一 どういう場面か:電子契約なら印紙は不要か
電子契約を導入する理由として、紙の契約書に貼る収入印紙代が節約できることがよく挙げられます(注1)。事業部門からも「電子契約にすれば印紙は要らないのですよね」と聞かれます。
答えは、電子契約だけで締結し紙の契約書を作らなければ、現行法上、印紙税はかかりません(注2)。ただし、電子契約と並行して紙を作ると、その紙に課税されることがあります。本稿では、どこで課税と非課税が分かれるかを確認します。扱うのは契約書の作り方が印紙税に跳ね返る点で、個別の税額の判断は扱いません。
二 何を見るか
1 課税文書は「作成」されたか
印紙税は、別表第一に掲げる文書に課され、その作成者が納税義務を負います(印紙税法2条・3条)(注3)。印紙税の対象は「文書」で、それを「作成」したときに納税義務が生じます(注4)。
この「作成」とは、課税事項を記載した文書を、その文書の目的に従って行使することをいいます。作成の時は、相手方に交付する目的で作成される文書なら交付の時、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される文書なら証明の時です(注5)。
2 電磁的記録は課税文書に当たらないという扱い
電子契約のように、契約書が紙で作られず、契約が電磁的記録によって締結される場合は、印紙税の課税対象になりません(注4)。政府も、国会の質問に対する答弁書で次のように述べています。
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。(注6)
同じ答弁書は、電磁的記録は改ざんとその痕跡の消去が文書より容易なことが多く、現時点では一律に文書と同程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にはないとし、ペーパーレス化と印紙税の問題については、普及状況や技術の進展を注視し、必要に応じて検討するとしています(注6)。将来課税されるおそれは小さいとする見方もありますが(注7)、制度の扱いは変わり得ることを前提にしておきます。
3 印刷して交付した場合
電子で送ったものを、紙でも相手方に渡すと話が変わります。
注文請書をPDFに変換して電子メールで送信した場合について、国税局は、注文請書の現物の交付がされない以上、課税文書を作成したことにはならないという照会者の見解を、事実関係を前提とする限り差し支えないと回答しています。同じ照会で、電子メールで送信した後に注文請書の現物を別途持参するなどして相手方に交付した場合には、課税文書の作成に当たり、現物の注文請書に印紙税が課されるとされています(注8)。
課税されるかどうかを分けるのは、電子契約サービスを使ったかどうかではなく、契約の成立を証明する紙を作って相手方に渡したかどうかです。
三 直し方
電子契約に切り替えるときは、紙を作る工程が残っていないかを確かめます。
- 電子署名した電子ファイルとは別に、紙に印刷して双方が押印するといった運用をやめる
- 相手方から紙の原本を求められたら、その紙は課税文書になり得ることを前提に印紙を用意するか、電子だけで足りるよう相手方と調整する
- 後文を電子契約用に直す(「本書2通を作成し」を残さない)
後文の書き方は、別稿『電子署名と後文:電磁的記録に「2通」も「押印」もない』で扱いました。
相手方が紙でしか応じない場合に、自社は電子契約、相手方は紙という組み合わせで締結する方法もありますが、原本の扱いや修正時の対応を整理する必要があり、やむを得ない事情がなければ紙に統一したほうが管理のコストを省けます(注9)。この場合、紙の契約書には課税されます。
四 相手方への説明のしかた
相手方が電子契約に応じない理由が法的なリスクへの懸念であれば、社内規程の整備など、リスクを排除する体制が整っていることを簡単に説明するのが有効です(注10)。印紙税については、次のように伝えます。
電子契約で締結する場合は、紙の契約書を作成しないため、収入印紙の貼付は不要です(現行法上、電磁的記録で作成されたものに印紙税が課されないことは、国会答弁でも確認されています)。紙の控えをお送りすることはいたしませんので、ご了承ください。
五 どこまで直すか
紙を併用する場面ごとに整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 印紙税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 電子契約だけで締結し、紙を作らない | かからない | 電磁的記録は課税されない(注6) |
| 締結後、自社用に電子ファイルを印刷して保管する | かからない | 単なる控えとするために作成されるものは課税文書にならない(注11) |
| 電子で送った後、紙の現物も相手方に交付する | 紙にかかり得る | 現物を交付すれば課税文書の作成に当たる(注8) |
| 電子ファイルを印刷し、双方が押印する | 紙にかかり得る | 契約の成立を証明する目的で作られた文書になる(注5) |
| 自社は電子、相手方は紙で署名・押印する | 紙にかかり得る | 紙の契約書が作成される(注9) |
電子契約の印紙税の節約は、紙を一切作らない運用にして初めて実現します。電子と紙が混ざる取引をどこまで残すかは、印紙税と管理のコストの両方を見て決めることになります。
本稿で扱わなかったこと
課税文書の判定そのものは、別稿「印紙税:課税文書の判定」が扱います。電子契約のデータの保存義務は、別稿「電子帳簿保存法と保存要件」が扱います。
税務上の取扱いは個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては税理士にご確認ください。
参考文献等
註
(注1)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)34頁(Q20)
(注2)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)114頁
(注3)印紙税法2条・3条
(注4)北村導人=柴田英典=望月賢「契約書と印紙税」(取引法務担当者が知っておきたい会計・税務の知識・第12回・完)NBL1214号(2022)74頁
(注5)国税庁「印紙税法基本通達」44条
(注6)内閣参質162第9号「参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対する答弁書」(平成17年3月15日)五について
(注7)宮内宏『Q&A電子契約入門』(中央経済社、2022)150頁
(注8)福岡国税局「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(文書回答事例、平成20年10月24日回答)
(注9)柴山吉報=高岸亘編著『経験者が語るQ&A電子契約導入・運用実務のすべて』(中央経済社、2021)259〜261頁
(注10)前掲注9・255頁
(注11)前掲注4・73頁
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