AI契約審査サービスとの付き合い方:書いてあることと、起きうること

06 契約審査・レビューの方法

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:AIレビューの結果が回ってきた

事業部門から、AIのレビュー結果が付いた契約書案が回ってくる。社内でAI契約審査サービスの導入を検討することになった。契約審査の現場では、こうした場面が珍しくなくなりました。

契約審査AIを触って使い物にならないと判断した人もいるかもしれませんが、どこでどのように使うかという利用方法と、今後の技術の発展が重要です(注1)。現在提供されているサービスに法務担当者に代わって契約審査業務を行えるものはなく、担当者による審査業務をサポートするものです(注2)。

AIが得意なのは契約書に書いてあることの処理で、苦手なのは、この取引で何が起きうるかの想像です。


二 何を見るか:何を任せ、何を任せないか

1 任せられる:書いてあることの処理

AI契約審査サービスは、「リスク指摘型」と「自社ノウハウ参照型」に大別できます(注2)。リスク指摘型は、ベンダー側で用意された基準で、AIが不利と判断した記載や欠落している条項を洗い出し、リスクを網羅的に発見できるもので、一人法務の会社や専任の法務担当者がいない会社に向きます(注2)。表記ゆれの一括修正も便利な機能です(注2)。

別稿「抜けている条項を見つける技術:チェックリストと、取引からの逆算」では、欠落を探す方法を2つ挙げました。このうち、ある条項の一覧と照らし合わせるチェックリストの方法は、AIに任せられる部分です。定義語の使い方がそろっているか、条項番号の参照がずれていないかといった、文書の中だけで答えが出る確認も同じです。

テクノロジーの活用方法は、時間さえかければ自分でもできることをAIなどにやらせて効率化する場合と、自分ではできないことをAIなどにやってもらう場合に分けられ、前者であれば問題はなく、むしろ積極的に活用していくべきです(注3)。

2 任せられない:この取引で何が危ないか

個別具体性の強いテイラーメイドの契約についてAIで契約レビューをすることには、一定の限界があります(注1)。AIにできるのは一般論の審査にすぎず、それを超えた個別具体的な審査は法務担当者が引き続き行うことになります。目の前の案件のすべてのデータをAIに入力することはできないからです(注1)。

一般論を超えた判断の例としては、システム開発案件で受託者にプロジェクト・マネジメントをしっかり行ってもらう必要があり、自社もこれに協力しなければならないといった個別事情や、自社の交渉力、自社側のリソース、依頼部門が重視するポイントがあります(注1)。開発の目的が新規ビジネスなら、そのビジネスモデルの適法性を考えることも必要かもしれません(注1)。

チェックリストの反対側にある、取引の流れをたどって必要な条項を逆算する方法は、この種の情報がなければ使えません。ここは任せられない部分です。企業法務1年目の教科書も、自分ではできないことをAIにやってもらう使い方は問題がある場合が多いとし、次のように書いています(注3)。

自ら正確性の検証を行うことができないものを,そのまま成果物として用いるのは法律家の仕事とはいいがたいでしょう。(注3)

3 グレーゾーン:修正案の文言

迷うのは、AIが示す修正案の文言です。

自社ノウハウ参照型では、自社ひな型や条項ごとの審査観点を登録しておくことで、推奨条文との差分からリスク条項を検知したり、修正案を表示したりできます(注2)。ベンダーの標準的な基準でレビューすると自社の基準と異なって不満だという声もありますが、多くのサービスはいわゆるプレイブックなどの自社基準によるレビューが可能です(注1)。

法務省が2023年に公表したガイドラインは、サービス提供者と弁護士法72条との関係という別の観点からですが、契約審査支援サービスの機能を分けています。登録されたひな形との相違部分を字句の意味内容と無関係に表示するにとどまるものは通常「鑑定」に当たらない一方、個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度を表示するもの、個別の事案の経緯や背景事情などを法的に処理した具体的な修正案を表示するものは当たりうる、としています(注4)。文言の比較と、事案に応じた判断との間に線を引いている点は、任せる・任せないの線とほぼ重なります。

修正案の文言は、AIの案を下書きとして使い、その取引に合うかどうかは人が決める。これがグレーゾーンの扱い方です。


三 直し方:AIの出力を出発点にする

1 1件の審査での使い方

AIを使う場合の手順は、次のように組み立てられます。

順序やること誰が
①依頼部門から取引の中身と重視するポイントを聞く人
②欠落条項・不利な条項・表記ゆれを洗い出させるAI
③②の指摘を一つずつ採るか捨てるか決める人
④取引の流れから、AIが出さない論点を足す人
⑤修正を入れた後、条項どうしが矛盾していないか確かめる人(AIの補助可)

⑤については、AIの修正提案は一般論を示すにすぎないので、そのうちどれを受け入れるか、その結果として全体の整合性が取れているかを確認する能力が、契約審査で重要になります(注1)。修正の結果として起きる不整合には、報酬条項に「税込」とだけ加筆して税抜とする別の条項を直さない、「請負」を「準委任」に変えて検収条項や契約不適合責任条項を残す、といったものがあります(注1)。

事案によっては、AIに依頼すべきだったのはビジネスモデルの適法性に関する情報の提供かもしれず、何をAIに依頼するかを決めるのは法務担当者です(注1)。人が経験を通じて仮説を立て、それをAIに問うことでAIの本領が発揮されるのであって、AIはできる人をさらに伸ばすものといえます(注1)。

2 組織として導入するとき

AI契約審査サービスを導入したある会社は、自社の審査観点をベースに効率的に審査できること、在宅勤務下で経験の浅いメンバーが組織のノウハウにアクセスできることを基準に、トライアルを経て自社ノウハウ参照型のサービスを導入しました(注2)。活用のポイントは、依頼の多い類型について審査案件の7割以上で使えるようひな型と審査観点を導入前から用意しておくこと、条項ごとに複数の修正案とコメントを用意しておくこと、登録した観点の更新責任者を決めて定期的に更新する仕組みを運用に組み込むことの3点です(注2)。導入の目的とAIの役割を明確にすることも大切で、その前提として自社ノウハウの言語化と蓄積が重要です(注2)。

どちらの型が合うかは、自社の審査基準がどこまで言葉になっているかで決まります。基準が言葉になっていない会社がサービスを入れても、使えるのはベンダーの一般論だけです。


四 相手方への説明のしかた

AIの指摘は、そのままでは修正理由になりません。相手方向けコメントでは、当社雛形の文言だからといった自社の論理ではなく、相手の立場からもやむを得ないと理解してもらえる説明を試みるべきです(注1)。「AIがリスクと判定した」も自社の論理の一種です。修正理由は、別稿「修正案の作り方と修正理由の書き方:法的根拠・取引上の実害・代替案」の3層で書き直します。

ファイルの扱いにも注意が要ります。内部コメント付きのファイルを依頼部門が相手方に送ってしまい、こちらの手の内が明らかになるトラブルは、実務上頻発しています(注1)。AIが付けた指摘コメントも、残したまま送れば同じことが起こります。


五 どこまで直すか:採用の最終判断は人に残す

修正案で交渉した結果を具体的状況を踏まえて受け入れるかどうか判断するのは引き続き人間の仕事であり、リスク管理には依頼部門の責任者やさらに上のレベルでのリスク受容の意思決定が必要です(注1)。

法務省が2026年8月に公表したガイドラインも、現状のAIにはハルシネーションや出力のバイアスが完全に払拭できない技術的限界があるとしたうえで(注5)、サービス提供者に対し、AIは弁護士等の専門家に代わる最終的な判断をするものではなく回答はあくまで参考情報にすぎないこと、法的紛議が顕在化している案件などでは弁護士に相談しその判断を仰ぐ必要があることを、利用者に確実に説明することが重要であるとしています(注5)。

AIの修正案を採用してよいのは、その理由を自分の言葉で説明できるときに限られます。テクノロジーを使う選択肢が増えたことで、これまで意識しなくても自然と身についた能力が、意識的に研鑽を積まないと身につかなくなる可能性が高いと考えられます(注3)。経験の浅い担当者にAIを使わせるときほど、③と④を自分でやらせることに意味があります。

本稿で扱わなかったこと

この章のほかの10本は、AIに任せられない部分を一つずつ扱っています。依頼を受け付けて資料をそろえること(「依頼を受け付ける:何を出してもらうか」)、取引の中身を聞き出すこと(「事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか」)、自社の立場で読むこと(「自社の立場で読み替える」)、手順を決めること(「レビューの手順を型にする」)、ないものを探すこと(「抜けている条項を見つける技術:チェックリストと、取引からの逆算」)、理由を書くこと(「修正案の作り方と修正理由の書き方:法的根拠・取引上の実害・代替案」)、事業部門に伝えること(「事業部門への説明:法的リスクと事業判断を分けて伝える」)、直す範囲を決めること(「どこまで直すか:譲れない・譲れる・どちらでもよい」)、送る前にファイルを確かめること(「Wordの変更履歴・比較を使ったレビュー実務:返す前に消すもの、残すもの」)、最終版の差分を取ること(「最終案の審査と、締結後に法務がやること:差分を取るのが最後の仕事」)です。AIサービスを提供する側と弁護士法72条との関係は、本稿では扱っていません。


参考文献等

註

(注1)松尾剛行(コメント:竹井大輔)「連載 AI時代の法務の基礎 第3回 契約審査」NBL1316号(2026)46〜50頁
(注2)照山浩由「『AI契約審査サービス』導入・活用のポイント」ビジネス法務2022年8月号56〜57頁
(注3)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)19〜20頁
(注4)法務省大臣官房司法法制部「[AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について](https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf)」(2023年8月)3〜5頁
(注5)法務省大臣官房司法法制部「[ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について](https://www.moj.go.jp/content/001469040.pdf)」(2026年8月21日)14頁、17〜18頁


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