目的条項が軽微性の判断に効く場面

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 どんな事案か

事業会社が、再生可能エネルギーの事業を営む会社から、暗号通貨の採掘システムと太陽光発電設備をまとめて買いました。代金は4,950万円です(注1)。

売主の担当者は、システムが稼働を開始したこと、毎月1回、採掘したビットコインを買主指定のウォレットアドレスに送金することを書いた稼働開始報告書を送っています。ところが買主が実際に受け取ったビットコインは、2回分にとどまりました(注1)。

買主は、2週間以内に暗号通貨を送金しマイニングの実績を報告するよう催促したうえで、訴状によって契約を解除しました(注1)。

争点の一つが、民法541条ただし書です。催告をして期間が過ぎても、その時点の不履行が「その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は、解除できません。

売主は、次のように主張しました。目的物は中小企業経営強化税制の対象資産で、買主は代金について即時償却などの税優遇を受けた。マイニング収入は得られなかったが、売電収入はシミュレーションどおり年間170万円程度が得られている。したがって本件契約の目的は達成されており、ビットコインの送金がないことは軽微である(注1)。

買主はこう返しています。ビットコインの送金を受けることこそが本件契約の目的であり、節税効果は本件契約に付随する効果であって目的ではない(注1)。

軽微かどうかの争いが、そのまま「この契約の目的は何だったのか」という争いになっています。

もう一つ押さえておく点があります。買主は、売主が送金義務を負う根拠として、営業用パンフレットの記載、担当者の説明、送金先アドレスを取得したこと、送金作業を行うという報告、実際に送金したことを挙げました(注1)。売主は、締結した契約は設備の売買契約だけで、マイニング事業の委託は受けていないと争っています(注1)。公表されている判決文には契約書の約定の中身が載っておらず、契約書が送金や契約の目的について何を定めていたかは読み取れません。


二 裁判所は何を判断したか

裁判所は、まず債務不履行を認めました。本件契約は暗号通貨採掘システムを目的物に含む売買契約であり、稼働を開始したとの報告があって毎月1回送金を受ける予定だったのに、買主はほとんど送金を受けられなかった。そうするとシステムは本件契約で予定されていた性能を発揮しなかったというべきで、債務の本旨に従った履行はない、としています(注1)。

軽微性については、2文で結論を出しています。

暗号通貨採掘システムの売買契約において、採掘した暗号通貨の送金が受けられることが重要な要素であることは明らかである。したがって、ビットコインが送金されないことが軽微な不履行に当たるということはできない。(注1)

解除は認められました。売主は、設備の引渡しを受けるのと引換えに、4,921万8,193円を返すよう命じられています。代金から、買主がマイニングと売電で得た利益(そのための支出を控除した残りの28万1,807円)を差し引いた額です(注1)。


三 なぜそう判断されたのか

1 目的を契約の種類から取り出した

541条ただし書は、軽微かどうかを「その契約及び取引上の社会通念に照らして」判断すると定めています。判断の基礎に契約そのものが入っているので、その契約の目的が何かが決まらなければ、軽微かどうかも決まりません。

この判決が目的を取り出した先は、「暗号通貨採掘システムの売買契約」という契約の種類でした(注1)。採掘システムを買う契約である以上、採掘した暗号通貨を受け取れることが重要な要素であることは明らかだ、という理屈です。債務不履行の判断でも、目的物に採掘システムが含まれることと、稼働開始報告書の記載が根拠になっています(注1)。

軽微かどうかの判断では、売主が持ち出した税優遇と売電収入に、判決は触れていません(注1)。目的物の性質から目的が読み取れる場面では、契約後に得られた利益を持ち出しても、目的は組み立て直されにくいというのが本稿の読み方です。

2 契約の種類から目的が決まらない取引もある

どの取引でも同じようにいくわけではありません。汎用の機械、土地、業務委託のように、使い道が複数ありうる取引では、その種類の契約なら当然これが重要な要素だ、とは言いにくくなります。

そのとき判断の材料になるのは、当事者がその義務にどういう意味を持たせていたかです。最判昭和43年2月23日民集22巻2号281頁は、土地の割賦売買に付けられた特別の約款(代金を完済するまで所有権移転登記をしない、それまで買主は土地の上に工作物を築造しない)の不履行を理由とする解除について、こう述べています。

売主(被上告人)にとつては代金の完全な支払の確保のために重要な意義をもつものであり、買主(上告人)もこの趣旨のもとにこの点につき合意したものであることは原判決(その引用する第一審判決を含む。)の判文からうかがわれる。そうとすれば、右特別の約款の不履行は契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものであるから、このような約款の債務は売買契約の要素たる債務にはいり、これが不履行を理由として売主は売買契約を解除することができると解するのが相当である。(注2)

外見上は付随的な約款でも、当事者がその趣旨で合意していれば、要素たる債務に入ります。その合意の趣旨を示す材料があるかどうかで、結論が分かれます。

541条ただし書は、不履行の程度が軽微な場合や付随的な債務の不履行の場合に法定解除を認めないとしてきた判例法理を踏襲し、明確化したものといえます(注3)。改正前の判例も、いまの軽微性の判断の手がかりになります。


四 この判断から契約書に持ち帰るもの

1 目的を書いておかないと、目的は後から組み立て直される

令和7年判決の売主は、契約の後に買主が実際に得た利益から、契約の目的は達成されていると主張しました。契約書に目的が書かれていなければ、不履行をした側はこの主張を組み立てることができます。書いてあれば、その主張はまず契約書の文言とぶつかります。

この事案では、採掘システムという目的物の性質が買主を助けました。しかし、それは目的物の性質がたまたま強かったからで、どの取引でも期待できるものではありません。自社が買う側で、特定の成果を受け取ることが取引の目的なら、それを目的条項に書いておきます。

この事案の買主の立場で書けば、次のようになります。

第1条(目的) 買主は、本件システムにより採掘された暗号通貨の送金を毎月受けることを主たる目的として、本件システム及び本件発電設備を購入する。

「主たる目的」と書いたのは、設備の購入には売電や税務上の効果もついてくるからです。それらが目的に含まれないことまで書くかどうかは、交渉の材料になります。書けば主張の余地はさらに狭まりますが、相手方の抵抗も大きくなります。

売る側は、逆向きに考えます。この事案の売主は、締結したのは設備の売買契約だけでマイニング事業の委託は受けていないと主張しました(注1)。そう考えているのであれば、契約書にそのとおり書いておくことになります。目的条項において当事者が取引において何を重視するのかを明記しておけば、相手方に義務を負わせる条項などで自社に有利な条項を設けることを正当化しやすくなります(注4)。取引の中身を目的条項で限定しておけば、それを超える成果の不達成は契約の目的に関わらない、と主張する足場になります。

2 「重要な要素」であることを契約書で示す

令和7年判決は、送金を受けることを「重要な要素」と呼びました(注1)。契約の種類からそう言えない取引では、当事者が自分で示しておくほかありません。昭和43年判決が、買主も「この趣旨のもとにこの点につき合意した」ことを根拠に挙げていたことを思い出してください(注2)。

同じ方向の手当てが、解除事由の例示列挙です。契約違反その他の事由について解除事由を例示列挙しておくことにより、解除が無効とされるリスクを下げることが可能です。当該事由について契約当事者が重要視していることが明らかとなるからです(注3)。

契約書のどこに書くかで、示せることが変わります。

書く場所示せること
目的条項この取引で何を実現しようとしているか
義務の条項に理由を添えるその義務が目的の達成に欠かせないこと(例:「本契約の目的の達成に不可欠であることから」)
解除条項に列挙するその義務の違反を当事者が解除に値すると考えていたこと

3か所のうち1か所だけでも、軽微性が争われたときの材料になります。3か所がそろっていれば、同じことを別々の角度から示すことになり、相手方が「その義務は付随的だった」と主張する余地が小さくなります。

3 付随的な義務ほど、契約書に書いておく

包括条項を適用して解除できるかどうかは、その義務が契約書に明記してあるかどうかで左右されます。特に、付随的な義務(土地売買における確定実測図等の交付、行政庁の許認可取得等)は、契約書に記載のないことを理由に紛争になるケースが多くみられます(注3)。

付随的な義務の期限を書いていなかったために争いになった事例に、東京地判平成28年9月30日があります(注3)(注5)。太陽光発電所の建設用地の売買でした。契約書の特記条項には、買主が土地を購入するのは大型太陽光発電所の建設を目的とするもので、住民と自治会の同意、許認可の取得、設備認定、電力会社との接続売電契約の締結などを前提とすることを両当事者が確認する、と書かれていました(注5)。目的は書かれていたのです。

ところが、許認可の取得と残代金の支払の期限を契約日から6か月と明確に定める規定は、契約書にありませんでした。事前にやり取りした契約書案の支払条項は、残金の支払いを「手付契約後__カ月以内とする。」とする空欄のままでした(注5)。売主は6か月の約束だったと主張し、買主は契約書にもそのような文言はないと争っています(注5)。

裁判所は、売主側が交渉の過程で6か月以内の決済を繰り返し伝えていたこと、買主の代表者自身も、とりあえず6か月と決めておいて間に合わなければ延長すればよいと認識していたこと、実際に6か月が過ぎた時点で買主が期限の延長を申し出ていたことから、6か月の期限の合意を認め、解除を認めました(注5)。

売主は勝ちました。しかし、期限をめぐる争いは、交渉の経緯を証人尋問で立証するところまで進んでいます(注5)。契約書案の空欄を埋め、6か月という期限を契約書に書いておけば、要らなかった立証です。

この事案は2017年改正の前の事件で、軽微性は争点になっていません。それでも、目的を書くことと、その目的の達成に必要な義務と期限を書くことは、別々の作業だということがよく分かります。目的条項は、義務と期限を書いた条項と組み合わさって、解除の場面で働きます。

4 条項で動かせるのは、判断の材料のほう

最後に限界を確認しておきます。目的条項を書いても、541条ただし書の判断枠組みそのものは変わりません。変えられるのは、「その契約及び取引上の社会通念に照らして」の「その契約」の中身、つまり裁判所が判断に使う材料のほうです。

書く手順は次のようになります。

手順問い書く場所
1この取引で、相手方に必ず果たしてもらいたいことは何か目的条項
2それが果たされないと、取引をした意味がなくなるか義務の条項(理由を添える)
3いつまでに果たされる必要があるか義務の条項(期限)
4果たされないときに、契約から抜けたいか解除条項(事由として列挙)

令和7年判決の買主は、手順1を契約の種類に助けてもらいました。平成28年判決の売主は、手順1は書いていましたが、手順3の期限を契約書に書いていませんでした。どちらの事案も解除する側が勝っていますが、どちらも契約書に書いておけば争点にならなかった部分で争っています。

本稿で扱わなかったこと

軽微性の判断枠組み、つまり考慮される事情や主張立証責任は、別稿『「軽微であるとき」の判断』で整理しました。本稿はその枠組みのうち、「その契約」の部分に目的条項がどう入り込むかだけを扱っています。

目的条項の書き方そのもの、たとえば買う側が使い道を書く、売る側が義務を正当化する根拠を書くといった整理は、別稿「目的条項は飾りではない:解釈の指針としての機能」にあります。

解除事由を列挙するときの書き方と、無催告解除の事由を広く書きすぎたときの問題は、別稿「解除事由の書き方:不明確な列挙・広範な無催告解除が招く事故」が扱います。

令和7年判決は、解除後に買主が返すべき使用利益(マイニングと売電で得た利益から経費を差し引いた額)も判断していますが、原状回復の問題なので本稿では扱っていません。


参考文献等

註

(注1)東京地判令和7年12月12日(令和6年(ワ)第15302号、判例秘書L08032748)
(注2)最判昭和43年2月23日民集22巻2号281頁(昭和40年(オ)第1439号)
(注3)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問8(解除事由が不明確な場合)
(注4)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)47頁
(注5)東京地判平成28年9月30日(平成27年(ワ)第2996号、判例秘書L07132177)


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