販売店契約書、販売代理店契約書はそれぞれ違うもの?商流に応じた使い分けとは?

企業法務全般

メーカーなどの供給者が販売チャネルを広げるとき、契約書の表題には「販売店契約」「代理店契約」「販売代理店契約」「特約店契約」など、さまざまな名称が使われます。販売代理店契約を結ぶ場面でまず押さえておきたいのは、これらの名称は法律で定義されたものではなく、契約の中身が「売買」なのか「代理・媒介」なのかによって、当事者の権利義務が大きく変わるという点です。

本記事では、販売店契約と販売代理店契約の法的な違い、在庫や代金回収のリスクの所在、独占禁止法上の注意点、商流に応じた使い分け、契約書で定めておきたい条項を整理します。

販売店契約と販売代理店契約の基本構造の違い

販売店契約は「買い取って再販売する」契約

販売店契約(ディストリビューター契約)は、販売店が供給者から商品を買い取り、自分の名前と計算で顧客に再販売する契約です。供給者と販売店の間、販売店と顧客の間に、それぞれ売買契約(民法555条)が成立します。顧客に対する売主は販売店であり、販売店の利益は仕入価格と販売価格の差額(マージン)になります。

代理店契約は「供給者の取引を代理・媒介する」契約

これに対し、代理店契約(エージェント契約)では、売買契約は供給者と顧客の間に直接成立します。代理店は、供給者に代わって顧客と契約を結ぶ(代理)か、供給者と顧客の間を取り持って契約の成立に尽力する(媒介)立場にとどまり、対価として手数料(コミッション)を受け取ります。

代理の場合、代理店が権限の範囲内で供給者のためにすることを示して行った意思表示は、供給者に直接効力が生じます(民法99条1項)。媒介の場合、代理店には契約を結ぶ権限がなく、最終的に契約するかどうかは供給者が決めます。

名称ではなく実態で判断される

実務では、「販売代理店契約」という表題でありながら、中身は買取り・再販売型(つまり販売店契約)というケースが少なくありません。反対に、「特約店」「取次店」と呼ばれていても、実態は媒介というケースもあります。契約の性質は表題ではなく条項の内容と取引の実態で判断されますので、「誰が顧客に対する売主になるのか」「売れ残りや代金未回収の損失を誰が負担するのか」を条項から読み取ることが出発点になります。

なお、両者の中間的な形として、自己の名前で、しかし他人(供給者)の計算で販売する「取次ぎ」があります。これを業とする者は商法上「問屋(といや)」と呼ばれ(商法551条)、委託販売はこの類型に当たることが多いといえます。

法律上の位置づけ—商法の「代理商」と売買のルール

代理店には商法・会社法の代理商の規定が関係する

代理・媒介型の代理店は、商法上の「代理商」に当たる場合があります。代理商とは、商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする者で、その商人の使用人でないものをいいます(商法27条。供給者が会社の場合は会社法16条以下に同様の規定があります)。契約締結の代理をする者を締約代理商、媒介をする者を媒介代理商と呼ぶのが一般的です。

代理商については、次のような規定が置かれています。

  • 取引の代理又は媒介をしたときは、遅滞なく本人に通知する義務(商法27条)
  • 本人の許可なく、本人の営業の部類に属する取引を自己又は第三者のために行うこと等の禁止(商法28条)
  • 物品の販売又はその媒介の委託を受けた代理商が、契約不適合の通知など売買に関する通知を受ける権限(商法29条)
  • 契約期間を定めなかった場合の2か月前の予告による解除と、やむを得ない事由がある場合の即時解除(商法30条)
  • 代理・媒介によって生じた債権についての留置権(商法31条)

これらは契約書に定めがなくても適用されうるルールですので、代理店契約を作成・確認するときは、これらと異なる取決めをするのかどうかを意識しておく必要があります。なお、特定の商人のためではなく、不特定の他人間の商行為の媒介を業とする者は「仲立人」(商法543条)であり、代理商とは区別されます。

販売店には売買のルールが適用される

販売店契約には、代理商のような専用の規定はありません。供給者と販売店の間の個々の取引は売買ですので、民法の売買の規定や、商人間の売買に関する商法の規定が適用されます。たとえば商人間の売買では、買主は目的物を受領したら遅滞なく検査し、契約不適合を発見したときは直ちに売主に通知しなければ、その不適合を理由とする請求ができなくなります(商法526条)。検査の方法・期間や不適合があった場合の処理は、販売店契約(基本契約)で具体的に定めておくのが通常です。

在庫・代金回収・価格決定権—リスクと収益は誰にあるか

在庫リスク

販売店契約では、販売店が商品を買い取るため、売れ残りのリスクは原則として販売店が負います。供給者にとっては、販売店に納品した時点で売上が確定する点がメリットです。代理店契約では、商品は供給者のものであり続けるため、在庫を抱えるリスクは供給者側に残ります。

代金回収リスク

販売店契約では、顧客からの代金回収は販売店の仕事であり、顧客が支払わなくても、販売店は供給者に仕入代金を支払わなければなりません。供給者が負うのは販売店1社に対する信用リスクです。

代理店契約では、売主は供給者ですから、顧客の不払いによる損失は原則として供給者が負います。代理店に代金の受領や回収事務を任せる場合は、受領権限の有無、預かった代金の引渡時期、顧客が支払わなかった場合の手数料の扱いなどを契約で定めておくことになります。

価格決定権

販売店は自分の商品として売るため、顧客への販売価格は販売店が自由に決めるのが原則です。供給者が販売店の販売価格を拘束すると、後で述べるとおり独占禁止法上の問題が生じます。

代理店契約では、売主は供給者ですので、顧客に対する販売価格や取引条件は供給者が決めることができます。代理店は供給者が定めた条件で代理又は媒介を行います。

収益と会計処理

販売店の収益は売買差益、代理店の収益は手数料です。売上を総額で計上するか手数料部分のみを計上するかといった会計・税務上の取扱いは、契約の名称ではなく、在庫リスクや価格決定権の所在などの実態に基づいて判断されますので、会計・税務の専門家に確認しておくと安心です。

独占禁止法上の注意点—再販売価格・テリトリー・競合品

販売店契約・代理店契約では、価格、販売地域、競合品の取扱いについて条項を置くことが多く、独占禁止法との関係を確認しておく必要があります。公正取引委員会は「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日制定、最終改正令和8年7月8日。以下「指針」といいます。)で考え方を示しています。

再販売価格の拘束

自己の供給する商品を購入する相手方に対し、正当な理由がないのに、その販売価格を定めて維持させるなど販売価格の自由な決定を拘束することは、不公正な取引方法に当たり(独占禁止法2条9項4号)、禁止されています(同法19条)。違反行為は排除措置命令の対象となり(同法20条)、一定期間内に繰り返した場合には課徴金の対象にもなります(同法20条の5)。

指針も、事業者が流通業者の販売価格を拘束することは原則として違法となるとしています。一方で、希望小売価格や建値は、流通業者に単なる参考として示されているものである限り、それ自体は問題とならないとされています。

注意したいのは、「代理店」という名称にすれば価格を指定できるわけではないという点です。指針は、直接の取引先が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみて供給者が販売していると認められる場合には、供給者が価格を指示しても通常違法とはならないとし、その例として、①委託販売であって、取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合、②メーカーとユーザーが直接価格交渉をして決めた価格で卸売業者に納入を指示する場合で、卸売業者が物流・代金回収の責任を負い手数料を受け取るにとどまるとき、③メーカーが、流通業者においてユーザーへの販売に至るまでに生じる危険及び費用を自ら負担する場合、を挙げています(2026年10月時点の指針による)。売れ残りや代金回収不能のリスクを相手方が負う買取り型の取引で価格を拘束すれば、表題が「代理店契約」であっても問題になりえます。

販売地域の制限(テリトリー制)

指針は、販売地域に関する制限を、責任地域制(一定地域での積極的な販売活動の義務付け)、販売拠点制、厳格な地域制限(地域外での販売の制限)、地域外顧客への受動的販売の制限(地域外の顧客からの求めに応じた販売の制限)に分けています。責任地域制や販売拠点制は、後二者に当たらない限り通常違法とはならないとされています。厳格な地域制限は、市場における有力な事業者(シェア20%超が一応の目安)が行い、価格維持効果が生じる場合に違法となるとされています。

競合品の取扱制限

販売店・代理店に競合品を扱わせない条項についても、指針は、市場における有力な事業者が行い、これによって新規参入者や既存の競争者が代替的な取引先を容易に確保できなくなるなどの市場閉鎖効果が生じる場合には違法となるとしています。また、国内市場全域の一手販売権を与える総代理店契約については、契約終了後の競合品の取扱制限は原則として問題となる(秘密情報の流用防止など正当な理由があり必要な範囲内である場合を除く)といった考え方が示されています。

商流に応じた使い分け—どちらの形が合うか

販売店契約が向いている場面

次のような場合は、買取り・再販売型の販売店契約がなじみます。

  • 販売店が在庫を持ち、地域の顧客に即納する必要がある商品
  • 販売店が自社のサービス(設置、保守、他社製品との組合せなど)と合わせて販売する場合
  • 供給者が多数の顧客に対する与信管理や代金回収を自社で行うことが難しい場合
  • 海外など、供給者自身が現地で販売活動や顧客対応を行うことが難しい市場

供給者から見ると、販売価格や顧客との関係を直接コントロールしにくくなる点は理解しておく必要があります。

代理店契約が向いている場面

次のような場合は、代理・媒介型の代理店契約がなじみます。

  • 顧客ごとに仕様や価格を決める受注生産品・高額な設備など、供給者が顧客と直接契約する必要がある商品
  • 契約条件や価格を供給者が統一的に管理したいサービス(継続課金型のサービスなど)
  • 供給者が顧客情報を自ら保有し、契約後のサポートも直接行いたい場合
  • 代理店に在庫負担をさせずに、営業活動だけを委ねたい場合

代理店が扱う商品・サービスによっては、保険業法、宅地建物取引業法、金融商品取引法など、媒介・代理を行う者に登録や許可を求める業法が適用されることがあります。代理店契約を検討する際は、対象となる取引に業法上の規制がないかを先に確認しておく必要があります。

併用する場合

地域や顧客層、商品ごとに形態を使い分けることもあります。たとえば、大口顧客は供給者が直接販売し、その他は販売店経由とする、国内は代理店、海外は販売店とする、といった設計です。この場合は、直販先と販売店・代理店の担当範囲が重ならないよう、対象顧客・地域の定義を契約で明確にしておくことが重要です。

契約書で定めておきたい主な条項

両者に共通する条項

  • 対象商品・サービスの範囲
  • 独占か非独占か、販売地域・対象顧客の範囲、供給者自身の直販の可否
  • 競合品の取扱い(独占禁止法上の考え方は前述のとおり)
  • 商標・販促物の使用条件
  • 報告義務(販売実績、市場情報、クレーム情報)
  • 秘密保持、契約期間・更新・中途解約、契約終了時の処理、準拠法・紛争解決

独占権を与える場合は、最低購入数量や最低販売目標を定め、未達の場合に非独占への切替えや解約ができるようにしておくことがよく行われます。

販売店契約に特有の条項

  • 個別契約の成立方法(発注・受注の手続)、仕入価格と支払条件
  • 引渡し、検査、所有権・危険の移転時期
  • 契約不適合があった場合の対応、製造物責任やリコールが生じた場合の役割分担
  • 返品の可否と条件、最低購入数量
  • 販売価格の取扱い(拘束と受け取られる条項になっていないか)

代理店契約に特有の条項

  • 代理店の権限(契約締結の代理まで認めるのか、媒介にとどまるのか)
  • 手数料の料率、計算の基礎(受注額か入金額か)、発生時期、解約・返金時の取扱い
  • 代金の受領権限と、受領した代金の引渡方法
  • 顧客情報の帰属と個人情報の取扱い
  • 契約終了後に成立した取引についての手数料の有無

代理店に契約締結の権限を与えていない場合でも、代理店が権限があるかのように振る舞い、顧客がそれを信じたときは、表見代理(民法109条以下)などにより供給者が責任を問われる可能性があります。権限の範囲は契約書で明確にし、名刺や販促資料の表示にも反映させておくことが望まれます。

取適法(旧下請法)・フリーランス法との関係

令和8年1月1日に、下請代金支払遅延等防止法は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)に改められました。同法の対象は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託であり(同法2条)、資本金又は従業員数の基準を満たす事業者間の取引に適用されます。

販売店が供給者の規格品・標準品を仕入れる取引について、公正取引委員会は、原則として仕様等を指定していないため同法上の「委託」にならず、製造委託に該当しないとしています。ただし、販売店が自社の刻印やラベルの貼付など仕様を指定して製造を依頼する場合や、プライベートブランド商品の製造を委託する場合は製造委託に該当しうるため、販売店が委託事業者として同法の義務(発注内容の明示、受領後60日以内の支払期日の設定など)を負うことがあります。

また、代理店が従業員を使用しない個人や一人会社である場合には、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス法)の適用が問題となりえます。相手方の属性と取引内容に応じて、適用関係を個別に確認することをお勧めします。

契約を終了するときの注意点

継続的な契約は「契約書どおり」に終了できるとは限らない

販売店契約・代理店契約は、長期間継続することを前提に、販売店・代理店側が人員や設備に投資していることが少なくありません。そのため、契約書に「○か月前の通知で解約できる」「期間満了時に更新しないことができる」と定めていても、取引の継続期間、相手方の依存度や投資の状況、解消の理由などによっては、解約や更新拒絶の効力が争われたり、相当の予告期間や損失の補償が問題とされたりすることがあります。裁判例の判断は事案ごとに分かれていますので、長く続いた契約を解消する場合は、十分な予告期間を置く、解消の理由を記録に残すなど、慎重に進めるのが安全です。

代理商に当たる代理店との契約では、前述の商法30条(会社法19条)も関係します。

終了時に決めておくべき事項

販売店契約では、終了時点で販売店が持っている在庫を供給者が買い戻すのか、一定期間は販売を続けられるのかを決めておく必要があります。あわせて、商標・販促物の使用停止、顧客への保守・保証対応の引継ぎ、未履行の個別契約の扱いも定めておきます。

代理店契約では、終了前に代理店が獲得した案件が終了後に成約した場合の手数料、顧客情報の返還・消去、顧客への通知方法が主な論点になります。

海外の販売店・代理店と契約する場合

海外の相手方と契約する場合は、準拠法や紛争解決方法(裁判か仲裁か)の定めに加え、現地の法令を確認しておく必要があります。たとえばEUには、自営の代理商(commercialagent)に関する理事会指令(86/653/EEC)があり、加盟国の国内法により、契約終了時に代理商が補償等を請求できる制度が設けられています。このほかにも、現地の代理店や販売店を保護する法令を持つ国・地域があり、契約書で準拠法を日本法と定めていても適用を免れない場合があります。現地法の内容は国ごとに異なりますので、現地の専門家に確認することが望まれます。

販売店契約と販売代理店契約は「誰が売主としてリスクを負うか」で選ぶ

販売店契約と販売代理店契約の違いは、名称ではなく、売買(買取り・再販売)か代理・媒介かという法的構造にあります。そして、その構造によって、在庫と代金回収のリスクを誰が負うのか、販売価格を誰が決められるのか、どの法律のルールが適用されるのかが決まります。

契約形態を選ぶときは、「供給者が顧客との契約条件や価格を自ら管理したいのか」「販売店に在庫と与信のリスクを引き受けてもらいたいのか」という商流上の希望を先に整理し、それに合った構造を選んだうえで、表題と条項の内容を一致させることが大切です。買取り型でありながら価格を指定する、媒介型でありながら代理店に売れ残りの負担を求める、といった「いいとこ取り」の設計は、独占禁止法上の問題や当事者間の紛争の原因になりやすい点に注意が必要です。

販売店契約・販売代理店契約の作成や見直し、契約の解消について判断に迷う点がある場合は、弁護士などの専門家に相談してみることをお勧めします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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