一 どういう場面か:書いてあることは読めるが、ないものは見えない
相手方から届いた契約書案を、条文ごとに読んでいきます。検査期間が短すぎないか、損害賠償の上限が低すぎないか。書いてある条項の良し悪しは、読めば判断できます。難しいのは、書いていない条項です。
契約書のチェック業務では、各条項が不当な内容になっていないかということに加えて、必要となる条項がきちんと網羅されているかを適切に判断することが重要です(注1)。相手方が作成した契約書案には、相手方に有利な条項が綿密に規定されていることがしばしばあります。すでに記載されている条項のほかに、自社の利益を守るために本来あるべき条項が欠けていないか、新設すべき条項がないかも検討する必要があります(注1)。
相手方のひな型は、相手方が必要と考えた条項でできています。自社にとって必要な条項が入っているとは限りません。
二 何を見るか
1 チェックリストから探す
1つめの方法は、ある条項の一覧と照らし合わせることです。
契約書類型ごとに典型的な条項と各当事者の立場からの修正案を載せた実務書を手元に置き、その条項文言を実際の契約書の条項と照らし合わせながら検討するのは、有効な方法です(注1)。契約審査では過去の契約書を参照することも大変有用で、すでに同種の問題点を検討済みの場合が少なくありません。特に、審査で十分な検討を要した条項を含む契約書は、後日同種の契約書案を審査するときにまず参照すべきものです(注2)。
共通条項については、この連載で9つの機能グループに分けました(契約の骨格、時間、履行・対価、リスク配分、情報・権利の帰属、相手方の変動・信用、終了、紛争解決、体裁)。この9つを一覧にして、届いた契約書案の条項を振り分けていくと、どのグループが空いているかが見えます。9分類の中身は、別稿「共通条項の機能分類:リスク配分/手続/終了処理/紛争解決」で扱いました。
2 取引の中身から逆算する
チェックリストには限界があります。リストに載っているのは、これまでに誰かが必要だと気づいた条項だけです。その取引に固有のリスクは、リストからは出てきません。
2つめの方法は、取引の中身から、必要な条項を逆算することです。
契約の問題点を検討する前提として、契約類型と契約目的を把握します(注2)。契約類型については、契約書案で予定されているビジネススキームが典型契約に当たるのか、法律上規定のない類型なのかを検討し、典型契約に当たる場合には、任意規定と異なる定めを設ける必要がないかという観点から検討します(注2)。非典型契約の場合には、総論的な規定を除き、契約の具体的な内容は当事者間の合意によって律せられるので、合意内容を入念に審査する必要があります(注2)。
契約目的については、ヒアリングなどを通じて次の3つを確定し、「この契約によっていかなる目的を達成しようとしているのか」を把握しなければなりません(注2)。
| 確定するもの | 抜けを探す問い |
|---|---|
| ①目的(物) | 何を引き渡す・何をする契約か、その特定は足りているか |
| ②履行の過程で必要になる権利義務 | 引渡し、検査、支払、報告、情報の受渡しなど、取引を進めるうえで必要な手順が書かれているか |
| ③不履行の場合の措置 | 遅れた・壊れた・払われないときに何ができるかが書かれているか |
(注2)
取引の流れを頭の中で最初から最後までたどり、途中で「このとき、どうするのか」と詰まったところが、抜けている条項です。
三 直し方
1 欠落を指摘する順序
見つけた欠落を、見つけた順に並べる必要はありません。ケーススタディの先輩部員は、新人に対し、個別の修正箇所の検討に入る前に契約書全体の特徴と大まかな方針を確認し、そのうえで重要だと思った部分から考えを聞かせてほしい、と求めています(注1)。
欠落の指摘も、取引に与える影響の大きいものから並べます。二の2の表でいえば、③不履行の場合の措置の欠落は、問題が起きてから効いてくるので、先に指摘する価値が高くなります。
2 「入れるべきだが入れなくてもよい」条項を見分ける
リストにある条項が契約書案にないとき、それが単なる書き漏れなのか、意図して置いていないのかで扱いが変わります。
事業部門へのヒアリングで確認すべき事項の一つが、契約類型からして約定しておくべき事項が契約書案に記載されていない場合の、その理由です(注2)。取引の実態からみて不要だから置いていない、ということもあるからです。
ケーススタディでも、支払条項の検討で、振込手数料などの論点については変更を求めないことにしつつ、相手方からの請求書がないと支払の事務処理に影響するので、請求書を一定の期限内に交付すべきことは明記する、という判断がされています(注1)。この判断は、その条項がないと取引の手順が止まるかどうかで足すかどうかを分けたものと読むこともできます。
四 相手方への説明のしかた:なぜ足すのかを伝える
書き換えの提案と違い、条項を足す提案は、相手方から見ると「なぜいまさら」と映りやすくなります。
再交渉を依頼するときは、修正案を示したうえでその理由を説明することが重要です。その理由は、依頼部署に対して再交渉の必要性を説明する理由と、取引の相手方を納得させて修正に応じてもらうための理由の二通りを考える必要があります(注2)。
条項を足す場合の相手方向けの理由は、二の2の表の問いがそのまま使えます。「目的物の検査の手順が決まっていないので、双方のために書いておきたい」というように、その条項がないと双方が困る場面を示すと、一方的な要求に聞こえにくくなります。
五 どこまで直すか:足しすぎない
リストの条項を全部足すと、契約書は膨らみ、相手方との交渉は長くなります。
いついかなる場合にもこちらに最も有利な修正案をひたすら提示していくことが全てではありません(注1)。お互いの関係性や立場の優位性、各条項の相対的な重要度・優先度などに応じて、どこまでの修正を求めるかは判断が分かれるところで、状況に応じて判断せざるを得ません(注1)。
欠落を見つける作業と、見つけた欠落をどこまで埋めるかの判断は、別の工程です。見つける段階では網羅的に拾い、埋める段階で絞ります。
本稿で扱わなかったこと
見つけた欠落をどういう文言で埋めるか、修正理由をどう書くかは、別稿「修正案の作り方と修正理由の書き方:法的根拠・取引上の実害・代替案」で扱いました。どの修正を通し、どれを譲るかの仕分けは、別稿「どこまで直すか:譲れない・譲れる・どちらでもよい」で扱いました。
契約目的や、欠けている条項の理由を事業部門から聞き出す方法は、別稿「事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか」で扱いました。
参考文献等
註
(注1)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)2〜3頁、9頁、12〜13頁、19〜20頁
(注2)愛知県弁護士会研修センター運営委員会法律研究部契約審査チーム編『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018)27頁、32〜33頁、37頁、42頁
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