無効・取消し・条件と期限

02 契約の基礎理論

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:契約が「効かない」にもいろいろある

契約が効かない、と言うとき、中身は同じではありません。最初から効力がないもの、後から効力を失わせるもの、まだ効力が生じていないもの、効力が終わったものが、別々の仕組みとして並んでいます。

どれに当たるかで、誰が何を言えば効かなくなるのか、いつまで言えるのか、すでに渡したものをどう戻すのかが変わります。本稿は、その4つを整理します。


二 制度の枠組み

1 無効と取消しの違い(民法119条〜121条)

無効は、初めから効力がない状態です。原則として誰でも主張でき、期間の制限もありません。ただし、意思能力がなかったことによる無効のように主張できる者が限られると考えられているものもあり、心裡留保や虚偽表示による無効は善意の第三者に対抗できません(民法93条2項・94条2項)。追認によっても効力を生じませんが、当事者が無効であることを知って追認したときは、新たな行為をしたものとみなされます(民法119条)。

取消しは、取消権を持つ者が取り消すまでは有効で、取り消すと初めから無効であったものとみなされる仕組みです(民法121条)。取り消せるのは、制限行為能力者側(民法120条1項)と、錯誤・詐欺・強迫によって瑕疵ある意思表示をした者等(同条2項)に限られます。追認すれば、以後は取り消せません(民法122条)。取消権は、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年で時効消滅します(民法126条)。

比較する点無効取消し
効力初めから効力なし取り消すまで有効。取り消すと遡って無効(民法121条)
主張できる者原則として制限なし取消権者に限る(民法120条)
期間制限なし追認可能時から5年、行為時から20年(民法126条)
追認原則として効力を生じない(民法119条本文)追認すれば確定的に有効(民法122条)

2 渡したものをどう戻すか(民法121条の2)

2017年の改正で、無効・取消しの場合の原状回復について規定が置かれました。無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負います(民法121条の2第1項)。

この改正のポイントは、①無効・取消しのときの原状回復義務の範囲について703条・704条の特則としての規定が設けられたこと、②無償行為と有償行為とで原状回復義務の範囲が変わり、無償行為に基づいて給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(または取り消すことができること)を知らなかったときに限り現存利益の返還で足りること(民法121条の2第2項)、③意思無能力者の返還義務の範囲も、制限行為能力者(改正前は121条ただし書)と同じく現存利益に限定されたこと(同条3項)、などです(注1)。

改正前は不当利得の一般規定によるほかなく、売買契約が無効だった場合に、売主・買主とも無効原因を知らなかったときは返還の範囲が現存利益にとどまるため(民法703条)、買主が目的物を費消していれば買主は返還を要しない一方で売主は代金を返還する義務を負うことになり、不公平だと指摘されていました(注1)。

3 一部だけが無効のとき

契約の一部が無効になったときに、残りの部分が有効かどうかを一般的に定めた規定は、民法にありません。分離可能性条項(可分条項)が契約書に置かれるのは、この点を当事者が決めておくためです。

もっとも、条項を置けば必ず残りが有効になるわけではありません。その条項が契約の中でどういう位置を占めていたかによります。

4 条件(民法127条〜134条)

停止条件付法律行為は停止条件が成就した時から効力を生じ、解除条件付法律行為は解除条件が成就した時から効力を失います(民法127条1項・2項)。当事者が成就の効果を遡らせる意思を表示したときは、その意思に従います(同条3項)。

条件の成否が未定の間も、当事者は相手方の期待を害することができません(民法128条)。条件付きの権利義務は、処分・相続・保存・担保供与の対象になります(民法129条)。

2017年の改正で、条件の成就の妨害に関する規定に2項が加わりました。改正前から存在した、故意の条件成就の妨害により条件成就とみなす規定(130条1項)に加え、不正な条件成就により条件不成就とみなす規定が新設されました(同条2項)(注2)。故意の条件成就妨害と利益状況が同じ、不正な条件成就の場合を明文化したものです(注2)。

条件には、置けないものもあります。不法な条件を付した法律行為は無効(民法132条)、不能の停止条件を付した法律行為は無効(民法133条1項)、停止条件が単に債務者の意思のみに係るときは無効(民法134条)です。

5 期限(民法135条〜137条)

始期を付したときはその履行を期限到来まで請求できず、終期を付したときは期限到来時に効力が消滅します(民法135条)。

期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます(民法136条1項)。期限の利益は放棄できますが、これによって相手方の利益を害することはできません(同条2項)。

期限の利益は、①債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、②担保を滅失・損傷・減少させたとき、③担保を供する義務を負う場合にこれを供しないときに、主張できなくなります(民法137条)。

期間の計算にも決まりがあります。日・週・月・年で期間を定めたときは初日を算入せず(民法140条本文)、末日の終了をもって満了します(民法141条)。末日が休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、翌日に満了します(民法142条)。


三 契約実務への還元

1 条件付きの契約をどう書くか

条件を書くときに決めておくのは、成就したかどうかを誰がどうやって判断するか、いつまでに成就しなければどうなるか、の2つです。

決めておく点書かないとどうなるか
条件の内容(何が起きれば成就か)成就したかどうかで争いになる
判断の資料(許可書の写しの提出など)成就の時期が特定できない
期限(いつまでに成就しなければ失効するか)条件付きの状態が続く
成就しなかった場合の処理(解除・自動終了・既払金の扱い)停止条件なら効力が生じないだけで、精算の定めがない

民法130条があるので、条件の成就を妨げた側、不正に成就させた側には、みなしの規定が働きます(注2)。ただし、故意や不正の立証は簡単ではありません。自社の行為で条件の成否が左右される取引では、成就に向けて努力する義務を条項として書いておくほうが確実です。

2 分離可能性条項との関係

二の3のとおり、民法には一部無効の一般規定がありません。分離可能性条項は、その空白を当事者が埋める条項です。

3 期限の利益喪失条項との関係

民法137条の3つの事由は、実務で使うには狭すぎます。支払を1回でも怠ったとき、他の債務について差押えを受けたとき、信用状態が悪化したときといった事由は、契約書で足すことになります。

本稿で扱わなかったこと

分離可能性条項の書き方は、別稿「分離可能性条項と一部無効:入れておけば安心、ではない」が扱います。期限の利益喪失条項の設計は別稿「期限の利益喪失:自動で効くほうが有利、とは限らない」、意思表示の瑕疵による取消しの要件は別稿「意思表示の瑕疵:錯誤・詐欺・強迫」、条件付きの契約や予約の使い分けは04章で扱います。


参考文献等

註

(注1)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための逐条解説 新債権法』(有斐閣、2021)58頁
(注2)前掲注1・67頁


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