残さないことが要点です。
四 相手方への説明のしかた
借主側が「2回以上怠り、かつ、その額が○○円に達したとき」への変更に難色を示した場合、次のように説明することになります。
この条項は、期限の利益を失う場合を広げるものではありません。いまの条項でも通算2回と読める以上、明確にすることで借主が不利になるとは限りません。むしろ、一部を払っていれば金額の条件で救われる余地が生まれます。
貸主側から説明するときは、判断基準としての機能を持ち出すのが説得的です。この条項は貸主にとっても借主にとっても、期限の利益を失うか否かの判断基準になります(注3)。どちらが得かではなく、いつ失うのかが分かる形にする、という話です。
当然喪失にする点に借主が抵抗する場合は、二の2の理由を伝えます。支払が滞っている場面では通知が届かないことがあり、その一事で一括請求ができなくなるのは貸主にとって受け入れがたい、というものです(注4)。代わりに、金額の条件を高めに設定する交渉が現実的です。
五 どこまで直すか
1 貸主側
回数と金額の2つは必ず直します。当然喪失であることを書くのも、同じ優先度です。これらは条項が働くかどうかそのものだからです。
そのうえで、喪失した日を記録する運用を社内に用意します。二の3のとおり、当然喪失型では時効がその日から走り出します。
2 借主側
回数の明確化には応じてよい場面が多いはずです。①の読み方(2回続けて)に寄せられれば、そちらを求めます。
金額の条件は、借主にとって有利に働きます。滞納額が一定額に達するまでは喪失しないので、金額を高めに設定するよう求めることになります。
3 どちらの立場でも
「2回分」のような、数え方が一通りに決まらない書き方を残さないことです。そこが争いになれば、一括請求ができるかどうかの入口で止まります。
過怠約款以外の喪失事由の書き分けは別稿(期限の利益喪失:自動で効くほうが有利、とは限らない)が、資金使途違反や届出義務違反を喪失事由にすることは別稿(資金使途違反・届出義務違反の効果)が扱います。
参考文献等
註
(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問42(過怠約款により期限の利益を喪失したか否かが不明確な場合)の条項例および問題点
(注2)前掲注1・設問42の解説2(条項例の問題点)
(注3)前掲注1・設問42の解説1(過怠約款)
(注4)前掲注1・設問42の解説3(期限の利益の喪失方法)およびトラブル例
(注5)最判昭和42年6月23日民集21巻6号1492頁(昭和40年(オ)第886号)
(注6)東京地判平成5年8月26日判タ861号250頁(平成4年(ワ)第5828号)
(注7)前掲注1・設問42の改善例
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