一 この日付は何をしているのか
1 締結日・効力発生日・調印日は別のもの
契約書には、通常、末尾の署名欄の上に契約締結日を書く欄があります。契約書は紛争のときに証拠として働くので、契約がいつ成立したかが重要な意味を持つ場合があります(注1)。
契約は、申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立し、法令に特別の定めがある場合を除いて、書面の作成は要りません(注2)。契約書の日付は、成立した日を記録するための日付です。
そのうえで、契約書に関わる日付は少なくとも3つあり、それぞれ別のものです。締結日と契約の効力発生日(有効期間の始期)は区別することができ、効力発生日を締結日より後にすることは実務上きわめて一般的に行われています(注3)。
| 日付 | 何を指すか | 契約書のどこに書くか |
|---|---|---|
| 締結日 | 契約が成立した日 | 署名欄の上の日付欄 |
| 効力発生日 | 契約の効力が始まる日(有効期間の始期) | 有効期間の条項 |
| 調印日 | 各当事者が実際に署名・押印した日 | 書かれないことが多い |
2 書かなければどうなるか
締結日の欄が空欄だと、契約がいつ締結されたかが分からず、有効期間の始期が不明になります。有効期間を「契約締結後1年間有効とする」と書いていれば、1年後の日付も分からず、終期まで不明になります(注4)。締結日は、有効期間の条項がそれを起点にしている限り、契約の始まりと終わりを決める日付になります。
二 よくある書き方
有効期間を締結日から数える書き方です。
(契約期間) 第○条 本契約の有効期間は、本契約締結日から○年間とする。(注5)
署名欄の上の日付は空欄のまま、相手方と押印済みの契約書を郵送でやりとりすることも少なくありません。
三 問題点
1 双方の押印日が違う
当事者全員が同席して調印するのは、実際にはむしろまれです。紙の契約書を郵送でやりとりすると、先に署名押印する当事者と後に署名押印する当事者とで、日付にずれが生じます。実務上は、後に(3者以上なら最後に)署名押印する当事者が署名押印する日を締結日とすることが多く、それで差し支えありません(注1)。
問題が起きるのは、締結日をそれぞれの当事者が自分の契約書に個々に記入する場合です。締結日の認識が一致しなければ、二の条項例のように締結日から数える有効期間は、起算日が不明確になり、有効期間そのものが不明確になります(注5)。最初に押印する側が日付を入れてよいのか、受け取って返送する側が入れるべきなのかを、あらかじめ決めておく必要があります(注4)。
最後に押印した日を締結日とする扱いは、法律上の成立時点を厳密に写したものではありません。先に押印して送った契約書を申込み、後から押印して返送するのを承諾と見るなら、承諾は相手方に到達した時に効力を生じます(注6)。そうすると、契約の成立は返送した契約書が届いた日であり、最後の押印日より後になります。それでも実務が最後の押印日を書くのは、当事者双方の契約書に同じ日付をそろえて残すことに意味があるからです。
2 取引が先に始まっている
取引が始まってから契約書を作ると、日付欄を取引開始日に合わせたくなります。しかし、両当事者の合意よりも前の日を締結日として記載することは、虚偽の事実を契約書に記載することになり、許されません。効力を遡らせたいのであれば、遡って効力を有する旨を条項に定めれば足ります(注3)。この遡及条項の書き方と限界は、別稿『契約締結日前に遡らせる意味と限界:バックデートと遡及条項』が扱います。
3 印紙税との関係
本稿で扱うのは、締結日の書き方が印紙税の扱いとどう関わるかであり、個別の税額の判断ではありません。
課税文書の作成者は、印紙を課税文書の作成の時までに貼り付けなければなりません(注7)。この「作成」とは、課税事項を記載した文書を、その文書の目的に従って行使することをいいます。契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書の「作成の時」は、当該証明の時です(注8)。
印紙税の上で問題になるのは、日付欄に書いた日ではなく、契約書が意思の合致を証明するものとして実際に使われた時です。日付欄を遡らせても、印紙を貼るべき時期は遡りません。作成の時までに印紙を納付しなかった場合の過怠税は、納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額です。調査を受ける前に自主的に申し出た場合は、印紙税の額にその1割を加えた額になります(注9)。
四 改善例
1 有効期間は日付で書く
締結日から数える書き方をやめ、有効期間の始期と終期を日付で書きます。
(契約期間) 第○条 本契約の有効期間は、○年○月○日から△年○月○日までの○年間とする。(注5)
こうしておけば、締結日の記入を忘れても、当事者ごとに締結日の認識がずれても、有効期間は動きません(注4)。満了日を特定の日付で書いておくことは、更新拒絶の通知期限を数えるうえでも意味があります(注5)。
2 日付を入れる人と時期を決めておく
郵送でやりとりするなら、日付を誰がいつ入れるかを送付の時点で伝えておきます。2者間の契約であれば、相手方の記名押印がある2通を受け取り、自社が記名押印した段階で日付を入れ、1通を返送する、という流れが一つの方法です(注4)。
契約書2通に貴社のご記名・ご押印をいただき、日付欄は空欄のままご返送ください。弊社で記名押印した日を日付欄に記入し、1通をお送りします。
合意ができた時点で、紙の契約書に先行してサインページをPDFで交換し、その交換の日を締結日として記載するという工夫もあります。両当事者が契約締結権限を有する者の確認を経て実質的に合意した日を締結日とすることは、実際の署名押印日より前であっても問題ありません(注1)(注3)。
3 電子契約なら日付のずれが生じにくい
電子契約であれば、当事者が同じ日に電子署名をすることも難しくありません(注1)。どちらが日付を記入するかという問題もなくなります(注10)。
五 書き分けの分岐
| 場面 | 締結日 | 有効期間の条項 |
|---|---|---|
| 面前で調印する | 調印した当日 | 始期と終期を日付で書く |
| 郵送で押印を回す | 最後に押印する当事者の押印日。誰が記入するかを送付時に決める | 始期と終期を日付で書く |
| 合意後、紙の押印が遅れる | 権限者の確認を経て合意した日、またはサインページをPDFで交換した日 | 始期と終期を日付で書く |
| 取引が先に始まっている | 実際に合意した日。取引開始日にはしない | 遡及条項で効力を遡らせる |
| 電子契約で締結する | 電子署名をした日 | 始期と終期を日付で書く |
締結日は、成立した日を記録する欄にとどめ、契約の始まりと終わりは有効期間の条項で日付を書いて決めておくのが、いちばん事故が少ない書き方です。
本稿で扱わなかったこと
期間の計算方法(初日を算入するか、満了日が休日のときどうするか)は、別稿「契約期間の始期・終期と期間の計算方法」が扱います。課税文書に当たるかどうかの判定は、別稿「印紙税:課税文書の判定」が扱います。締結日の決め方が会計処理(収益や費用をどの期に計上するか)に与える影響は、本稿では扱っていません。
税務上の取扱いは個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては税理士にご確認ください。
参考文献等
註
(注1)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)80頁
(注2)民法522条
(注3)前掲注1・81頁
(注4)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)28頁(Q10)
(注5)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問4(契約期間の起算日を「契約締結日」と定める場合)
(注6)民法97条1項
(注7)印紙税法8条1項
(注8)国税庁「印紙税法基本通達」44条
(注9)印紙税法20条1項・2項
(注10)前掲注4・34頁(Q20)
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