一 この条項は何をしているのか
1 書かなければ、口頭でも変更できてしまう
日本法のもとでは、契約は当事者の意思の合致によって成立するので、書面による合意という手続をとる必要はありません。契約の修正や変更についても、合意さえ成立すれば書面によらずに効力が生じるのが当然です(注1)。
そのため、締結までに多くの労力とコストをかけた契約でも、締結後に口頭で容易に内容を変えられることになります。これは各当事者にとって望ましくないうえ、契約に従った履行がされているかが明らかにならないリスクも生みます。変更の方法を書面による合意に限る条項には、変更を慎重に行うことを担保し、変更の内容を当事者間で明確にするという意義があります(注1)。
口頭の合意でどこまで契約が変わるかという枠組みは、別稿「口頭の合意で契約は変わるか:担当者の約束と修正制限条項」で扱いました。本稿は、その変更を縛る条項の書き方を扱います。
2 条項で縛っても、それを変更する合意はできる
この条項の限界を、先に確認しておきます。
書面によらない変更は無効とする条項があっても、その効力が全面的に認められるかは疑問です(注2)。当事者が口頭で合意解約し、口頭で新しい契約を結び直した場合に、その新しい契約の効力まで否定するのは困難だからです(注2)。
一方で、条項は、口頭での合意の成立を認めない方向で考慮される有力な一つの事情になります(注2)。この条項は、変更を封じる防壁として働くわけではありません。変更の合意があったと主張されたときに、それを否定する材料として働きます。条項の書き方は、この働き方から逆算して決めます。
二 よくある条項例
いちばん短い型です。
第○条(契約内容の変更) 本契約の内容は,本契約の当事者の書面による合意によってのみ変更することができる。(注3)
署名者まで書く型もあります。
第○条 本契約は、甲(売主)乙(買主)の代表者の記名押印のある文書によってのみ変更することができる。(注4)
「効力を有さない」と、効果の側から書く型です。
第〇条(契約の修正・変更) 本契約の規定の修正または変更は、すべての当事者における書面による合意がなければ効力を有さない。(注1)
三 問題点
1 「書面」に電子メールや電子契約が含まれるか
1つ目の型も3つ目の型も、「書面」としか書いていません。変更の合意を電子契約サービスで締結した場合や、双方の代表者が電子メールで合意した場合に、それが「書面」に当たるのかは、条項からは読み取れません。
電子契約サービスで契約を締結することが多くなっていることから、書面に加えて電磁的記録の方法でも変更できる旨を定めておく条項も考えられます。もっとも、修正制限条項が置かれることの多いM&A契約などは書面で締結されることが多いため、電磁的記録の方法を明記した条項例はあまりみられないのが現状です(注5)。
自社が電子契約で締結している契約に「書面による」とだけ書いた修正制限条項があると、変更も紙でなければならないのかという疑問が残ります。電子メールによる意思表示がいつ届いたことになるかは、別稿「電磁的方法による通知:メールは、いつ届いたことになるのか」で扱いました。
2 誰の署名が必要か決まっていない
書面の形式について、単に書面によるとする定め方と、各当事者の代表者が記名押印または署名した書面によるとする定め方があります(注6)。後者には、締結後に担当者どうしの力関係などによって現場レベルで契約の修正が行われることを防ぐ効果があります(注6)。
2つ目の型の目的も、取引基本契約締結後の個別契約締結の段階で、現場の力関係によって現場レベルで押し切られ、相手方有利の契約内容に変更されるという事態を防ぐことにあります(注4)。
署名者の定めが判断の理由に挙げられた裁判例があります。特許ライセンス契約に、書面によって、かつ両当事者を代表する正当な権限のある役員によって正当に執行された場合を除き、いかなる修正も有効でないという条項が置かれていた事案で、東京地判平成18年12月25日は、書簡の内容が契約を見直す用意を述べたにすぎないとしたうえで、さらに、代表する権限のある役員ではない担当部長が相手方の一社員に送った書簡では、契約を修正する合意が成立したとは認め難いとしました(注7)。1つ目の型のように「書面」とだけ書いてあれば、担当部長の署名がある書簡も書面ではあります。
3 運用で変えているのに、条項だけが残っている
条項を置いた契約でも、現場では契約書と違う運用が始まることがあります。
契約書で取り決めたとおりに履行することが難しくなったとき、担当者は双方とも異議を述べないのが通常です。しかし、その認識は契約どおりに行動しないことを認容しているだけで、契約を修正するという認識は多くありません。契約内容を修正しないまま契約書と別の行動が続くことは、実質的に契約が修正されていると評価されるおそれがあります(注8)。年月が経つにつれて当初と異なる条件が慣行になることもありますが、それで契約条件が変更されたといえるかは疑問なので、面倒でも書面で変更契約を締結すべきです(注3)。
条項があるのに、条項が定める手続を一度も踏まずに運用が変わっていれば、条項は一の2で見た「有力な一つの事情」としての重みを失っていきます。
四 改善例
第○条(変更等) 1 本契約の変更、修正又は本契約に基づく権利の放棄若しくは義務の免除は、甲及び乙の代表者が記名押印若しくは署名した書面、又は甲及び乙の代表者が電子署名を付した電磁的記録による合意によらなければ、その効力を生じない。 2 前項の書面又は電磁的記録には、変更する条項、変更後の内容及び変更の効力が生じる日を明記する。 3 第1項の合意により変更されない本契約の条項は、従前のとおり効力を有する。
1項は、三の1と三の2への手当てです。署名者を代表者に限り、電子契約で変更する道を明記しました。権利の放棄と義務の免除を対象に含めたのは、修正・変更に加えて権利の放棄・義務の免除も、これを行う当事者の代表者が記名押印または署名した書面によらない限り効力を生じないとする記載例があるためです(注9)。本稿の条項例は、放棄・免除についても双方の代表者による合意の形にそろえています。請求しないことが続いた場面で、放棄したと主張されるのを防ぎます。
2項は、変更の効力が生じる日付を明確に表示した書面であることを求める定め方があることに沿ったものです(注9)。
3項は、変更の覚書にどの点を変更するのかを具体的に記載し、その他の点は変更されない旨も記載する、という考え方に沿って、それを本体の条項に置いたものです(注10)。権限ある者の記名押印のある文書でしか変更できないとすることで、変更されたかどうかが明確になり、変更の内容も書面で特定され、いつから変更されたかでも争いがなくなります(注10)。
五 書き分けの分岐
| 場面 | 書き方 |
|---|---|
| 取引基本契約で、個別契約を担当者レベルで頻繁に結ぶ | 基本契約の変更は代表者の書面に限る。個別契約で基本契約と違う条件を定めたときにどちらを優先するかを別に書く |
| ライセンス契約、M&A契約など、締結までの交渉が重い契約 | 代表者の署名と、変更の効力発生日の明記まで求める |
| 電子契約で締結している、または変更を電子契約で行う予定がある | 「書面」に加えて電磁的記録による合意を明記する |
| 相手方のひな型が「書面による」だけ | 署名者(代表者又はその指定する者)を足すよう求める。自社にとっても、相手方担当者の約束で契約が動くのを防げる |
1行目について、個別契約を代表者以外にも締結できるようにした場合に、基本契約と個別契約の内容が異なるときの優先関係を定めるなら、代表者の記名押印のある個別契約に限って個別契約を優先する、という規定も考えられます(注4)。基本契約の変更手続を縛るだけでは、個別契約を通じて実質的に条件が変わる道が残るからです。
条項を整えたら、運用も合わせます。三の3のとおり、条項があっても運用がずれていけば、条項の働きは弱まります。変更したいことが生じたら、その都度、条項が定める形の覚書を作ります。
本稿で扱わなかったこと
交渉の過程でした約束を契約締結時に遮断する条項は、完全合意条項です。締結の前を切るのが完全合意条項、締結の後を縛るのが本稿の条項で、2つはセットで置かれることが多くあります(注3)。完全合意条項の働きは、別稿「完全合意条項の機能:交渉経緯の遮断は、自分にも効く」で扱いました。
担当者に権限がない場合の表見代理の成否は、本稿では扱っていません。
参考文献等
註
(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)214〜215頁(記載例①を含む)
(注2)同215〜216頁
(注3)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)227〜228頁
(注4)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)49〜50頁
(注5)前掲注1・217頁
(注6)前掲注1・216〜217頁
(注7)東京地判平成18年12月25日判時1964号106頁(平成18年(ワ)第1710号)
(注8)前掲注1・217〜218頁のColumn「実務における契約の修正」
(注9)前掲注1・216〜217頁(記載例②を含む)
(注10)前掲注4・35頁のQ22
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