契約の当事者:代理と代表

02 契約の基礎理論

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:誰が押印すれば契約は成立するか

契約書の署名欄に並ぶのは、会社の名前と、個人の名前です。会社は自分で押印できないので、必ず誰かが会社のために押します。

会社(法人)が契約の当事者となる場合、実際に契約を締結するのは社長や役員、社員などの個人です。その個人に契約を締結する権限があれば会社はその契約に拘束されますが、権限がなければ、原則として会社に効力は及びません(注1)。ただし、会社が追認した場合や表見代理が成立する場合には、会社が拘束されます(民法113条1項、109条・110条・112条)。個人が会社のために契約を締結する方法には、代表と代理があります(注1)。

送られてきた契約書の署名欄が「営業部長」だったとき、そのまま締結してよいか。本稿はその判断の材料を扱います。


二 制度の枠組み

1 代表(会社法349条)

代表とは、個人の行為がすなわち会社の行為であるとみなされるものをいいます。会社を代表する個人が契約をすれば、それは会社が自ら契約をしたことになるので、会社が契約に拘束されるのは当然です(注1)。

株式会社では、取締役が株式会社を代表し、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合はその者が代表します(会社法349条1項)。代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(同条4項)。このような代表取締役の重要性から、代表取締役の氏名と住所は登記事項とされています(会社法911条3項14号)(注1)。

この権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができません(会社法349条5項)。

2 代理(民法99条)

代理とは、ある者が本人のためにすることを示して第三者と契約をすることによって、その契約の効力が本人に及ぶものをいいます(民法99条)(注2)。本人のためにすることを示して契約する者を代理人、代理人が本人のために行うことのできる権限を代理権といいます(注2)。代理権の範囲は本人と代理人との契約によって定まり、多くの場合は委任契約ですが、それに限られません(注2)。

顕名も要件です。代理人が本人のためにすることを示さずに契約すると、その意思表示は代理人自身のためにしたものとみなされます(民法100条本文)。契約書の署名欄を「甲 株式会社○○ 代理人 △△」の形にするのは、この顕名を書面に残すためです。

代表と代理の違いは、本質的には、本人の一部として(組織の一員として)の行為か、本人に代わって行う行為かですが、実際上の違いは権限の出どころです。代表権は会社法が代表取締役に与えていますが、契約で代理人を立てる場合の代理権は本人が与えます。

3 支配人と、事項の委任を受けた使用人(会社法11条・14条)

会社の場合、使用人に法律上当然に一定の事項について代理権が認められることがあります(注2)。

立場権限の範囲登記
代表取締役会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為(会社法349条4項)登記事項(会社法911条3項14号)(注1)
支配人会社に代わってその事業に関する一切の裁判上・裁判外の行為(会社法11条1項)登記事項(会社法918条)(注2)
事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人当該事項に関する一切の裁判外の行為(会社法14条1項)登記されない
本店・支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人その本店・支店の事業に関し一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされる(会社法13条本文)登記されない

支配人の代理権に加えた制限も、事項の委任を受けた使用人の代理権に加えた制限も、善意の第三者に対抗することができません(会社法11条3項、14条2項)。

4 権限がなかったとき

権限のない者が会社の代理人として契約をしても、本人が追認しなければ会社に効力は生じません(民法113条1項)。相手方は、無権代理人に対して履行または損害賠償を求められます(民法117条1項)。ただし、相手方が代理権のないことを知っていたときや、過失によって知らなかったとき(無権代理人自身が代理権のないことを知っていたときを除く)などは、この責任を追及できません(同条2項)。

そのうえで、民法は3つの表見代理を用意しています。

類型条文中身
代理権授与の表示民法109条1項代理権を与えた旨を表示した者は、その範囲内の行為について責任を負う(相手方が悪意・有過失のときを除く)
権限外の行為民法110条代理人が権限外の行為をした場合に、相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があるとき
代理権消滅後民法112条1項代理権の消滅を知らなかった相手方に対して責任を負う(過失があるときを除く)

2017年の改正で、109条と112条には2項が加わりました。109条の改正のポイントは、①条文自体は変更がなく1項となったこと、②110条との重畳適用の規定が新設されたこと(2項)の2つです(注3)。改正前は、代理権授与表示はされたものの、表示された代理権の範囲外の行為をした場合についての明文規定がありませんでした(注3)。112条の改正のポイントは、①第三者の「善意」の意味が明確化されたこと、②110条との重畳適用の規定が新設されたことです(注4)。


三 解釈:肩書だけでは決まらない

会社法14条1項の使用人には、現在の企業組織における「部長」「課長」「係長」等が該当します(注5)。もっとも、それらの肩書を持つ者が常に同条の使用人となるのではなく、同条所定の事項を委任されていることが必要です(注5)。

逆に言えば、肩書がなくても、事業に関するある種類または特定の事項の委任を受けていれば、その事項については権限があることになります(会社法14条1項)。判断の対象は、名刺の肩書ではなく、その人が何を任されているかです。

最高裁も、この条文の趣旨を、取引の相手方の調査の負担という角度から説明しています。会社の物資部繊維課洋装品係長がした洋装衣料品の売買が問題になった事案です(現在の会社法14条1項は、当時の商法43条1項にあたります)。

商法四三条一項は、番頭、手代その他営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関し一切の裁判外の行為をなす権限を有すると規定しているところ、右規定の沿革、文言等に照らすと、その趣旨は、反復的・集団的取引であることを特質とする商取引において、番頭、手代等営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項(例えば、販売、購入、貸付、出納等)を処理するため選任された者について、取引の都度その代理権限の有無及び範囲を調査確認しなければならないとすると、取引の円滑確実と安全が害される虞れがあることから、右のような使用人については、客観的にみて受任事項の範囲内に属するものと認められる一切の裁判外の行為をなす権限すなわち包括的代理権を有するものとすることにより、これと取引する第三者が、代理権の有無及び当該行為が代理権の範囲内に属するかどうかを一々調査することなく、安んじて取引を行うことができるようにするにあるものと解される。(注6)

同じ判決は、主張立証の分担も示しています。この規定による代理権限を主張する者は、当該使用人が営業主からその事項の処理を委任された者であることと、当該行為が客観的にみてその事項の範囲内に属することを主張・立証しなければならないが、その事項につき代理権を授与されたことまでを主張・立証することを要しない、というものです(注6)。

相手方の社内で誰が何を任されているかは、外からは見えません。だからこそ、任されている事項の範囲内かどうかで決まる仕組みになっています。

代表取締役についても、単独では決められない取引があります。取締役が競業取引・直接取引・間接取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を受けなければなりません(会社法356条1項、365条1項)(注7)。取締役会設置会社では、重要な財産の処分や多額の借財も、代表取締役が単独ではできず、取締役会の決議が必要です(会社法362条4項1号・2号)(注7)。後者は、代表取締役の独断専行によって会社に損害を与えることを防止するための規定です(注7)。


四 契約実務への還元

1 相手方の押印者の権限をどこまで確認するか

すべての契約で登記事項証明書を取るのは現実的ではありません。取引の規模と、締結者の立場で使い分けます。

締結者確認の方法
代表取締役登記事項証明書で氏名を確認できる(注1)。金額の大きい取引や初回取引では取得する
支配人登記事項証明書で確認できる(注2)
部長・支店長などの使用人登記では確認できない。社内規程・稟議・職務権限規程の提示や、代表取締役名義の委任状を求める
代理人(他社・個人)委任状で代理権の範囲を確認する

2 金額が大きい取引では、相手方の内部手続も見る

相手方が会社法362条4項1号・2号に当たる取引をする場合、取締役会の決議が要ります(注7)。利益相反に当たる取引では、取締役会または株主総会の承認が要ります(会社法356条1項、365条1項)(注7)。

自社の役員が相手方の役員を兼ねている取引や、相手方の会社がその役員個人の債務を保証する取引では、承認の有無を確かめておきます。

3 部長印・課長印で締結された契約の効力

すでに部長名で締結されている契約が出てきたときは、次の順で考えます。

  1. その部長が、会社法14条1項の「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」に当たるか。当たるなら、その事項の範囲内の契約は有効(注5)
  2. 当たらない場合でも、会社が代理権を与えた旨を表示していれば民法109条1項、従前の権限を超えていれば民法110条、権限が消滅した後であれば民法112条1項の適用がありうる
  3. いずれも当たらなければ、本人の追認がない限り効力は生じない(民法113条1項)。相手方は、民法117条2項の例外に当たらない限り、無権代理人の責任を追及できる(同条1項)

追認は、後から取締役会議事録や代表取締役名義の確認書で足りることもあります。紛争になる前であれば、争うより追認をもらうほうが早いことが多いのが実務です。

4 委任状に何を書いてもらうか

代理人が締結する場合、委任状で確かめるのは次の4点です。

確かめる点なぜ必要か
委任者(本人)の表示と押印者代表取締役名義か。代表権のある者が出しているか(会社法349条4項)
受任者(代理人)の特定署名欄に出てくる個人と一致しているか
委任事項の範囲締結する契約が範囲内か。範囲外なら民法110条の問題になる
日付代理権が消滅した後でないか(民法112条1項)

委任事項を「本件に関する一切の件」とだけ書いた委任状は、範囲の争いを残します。契約書の表題と締結日を特定して書いてもらうほうが、後で困りません。

本稿で扱わなかったこと

署名・記名押印の意味と、文書の成立に関する二段の推定は、別稿「署名・記名押印の意味と二段の推定」が扱います。契約書の当事者の表示のしかたは別稿『当事者の表示と、複数当事者間の契約:「甲は乙に対し」で足りなくなるとき』、契約担当者を条項で決める場合の書き方は別稿「担当者条項と窓口の特定:名前を書いた後の変更と、担当者の約束」で扱います。


参考文献等

註

(注1)喜多村勝德『契約の法務〔第2版〕』(勁草書房、2019)49頁
(注2)前掲注1・50頁
(注3)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための逐条解説 新債権法』(有斐閣、2021)49頁
(注4)前掲注3・51頁
(注5)前掲注1・51頁
(注6)最判平成2年2月22日裁判集民事159号169頁
(注7)前掲注1・51〜52頁


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