令和8年10月30日、「商業登記規則等の一部を改正する省令」(令和8年法務省令第51号)が公布されました。これにより、株式会社の代表取締役等に限られていた住所非表示の制度は、代表者等住所非表示措置と名前を変え、令和8年12月1日から、全ての会社と各種法人等に広がります。
合同会社の代表社員、一般社団法人の代表者、士業法人の社員、さらに会社の支配人も、登記事項証明書に載る住所を市区町村までにとどめられるようになります。一方で、「登記の申請と同時にしか申し出られない」「過去の住所は隠れない」といった制約は今回も残りました。対象者が増えた分、この制約で困る人も増えることになります。
音声解説
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令和8年改正の概要
公布日と施行日
今回の省令は令和8年10月30日の官報(号外第238号)に掲載され、附則1条により令和8年12月1日に施行されます。法務省は同年7月24日から8月23日まで意見募集を行い、35件の意見が寄せられました。結果の公表文書で修正したと明記されているのは、条文の表記や誤記に関する部分です。
すでに株式会社で措置を受けている場合は、附則2条により新しい制度の措置とみなされます。現在の措置について、施行に合わせて申出をし直す必要はありません。
改正の背景
住所非表示の制度は、令和6年10月1日に株式会社を対象として始まりました。その後、規制改革推進会議の答申(令和8年6月)でも、株式会社以外の法人についても代表者のプライバシーを保護する必要性が指摘され、対象の拡大が求められていました。
法務省は意見募集の結果で、この改正を「プライバシー保護に係る社会的なニーズを端緒」とするものと説明しています(意見27)。また、制度を省令で定める理由については、登記事項そのものを変えるのではなく、登記事項証明書の記載事項の特例にとどまるためとしています(意見35)。
改正の3つの柱
今回の改正は、大きく次の3つに分けられます。
- 対象法人の拡大:株式会社だけでなく、全ての会社(外国会社を含む)と、各種法人、一般社団法人等、特定目的会社、投資法人、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合へ広げる
- 対象者の拡大:代表取締役等だけでなく、会社の代表者全般と支配人(各種法人では代理人)へ広げる
- 要件と手続の整理:申出ができる登記の書き方を改め、添付書面の区分を組み替える
登記情報提供サービスで住所を表示しない扱いも、他の法令で準用する場合を含むと改められ、新たに対象となる法人等に及びます。
住所が市区町村までの表示となること、登記簿には住所が記録されたままであること、登記申請書に住所の記載が必要なことなど、制度の基本的な仕組みは変わりません。この部分は以下の解説記事をご覧ください。
対象者はどこまで広がるのか

法人の種類ごとの対象者
対象となる人は、法人の種類によって異なります。条文(商業登記規則31条の3第1項、各規則の読替え規定)と法務省の回答を整理すると、次のとおりです。
| 法人の種類 | 対象となる人 | 注意点 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 代表取締役、代表執行役、代表清算人、支配人 | 支配人が新たに追加 |
| 特例有限会社 | 取締役(代表権の有無を問わない)、監査役、清算人、支配人 | 現行では対象外 |
| 合同会社 | 代表社員、法人が代表社員の場合の職務執行者、清算人、支配人 | 業務を執行するだけの社員は住所が登記されない |
| 合名会社・合資会社 | 社員全員(代表権の有無を問わない)、代表社員が法人の場合の職務執行者、清算人、支配人 | 無限責任を負う社員も対象 |
| 外国会社 | 代表者、支配人 | 日本における代表者は対象外 |
| 一般社団法人・一般財団法人 | 代表者 | 支配人に当たる規定は準用されない |
| 士業法人 | 社員全員 | 全員が有限責任社員の監査法人は、法人を代表する社員のみ |
| 医療法人、学校法人、NPO法人などの各種法人 | 代表者、代理人(参事など。代理人を置ける法人の場合) | 官庁の嘱託で登記される法人は下記のとおり |
| 特定目的会社 | 代表者(取締役、監査役を含む)、支配人 | — |
| 投資法人 | 代表者 | — |
| 投資事業有限責任組合、有限責任事業組合 | 投資事業有限責任組合の無限責任組合員・清算人、有限責任事業組合の組合員・清算人(有限責任事業組合で組合員・清算人が法人の場合は職務執行者) | — |
まず確認すべきなのは、自分の住所が登記事項になっているかどうかです。住所が登記されない人(合同会社の代表権のない社員、株式会社の平取締役など)は、もともと制度の対象になりません。
合同会社の代表社員
スタートアップや資産管理会社でよく使われる合同会社では、代表社員の住所が登記事項です(会社法914条7号)。今回の改正で、この住所を非表示にできるようになります。
もっとも、合同会社には取締役のような任期がなく、代表社員の住所が登記される機会は限られます。設立時や就任時に申し出なかった場合、住所変更などがあるまで申出の機会が来ない可能性があります。新しく合同会社を設立する場合は、設立登記の段階で検討しておくことが重要です。
なお、代表社員が法人の場合に対象となるのは、職務執行者の個人の住所です。法人である代表社員の本店所在地は、制度の趣旨が当てはまらないとして、非表示の対象に含まれないと考えられています(意見14)。
特例有限会社の取締役と監査役
現行の通達(令和6年7月26日民商第116号)は、特例有限会社を対象外と明記しています。新しい条文は「会社」を対象としており、特例有限会社も含まれます。附則3条は、特例有限会社について対象者に「取締役、監査役、清算人」を加えています。特例有限会社では取締役や監査役の住所も登記事項であるため、法務省は、代表権の有無を問わず取締役を対象とし、監査役の住所も対象になると回答しています(意見13、19)。
支配人と士業法人の社員
支配人は、会社の使用人でありながら氏名と住所が登記されます(商業登記法44条2項1号)。今回初めて対象となりましたが、任期の定めがないため、選任時の申出が特に重要です。
士業法人は、代表権のない社員を含めて社員全員の住所が登記事項とされている点で、株式会社より公示の範囲が広いといえます。今回、弁護士法人、司法書士法人、税理士法人、行政書士法人、弁理士法人、社会保険労務士法人、土地家屋調査士法人、外国法事務弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人、監査法人の社員が明示されました。日本弁護士連合会と弁護士会は副会長も対象です。
対象にならないもの
次の4つは、今回の拡大の対象外です。
- 外国会社の日本における代表者(各種外国法人の日本における代表者も同じ):紛争処理の連絡先となり、日本に営業所がないときの送達先にもなるため、住所を公示する必要性が特に高いと説明されています(意見20、24)
- 官庁の嘱託による登記:商業登記規則40条に、31条の3を準用しない旨が明記されました。法務省は、嘱託で登記がされる法人の役員について「対象外」と回答しています(意見8)
- 限定責任信託:改正対象の規則に限定責任信託登記規則が含まれておらず、同規則は31条の3を準用していません
- 過去に登記された住所:後述のとおり対象外のままです
申出のタイミングと添付書面の変更点
申出ができる登記の書き方が変わった
現行の規定は、株式会社の設立、管轄外への本店移転、代表取締役等の就任や住所変更など、申出ができる登記を列挙していました。改正後は、これが「代表者等の住所が登記すべき事項に含まれる登記の申請」に改められます。
法務省は、対象の例として、住所変更、設立、他の登記所の管轄への本店移転、役員の就任を挙げています(意見11)。一方で、住所の更正、氏名の変更・更正、抹消された登記の回復の際に申し出ることができるかは、今後「通達等で明確化することを検討」とされ、まだ確定していません(意見19、34)。これらの登記に合わせて申出を考えている場合は、通達が出てから判断する必要があります。
添付書面の区分
株式会社の非上場の代表取締役等に必要な書面は、現行の3点から変わりません。各書面の内容は手続の解説記事で解説しています。今回新しくなるのは、次の区分です。

| 申出の場面 | 添付する書面 |
|---|---|
| 上場会社以外の会社の代表者等(支配人を除く) | ①本店の実在を証する書面、②住所を証する書面、③実質的支配者の書面 |
| 上場会社以外の会社の支配人 | ②のみ |
| 上場会社(外国の法令に準拠した同種の法人を含む) | 上場されていることを認めるに足りる書面 |
| 既に措置を受けている会社が追加で申し出る場合 | 非上場は②のみ、上場会社は不要 |
| 各種法人、一般社団法人等、投資法人など | ①〜③(上場会社の区分はない)。各種法人の代理人は②のみ |
| 独立行政法人等(法務大臣が指定する法人を含む) | 不要 |
ここで注意したいのが、支配人だけ措置を受けている会社です。支配人のみ措置を受けた会社が後から代表者について申し出る場合は、省略の対象外となり、①〜③をそろえる必要があります(新31条の3第2項の括弧書き)。
なお、独立行政法人等に準ずる法人として法務大臣が何を指定するかは、「引き続き検討」とされています(意見29、34)。
株式会社以外で問題になりやすい「実質的支配者」の書面
株式会社以外の法人で特に確認が必要なのが、③の実質的支配者の書面です。
株式会社では、定款認証の際の申告受理及び認証証明書や、実質的支配者情報一覧の写しを使う方法があります。しかし、合同会社の定款には公証人の認証がなく、実質的支配者情報一覧についても、法務局の案内では株式会社(特例有限会社を含む)の制度とされています。合同会社や各種法人では、これらの省略方法を使えない場面が多いと見込まれます。一方、一般社団法人と一般財団法人は定款認証があるため、設立時に申告受理及び認証証明書を使える可能性があります。新しい通達での扱いを確認してください。
その場合に中心となるのは、司法書士が犯罪収益移転防止法に基づいて確認した記録の写しです。同法で確認記録の作成が義務づけられていない登記(例えば医療法人の理事の変更)でも、法務省は、同法に準じて作成された確認記録を使える取扱いを予定しています。ただし、作成した司法書士の氏名と、確認記録に準じて作成した旨の記録が必要です(意見15)。
なお、現行の通達は、司法書士の確認記録のほか、実質的支配者についての代表取締役等の供述を記載し、公証人の認証(公証人法58条の2第1項)を受けた書面も挙げています。司法書士に依頼しない場合の選択肢になり得ますが、各種法人等での扱いは新しい通達で確認が必要です。
本店の実在を証する書面
本店の実在を証する書面は、資格者代理人(司法書士など)の確認書面か、本店宛ての配達証明郵便等で用意します。法務省は、不動産賃貸借契約書では実在の証明として十分ではないとの考えを示しました(意見1、26)。
外国会社については、日本の営業所の実在を確認します。日本に営業所がなければ、日本における代表者が住所地に居住していることを確認する仕組みです。
今回も変わらなかった3つの制約

経団連、日本司法書士会連合会、東京司法書士会などからは、今回の意見募集でも運用の改善を求める意見が出ました。しかし、次の3点は改正に盛り込まれていません。
| 制約 | 内容 | 法務省の回答 |
|---|---|---|
| 同時申出 | 登記の申請と同時でなければ申し出られない | 引き続き検討 |
| 過去の住所 | 既に登記された住所は表示されたまま | 引き続き検討 |
| 住所入りの証明書 | 本人や会社も、住所入りの登記事項証明書を取得できない | 必要性等を踏まえて検討 |
同時申出:任期のない法人で特に影響が大きい
申出は登記の申請と同時にする必要があります。オンライン申請に関する商業登記規則101条1項1号の2でも、この点は維持されています。
株式会社であれば、少なくとも任期満了ごとに重任の登記があります。これに対し、合同会社の代表社員や支配人には任期がなく、一度機会を逃すと次の申出まで長い時間が空くおそれがあります。代表者が複数いる場合に、登記をしない方の代表者について同時に申し出ることも、現時点では認められていません(意見31)。
過去の住所:履歴事項証明書と閉鎖事項証明書に残る
申出の対象は、その登記で記録される住所に限られます。重任や住所移転と同時に申し出ても、それ以前の住所は読み取れる状態のままです。この点は手続の解説記事でも説明しています。
他の管轄へ本店を移転すれば、新しい登記記録には過去の住所が引き継がれません。ただし、令和6年改正時の法務省の回答によると、旧管轄の閉鎖事項証明書に記載された住所も対象外です。住所を完全に見えなくする方法ではないことに注意が必要です。
住所入りの証明書:取引先への説明は引き続き課題
措置を受けると、代表者本人であっても、措置を終了しない限り住所入りの登記事項証明書を取得できません。会社の印鑑証明書に代表者の住所を載せる案についても、「法人を特定し得る範囲の情報のみ記載」しているとして、採用されていません(意見26、32)。
そのため、金融機関や不動産取引で住所の確認を求められたときの負担は、新たに対象となる法人にも同じように生じます。具体的な問題と対策は以下のデメリットの解説記事をご参照ください。
改正による実務上の影響
新たに対象となる法人の代表者
申出をするかどうかは、代表者ごとに判断することになります。自宅の住所を公開したくない事情がある一方、融資や大きな取引を控えている場合は、デメリットの解説記事にある影響も考慮して決めることになります。
また、代表社員が会社の債務について責任を負う合名会社などでも、法務省は「対象としております」と回答しています。債権者は、後述する附属書類の閲覧で住所を確認することになるという説明です(意見26)。
取引先の確認と与信管理を行う企業
これまで「株式会社以外なら登記事項証明書で代表者の番地まで確認できる」と考えていた場合は、運用の見直しが必要です。12月1日以降は、合同会社や一般社団法人でも番地まで表示されないケースが生じます。
登記事項証明書で代表者の住所を確認している社内手続があれば、代替の確認書類をあらかじめ決めておくとよいでしょう。契約書の雛形や取引先登録の書式で、代表者の住所の確認方法を定めている場合も同様です。
代表者の住所を調べる必要がある債権者
訴訟の提起や責任追及で代表者の住所が必要になった場合、法務省が案内している手段は登記簿の附属書類の閲覧(商業登記法11条の2)です。利害関係を有する者は、手数料を納付して閲覧を請求できます。手続は平成28年6月23日付の民商第98号通達と民商第99号依命通知に定められており、法務省も今回の結果文書で案内しています。
もっとも、次の点には注意が必要です。
- 閲覧の申請書には利害関係を証する書面の添付が必要なため(商業登記規則21条3項2号)、早めに資料を準備する必要があります
- 東京司法書士会は、登記申請が長期間ない法人では、10年の保存期間(商業登記規則34条4項4号)の経過により附属書類が廃棄されているおそれを指摘しています(意見35)
- 本店に実在しないと認められる場合は措置が終了します。法務省は、原則として登記官が会社に通知し、一定期間内に返送等がないことをもって確認する運用を想定しています(意見1)
現行の通達では、弁護士等の上申書と不達を明らかにする書面があれば、登記官から会社への通知をせずに措置を終了して差し支えないとされています。ただし、新しい通達でこの扱いが維持されるかは、公表を待って確認する必要があります。
施行までに企業が準備しておきたいこと

対応1:対象者と登記予定の確認
まず、自社に住所が登記されている人が誰かを確認し、そのうち非表示を希望する人を整理します。あわせて、施行前後に予定している登記を洗い出します。
新たに対象となる人について、施行日前の登記の申請と同時に申出をすることはできません。11月に役員変更や住所変更を予定している場合は、12月1日以降の申請にできないかを検討する余地があります。ただし、変更の登記は原則として2週間以内にする必要があるため(会社の場合は会社法915条1項、一般社団法人等は一般社団法人法303条、組合等登記令の法人は同令3条1項)、登記期間を過ぎないように注意が必要です。
対応2:添付書面の段取り
上場会社以外の会社で代表者等について申し出る場合は、本店の実在確認と実質的支配者の書面を準備します。配達証明郵便で対応するのか、司法書士に確認を依頼するのかを早めに決めておくと、登記の申請に間に合わなくなるリスクを減らせます。
対応3:住所変更時の社内ルール
措置を受けた人が転居した場合、住所変更の登記と同時に改めて申し出ないと、新しい住所が番地まで表示されてしまいます。同じ住所のまま重任する場合は、登記官が引き続き措置を講じますが、住所が変わると結論が逆になります。代表者や支配人が転居するときには、総務や法務に連絡が届く体制にしておくことをお勧めします。
対応4:取引先への説明の準備
金融機関や主要な取引先に対して、措置を講じた理由や、必要な場合の住所の確認方法を説明できるようにしておきます。説明の内容については、デメリットの解説記事の対策の項目が参考になります。
対応5:通達と法務省の案内の確認
令和8年10月31日時点で、今回の改正に対応した新しい通達や様式は確認できていません。法務省の案内ページも、まだ旧制度の内容のままです。法務省は、法人ごとの対象となる役員や添付書類を整理してホームページ等で周知することを検討するとしています(意見1)。申請書の書き方や各種法人の添付書類は、通達と案内の公表後に改めて確認してください。
代表者等住所非表示措置は「対象の拡大」と「使える機会の少なさ」をセットで考える
今回の改正で、合同会社、一般社団法人、士業法人、支配人など、多くの人が住所非表示の制度を使えるようになります。一方で、同時申出の制約が残っているため、特に任期のない合同会社の代表社員や支配人にとっては、次の登記の機会を逃さないことが重要です。
また、新しく対象となる法人は、株式会社で指摘されてきた信用面や本人確認の問題も同じように引き受けることになります。設立や就任の登記を予定している方は、手続とデメリットの解説記事も確認したうえで、申出をするかどうかを検討してみてください。判断に迷う場合や、取引先の住所確認の方法を見直したい場合は、司法書士や弁護士に相談してみることをお勧めします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。





