スマートフォン向けゲームを中心に、ガチャで排出されたキャラクターやアイテムの性能が、後日、下方修正されることがあります。ゲームファンの間で「ナーフ」と呼ばれるこの修正は、とくにカードゲームにおいて、ゲームバランスを崩すような強力なカードに対して実施されることが多いところです。
課金して、ときには多額のお金を使って手に入れたキャラクターが後から弱体化されるわけですから、ユーザーからは「詐欺ではないか」「景品表示法違反ではないか」という声が上がりがちで、炎上の火種にもなりやすいテーマです。他方、運営側にとってバランス調整はゲームの寿命を延ばすために避けて通れない施策でもあります。
本記事では、ナーフ(下方修正)が景品表示法の優良誤認表示に当たるのか、どのような場合に違法リスクが高まるのか、そして炎上と法的リスクの双方を抑えるための実務対応を解説します。
ナーフとは——課金ゲームで法的問題になる背景
ナーフの意味と実施場面
ナーフとは、ゲーム内のキャラクター・カード・アイテム等の性能を、リリース後のアップデートで従来より弱くする調整(下方修正)を指す俗称です。対戦環境で特定のキャラクターが強すぎてゲームバランスが崩れた場合や、想定外の仕様の組み合わせ(コンボ)が発見された場合などに実施されます。
無料で入手できる要素の調整であれば、大きな法的問題にはなりにくいところです。問題は、ガチャや課金で販売されたキャラクター・アイテムが下方修正される場合です。ユーザーは「表示されていた性能」を前提にお金を支払っているため、事後の性能変更は、支払時の判断の前提を覆すことになるからです。たとえば、「攻撃力2倍」という表示を見て天井までガチャを回したユーザーにとって、1か月後にその倍率が引き下げられれば、「その性能でなければ課金しなかった」という不満が生じるのは自然なことです。

検討の中心は景品表示法の表示規制
この問題を法的に検討する際の中心は、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の表示規制、なかでも優良誤認表示の禁止です。あわせて、態様によっては民法・刑法上の詐欺の問題や、消費者への返金対応の要否も視野に入ってきます。
景品表示法の表示規制の基本
優良誤認表示とは
景品表示法5条1号は、商品・役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの(優良誤認表示)を禁止しています。
ゲームに引き付けていえば、ガチャの紹介ページやキャラクター性能の表示が「実際の性能」よりも著しく優良なものとして示されていれば、優良誤認表示の問題が生じます。
違反した場合のペナルティ
優良誤認表示があった場合、消費者庁は、行為の差止めや再発防止策等を命じる措置命令(同法7条)を行うことができます。さらに、課徴金納付命令の制度があり、課徴金対象行為に係る商品・役務の売上額に3%を乗じた額の課徴金の納付が命じられます(同法8条1項。課徴金額が150万円未満となる場合等は除く)。課徴金は対象商品の「売上金額」を基準に算定されるため、売上規模の大きい人気ガチャで不当表示が起きると、金額が大きく膨らみ得る点に注意が必要です。
ナーフは優良誤認表示に当たるか
販売時点で表示どおりなら、通常は優良誤認になりにくい
まず懸念されるのは、「販売時に表示していた性能を後から引き下げるのは、結果的に『実際よりも優良な表示』だったことにならないか」という点です。
しかし、ガチャの販売時点では、表示どおりの性能のアイテムが排出されており、表示と実際の性能は合致しています。そのため、通常のバランス調整のための下方修正は、優良誤認表示にはなりにくいといえます。実際、このようなゲームの下方修正について消費者庁が措置命令・課徴金納付命令を行った例は見当たらず、通常のバランス調整の実施が消費者庁から問題視される可能性は高くないと考えられています。
「ナーフ=違法」ではない、というのが出発点です。

危険なパターン——修正予定を隠したままの販売
他方で、明確にリスクが高いパターンがあります。たとえば、1週間後に下方修正を実施することを既に予定しながら、ガチャの実施期間中は修正前の性能のみを表示していたような場合です。この場合、販売時点において、近い将来性能が下がることを知りながら「現在の性能」だけを示して課金を誘引しているのですから、優良誤認表示と判断される場合もあり得ます。
さらに、一般消費者が「ナーフされない」あるいは「ナーフはあり得るがその時期は先だ」と認識するような表示をしながら、直後に修正を実施したような場合には、民法上または刑法上の詐欺に当たる可能性すら指摘されています。修正の予定・検討状況を隠して販売を継続することは、法的にも炎上リスクの面でも、最も避けるべき行動です。
事後的に不当表示と評価され得る場合もある
「販売時点で表示と性能が一致していたのだから、絶対に優良誤認にはならない」とまで言い切ることもできません。理論的には、事後的な事情によって販売時点の表示が不当表示になる場合もあり得るからです(たとえば「限定」と表示して販売したガチャを事後に復刻すれば、販売時点の「限定」表示が不当表示になり得るのと同じ構造です)。
ナーフと優良誤認表示の関係は、突き詰めれば「販売時点において、一般消費者が、販売されたキャラクターやアイテムの性能の変更の程度や可能性をどのように認識できるか」によって結論が異なります。注意書きや説明等を踏まえて、一般消費者からして「このアイテムの性能は●●だが、いずれ変更される可能性もある」と認識できる表示であった場合には、ナーフをしたとしても優良誤認表示に当たらない可能性が高くなります。ここから、後述する「予告表示」の実務が導かれます。
ユーザーは返金を求められるか
ナーフに不満を持つユーザーから、「課金分を返金してほしい」という要望が寄せられることもあります。この点、通常のバランス調整の範囲内の下方修正で、利用規約等で性能変更の可能性が示されていた場合には、ユーザーからの返金請求が法的に認められる可能性は高くないと考えられます。
他方、表示に誤りがあった場合(告知と異なる性能・確率で販売していた場合など)には、景品表示法上のペナルティとは別に、不実の告知を理由とする契約の取消しや返金がユーザーとの関係で問題になり得ます。もっとも、この場面の訴訟による返金請求については裁判例もまだ少なく、明確に有効といえる事後対応策が確立しているわけではありません。運営側にとっては、だからこそ早期の提供中止やユーザーへの周知・補填によって不満を抑えることが、結果的に紛争の可能性を下げる現実的な対応になります。
炎上と法的リスクを抑える実務対応
下方修正は、法的リスクだけでなく、ユーザーとの信頼関係を損ね、炎上するリスクもあります。そこで、一般的には次のような対応が検討されます。

①下方修正があり得ることをあらかじめ表示しておく
ゲーム内の表示や利用規約・ガチャページの注意書きなどで、キャラクター・アイテムの性能はゲームバランス調整のため変更(下方修正を含む)されることがある旨を予告しておくことです。前述のとおり、一般消費者が性能変更の可能性を認識できる表示は、優良誤認該当性を否定する方向に働きます。ガチャページの目立たない場所に小さく書くのではなく、ユーザーが実際に認識できる形で表示しておくことが肝要です。
②実施時は周知期間を設け、必要に応じて補填する
下方修正を実施する場合には、一定の周知期間を設けて事前告知し、必要に応じて補填を実施することです。実例として、カードゲームでは、下方修正対象のカードを同等のレアリティのカードと交換できる仕組みを導入しているケースがあります。このような補填がされていれば、消費者の不利益が小さく、炎上リスクは低減できますし、結果的に消費者庁からも問題視されにくいといえます。
③告知内容を誤っていた場合は、速やかな中止・周知・補填
ナーフと隣接する場面として、ガチャの告知内容(排出確率・性能表示など)自体に誤りがあった場合の対応にも触れておきます。すでにガチャの提供が開始されていた場合、基本的には、誤りが発覚した時点で速やかにガチャ自体の提供を中止すべきです。ユーザーの不利益を最小限に抑える必要がありますし、課徴金納付命令が出される場合、対象行為に係る売上金額を基準に課徴金が算定されるため、提供を続けるほどリスクが積み上がるからです。
そのうえで、速やかに事実関係を確認し、ゲーム内の「お知らせ」などによるユーザーへの周知や、場合によっては補填(お詫び)を検討することになります。提供を中止しても不当表示が発生した事実は消えないため、消費者庁の調査や措置命令・課徴金納付命令を受ける可能性は残りますが、迅速に対応しユーザーの不利益が最小限にとどまっていれば、措置命令ではなく行政指導が相当と判断される可能性を高めることはできます。早期の提供中止や周知・補填はユーザーの不満を抑えることにもつながり、結果的に訴訟の可能性を下げる効果も期待できます。
誤表示を生じさせないためには、ガチャに関する表示について、ほかの表示よりも慎重なチェック・情報共有体制を構築することや、現場担当者を含めて景品表示法・消費者契約法の留意点を研修などで周知しておくことも重要です。
あわせて注意したい価格の表示
性能の表示と並んで、ゲームで問題になり得るのが価格に関する表示です。
ゲームに関する措置命令の事例として、パック販売において「キャラクターとジェムがいっしょになったお1人様1回限りのお得なパック!」「別々に買うより断然お得!」などと表示されていたところ、実際には別々に購入する場合の合計金額より安くはなかったという、価格に関する誤表示の事案があります(消費者庁による景品表示法に基づく措置命令)。
一般的に、景品表示法と価格との関係では、「1000円→800円」のように過去の販売価格と比較して現在のお得感を伝える表示(二重価格表示)などが問題になりやすいところです。従来、ゲームは配信プラットフォーム上の制約などにより価格変更が柔軟に行いにくく、価格の不当表示が問題になりづらい面がありましたが、アプリ外課金の設計がしやすくなったことで、今後は価格変更キャンペーンなどが増える可能性もあります。二重価格表示で訴求する場合には、比較対照価格に関するルール(いわゆる8週間ルールなど、消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)を参考に、不当表示にならないよう注意する必要があります。
ナーフの適法性は「販売時点でユーザーが何を認識できたか」で決まる
課金キャラクターのナーフ(下方修正)は、それ自体が直ちに景品表示法違反となるものではありません。販売時点で表示どおりの性能が提供されていれば、通常のバランス調整が優良誤認表示とされる可能性は高くないと考えられます。
しかし、①修正予定を隠したまま販売を続ける行為は優良誤認表示や詐欺の評価すらあり得る危険な領域であり、②「性能は変更されることがある」と一般消費者が認識できる表示の有無が該当性判断を左右します。運営事業者としては、(1)変更可能性の予告表示、(2)周知期間を設けた事前告知、(3)必要に応じた補填という3点セットを標準フローにしておくことが、法的リスクと炎上リスクの双方を抑える実務対応になります。
ガチャ・課金まわりの表示チェック体制の整備や、性能修正・告知ミスが起きた場合の対応方針について不安のある方は、ゲーム・IT分野の景品表示法実務に詳しい弁護士に相談してみることをお勧めします。

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プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。




