一 この用語は何をしているのか
「の」が1字あるかないか、「以」が1字あるかないか。それだけで、条項が拾う範囲が変わる用語があります。
「その他の」の前に出てくる言葉は、後に出てくる広い意味の言葉の例示としての役割を果たし、「その他」の前後の言葉は並列の関係にあります(注1)。数量については、「以上」「以下」は基準点を含み、「超える」「未満」は基準点を含まない表現として使われます(注2)。
どちらも、境目の内側にあるものが、その言葉に含まれるかどうかを決める用語です。
二 2組の使い分け
1 「その他」と「その他の」
「処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁」や「俸給その他の給与」では、前の言葉が後ろの広い言葉の例示です。これに対して「勤続期間、勤務能率その他勤務に関する諸要件」や「賃金、給料その他これに準ずる収入」では、前後の言葉が並列です(注1)。
契約書の例では、「取締役その他の役員」なら取締役は役員の例示であり、「暴力団その他これに準ずる者」なら暴力団に加えて「これに準ずる者」を付け加えたものです(注3)。
違いが結論を分けるのは、後ろに「定める」が続くときです。「医師、看護師その他の政令で定める医療関係者」とあれば、医師や看護師は例示にすぎないので、医療関係者に含めるには改めて政令で定める必要があります。「医師、看護師その他政令で定める医療関係者」であれば、医師や看護師は法律に明示されているので、政令で定めなくても対象になります(注4)。「その他政令で定める措置」と書かれた別の条文では、法律に書き込まれている措置が実際に政令のほうには定められていません(注4)。
契約書でいえば、「秘密情報、個人情報その他の甲が別途指定する情報」と書くと、秘密情報や個人情報も甲の指定があって初めて対象になる、と読む余地が生まれます。
2 「以上・以下」と「超・未満」
税率を所得の段階ごとに定めるときは、「百九十五万円以下の金額」「百九十五万円を超え三百三十万円以下の金額」と書けば金額が重なりませんが、「百九十五万円以上三百三十万円以下の金額」と書くと百九十五万円が重なってしまうので、注意が要ります(注2)。「未満」と同じ意味で「満たない」という言い方もあります(注2)。
| 表現 | 基準の数を含むか |
|---|---|
| 以上・以下 | 含む |
| 超える・未満(満たない) | 含まない |
(注2)
三 問題点
1 例示のつもりの列挙が、限定として読まれる
「その他の」で包括的な言葉を置いても、その言葉の範囲は、前に並べた例示やその言葉自体の意味から限定して読まれることがあります。
イベントのチケット規約が、代金の返還を要しない事由として「戦争、暴動、騒乱、労働争議、地震、噴火、大雨、洪水、津波、火災、停電、感染症拡大、その他の非常事態により、本サービスの提供が通常どおりできなくなった場合」と定めていた事案で、強風によるイベント中止が争われました(注5)。裁判所は、列挙された事由を治安の混乱、天災、施設の使用不能、公衆衛生上の必要性に整理したうえで、強風による中止の場合に返還を要しないことを直接規定する条項はなく、強風が対象事由となることを推知させる文言もないとし、強風注意報が発表され一定の強風が吹いていたからといって、直ちに「非常事態」に当たるとは認められないと判断しました(注5)。
大雨は書いてあり、強風は書いていない。判決は、列挙に強風がないことを指摘したうえで、「非常事態」という文言からして、気象に由来するものは現に災害が発生し、または災害発生の具体的蓋然性がある場合を想定していると解し、強風注意報が発表されていた本件の状況はこれとは異なるとしました(注5)。包括的な言葉を置いても、列挙に書き落とした事象を自動的に拾ってくれるわけではありません。この事案は消費者向けのチケット規約をめぐる共通義務確認訴訟で、事業者どうしの契約にそのまま当てはまるわけではありませんが、自社が並べた列挙が自社の不利に読まれうるという点は変わりません。
2 金額・期間の境目が、二重になるか抜ける
契約書で「100万円以上の発注は事前承認を要する」「100万円以下の発注は事後報告で足りる」と書くと、ちょうど100万円の発注は両方に当たります。反対に「100万円を超える」と「100万円未満」で分けると、100万円ちょうどがどちらにも入りません。二の2の税率の例(注2)とは逆向きの落とし穴です。
四 改善例
境目は、片側を「以下」、もう片側を「を超える」で組むと、重なりも抜けも生じません(注2も参照)。
| 段階 | 書き方 |
|---|---|
| 1 | 100万円以下の発注 |
| 2 | 100万円を超え500万円以下の発注 |
| 3 | 500万円を超える発注 |
列挙については、例示なのか限定なのかを、条項の中で言い切ります。
本契約において「不可抗力事由」とは、当事者の合理的な支配を超える事由をいい、次に掲げる事由を含むが、これらに限られない。 一 地震、台風、暴風、大雨その他の自然災害 二 戦争、暴動その他の騒乱
包括的な言葉だけに頼らず、「当事者の合理的な支配を超える事由」のように判断の基準を書いておくと、列挙に書き落とした事象を拾う手がかりになります。
五 書き分けの分岐
| したいこと | 書き方 |
|---|---|
| 並べた語を、広い言葉の例として示す | 「A、Bその他のC」 |
| 並べた語に、似たものを付け加える | 「A、Bその他これらに準ずるもの」 |
| 並べたものだけに限る | 「次に掲げるものに限る」と書く |
| 例に書いていないものも拾う | 「次に掲げる事由を含むが、これらに限られない」と書き、判断の基準も書く |
| 基準の数を含める/含めない | 以上・以下/超える・未満。段階を分けるときは「以下」と「を超え」で組む(注2) |
本稿で扱わなかったこと
「前」「後」「以前」「以後」と期間の数え方は、別稿「『前』『後』と『以前』『以後』:期間の起算」で扱います。接続の語の使い分けは別稿「『及び』『並びに』『又は』『若しくは』:どちらとも読める箇所を見つける」で扱いました。不可抗力条項の列挙と包括的な文言の設計は、別稿「列挙の網羅性:『その他これらに類する事由』をどう書くか」が扱っています。
参考文献等
註
(注1)吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』(日本評論社、2022)24頁
(注2)前掲注1・21頁
(注3)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)71頁
(注4)前掲注1・24〜26頁
(注5)大阪地判令和7年11月7日(令和5年(ワ)第3112号、LEX/DB文献番号25574690)
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