一 どういう場面か:何か月前に通知すれば抜けられるか
継続的な取引の基本契約を相手方のひな型でレビューしていると、次のような条項に出会います。
第○条(中途解約) 甲又は乙は、1か月前までに相手方に書面で通知することにより、本契約を解約することができる。
中途解約の条項が入っていること自体は、別稿「中途解約条項:留保しないとどうなるか」で見たとおり、どちらの当事者にとっても意味があります。本稿で見るのは、その中の「1か月」という数字です。
問いは2つあります。この期間で、条項どおりに抜けられるのか。抜けられないとしたら、何か月にしておくべきなのか。
1つ目の答えは、条項どおりとは限らない、です。解約権の留保特約がある場合(例として「3カ月以上前に書面により通知すれば」解約できるという特約)でも、文言どおり解釈すれば解約できるはずですが、信義則違反・権利濫用等を根拠に中途解約が認められない場合があります(注1)。
2つ目の答えを出すには、裁判所が予告期間の長さをどう数えているかを見るのが早道です。
二 何を見るか
1 予告期間の長さ
実務では、3か月または6か月の予告期間を設けることが一般的です(注2)。
長さの決め方は、一方で自社の解約権が過度に制約されないようにしつつ、他方で相手方からの解約により自社が損害を被らないように設定する必要があります。相手方からの解約によって損害が生じない範囲で最短の期間を設定したうえで、何か月前までと明記しておくべきです(注3)。
予告期間は相互に効くので、長くすれば自社が抜けにくくなり、短くすれば相手方が抜けやすくなります。自社がどちらの立場に回ることが多いかで、望ましい長さは変わります。
同じ契約書に自動更新条項があるなら、その期限との関係も見ます。中途解約の予告期間は、自動更新条項の「期間満了前の〇ヵ月間」と同じかそれより長い期間でなければ、更新条項の意味がなくなってしまいます(注2)。更新拒絶の期限より短い予告で中途解約できるなら、更新を拒絶する手間をかける理由がなくなるからです。
2 継続的契約では、予告期間の長さが判断の中に入る
取引が長く続き、相手方がその取引に依存し、投資をしている場合、条項の予告期間を守っただけでは足りないことがあります。どの程度の予告期間が必要かは、契約の内容、継続してきた期間、取引への依存度、契約の継続を前提とした投資の程度などの個別事情を考慮して判断され、一概にはいえません(注4)。
考慮要素には、解約予告期間そのものも一つの項目として入ります。どのくらい事前に通知したか、どのような事前協議を行ったか、です(注5)。
裁判所は、この長さを具体的な月数で示すことがあります。結婚式場の美容業務を約8年間受託していた業者に対し、委託者が約5か月前に更新拒絶を通知した事案で、福岡地判平成16年8月2日は、業務の性質上、次の契約の相手方を探したり退去したりする準備期間としては5か月では短いとしました(注6)。
3 予告期間が足りなかったとき、何が起きるか
予告期間の不足に当たる期間の逸失利益が、損害として認められることがあります。同じ判決は、この事案の事情のもとで、損害を次のように数えています。
そして,被告は,相当な予告期間を設ければ,本件契約の更新拒絶をすることができたこと,相当な予告期間としては1年程度であること,原告が,被告から本件更新拒絶の意思表示を受けたのが,原告がBから退去する5か月前であったこと等の事情を合わせると,被告がBにおける結婚式場用の美容販売業務を遂行させなかったことにより原告が得べかりし利益を喪失したと認められるのは,平成14年4月1日から7か月間とみるのを相当とするから,原告は,結局金352万2085円の損害を被ったものということができる。(注6)
相当な予告期間1年から、実際の5か月を引いた7か月分です。1か月あたりの営業利益の平均額に7を掛けています(注6)。
18年続いた販売代理店契約を4か月の予告で解約した事案でも、東京地判平成22年7月30日は同じ数え方をしました。予告期間として相当な1年から4か月を差し引いた8か月分の損害とし、その中身を売上げに係る総利益から販売直接費と販売管理費を控除した営業利益の喪失分としています(注7)。代理店側は粗利益で8,280万円を請求しましたが、認められたのは590万4,000円でした(注7)。
この2つの判決から、予告期間の設計に使える物差しが取り出せます。相当な予告期間と実際の予告期間の差、掛ける、相手方の月あたりの営業利益です。予告期間に代わる金銭(解約金)を定めるときの目安にもなります。解約金の条項そのものの効力は、別稿「解約一時金・中途解約違約金条項の効力」が扱います。
三 直し方
自社が相手方との取引に投資をする側(供給者、専属の販売店、受託者)なら、予告期間を延ばし、足りない場合の補償を書きます。
第○条(中途解約) 1 甲又は乙は、6か月前までに相手方に書面で通知することにより、本契約を解約することができる。 2 甲が前項の期間に満たない予告で本契約を解約するときは、甲は乙に対し、不足する期間に相当する乙の営業上の損失を補償する。
2項は、二の3の物差しをそのまま条項にしたものです。補償額の算定方法まで書くかどうかは、取引の規模によります。
自社がいつでも抜けたい側(発注者、買主)なら、逆に予告期間を短く保つ代わりに、補償の範囲を先に決めておくことを考えます。予告を短くしたまま補償の定めを置かないと、争いになったときに裁判所が相当な期間を数え直し、その差を損害として数えることがあります。中途解約をした側に一定の金銭的負担を課す例として、6か月の予告期間とともに残存期間の賃料の50%に相当する金員の支払を定める賃貸借の記載例もあります(注8)。
相手方からの解約を制限したいときは、解約を相当とする事由を要件にする書き方もあります(注9)。
甲又は乙は、解約を相当とする事由がある場合、相手方に対し、○か月前までに当該事由を明記した書面をもって通知することにより本契約を解約することができる。(注9)
四 相手方への説明のしかた:相手方の投資回収という視点
予告期間を延ばしてほしいと求めるとき、「うちが困るから」では通りません。説明の軸は、相手方にとっても解約のリスクになる事情に置きます。
考慮要素のうち、被解消者への影響の度合いは、どの程度の投資をしていたか、どの程度の投資を回収したか、過去の投資が無駄になるか、その取引にどの程度依存しているか、事業再構築のためにどの程度の投資が必要か、という項目でできています(注5)。自社が投資をする側なら、これをそのまま説明に使えます。この取引のために設備をいくら入れ、回収にあと何か月かかるのか。数字で示せば、予告期間の長さが交渉の言いがかりでないことが伝わります。
そのうえで、相手方にとっての利益も示します。予告期間を十分に取っておけば、相手方が実際に解約するときに、条項どおりに抜けられる見込みが高くなります。短い予告期間を条項に残しても、二の3で見たように、裁判所が相当な期間を別に数えることがあります。
相手方が期間の延長を呑まないときは、期間と金銭を組み合わせた提案に切り替えます。継続的契約の解消の方針としては、一定期間に限り同条件で取引を続け、徐々に取引量を減らしていく方向の合意や、一定の金銭の支払があります。譲歩案を示したこと自体も、信義則違反の有無の判断において考慮されるのが通常です(注10)。解約の場面で使われる着地の形は、そのまま契約締結時の条項の選択肢になります。
五 どこまで直すか
| 取引の性質 | 目安 |
|---|---|
| 相手方の投資がほとんどない、代わりの取引先がすぐ見つかる取引 | 1か月〜3か月のままでよい。直す優先度は低い |
| 相手方が設備・人員を用意する、専属性がある取引 | 6か月以上を求める。延長が通らなければ、不足期間の補償を書く |
| 長期間続いてきた取引を、新しい契約書に切り替える場面 | 条項の月数より、これまでの取引期間と投資が判断を左右しうる。条項の数字だけで安心しない |
条項を直しきれなかったときは、運用で補います。予告期間について事業部に確認すべき点は、最短で通知が届く時期はいつか、通知が期限直前になってしまった合理的な理由があるか、事前協議で示す取引条件は合理的か、協議の態様・頻度をどうするか、です(注11)。実際に解約するときは、条項の最短期間ぎりぎりで通知せず、協議を先に始めます。予告期間は、条項で決まる部分と、通知の出し方で決まる部分の両方でできています。
本稿で扱わなかったこと
中途解約の条項をそもそも置くかどうか、置かなかったときに民法上どうなるかは、別稿「中途解約条項:留保しないとどうなるか」にあります。
継続的契約の解消が制限される枠組みそのもの、つまり、やむを得ない事由が必要とされるのはどんな場合かは、別稿「継続的契約の解除制限と信頼関係破壊の法理」が扱います。
期間満了で終わらせる更新拒絶の期限の設計は、別稿「自動更新条項:意義と留意点」です。通知がいつ届いたことになるかは、別稿「通知条項の設計:到達主義と通知方法」が扱います。
海外の取引先との契約では、国によっては解約に必要な事前通知の期間を法律で定める例があります(注12)。準拠法と現地法の問題として、本稿では扱っていません。
参考文献等
註
(注1)松田世理奈ほか『契約解消の法律実務』(中央経済社、2022)87頁
(注2)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)16頁
(注3)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)70頁
(注4)前掲注2・10頁
(注5)前掲注1・88〜89頁の表。同書は、清水建成「企業間の継続的契約 解消の手順とトラブル防止」ビジネスロージャーナル2016年7月号34頁を引いてこの考慮要素を挙げています
(注6)福岡地判平成16年8月2日(平成14年(ワ)第4358号、裁判所ウェブサイト)
(注7)東京地判平成22年7月30日(平成17年(ワ)第25703号、判例時報2118号45頁、金融・商事判例1352号59頁)
(注8)前掲注2・16〜17頁の記載例②
(注9)前掲注3・69頁の売主側変更例・買主側変更例
(注10)前掲注1・94頁
(注11)前掲注1・93頁の表
(注12)前掲注1・109頁
この条項の他の記事中途解約
あわせて読む




