契約書を取り交わすとき、「ここに割印をお願いします」「契印が漏れています」と言われて戸惑った経験のある方は少なくないと思います。契印と割印の違いは、ひとことで言えば、契印は「1つの文書のページ同士」をつなぐ印、割印は「別々の文書同士」をつなぐ印という点にあります。ただし、日常の実務では両方をまとめて「割印」と呼ぶことも多く、混同されがちです。
本記事では、契印と割印の違いと押し方、契約書の綴じ方、消印・訂正印・捨印との違い、押印の法的な意味、電子契約での扱いを整理します。
契印と割印の違い
契印(けいいん)とは
契印は、2枚以上にわたる1つの文書について、それらが一体の文書であることを示すために、ページのつなぎ目や綴じ目にまたがって押す印です。目的は、署名押印の後にページを抜き取られたり、差し替えられたりすることを防ぐことにあります。
たとえば10ページの契約書で、署名欄は最後のページにしかないとします。契印がなければ、途中の1枚が別の内容の紙に差し替えられても、外見からは分かりにくくなります。各ページのつなぎ目に当事者の印がまたがって押されていれば、差し替えられたページには印影の片側がないため、差し替えに気付きやすくなります。
割印(わりいん)とは
割印は、2通以上の独立した文書について、それらが同時に作成された同じ内容のもの、又は互いに関連するものであることを示すために、文書同士を少しずらして重ね、両方にまたがって押す印です。
典型的には、当事者がそれぞれ1通ずつ保管する契約書の原本2通、原本とその写し、基本契約書とそれに関連する覚書、領収書とその控えなどに用いられます。
違いの整理
| 契印 | 割印 | |
|---|---|---|
| 対象 | 1つの文書の複数のページ | 2通以上の別々の文書 |
| 目的 | ページの抜取り・差替えの防止 | 文書同士の同一性・関連性を示す |
| 押す場所 | ページのつなぎ目、製本テープと表紙の境目 | 重ねた文書の境目 |
このように、契印と割印は対象も目的も異なります。相手方から「割印を」と言われた場合でも、実際に求められているのが契印であることがありますので、どこに押す印なのかを確認すると行き違いを防げます。

契印・割印は法律上必要なのか — 押印の法的な意味
契約は押印がなくても成立する
契約は、申込みと承諾という当事者の意思の合致によって成立し、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を必要としません(民法522条)。内閣府・法務省・経済産業省が令和2年6月19日に公表した「押印についてのQ&A」も、特段の定めがある場合を除き、契約に当たり押印をしなくても契約の効力に影響は生じないとしています。なお、保証契約のように、書面(又は電磁的記録)でしなければ効力を生じないと定められている契約もあります(民法446条2項・3項)。
署名欄の押印は「証拠」としての意味を持つ
それでも契約書に押印をするのは、後で争いになったときの証拠としての意味があるためです。民事訴訟法228条4項は、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定めています。
また、判例(最高裁昭和39年5月12日判決・民集18巻4号597頁)により、文書の印影が本人の印章によるものであれば、本人の意思に基づいて押印されたものと推定され、その結果、上記の規定によって文書全体が本人の意思に基づいて作成されたものと推定されると解されています。これは「二段の推定」と呼ばれます。
もっとも、前記のQ&Aは、この推定は反証が可能であり、印章の盗用などが立証されれば破られうること、認印の場合は印影と本人の印章の一致を証明すること自体が難しい場合があることを指摘し、押印の効果は限定的であるとしています。
契印・割印を義務付ける一般的な法律はない
私人間の契約書について、契印や割印を押すことを義務付ける一般的な法律の規定はありません。契印や割印がなくても、そのことだけで契約が無効になったり、契約書が証拠として使えなくなったりするわけではありません。民事訴訟法228条4項が問題にしているのも、署名又は押印であって、契印や割印ではありません。
ただし、契印や割印は、ページの差替えがないことや、複数の文書が同時に作成されたことを裏付ける事情の一つになります。相手方から「このページは合意した内容と違う」と主張された場合に、契印があれば反論がしやすくなります。法律上の義務ではないものの、改ざんを防ぐための実務上の工夫として広く行われている、という位置づけです。
なお、契約書以外の場面では、法令が契印を求めている例があります。たとえば商業登記の申請書について、商業登記規則35条3項は、申請書が2枚以上であるときは各用紙のつづり目に契印をしなければならないと定めています。官公署に提出する書類については、それぞれの手続のルールを確認する必要があります。

契約書の綴じ方と契印の押し方
契印の押し方は法律で決まっているものではなく、以下は一般的な実務の慣行です。相手方や業界に独自の運用がある場合は、それに合わせて差し支えありません。

ホチキスで留めるだけの場合
枚数が少ない契約書は、左側(又は左上)をホチキスで留めるだけの形がよく用いられます。この場合、すべてのページの見開き部分に、左右のページにまたがるように契印を押します。3枚の契約書であれば、1枚目と2枚目の間、2枚目と3枚目の間の2か所です。両面印刷の場合も、紙と紙のつなぎ目ごとに押します。
袋とじ(製本テープで製本する)の場合
ページ数が多い契約書では、すべての見開きに契印を押すのは手間がかかり、押し漏れも生じやすくなります。そこで、ホチキスで留めた背の部分を製本テープや帯状の紙でくるんで貼り付ける「袋とじ」がよく用いられます。
袋とじにした場合は、表紙又は裏表紙の、製本テープ(帯)と本体の紙の境目にまたがるように契印を押します。製本テープをはがさなければページを差し替えることができないため、テープと表紙にまたがる印によって、全ページの一体性を示すことができるという考え方です。表紙と裏表紙の両方に押す運用も、いずれか一方のみに押す運用もあります。
誰が、どの印で押すか
契印は、契約の当事者全員が、それぞれ押すのが通例です。当事者が2者であれば、同じ箇所に2者の印が並ぶことになります。使用する印は、署名欄(記名押印欄)に押したものと同じ印を用いるのが一般的です。別の印で押してしまうと、署名者本人が契印をしたのかどうかが分かりにくくなり、契印の目的を十分に果たせなくなるためです。
綴じるときの注意点
- 契印を押す前に、ページの順序、ページ番号、別紙・添付資料の有無を確認する
- 別紙や添付資料も契約書の一部とする場合は、一緒に綴じて契印の対象に含める
- 印影がかすれたり、片方のページに乗っていなかったりした場合は、その印影を消そうとせず、近くに押し直す
割印の押し方と使う場面
原本を複数作成する場合
当事者がそれぞれ原本を保管するために契約書を2通作成する場合は、2通を上下又は左右に少しずらして重ね、両方の紙にまたがるように押します。それぞれの文書に印影の一部が残り、後で突き合わせると1つの印影になる、という仕組みです。
当事者が3者以上で原本を3通以上作成する場合も、すべての文書にまたがるように押します。1つの印では届かない場合は、1通目と2通目、2通目と3通目というように、順にずらして押す方法がとられます。
関連する文書同士をつなぐ場合
原本と写し、基本契約書と後日作成した覚書・変更契約書など、別々の文書の関連性を示したい場合にも割印が用いられます。もっとも、覚書の本文で「○年○月○日付け○○契約書」と元の契約を特定していれば、文書同士の関連性は文面から明らかですので、割印がなくても通常は支障ありません。
割印に使う印
割印も、契約書では署名欄に押した印と同じものを、当事者全員が押す運用が多く見られます。契約書以外の場面(領収書とその控えなど)では、署名欄の印とは別の印が使われることもあります。
割印を省略する場合
原本を2通作成する場合でも、割印まではしない運用は珍しくありません。前述のとおり割印は法律上の義務ではなく、各原本にそれぞれ署名又は記名押印があれば、それぞれが契約の証拠になります。重要な契約や、後日内容について争いが生じる可能性を特に慎重に考える契約では、割印までしておくと安心です。
消印・訂正印・捨印・止印との違い
契約書に関係する印には、契印・割印のほかにもいくつかの種類があります。
消印(けしいん) — 収入印紙の再使用を防ぐ
消印は、契約書に貼った収入印紙と文書にまたがって押す印です。これは、契印・割印と異なり、法律上の義務です。印紙税法は、課税文書に印紙を貼り付ける場合には、文書と印紙の彩紋とにかけて、判明に印紙を消さなければならないと定めています(印紙税法8条2項)。
消印は、文書の作成者又はその代理人、使用人その他の従業者の印章又は署名で行います(印紙税法施行令5条)。国税庁の通達では、共同して作成した文書の場合は作成者のうちの1人が消せば足りること、印章には氏名・名称等を表示した日付印なども含まれることが示されています(印紙税法基本通達64条・65条)。したがって、消印は署名欄の印と同じである必要はなく、担当者の署名で行うこともできます。一方、国税庁は、単に「印」と表示したり斜線を引いたりしただけでは消印したことにならず、鉛筆での署名のように容易に消せるものも認められないとしています。
印紙を貼っても消印をしなかった場合は、消されていない印紙の額面金額に相当する過怠税が徴収されます(印紙税法20条3項)。
訂正印 — 訂正が当事者の意思によることを示す
訂正印は、契約書の記載を訂正する際に、訂正が当事者の合意によるものであることを示すために押す印です。一般的には、誤った箇所に二重線を引いて正しい内容を書き添え、欄外に「○字削除、○字加入」などと記載したうえで、当事者全員が署名欄と同じ印を押します。訂正箇所が多い場合や、金額・期間など重要な事項を訂正する場合は、訂正印で済ませず、該当ページを作り直すか、変更の覚書を別に作成するほうが確実です。
捨印 — 後日の訂正にあらかじめ備える印
捨印は、後で訂正が必要になった場合に備えて、あらかじめ欄外に押しておく印です。相手方に訂正を任せる趣旨で用いられるため、誤字の修正など軽微な訂正の手間を省ける反面、意図しない訂正に利用されるおそれがあります。捨印があるからといって、相手方がどのような内容でも自由に書き換えられるわけではないと考えられていますが、紛争の原因になりえますので、重要な契約書に安易に捨印を押すことは避けたほうがよいでしょう。
止印 — 余白への書き足しを防ぐ
止印は、文書の末尾に余白がある場合に、本文の最後に押して、それ以降に記載がないことを示す印です。「以下余白」と記載する方法でも同じ目的を果たせます。

電子契約では契印・割印はどうなるか
電子契約に契印・割印は不要
電子契約は、紙の契約書を作成せず、電子ファイルに電子署名などを行う方法で締結する契約です。電子ファイルには物理的なページのつなぎ目がありませんので、契印や割印を押すことはできませんし、その必要もありません。
紙の契約書で契印が果たしていた「差替え・改ざんの防止」の役割は、電子契約では技術的な仕組みが担います。電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)は、電子署名を、①その情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること、②その情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること、のいずれにも該当する措置と定義しています(同法2条1項)。つまり、電子署名がされたファイルは、署名後に内容が変更されると、そのことを検知できる仕組みになっています。
電子署名と文書の成立の推定
電子署名法3条は、電磁的記録に本人による一定の電子署名(必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、その電磁的記録は真正に成立したものと推定すると定めています。紙の文書における民事訴訟法228条4項に対応する規定です。
事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行う、いわゆる事業者署名型(立会人型)の電子契約サービスについても、関係省庁が公表しているQ&Aにより、一定の要件を満たす場合には同条の適用がありうるとの考え方が示されています。利用するサービスがどのような仕組みで本人確認や改ざん防止を行っているかは、導入時に確認しておくとよいでしょう。
印紙税との関係
印紙税は、課税文書という「文書」の作成に対して課される税です。国税庁の文書回答事例には、注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合には課税文書の作成に該当しないとしたものがあり、電子契約には印紙税が課されないものと一般に取り扱われています。したがって、電子契約では収入印紙の貼付も消印も不要です。ただし、電子ファイルを印刷したものに改めて署名や押印をして相手方に交付すると、その紙が課税文書に当たる可能性がありますので注意が必要です。

契約書を締結するときのチェックポイント
契印・割印の確認とあわせて、締結時には次の点も確認しておくと、後日のトラブルを減らせます。
署名欄の確認
- 当事者の表示(会社名、所在地、代表者の肩書・氏名)が正確か
- 署名又は記名押印をする者に、契約を締結する権限があるか(代表者以外が署名する場合は社内の権限の確認)
- 重要な契約では、会社の実印(登記所に届け出た印)での押印と印鑑証明書の提出を求めるかどうか
文書の体裁の確認
- ページの抜けや順序の誤りがないか、別紙が漏れなく添付されているか
- 空欄(金額、日付、期間など)が残っていないか
- 契約締結日が記入されているか、実際の合意の時期と大きくずれていないか
- 契印(複数ページの場合)、割印(必要とする場合)に漏れがないか
印紙と保管
- 印紙税の課税文書に当たるか、貼付する印紙の額は正しいか、消印がされているか
- 原本の通数と保管者が、契約書の末尾の記載(「本書2通を作成し、各自1通を保有する」など)と一致しているか
- 締結済みの原本をスキャンして保存する場合も、原本の保管場所を決めているか
課税文書に当たるかどうかや印紙の額は、契約書の表題ではなく記載内容によって判断されますので、判断に迷う場合は税務署や税理士に確認することをお勧めします。
契印と割印は「義務」ではなく、契約書の差替えを防ぐための実務上の備え
契印は1つの契約書のページ同士を、割印は別々の文書同士をつなぐ印であり、いずれも契約書の抜取り・差替えや文書の不一致を防ぐために用いられます。私人間の契約書について契印や割印を義務付ける一般的な法律の規定はなく、押していなくても契約の効力には影響しませんが、後日の争いに備える手段として意味があります。一方、収入印紙の消印は印紙税法上の義務であり、契印・割印とは性質が異なります。
電子契約では、契印や割印に代えて、電子署名などの技術的な仕組みが改ざんの防止と作成者の証明を担います。紙と電子のいずれの方法でも、「誰が、どの内容に合意したのか」を後から確認できる状態にしておくことが、契約締結の方法を考えるうえでの基本になります。
契約書の締結方法や押印の要否、契約書の内容について不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談してみることをお勧めします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。



