コンサートのチケットを個人間で売買するのは違法?チケット不正転売禁止法とは

ベンチャー企業法務

「行けなくなったコンサートのチケットを誰かに譲りたい」「完売した公演のチケットを個人から買いたい」。こうした個人間でのチケットの売買は違法なのでしょうか。

結論からいえば、個人間の売買がすべて違法になるわけではありません。違法となるのは、特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(平成30年法律第103号。以下「チケット不正転売禁止法」)が定める要件を満たす転売と、そのための仕入れです。同法は令和元年(2019年)6月14日に施行されました。

本記事では、どのようなチケットの売買が違法になるのか、適法に譲る方法は何か、他の法律や主催者の規約との関係はどうなっているのかを、2026年10月時点の法令と文化庁の公表資料に基づいて整理します。

チケット不正転売禁止法の概要

制定の背景と目的

人気公演のチケットが転売目的で買い占められ、インターネット上で高額で転売される問題は、以前から指摘されてきました。従来の規制の中心は各都道府県の迷惑防止条例による、いわゆるダフ屋行為の禁止でしたが、これは公共の場所での売買を対象としており、インターネット上の転売には対応できませんでした。

こうした状況を受けて平成30年12月に成立したのがチケット不正転売禁止法です。同法第1条は、特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、興行の振興を通じた文化・スポーツの振興と国民の消費生活の安定に寄与することなどを目的として掲げています。

禁止されている2つの行為

同法が禁止しているのは、次の2つです。

  • 特定興行入場券の不正転売(第3条)
  • 不正転売を目的とした特定興行入場券の譲受け(第4条)

後者は、転売するためにチケットを仕入れる行為です。転売が実際に行われる前の段階も処罰の対象になっています。

罰則

第3条又は第4条に違反した場合の罰則は、1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はその両方です(第9条第1項)。令和7年6月1日の改正刑法の施行により、「懲役」は「拘禁刑」に改められています。

なお、同法には、従業者の違反について法人を処罰する両罰規定は置かれていません。また、日本国民が国外で違反行為をした場合にも適用されます(同条第2項)。

規制の対象となる「特定興行入場券」とは

特定興行入場券の要件

規制の対象は、すべてのチケットではなく「特定興行入場券」に限られます(第2条第3項)。前提として、「興行」とは、映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術・芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、聴かせることで、日本国内で行われるものをいいます。紙のチケットだけでなく、QRコードなどの電子チケットも含まれます。

特定興行入場券に当たるのは、不特定又は多数の者に販売される興行入場券で、次の3つをすべて満たすものです。

  1. 有償譲渡の禁止の明示と表示:興行主やその同意を得た販売業者(興行主等)が、販売の際に、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を券面(電子チケットの場合は画面)に表示していること
  2. 日時・場所と、入場資格者又は座席の指定:興行が行われる特定の日時・場所が指定され、かつ、入場資格者又は座席が指定されていること
  3. 氏名・連絡先の確認と表示:興行主等が、販売の際に、入場資格者(座席指定のチケットの場合は購入者)の氏名と連絡先(電話番号、メールアドレスなど)を確認する措置を講じ、かつ、その旨を券面などに表示していること

対象にならないチケットの例

上の要件を1つでも欠くチケットは、特定興行入場券に当たりません。たとえば次のようなものです。

  • 券面に有償譲渡を禁止する旨の表示がないチケット
  • 販売時に氏名・連絡先の確認がされていないチケット
  • 日時や座席・入場資格者の指定がないチケット
  • 無料で配布された招待券(「販売」されたものではないため)

文化庁の資料は、「営利目的の転売禁止」という記載にとどまるものや、入場資格者の氏名は確認しているが連絡先を確認していないものを、要件を満たさない例として挙げています。

もっとも、特定興行入場券に当たらないからといって、自由に転売できるとは限りません。後述する主催者の規約や、迷惑防止条例などの問題が残ります。手元のチケットが対象かどうか分からない場合は、券面の表示を確認し、主催者に問い合わせるのが確実です。

違法となる「不正転売」の定義

第2条第4項は、「特定興行入場券の不正転売」を、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの、と定義しています。要素に分けると次の3つで、すべてを満たす場合が不正転売です。

興行主の事前の同意を得ていないこと

1つ目は、興行主の事前の同意がないことです。興行主が認めたリセールサービスを通じた譲渡は、興行主の同意があるため不正転売に当たりません。

業として行う有償譲渡であること

2つ目は、「業として」行うことです。文化庁は、これを繰り返し転売する反復継続の意思がうかがえることと説明しています。事業者に限られず、個人であっても該当します。この点は次章で詳しく取り上げます。

販売価格を超える価格であること

3つ目は、興行主等の販売価格を超える価格で譲渡することです。定価と同額又は定価以下での譲渡は、この要件を満たさないため、不正転売には当たりません。

送料や購入時の手数料などを上乗せした場合にどう扱われるかについては、法律に明文の定めがなく、個別の事情によります。定価を超える額を受け取る形になる場合は、慎重に考えるべきです。

「業として」の判断—1回だけなら大丈夫とはいえない

反復継続の意思が基準

「業として」に当たるかどうかは、反復継続して行う意思があるかどうかで判断されます。実際に何回転売したかだけで決まるものではありません。

文化庁のQ&Aは、たった1回の転売でも、繰り返し転売しようとしていた意思がうかがえる場合には、その時点で業として転売していると判断される可能性があるとしています。「定価の少し上乗せであれば大丈夫」「1回だけなら大丈夫」と考えて転売すると、それだけで違反に当たる可能性がある、という注意も示されています。

判断の手がかりになる事情

反復継続の意思は内心の問題ですから、実際には客観的な事情から判断されることになります。一般に、次のような事情が手がかりになると考えられます。

  • 転売の回数・頻度、過去の出品履歴
  • 取得した枚数(自分や同行者が使う分を超えて購入していないか)
  • 同じ公演や複数の公演のチケットを並行して出品していないか
  • 複数のアカウントや名義を使って購入していないか
  • 定価を上回る価格を設定し、利益を得ているか

文化庁は、同一の出品者が元の販売価格を超える金額で2回以上出品するようなケースは、禁止行為に当たることがあるとしています。

個人が陥りやすい場面

たとえば、急な予定で行けなくなったチケット1枚を、知人に定価で譲る場合は、価格の要件も「業として」の要件も満たさず、不正転売には当たりません。

これに対し、行けなくなったチケットをフリマアプリやSNSで定価より高く出品する場合は、価格の要件を満たします。そのうえで、過去にも同じように出品していた、最初から余分に申し込んでいた、といった事情があれば、「業として」に当たると判断されるおそれがあります。行けなくなったという事情があっても、定価を超える価格を付けることは避けるべきです。

違法にならないチケット売買と、それでも残るリスク

公式リセールサービスの利用

興行主が認めたリセールサービス(いわゆる公式リセール)を通じた譲渡は、興行主の同意があるため、不正転売に当たりません。同法第5条第2項も、興行主等に対し、興行主の同意を得てチケットを譲渡できる機会の提供に努めるよう求めています。

公式リセールでは、定価での取引とされ、名義の変更や電子チケットの再発行によって、譲り受けた人が正規に入場できる仕組みになっているのが一般的です。行けなくなった場合の方法として、まず確認したいのがこの仕組みです。リセールの有無、受付期間、手数料は公演ごとに異なるため、主催者や販売サイトの案内を確認してください。

定価以下での譲渡

文化庁のQ&Aは、定価や定価以下で転売したからといって、直ちにチケット不正転売禁止法違反になるわけではないとしています。販売価格を超えていない以上、不正転売の定義に当たらないからです。

主催者の規約による制限

ただし、法律に違反しないことと、そのチケットで入場できることは別の問題です。主催者の規約には、「購入者本人以外は入場できません」「興行主の同意のない譲渡は有償・無償を問わず禁止します」といった定めが置かれていることがあります。この場合、定価以下の譲渡や無償の譲渡であっても、規約違反として入場を断られるなどの不利益を受ける可能性があります。

入場時に本人確認が行われる公演では、譲り受けた人が入場できず、譲った側との間で返金をめぐるトラブルになることも考えられます。知人に譲る場合であっても、主催者が定める手続(同行者の変更、名義変更、公式リセールなど)があるかを先に確認することが大切です。

チケットを買う側のリスク

チケット不正転売禁止法は、不正転売されたチケットを購入した人を処罰する法律ではありません。処罰されるのは、不正転売をした人と、不正転売を目的として譲り受けた人です。

もっとも、文化庁は、転売サイトなどで購入した場合の不利益として、チケットが届かない、会場に入れない、入場後に退場を求められるといったトラブルを挙げています。代金を支払ったのにチケットが届かないといった被害も想定されます。正規の販売ルート以外で買うことには、こうしたリスクがあります。

違反した場合のリスク—1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

刑事罰と有罪判決の例

前述のとおり、不正転売と、不正転売目的の譲受けには、1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はその両方が科されます。

文化庁の資料では、令和2年(2020年)8月に、人気アイドルグループのコンサートチケットを不正に転売した者に対し、懲役1年6か月(執行猶予3年)、罰金30万円等の有罪判決が言い渡された例が紹介されています。インターネット上の出品履歴、チケットの購入記録、代金の入金記録などは、後から確認できる形で残ります。

主催者からの対応と民事上の責任

刑事罰とは別に、主催者からの対応もあり得ます。主催者の規約には、規約に違反して転売されたチケットを無効とする、転売した人の会員資格を取り消すといった措置が定められていることがあります。

また、文化庁のQ&Aは、不正な転売について、主催者の規約違反となるだけでなく、刑事・民事で責任を追及される可能性があることを指摘しています。

興行主・主催者側に求められる対応

特定興行入場券の要件を満たす販売方法

興行主の側からみると、自社のチケットが特定興行入場券の要件を満たしていなければ、高額で転売されても同法による処罰の対象になりません。文化庁とスポーツ庁は、令和8年6月12日付で関係団体に対し、販売時の明示事項や券面の表示が法律の定めと異なり、該当性に疑問が生じる例が見られるとして、要件を改めて確認するよう依頼しています。

確認すべき点は、販売時と券面の両方で「興行主の同意のない有償譲渡を禁止する」旨を示しているか、氏名と連絡先の両方を確認しているか、確認した旨を券面などに表示しているか、です。入場資格者を指定するチケットでは、購入者ではなく入場する人全員について確認が必要とされている点にも注意が必要です。

本人確認とリセールの機会の提供

同法第5条は、興行主等に対し、入場しようとする人が入場資格者と同一であることを確認する措置(第1項)と、興行主の同意を得てチケットを譲渡できる機会の提供(第2項)に努めるよう求めています。いずれも努力義務ですが、入場時の本人確認は転売されたチケットの利用価値を下げ、公式リセールは行けなくなった人の受け皿になります。

購入者への情報提供と相談対応

興行主等は、販売するチケットについて正確で適切な情報を提供し、購入者などからの相談に適切に応じるよう努めなければならないとされています(第6条第2項)。譲渡の可否、リセールの手順、本人確認の方法を、購入前に分かる形で示しておくことが、トラブルの予防につながります。

チケット売買に関連する他の法律

迷惑防止条例(ダフ屋行為の禁止)

多くの都道府県の迷惑防止条例は、いわゆるダフ屋行為を禁止しています。たとえば東京都の条例は、転売する目的で、公共の場所や公共の乗物で入場券などを買うこと、転売目的で得た入場券などを公共の場所などで不特定の者に売ることなどを禁止しており、違反には6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(常習の場合は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)が定められています。

会場周辺での売買は、特定興行入場券に当たらないチケットであっても、条例違反となり得ます。条例の内容は都道府県によって異なります。

古物営業法

古物営業法上の「古物」には、政令により興行場などの入場券も含まれます。古物を買い受けて売る営業を行うには、都道府県公安委員会の許可が必要で、無許可で営業した場合には3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています。

他人からチケットを買い取って転売することを繰り返す場合には、価格が定価以下であっても、同法との関係が問題になり得ます。

特定商取引法

インターネットで、営利の意思をもって反復継続してチケットを販売する場合は、個人であっても特定商取引法上の「販売業者」に当たり、通信販売に関する規制(広告への販売価格・支払時期・引渡時期などの表示義務など)が及ぶ可能性があります。

詐欺罪

存在しないチケットや偽造したチケットを売って代金を受け取った場合は、刑法の詐欺罪(10年以下の拘禁刑)に当たり得ます。チケット不正転売禁止法よりも重い罪です。

行けなくなったチケットは、主催者が用意した方法で定価以下で手放す

コンサートのチケットを個人間で売買することが違法になるのは、特定興行入場券を、興行主の同意なく、業として、販売価格を超える価格で転売する場合と、そのために譲り受ける場合です。知人に定価で譲るといった行為まで禁止されているわけではありません。

一方で、「1回だけ」「少しの上乗せ」であっても、反復継続の意思がうかがえれば違法と判断される可能性があること、定価以下であっても主催者の規約に反すれば入場できないおそれがあることは、押さえておく必要があります。行けなくなったときは、まず公式リセールや名義変更の手続があるかを確認し、ない場合でも定価を超える価格を付けないことが、売る側・買う側の双方にとって安全です。

興行主やチケット販売に関わる事業者にとっては、自社のチケットが特定興行入場券の要件を満たしているか、リセールや本人確認の仕組みをどう設計するかが検討事項になります。チケットの販売方法やリセールサービスの設計について法的な整理が必要な場合は、弁護士に相談してみることをお勧めします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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