目的条項は飾りではない:解釈の指針としての機能

10 共通条項の条項別解説

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか

1 書かなければどうなるか

目的条項は、置かれていないことも、置かれていても抽象的な記載しかないことも珍しくありません(注1)(注2)(注3)。置かれる場合は、通常は第1条です(注1)。

書かなくても契約は成立します。書いても、そこから直接に義務が生じるわけでもありません。目的条項・基本原則条項は、契約の冒頭に定めることにより契約の体裁や格調を整えるという目的を持つもので、それ自体が直接的に当事者の権利義務を定めるものではありません(注4)。

それでも飾りではありません。この点を説明する実務書は、続けてこう書いています。

しかしながら、契約の目的条項・基本原則条項は、契約の内容にかかわるものであり、非常に重要な条項です。(注4)

2 目的条項は解釈の指針になる

なぜ重要なのか。理由は1点に尽きます。

契約の目的は,契約の解釈基準となります(注5)

目的が解釈基準になる以上、できれば目的は詳しく定めておくのが望ましいといえます(注6)。

解釈基準として実際に働くのは、次の2つの場面です(注5)(注6)。

効く場面中身
解除の判断「契約をした目的を達成することができない場合」を解除事由に定めているとき、そう言えるかどうかの判断の前提になる(注5)(注6)
契約不適合の判断「引き渡された目的物が……契約の内容に適合しないもの」(民法562条1項)といえるかの判断に影響する(注5)(注6)

この2つは、条項に書かなくても効いてきます。民法542条1項は、催告によらない解除ができる場合として、債務の一部の履行が不能である場合などに、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき(3号)、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において債務者が履行をしないでその時期を経過したとき(4号)、催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき(5号)を挙げています。いずれも「契約をした目的」が判断の入口になります。


二 よくある条項例

取引基本契約の例です。

第1条(目的) 本契約は,甲を買主,乙を売主として,甲と乙の間で継続的に行われる本商品の売買取引に関する基本的な事項を定めるものである。(注7)

業務委託契約の例です。

第1条(目的) 本契約は,甲が乙に対して委託する以下に記載する製品(または,「別紙記載の製品」)(以下「本製品」という。)の製造業務(以下「本業務」という。)に関し,その基本的な事項を定めることを目的とする。(注8)

取引基本契約書では、基本原則を並べて置く型もあります。

第○条(目的、基本原則) 1 甲(売主)及び乙(買主)は、本契約に基づく甲乙間の取引を円滑に進め、相互に競争力を高めて長期的な成長を遂げることにより、社会、経済の発展に寄与することを目的として本契約を締結する。 2 甲及び乙は、法令を遵守しかつ信義誠実の原則に従って誠実に本契約を履行する。(注9)


三 問題点

1 訓示的な文言しか書かれていない

二の3つ目の型が、そのまま問題の例になります。「相互に競争力を高めて長期的な成長を遂げる」「社会、経済の発展に寄与する」。読んでも、この契約が何のための取引かは分かりません。

2項の基本原則も同じです。基本原則条項の内容としては、信義誠実の原則に従って取引基本契約を運用するといったものが一般的です。もっとも、その原則自体は民法にも明記されており(民法1条2項)、契約当事者間に当然に適用されるものなので、法的効力の観点からは、あえて明記するまでもありません(注10)。

そのうえで、今日において企業は、単に営利を追求するだけでなく、コンプライアンスは当然のこととして、フェアな競争によって利益を得ることが求められています。基本原則条項の中に信義誠実の原則のみならず、当該契約を通してフェアでクリーンな経営体制および取引関係を確立・推進するといった取引基本精神を明記することによって、自社の取引基本精神を取引の相手方に広くアピールするという効果を狙うことも考えられます(注10)。

訓示的な文言は、相手方へのアピールとして置くと割り切るなら、問題はありません。困るのは、それだけを書いて一の2で見た機能を捨てている場合です。

2 具体的すぎて、周辺の取引に及ばなくなる

逆方向の事故もあります。「本契約は、甲が乙に対し、別紙記載のイベント(〇年〇月〇日開催)で使用する製品を販売することを目的とする」と書いた後に、同じ契約で別のイベント向けの発注が来た場合、その発注が本契約の対象に入るかが読み取れなくなります。

目的を詳しく書くほど、契約の射程は狭く読まれやすくなります。詳しく書くことと、取引の範囲を絞ることは同じ作業なので、どこまで書くかは取引の広がりを見て決めることになります。


四 改善例:争いになる場面から逆算して書く

1 買う側・受ける側は、使い道を書く

契約書レビューにおいては、より詳細な目的を記載することも検討しておくべきです。自社が買主側の立場である場合などには、目的物や委託業務についての利用目的や利用方法などを追記することが有用で、例えば次のような書き方になります(注11)。

例:乙は,●年●月●日に開催されるイベントに使用するために,本製品を購入するものである。 例:乙は,本件土地を購入後,本件土地に賃貸向け共同住宅を建設することを予定している。 例:乙は,一般消費者への販売を目的として本商品を購入するものである。(注11)

いずれも、一の2で見た2つの場面に直結します。イベントに間に合わなければ「契約をした目的を達することができない」といえますし、一般消費者への販売が目的であれば、その用途に耐えない品質は「契約の内容に適合しない」と言いやすくなります。

取引基本契約では、「本契約は,甲が製造販売する一般消費者向けの〇〇製品の原材料として,本製品を乙から継続して購入することを目的とする。」という書き方もあります(注6)。

2 相手方に義務を課す側は、義務を正当化する根拠を書く

目的条項には、もう一つの使い方があります。目的条項において当事者が取引において何を重視するのかを明記しておけば、相手方に義務を負わせる条項等において、自社に有利な条項を設けることを正当化しやすくなります(注12)。

たとえば次の変更例は、品質保持責任に関する社会的な意識の高まりという前提事情を買主側があらかじめ示しておくことで、売主に厳しい品質保持義務条項を設ける理由になるよう工夫したものです(注12)。

1 甲及び乙は、近時、消費生活用製品の安全性確保がより強く求められている状況に鑑み、本契約に基づく取引において納入される製品の品質を保持するため必要な項目について定め、もって製品の安全性及びこれに対する社会の信頼を確保することを目的として本契約を締結する。(注13)

3 書く手順

逆算の順序は次のようになります。

手順問い
1この契約で争いになるとしたら、どの条項か(解除、契約不適合、納期、損害賠償)
2その条項の判断に「契約の目的」が入り込むか
3入り込むなら、自社に有利に働く事実を目的条項に書けるか
4書いたときに、取引の射程が狭くなりすぎないか

五 書き分けの分岐

場面ごとの書き方は次のとおりです。

場面目的条項の書き方
単発の売買・買う側使い道を書きます。納期が重要なら、その予定まで書きます
単発の売買・売る側用途を書かれると品質の基準が上がります。書くなら範囲を限定します
取引基本契約「継続的に行われる取引に共通して適用される事項を定める」という枠を書きます。個別の用途は個別契約に回します
業務委託委託する業務と、その成果を何に使うかを書きます。準委任か請負かの見極めにも影響します
相手方が訓示的な文言だけを置いてきた削る必要はありません。二の3つ目の型に、自社の使い道を1項足す形で交渉します

本稿で扱わなかったこと

目的条項が軽微性(民法541条ただし書)の判断にどう効くかは、裁判例から見る別稿「目的条項が軽微性の判断に効く場面」が引き受けます。本稿では、解除事由としての「契約をした目的を達することができない」までを扱いました。

契約不適合責任の要件と効果は、契約不適合を扱う記事が本体です。

前文(頭書き)に何を書くかとの切り分けは、前文を扱う記事に書きました。締結に至った経緯は前文、契約で実現しようとしている状態は目的条項、という分け方です。

条文の見出し(タイトル)の付け方は、契約書の体裁を扱う記事の射程です。


参考文献等

註

(注1)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)136頁
(注2)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)124頁
(注3)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式〔第3版〕』(有斐閣、2025)6〜7頁
(注4)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)47頁
(注5)前掲注2・124〜125頁
(注6)前掲注1・136頁
(注7)前掲注1・135頁の(1)取引基本契約(売買基本契約)の例
(注8)前掲注1・135頁の(2)業務委託契約の例
(注9)前掲注4・46頁の条項例
(注10)前掲注4・48頁
(注11)前掲注2・125頁
(注12)前掲注4・47頁
(注13)前掲注4・47頁の買主側変更例第1項


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