「他社製品より30%軽量」「業界主要製品と比較してコストパフォーマンスで勝る」「他社サービスより実質1/3の時間で完了」こうした比較広告は、消費者にとって有益な情報となる反面、不適切に行えば複数の規制を一気に抵触しうるリスクの高い領域でもあります。
本記事では、比較広告が違法となるケースと適法となるケースの切り分け、消費者庁ガイドラインが示す「合法に行うための3要件」と、実務で起きやすいトラブルパターンを弁護士の視点で解説します。
比較広告とは何か──規制との関係
比較広告とは、自社の商品・サービスを他社の商品・サービスと比較した上で、自社の優位性を訴求する広告を指します。世界的に見れば、米国では古くから一般的に行われている一方で、日本では以前は比較広告を控える傾向にありました。近年では、スタートアップやグローバル企業の参入により、明示的な比較広告も増えてきています。
比較広告に適用される主規制は、景品表示法の優良誤認表示(5条1号)と有利誤認表示(5条2号)、並びに不正競争防止法による誤認惹起・信用毀損の規制です。さらに、他社の製品名・ロゴを使う場合は商標法、他社のキャストや番組・画面を掲載する場合は著作権法と、複数の規制が同時にチェック対象となります。

消費者庁ガイドラインが示す「合法の3要件」
消費者庁の「比較広告に関する景品表示法上の考え方」は、比較広告が適法となるための要件として、以下の3点を示しています。

要件1:比較する事項の客観的実証
比較する事項(重さ、処理速度、価格、検査結果など)が、客観的に実証された数値・事実に基づくことが必要です。自社の主観的な印象や、「使った人の感想」レベルの主張だけでは比較広告の根拠とならず、第三者機関による試験、客観的に取りまとめられたデータ、公的統計など、誤りを入れる余地の少ない根拠資料が望まれます。
不実証広告規制(景表法7条2項)の適用下にあるため、消費者庁から根拠資料の提出を求められた場合は15日以内に提出しなければならない点に注意してください。
要件2:調査結果の正確・適正な引用
調査の方法・期間・対象とともに、「どの範囲において、どんな条件で比較したか」を消費者が正確に認識できる表記をすることが適当であるが、調査方法を適切に説明できる限り、広告スペース等の関係から、これらのデータを表示しないとしても特に問題ありません。しかしながら、調査機関や調査時点等をあえて表示せず、調査の客観性や調査時点等について一般消費者に誤認を生じさせることとなるような場合には、不当表示となるおそれがあるので注意が必要です
要件3:比較の方法が公正であること
もっともトラブルが起きやすいのがこの「公正な比較」の要件です。以下のようなケースは公正性を欠くと判断される可能性が高い点を押さえておいてください。
- 世代の違う製品同士を比較:自社の最新モデルと、他社の旧モデルを比較する
- 自社に有利な条件下でのみ試験:特定の温度・湿度・使用条件でのみ優位となるデータを使う
- 他社の商品仕様が変更されているにも関わらず、古いデータを使い続ける
- 個人の評価や起点の選定にバイアスがある
比較広告を出す際は、比較条件・試験条件・データ取得時点を明示することが最低限のルールとなります。
他規制との交錯
不正競争防止法による信用毀損
他社のサービスを「古い」「劣っている」「生産性が低い」と表現する際、それが事実に反している場合は、不正競争防止法の信用毀損(2条1項21号)に該当し、損害賠償請求や差止請求の対象となりうることに注意が必要です。
商標・著作権
他社の製品名・ロゴは、自社の商品やサービスではなく、他人の商品やサービスを示すために他人の商標を使用していると認識される範囲で使用され、商標権侵害に該当しないものであるか、という検証が必要です。他社のCMやキャストを画面として掲載したり、他社のサイト・パンフレットの一部を取り込む場合は、著作権法の複製権(著作権法21条)、翻案権(同27条)の侵害になっていないか、また、適法な引用(同32条)であるか等を合わせて検討しましょう。
実務で起きやすいトラブルパターン

「業界主要製品と比較」表現の漠然さ
「業界主要製品と比較してコストパフォーマンスで勝る」という表現は、「業界主要製品」の定義が漠然としているため、どの製品と比較したかを特定して示すことができず、グレーゾーンになります。チェック時に、比較対象を明示しているかを必ず確認しましょう。
ただの主観的評価を「比較データ」として提示
「使用者の90%が当社の方が使いやすいと回答」というデータも、その調査設計が不十分だと、合理的根拠とは認められません。調査対象が自社サービス利用者のみ、設問が誘導的、サンプルサイズが小さいなどのケースはアウトと評価されるリスクが高いです。
比較データの陳腐化
3年前に取得した比較データをそのまま使い続けている、というケースも頻出です。特にIT・SaaS領域では、他社サービスの仕様が頻繁にアップデートされているため、古いデータはそれ自体が不正確となりうる点に注意が必要です。
社内チェックフローへの組み込み
比較広告を出す際は、以下のチェックを社内フローに明示的に組み込みましょう。
- 比較対象の明示(他社製品名やカテゴリーが明確か)
- 比較時点・条件・試験方法の明示
- データの現在性(調査・試験以降に他社製品がアップデートされていないか)
- 表現の中で他社を貶める表現がないか(信用毀損リスク)
- 他社の商標・ロゴ・スクリーンショットの使用が適法か

これらのチェックポイントをクリアしていても、比較広告は「グレーゾーンが多い」領域であるため、大型キャンペーンや初回出稿については外部弁護士による事前レビューをデフォルト化することが現実的な選択肢です。
比較広告は「明示と現在性の二軸」を満たして初めて使える
ここまで、比較広告の3要件と他規制との交錯、実務で起きやすいトラブル、社内チェックフローを見てきました。比較広告を使いこなせるかどうかは、「何と何を比較しているのかを明示できるか」と「そのデータが今も現在性を保っているか」の二軸で決まります。この2点を社内ルール化できれば、比較広告はグレーゾーンを上手に走るための効果的なツールとなります。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。



