一 この用語は何をしているのか:接続の語で範囲が変わる
危険負担の条項に、「本製品の引渡し後に生じた本製品の滅失・毀損・変質は、甲の責に帰すべきものを除き、乙が危険を負担する」と書いてあったとします。
この条項例では、「・」は法令上の用語ではなく、接続詞としての定義がありません。そのため、「滅失」「毀損」「変質」の関係が分からず、「滅失、毀損又は変質」なのか「滅失、毀損及び変質」なのか、どのような場合に乙が危険を負担するのかが一義的に明らかにならず、後日、契約書の解釈をめぐって争いになるおそれがあります(注1)。契約書の用語は法令上の用語に従い、一義的に解釈することができるものでなければなりません。解釈が明確に定まらない用語を使うと、意図した法律効果が発生しないおそれがあります(注1)。
「又は」なら3つのどれか1つで足り、「及び」なら3つがそろって初めて当たる、と読まれえます。接続の語1つで、条項が働く範囲が変わります。
二 4つの使い分け
1 「及び」と「並びに」:「と」の階層
「及び」も「並びに」も、英語の「and」にあたる併合的接続詞です。単純に並べるときは「A及びB」「A、B及びC」と書き、AとBをつないだグループとCをつなぐように二段階になるときは「A及びB並びにC」と書きます(注2)。「及び」は一番小さな接続だけで使い、それ以外の接続はすべて「並びに」です(注2)。
契約書の例でいえば、「甲の役員及び従業員並びに乙の役員」です(注3)。「甲の役員及び従業員」というグループと「乙の役員」とを「並びに」でつないでいます。
2 「又は」と「若しくは」:「か」の階層
「又は」も「若しくは」も、「or」にあたる選択的接続詞です。単純に選択肢を示すときは「A又はB」「A、B又はC」と書き、選択が二段階以上になるときは、小さい接続に「若しくは」、大きい接続に「又は」を使って「A又はB若しくはC」と書きます(注4)。民法120条2項の「瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人」が、その例です(注4)。
使い方の向きは、「及び」「並びに」と逆になります。「又は」は一番大きな接続でしか使えないので、段階が3つになると、それより下の接続には「若しくは」を重ねて使います(注5)。契約書の例では、「甲の役員若しくは従業員又は乙の役員」です(注3)。
| 接続 | 一番小さい接続 | それより大きい接続 |
|---|---|---|
| 「と」(and) | 及び | 並びに(段階が増えれば重ねる) |
| 「か」(or) | 若しくは(段階が増えれば重ねる) | 又は(一番大きい接続だけ) |
(注2)(注5)
三 問題点
1 契約書では、この作法どおりに書かれていないことが多い
一の条項例の「・」のように、契約書では接続の語を使わずに語を並べてしまうことがあります(注1)。法令でさえ、立法技術が成熟していなかった時代には、一番大きい接続だけを「並びに」とし、それより小さい接続をみな「及び」でつなぐ書き方もありました(注2)。
契約書を書く人が、ここまでの作法を知っているとは限りません。作法どおりに読んだ結果が、書いた人の意図と一致するとは限らない、ということです。
2 どちらとも読める書き方
「又は」と「及び」のどちらを使うかが、実は相対的な場面もあります。「and」と「or」の両方の意味を与えたい場合には、「及び」を使うことも「又は」を使うこともあります。「A又はBのC又はD」とたすき掛けに使う場合は、普通は4通りの組み合わせで読みますが、まれに「AのC」と「BのD」だけの対応で読む場合があります(注6)。義務付けの条文では、「委員長又は委員は、役員となり、又は政治運動をしてはならない」と書くと、「委員長は役員となってはならない」と「委員は政治運動をしてはならない」の組み合わせだけに読まれる心配が少しあるので、「A及びBは、C又はDのことをしてはならない」と書くのが適当です(注7)。
契約書でいえば、「甲又は乙は、秘密情報を開示し、又は目的外に使用してはならない」は、甲にも乙にも両方の禁止がかかると読むのが普通ですが、そうでない読み方の余地を相手方に与えます。
四 改善例:箇条書きにして曖昧さを消す
一の条項例は、意図に応じて3つの書き方に分かれます(注1)。
| 意図 | 書き方 |
|---|---|
| どれか1つが生じれば乙の負担 | 「滅失、毀損又は変質」 |
| 3つがそろったときだけ乙の負担 | 「滅失、毀損及び変質」 |
| 滅失か、毀損と変質の両方か | 「滅失、又は毀損及び変質」 |
(注1)
3つめのように接続が二段階になると、作法どおりに書いても読み違える人が出ます。組み合わせが複雑なときは、接続の語で頑張るより、号に分けたほうが確実です。
本製品の引渡し後に次の各号のいずれかに該当する事態が生じたときは、甲の責に帰すべきものを除き、乙が危険を負担する。 一 本製品が滅失したとき 二 本製品が毀損し、かつ、変質したとき
「いずれか」か「すべて」かを柱書で言い切り、組み合わせは号の中に閉じ込めると、接続の語の読み違いが入り込む余地が減ります。
五 書き分けの分岐
| 条件の組み立て | 書き方 |
|---|---|
| 並べたどれか1つで足りる | 「A、B又はC」。多ければ「次の各号のいずれかに該当するとき」 |
| 並べたものが全部そろって初めて当たる | 「A、B及びC」。多ければ「次の各号のすべてに該当するとき」 |
| 組み合わせがある | 号に分け、号の中で「かつ」「又は」を使う |
| 複数の当事者に複数の禁止をかける | 「A及びBは、C又はDをしてはならない」の形にする(注7) |
読む側に回ったときは、「か」の接続では、まず「又は」を探します。「又は」「若しくは」が使われている条項を読むときに真っ先にしなければならないのは「又は」を見つけることで、そこで大きくグループ分けがされているからです(注5)。「と」の接続では、「並びに」が大きな切れ目になります(注2)。
本稿で扱わなかったこと
「その他」と「その他の」、「以上」と「超」の違いは別稿「『その他』と『その他の』、『以上・以下・超・未満』:境目がどちらに入るか」、条件節の切り出し方は別稿「主語・時制・条件節の読み分け:義務者は誰か、いつ発生するか」で扱います。条・項・号の読み方は別稿「条・項・号と、条文の引用の作法」で扱いました。列挙に「その他これらに類する事由」を付けるかどうかは、別稿「列挙の網羅性:『その他これらに類する事由』をどう書くか」が扱っています。
参考文献等
註
(注1)秦周平・仲晃一・山中俊郎編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問1
(注2)吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』(日本評論社、2022)15〜16頁
(注3)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)69〜70頁
(注4)前掲注2・11〜12頁
(注5)前掲注2・13〜14頁
(注6)前掲注2・17〜19頁
(注7)前掲注2・20頁
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