契約書のレビュー、法令リサーチ、社内規程のチェック、取引先とのトラブル対応方針の検討。こうした法務の仕事の相当部分を、生成AIを組み込んだサービスに任せる企業が増えています。一方で、弁護士でない事業者が報酬を得て法律事務を取り扱うことは、弁護士法72条(非弁行為の禁止)で禁じられています。AIを使った法務支援サービスは、この規制に触れないのでしょうか。
法務省は令和5年8月、AIを用いた契約書の作成・審査・管理サービスについて、弁護士法72条との関係を整理したガイドライン「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(以下「令和5年ガイドライン」)を公表していました。そして令和8年8月21日、法務省大臣官房司法法制部は、これを補完・拡充する新たなガイドライン「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」(以下「新ガイドライン」)を公表しました。契約書業務に限らず、ビジネス分野の法務業務支援サービス全般を対象とし、「どのようなときに事業者が非弁行為を行ったと指摘され得るのか」という分水嶺に絞って解釈を示すとともに、事業者がとるべきガバナンス上の推奨事項を初めて体系的にまとめたものです。
本記事では、新ガイドラインの内容を原典に沿って整理し、AI法務支援サービスを提供する事業者、それを導入する企業がそれぞれ何を確認すべきかを解説します。
新ガイドラインの概要
公表の経緯と位置づけ
新ガイドラインは、法務副大臣の下に設置されたタスクフォースの取りまとめを受けて、令和8年8月21日に法務省大臣官房司法法制部が公表したものです。法律や政省令ではなく、弁護士法72条の解釈について法務省の考え方を示す文書という位置づけになります。
同時に、規制改革推進会議の答申を受けた「AI等を活用した法務業務及びその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方検討のロードマップ」も公表されました。こちらは、法学・AIガバナンスの研究者、裁判官・弁護士等の実務家、情報工学の研究者、経済界、消費者保護の専門家などで構成する有識者検討会を令和8年度中に立ち上げ、令和10年度中を目途に取りまとめを行うという工程表です。つまり新ガイドラインは、現行の弁護士法のもとでの当面の解釈指針であり、AI時代の法務サービスのルールそのものは今後さらに検討が続く、という構図になっています。
令和5年ガイドラインとの関係
令和5年ガイドラインは、AIを用いた契約書等の作成・審査・管理業務支援サービスを例にとり、弁護士法72条の各要件――「報酬を得る目的」「訴訟事件…その他一般の法律事件」「鑑定…その他の法律事務」――ごとに、通常該当しないと考えられる例と該当し得る例を整理したものでした。たとえば、あらかじめ登録したひな形が選別されて表示されるだけなら「鑑定…その他の法律事務」に通常該当しない、個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度が表示されるなら該当し得る、といった機能別の整理です。
しかしその後、生成AIの急速な進展と企業によるAI活用需要の増大で、契約書業務以外にも次々と新しい法務支援サービスが登場しました。事業者からは令和5年ガイドラインの解釈をめぐる照会が相次ぎ、規制緩和や解釈の明確化を求める声が高まっていたと、新ガイドラインは公表の背景を説明しています。
新ガイドラインは令和5年ガイドラインを「補完・拡充するもの」であり、両者は併せて参照すべきものとされています。重要なのは、新ガイドラインが令和5年ガイドラインで示した各要件の基本的解釈や、判例で示された弁護士法72条の解釈そのものを変更するものではないと明言している点です。あくまで、実務上特に懸念が生じやすい局面――弁護士でない事業者が、報酬を得る目的で、弁護士でない企業等の利用者に対し、法律事務を行い得る機能を持つAIサービスを提供する場面――に絞って、判断の考え方を補っています。汎用型AIの提供者が報酬を得てこうした機能を持つサービスを提供する場合も、念頭に置かれています。
適用場面の限定
新ガイドラインにいう「ビジネス分野」とは、主として企業等の事業者が自己の事業活動に関連して利用する場面を指します。消費者を主たる対象とするサービスについては「別途の考慮が必要となる場合がある」とされており、一般個人向けの法律相談AIなどは新ガイドラインの射程の中心ではありません。また、エンドユーザーに直接サービスを提供する事業者を主な対象としつつ、API(他のソフトウェアから機能を呼び出す接続口)を通じて他の事業者にAI機能を提供する事業者についても、その利用目的・態様を認識し得る場合にはガイドラインの趣旨が及び得ると注記されています。
弁護士法72条と令和5年ガイドラインのおさらい
弁護士法72条の条文と3つの要件
弁護士法72条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と定めています。違反には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という刑事罰があります(弁護士法77条3号)。また、非弁行為を行う者から事件の周旋を受けることなどは、弁護士の側でも禁じられています(弁護士法27条・非弁護士との提携の禁止)。
AI法務支援サービスとの関係で問題になるのは、主に次の3つの要件です。

第一に「報酬を得る目的」です。令和5年ガイドラインによれば、報酬は現金に限らず、額の多少も問いません。無料サービスの外観でも、他の有償サービスへの誘導やサブスクリプション利用者限定の提供など、実質的な対価関係があれば該当し得ます。
第二に「訴訟事件…その他一般の法律事件」です。「法律事件」とは法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、または新たな権利義務関係の発生する案件をいいますが、「その他一般の法律事件」に当たるには、条文に列挙された訴訟事件等に準ずる程度に争いや疑義があるという、いわゆる「事件性」が必要であるというのが最高裁の見解です(事件性必要説)。最高裁平成22年7月20日決定は、ビル所有者から委託を受けて、立ち退く意向のない賃借人と交渉し明渡しを実現する業務について、法的紛議が生ずることがほぼ不可避の案件であるとして「その他一般の法律事件」に当たると判断しました。
第三に「鑑定…その他の法律事務」です。「鑑定」とは法律上の専門的知識に基づき法律的見解を述べること、「その他の法律事務」とは法律上の効果を発生、変更等する事項の処理をいいます。
これらの要件をすべて満たす場合でも、サービスの提供先が弁護士・弁護士法人であり、弁護士が出力結果を自ら精査・修正する方法で利用するとき(新ガイドラインでいう弁護士利用モデル)などは、通常、弁護士法72条に違反しないと整理されていました。
令和5年ガイドラインが残した課題
令和5年ガイドラインは機能別の整理としては明快でしたが、対話型の生成AIには当てはめにくい面がありました。チャット画面にファイルをアップロードして自由に質問できるサービスでは、リサーチにも契約書レビューにも紛争対応にも使えてしまいます。「事件性」のある案件に使うかどうかは、利用者が何を入力するかで決まります。そうすると、利用者が勝手に紛争案件に使った場合、提供者まで非弁行為の責任を問われるのか、という疑問が残ります。新ガイドラインの中心的なテーマは、まさにこの問いへの回答です。
新ガイドラインの内容(1)誰の行為と評価されるか
利用者のプロンプト入力も「提供者の行為」と評価され得る
新ガイドラインはまず、弁護士法72条は罰則の構成要件であり、対象となるのは人の行為であると確認したうえで、AIへの指示文(プロンプト)を何にするかといったサービスの具体的な利用方法は基本的に利用者に委ねられている、と述べます。
しかしそこで終わりません。利用者のプロンプトに応じて自動的に法的観点の指摘や法的助言を提供することを目指した機能がサービスに組み込まれている場合、利用者がプロンプトを入力して使うことは、サービス提供の性質上当然に想定されていた「法務業務支援の契機」にすぎない。そうであれば、利用者側の入力・出力の行為も含めて、規範的には提供者の行為と評価され得る、というのです。
この考え方の根拠として引用されているのが、最高裁平成26年11月25日決定です。会員がダウンロード操作をして初めてわいせつ動画のデータが送信される配信サイトについて、操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていた以上、顧客の操作は運営者が意図していた送信の契機にすぎず、運営者自身が「頒布」したと評価した判例です。AI法務サービスにおける利用者のプロンプト入力を、この「契機」と同じ構造で捉えたわけです。
この整理により、「利用者が入力しただけで、提供者は何もしていない」という弁解は通らないことになります。ただし、それだけで直ちに提供者が非弁行為をしたことにはなりません。提供者が「事件性」のある案件について法律事務を取り扱ったといえるかは、次の「価値中立性」の判断にかかっています。
新ガイドラインの内容(2)「価値中立的なサービス提供」という分水嶺
価値中立的なサービスなら、利用者の事後的な使い方だけでは責任を問われない
新ガイドラインは、提供者が「事件性」のある案件に関する法律事務の取扱主体と評価され得る場合であっても、そのサービスが「事件性」のある案件にも、そうでない業務にも利用可能なものであるとき――たとえば、そもそも「事件性」のある案件の法律事務に利用させることを目指して設計されたサービスでないとき――を「価値中立的なサービス提供」と呼び、この場合には、単に「事件性」のある案件に使われる一般的可能性があるというだけで、利用者が自律的判断で紛争案件に使ったという他律的・事後的な事情を捉えて、提供者が非弁行為をしたと評価することは責任主義の観点からも困難である、と述べます。
ここで参照されているのが、ファイル共有ソフトWinnyの開発者の著作権法違反幇助が争われた最高裁平成23年12月19日決定です。同決定は、適法にも違法にも使える価値中立的なソフトについて、著作権侵害に利用される一般的可能性を認識・認容しつつ提供したというだけで直ちに幇助に当たると解すべきではなく、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な侵害を認識・認容しながら提供し、実際にその侵害が行われた場合や、例外的とはいえない範囲の者が侵害に利用する蓋然性が高いと認められる状況で、提供者もそれを認識・認容しながら提供し、実際に侵害が行われたときに限り幇助に当たる、と判示しました。新ガイドラインは、この枠組みを非弁行為の主体の判断に応用しています。
価値中立性を基礎づける3つの要素
では、どのようなサービスが「価値中立的」といえるのでしょうか。新ガイドラインは、分水嶺として次の要素を挙げます。

① サービスの設計、中核的機能、用いられている技術等が、法的紛議が現に顕在化している案件や、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件に関する法律事務に利用させることを目指したものでないこと。
② そうした案件に関する法律事務への利用に特化した、あるいは特化しているとまではいえなくても、そうした利用が念頭に置かれた特性・機能等を具有しないこと。
③ 紛争案件に法的助言を行うものではないことや弁護士への相談が必要になる旨の注意・警告を明示する、紛争案件への利用動向を把握したときは弁護士への相談を確実に案内する、といったガバナンス措置を講じ、利用者による不適切な利用を回避するための適切な体制を整備していること。
①②を満たすサービスは、設計・機能上、価値中立的なサービス提供といえます。そのうえで③の体制が整備されていれば、一般的には、例外的とはいえない範囲の利用者が紛争案件に使う事態を企図してサービスを提供しているとは評価されず、不適切利用の蓋然性を低減して価値中立性を補完するとともに、提供者が不適切利用の蓋然性が高いことを認識・認容していたという評価を否定する方向に働く、とされています。
注意すべきは、①②と③の関係です。新ガイドラインの注記(注11)は、①②は主にサービスの客観的性質に関わり、③は提供者の主観的認識と対応に関わるもので相互補完的だが、①②が満たされない場合、すなわちサービスの設計・機能が紛争案件の法律事務に特化している、あるいはそれを念頭に置いたものであるときは、③の措置を講じたとしてもそれだけで価値中立性が認められるわけではない、と明記しています。利用規約やディスクレーマーを整えれば何でも許される、という話ではないということです。
②にいう「念頭に置かれた特性・機能等」の意味も押さえておく必要があります。注記(注9)によれば、単にファイルをアップロードし、それについて自由にプロンプトを入力できるチャットボット機能の範囲を超えて、たとえば「事件性」のある案件を具体的に処理することを主たる用途とするUI(ユーザーインターフェース)を設けていたり、利用規約やUIでそうした用途を積極的に案内する表示を行ったりするなど、紛争案件への利用を積極的に容認・助長する特性・機能を持つ場合が想定されています。裏を返せば、ファイルをアップロードして自由に質問できる一般的なチャット型の機能自体は、それだけで②を満たさなくなるわけではありません。
「事件性」の判断基準
新ガイドラインは、「事件性」の有無について、最高裁平成22年決定を参考に「法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得るか否か」という基準を用いることを明らかにしています。令和5年ガイドラインの「争いがあり、あるいは疑義を有する」という表現に比べ、判断の目線がやや具体化されたといえます。具体的な当てはめは、契約の目的、当事者の関係、経緯や背景事情等を考慮して個別に判断されることに変わりはありません。
新ガイドラインの内容(3)抵触しないと考えられる例・抵触のおそれがある例
通常の企業法務の業務支援は価値中立的と評価し得る
新ガイドラインは、ビジネス分野のAI法務支援サービス一般について、次のような通常の業務に伴うサービスは、①②の要件を満たす限り、一般に価値中立的なサービス提供といい得るとしています。
- 文献その他のリサーチ・法的問題点の検討業務支援
- 書面作成・審査・管理業務支援
- 社内研修・経営判断の適法性確認等を含むガバナンス・リスク管理・コンプライアンス業務支援
- 内部通報事案の調査支援
- 新規業務スキームの構築・事業再編等業務支援
- 従業員・顧客・取引先等とのトラブルが発生した場合に会社としての対応方針を決定するための内部調査支援
- 株主総会・取締役会その他の会議業務支援
そのうえで、提供者が、当該サービスは紛争案件に法的助言を提供するものではなく、そうした案件については弁護士へ相談するよう確実に案内するなどのガバナンス措置を講じていれば、実際に利用者が紛争案件に使ってしまった場合でも、提供者がそれを現に認識・認容していたとはいえず、例外的とはいえない範囲の者が紛争案件に使う蓋然性が高いことを認識・認容していたともいえないときは、一般的には非弁行為を業として取り扱ったとは評価し難く、弁護士法72条に抵触するおそれはないと考えられる、と結論づけています。
興味深いのは、トラブル発生時の「内部調査支援」が、抵触しないと考えられる例に含まれている点です。従業員や取引先とトラブルが起きた局面は紛争に近いように見えますが、会社が自社の対応方針を決めるための内部的な調査を支援する限りでは、紛争当事者間の法律事務を処理するものではない、という整理でしょう。一方、注記(注13)は、「この条項には訴訟リスクが生じる可能性がある」といった一般的な法的リスクの指摘はそれ自体が直ちに紛争案件への法的助言に当たるものではないが、具体的な紛争案件に関連してなされる場合には該当し得ると注意を促しています。同じ出力でも、どの案件の文脈でなされるかで評価が変わり得るということです。
抵触のおそれがある例(設計・機能上)
反対に、サービスの設計・機能上、「事件性」のある案件の法律事務に利用させることを前提としていると評価され得る例として、新ガイドラインは次を挙げます。
- 法的紛議が現に顕在化している案件や、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件の処理を目指して設計されたサービス
- 弁護士の関与なしに、訴状、準備書面、答弁書、証拠説明書その他の裁判所への提出書面や、和解契約書等の法的紛議を前提とした対外使用書面を作成することに特化し、あるいはこうした作業への利用を念頭に置いた機能等を有するサービス
このようなサービスは、例外的とはいえない範囲の利用者が紛争案件に使うことを基本的に想定して提供されているといえ、実際に紛争案件に使われていると認められる場合には、およそ価値中立的とはいい難く、実質的に「事件性」のある案件に関する法律事務を取り扱っているものと同視せざるを得ない、とされています。
抵触のおそれがある例(用法上)
設計・機能上は価値中立的でも、用法上の事情で問題になる場合があります。新ガイドラインが挙げるのは、次のような状況です。
- 非弁活動を現に行っている、あるいは行おうとする者に対して、それを認識・認容しながらサービスを提供するケースや、サービスを「事件性」のある案件に継続的・反復的に利用しようとする者に対して、それを認識・認容しながら提供するケースなど、現に紛争案件の法律事務に利用されていること、またはその具体的可能性を認識・認容しながら提供し、実際にそう利用されていると認められるとき
- サービスの性質、客観的な利用状況、提供方法等に照らして、例外的とはいえない範囲の利用者が紛争案件の法律事務に利用する蓋然性が高いと認められる具体的な状況下で、それを認識・認容しながら提供を継続し、実際にそう利用されていると認められるとき

こうした状況にあるにもかかわらず、利用停止、警告の発出、弁護士への相談の案内、利用範囲の制限、利用規約違反の指摘・是正要求といった合理的な措置を講じることなく漫然とサービスを継続提供する場合には、提供形態・用法の点から、実質的に紛争案件の法律事務を取り扱っているものと評価せざるを得ない、とされています。
ここで重要なのは、注記が、提供者に積極的な監視義務を課すものではないと明言している点です。「利用動向を把握した際」とは、利用者からのフィードバック、問合せ、利用ログの分析等を通じて、紛争案件への利用やその具体的可能性を認識した場合をいいます。全利用者のプロンプトを常時監視せよという趣旨ではありませんが、把握した以上は放置してはならない、ということです。
参考:産業競争力強化法に基づく照会への回答
新ガイドライン公表の2日前、令和8年8月19日付で、法務省は産業競争力強化法7条2項(新事業活動に関する規制の適用の有無の確認)に基づく照会への回答を公表しています。自治体や医療機関向けの業務システムを開発・提供する事業者が、法令改正に伴うシステム改修のうち、改正内容の理解・業務運用の変更点の整理・要件定義・設計・実装・テストを生成AIに自動的に行わせる開発基盤(法令改正等の関連資料を読み込ませる作業とテスト結果の確認は照会者の従業員等が行う)を用いたサービスについて、弁護士法72条に違反しないかを照会した事案です。
法務省は、顧客の法律上の権利義務に関する争いや疑義の存在を前提とするものでなければ「訴訟事件…その他一般の法律事件」に関するものとはいい難く、また、法務業務支援とはおよそ無関係なシステム改修の一環として従前人が行っていた作業をAIに代替させているにすぎず、顧客に対して法律的見解を述べたり法律上の効果を発生・変更する事項を処理したりするものでなければ「鑑定…その他の法律事務」に該当するとはいい難い、との見解を示しました。法令改正を読み解く作業をAIにさせるからといって、それだけで非弁行為になるわけではないことを確認した事例として参考になります。
新ガイドラインの内容(4)ガバナンス上の留意・推奨事項
新ガイドラインの後半は、弁護士法72条とその趣旨を踏まえたサービス提供上の留意・推奨事項に充てられています。令和5年ガイドラインにはなかった部分であり、実務的にはこちらの方が日々の運用に直結します。
新ガイドラインは、現時点ではハルシネーション(AIがもっともらしい誤りを出力すること)や出力のバイアスを完全には払拭できないことを前提に、ガバナンスが機能せず品質や信頼性の担保に乏しいサービスが広く社会実装されれば、利用者の利益を損ない、ひいては弁護士法72条の保護法益(当事者等の利益、法律生活の公正かつ円滑な営み、法律秩序)が害される事態を招きかねない、という問題意識を示しています。そのうえで、次のような措置をサービスの性質・内容に応じて講じることを推奨しています。

AI事業者一般に共通する事項
個人情報保護法、著作権法その他の適用法令を遵守すること、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」等の政府指針で推奨されているリスク対策、バイアスへの配慮、プライバシー保護、セキュリティ対策、システムアーキテクチャの文書化、適切な目的で利用されているかの定期的検証などに自主的に取り組むことが求められます。
日本国内のインシデント対応窓口の設置
日本国内でサービスを提供する事業者は、弁護士法違反等のインシデントに対応する窓口を国内に設けることが推奨されています。外国法人についても、会社法上の日本における代表者の選任・外国会社の登記等の手続を履践することが必要とされ、クラウドサービスとして提供される場合でも、日本国内の利用者に継続的に提供するときは実質的な対応が可能な窓口を国内に設けることが推奨されています。海外発の汎用AIサービスを意識した記載といえます。
弁護士による設計・機能等への実質的関与
サービスが、ナレッジマネジメントやユーザーデータ内の検索・要約といった機能を超えて「鑑定」等にわたり得る機能――たとえば、個別事案の経緯・背景を法的に処理して具体的な契約書案や修正案を作成する機能、具体的事案に応じた法的リスクの有無・程度や対応の必要性を抽出・摘示する機能――を有する場合には、サービス及び機能設計において、日本の弁護士資格を有する者が監修あるいは実質的に関与していることが望ましいとされています。形式的な名義の貸与ではなく、機能要件策定・仕様レビュー・変更管理における検証や、表示・免責・利用者ガイダンスのリーガルチェックなどに具体的に関与することが想定されています。あわせて、RAG(外部データベースを検索・参照して生成する仕組み)や学習データ、出力の性質・制約を利用者に十分説明すること、最新の公式情報等信頼性の高い情報源が優先的に表示されるよう努めることも挙げられています。
誤認を与える表示の不使用と利用者の適格性確保
広告やサービス名等において、AIの出力が弁護士に代わる判断を提供するとか、法的結論の正確性を保証すると想起させる表現は厳に慎むべきとされています。そのうえで、次の3点が推奨されています。
第一に、利用申込時の合理的確認措置です。企業等の事業者向けに提供する場合、利用者の属性・利用目的について申込時の審査等を行い、非弁活動を企図している者への提供など、用法上弁護士法72条に違反する疑いのある提供は厳に行わないようにしなければならないとされています。
第二に、利用規約等への明記とガイダンスです。核心的な遵守事項として、AIは専門家に代わる最終判断をするものではなく回答は参考情報にすぎないこと、紛争案件に法的助言を提供する目的のサービスではないこと、紛争案件については弁護士に相談する必要があること、自己の業務にのみ利用し他人の法律事務を取り扱うためには使用しないこと、弁護士法その他の関係法令と利用規約を遵守することを、利用者に確実に説明することが重要とされています。これらを利用規約に規定したうえで、同意の取得、遵守の宣誓、事前のガイダンス・チュートリアル等を行うことが推奨されています。なお、注記(注18)によれば、企業グループ内で親会社の法務部門が子会社・関連会社の法務業務を支援するためにサービスを利用することは、通常「他人の法律事務を取り扱うため」には該当しないとされています。
第三に、重大な利用規約違反があった場合の利用停止措置です。虚偽申告をして非弁活動に利用した場合や、警告にもかかわらず違反利用を反復継続する場合などには、利用契約の解除等の措置を講じることが極めて重要とされています。また、利用者からのフィードバックや相談の場面で紛争案件への利用がうかがわれるときは、改めて核心的遵守事項を説明して誤認を解消するとともに、弁護士法27条(非弁護士との提携の禁止)および72条の「周旋」に当たらない範囲で、弁護士へ相談すべき旨を告げることが重要とされています。特定の弁護士に特定案件を継続的・反復的に紹介する行為は27条に抵触するおそれがある一方、弁護士への相談を一般的に案内することは問題ない、という整理です。
ディスクレーマーの明示とUI・機能設計上の配慮
紛争案件への法的助言を提供する目的のサービスではないこと、紛争案件については弁護士に相談する必要があることなどの利用上の留意事項(ディスクレーマー)を、利用者がプロンプトを入力する前の段階や出力結果等に明確に表示することが重要とされています。利用規約に書くだけでなく、画面表示やチュートリアルにも組み込むことで、利用者がどのような案件に使ってよいかを直感的に理解でき、誤認防止効果が高まるという考え方です。
UI・機能設計については、紛争案件への利用その他不適切な用途を誘発しない設計を行うとともに、紛争案件に利用されるおそれの高い機能(高リスク機能)には視覚的強調や警告文言の強化などの注意表示を強める、出力の根拠や参照元を表示できる場合は明示する、日本弁護士連合会の「ひまわりサーチ」等の弁護士検索サービスを案内するなどして弁護士への相談を促す仕組みを採用する、といった措置が推奨されています。
「出力制限」は見送り
新ガイドラインの策定過程では、訴状・準備書面・和解契約書など紛争を前提とした書面の出力に制限をかける「出力制限」を推奨事項とすることも検討されました。しかし、現在の技術水準では適法な出力に影響を及ぼさずに実効的・合理的な制限範囲を明確化することが困難であること、範囲を明示せずに推奨事項とすれば萎縮効果が大きいこと、実効性が低いわりに事業上の支障が大きいことなどから、今回は推奨事項として明記せず、事業者の自主的判断に任せ、今後の検討課題とされました。もっとも、出力制限が困難であるなら、利用者のリテラシー向上、不適切利用を把握した場合の注意・警告、悪質なケースでの利用停止などを確実に行うことが期待されるとも述べられています。
新ガイドラインによる実務上の影響
AI法務支援サービスを提供する事業者
最も直接的な影響を受けるのはリーガルテック事業者です。従来は、令和5年ガイドラインの機能別整理に照らして「この機能は鑑定に当たるか」を考える場面が多かったと思われますが、新ガイドラインのもとでは、「自社サービスは設計・機能上、価値中立的といえるか(①②)」「不適切利用を回避する体制があるか(③)」「紛争案件への利用を把握したときに動ける運用になっているか」という3つの観点からの点検が必要になります。特に、生成AIを組み込んだ対話型サービスについて、UIや利用規約、マーケティング上の表現が紛争案件への利用を積極的に案内するものになっていないかは、①②の評価に直結します。
汎用AIを提供する事業者
新ガイドラインは、汎用型AIの提供者が報酬を得て法律事務を行い得る機能を持つサービスを提供する場合も念頭に置いています。汎用AIは典型的な価値中立的サービスといえますが、紛争案件に利用できない旨のディスクレーマーや利用規約上の遵守事項、国内のインシデント対応窓口、利用停止措置などの推奨事項は、汎用AIの提供者にも関係します。APIを通じて法務サービス事業者に機能を提供する場合、利用目的・態様を認識し得るときはガイドラインの趣旨が及び得る点にも留意が必要です。
サービスを導入・利用する企業
利用者である企業は弁護士法72条の規制対象ではありませんが、新ガイドラインは利用者側にも一定の行動を求めています。利用規約で、自社の業務にのみ利用し他人の法律事務を取り扱うためには使わないこと、紛争案件については弁護士に相談することなどへの同意が求められる場面が増えると考えられます。社内の生成AI利用ガイドラインにおいても、現に紛争化している案件や紛争が避けられない案件についてはAIの出力をそのまま対外的に使わず、弁護士に相談するという運用を明記しておくことが、新ガイドラインの趣旨に沿った対応といえます。
弁護士・法律事務所
弁護士・弁護士法人が自らAI法務支援サービスを開発・提供する場合や、AIの出力結果を前提に弁護士の名義と責任で判断を行う場合(弁護士提供モデル)、弁護士が出力結果を自ら精査・修正して利用する場合(弁護士利用モデル)は、令和5年ガイドラインと同様、直ちに弁護士法72条に抵触するものではないとされています。ただし、こうした場合であっても、現状のAIのリスクを踏まえた適切なガバナンスを構築することが期待されると付記されています。
新ガイドラインを踏まえて事業者・企業がとるべき対応
短期:サービスと運用の棚卸し
AI法務支援サービスを提供する事業者は、まず自社サービスの設計・中核的機能・UI・利用規約・広告表現を棚卸しし、①②の要件に照らして「紛争案件の法律事務に特化し、またはそれを念頭に置いた特性・機能」と評価されかねない要素がないかを確認することが出発点になります。訴状や答弁書、和解契約書の作成をうたう機能やテンプレート、紛争対応を前面に出した訴求は、弁護士の関与がない限り、見直しの要否を検討する必要があります。
中期:ガバナンス体制の整備
次に、新ガイドラインの推奨事項に沿って、利用規約の改訂(核心的遵守事項の明記と同意取得)、プロンプト入力前・出力時のディスクレーマー表示、申込時の属性・利用目的の確認、国内インシデント対応窓口の設置、紛争案件への利用を把握した場合の警告・利用停止フロー、弁護士への相談を案内する仕組み、「鑑定」にわたり得る機能がある場合の弁護士の実質的関与、といった体制を整備していくことになります。これらは、価値中立性を補完し、提供者が不適切利用の蓋然性を認識・認容していなかったことを示す事情にもなり得るため、実施したことを記録に残しておく意味もあります。
今後:有識者検討会の動向
ロードマップによれば、令和8年度中に有識者検討会が立ち上がり、令和10年度中を目途に、AI等を活用した法務業務とその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方について取りまとめが行われる予定です。現行の弁護士法やガイドラインの限界、司法への影響を踏まえた検討がなされるとされており、ガイドラインの解釈にとどまらない制度面の議論に発展する可能性があります。新ガイドライン自体も、技術の進展や法令・判例実務の動向を踏まえて必要に応じて見直すとされています。

AI法務支援サービスと弁護士法72条――新ガイドラインが引いた線と残した課題
新ガイドラインが引いた線は、比較的明快です。通常の企業法務の業務支援を目的とし、紛争案件の法律事務に特化せず、それを念頭に置いた機能も持たないサービスは、価値中立的なサービス提供として、ガバナンス措置を整えている限り、利用者が結果的に紛争案件に使ったというだけでは提供者が非弁行為の責任を問われることはない。他方で、紛争案件の処理を目指して設計されたサービスや、弁護士の関与なしに訴状・和解契約書等の作成に特化したサービスは、利用規約を整えても価値中立性は認められない。そして、設計上は中立でも、紛争案件への利用を把握しながら放置すれば、用法上の問題が生じる。この3段構えの整理は、対話型生成AIの時代に令和5年ガイドラインが答えきれなかった問いに、判例の枠組みを借りて一応の答えを出したものといえます。
一方で、新ガイドラインは出力制限を見送り、「事件性」の具体的な当てはめは引き続き個別判断に委ね、消費者向けサービスは射程の中心から外しています。非弁行為該当性の最終判断は裁判所に委ねられるという留保も繰り返し置かれています。ルールメイキングそのものは、これから始まる有識者検討会に持ち越されました。AI法務支援サービスを提供する事業者も、それを使う企業も、新ガイドラインを「ここまでは大丈夫」という安全地帯の地図として読むと同時に、自社の設計や運用が本当にその地図の内側にあるかを、個別の機能・表示・運用ごとに確かめていく必要があります。判断に迷う機能や表示があれば、弁護士に相談してみることをお勧めします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。




