条項ごとの落としどころの相場観

07 契約交渉

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:この条項はどこまで求められるか

相手方から「この条項は一般的なものです」と言われました。事業部門からは「他社もこれで契約しているなら、うちも飲むしかないのでは」と聞かれます。

こういうとき、条件の数値そのものに相場があるわけではありません。取引の内容も当事者の力関係も違うからです。本稿が扱うのは、数値の相場ではなく、対立する条項がどう着地するかという落としどころの型です。


二 何を見るか

1 条項は単体では決まらない

条項は、別の条項とセットで決まります。販売提携の交渉では、販売店が最低購入義務の回避に固執すると、メーカー側は新商品開発費用の回収の目処が立たないことなどから、独占販売権を与えないでしょう。販売店としては、独占販売権を確保しつつ、いかに合理的な数量と条件の最低購入義務を定めるかが、交渉上のキーポイントになります(注1)。

サプライヤーが独占権を与える場合の最も効果的なリスクヘッジといえるのが、商品の最低購入数量を定める方法です。通常、独占権と最低購入数量はバーターであるともいえます(注2)。これは、提携契約を扱った書籍と国際取引を扱った書籍に共通する見方です(注1)(注2)。

相手方が「この条項は一般的だ」と言うときは、セットになっている条項が何かを先に探します。

2 落としどころには型がある

最低購入義務について実務的に考えられる落とし所は、次の4つです(注1)。

型中身
義務の強さを落とす最低購入義務を努力義務とする。または最低購入数量をターゲットとして規定する
違反の効果を落とす義務は定めつつ、違反の場合のペナルティは実際の購入数量との差に相当する代金相当額の損害賠償のみとする。または2年連続で未達成の場合に初めて契約を解除できることとする
一部だけ失う形にする義務違反の場合は独占販売権を非独占販売権に変更する権利を相手方に与える
範囲を狭める形にする義務違反の場合は販売地域の一部を契約の対象から除外する権利を相手方に与える

(表の内容は注1による)

どの案を選ぶかで、どちらの当事者にどう働くかが変わります(注1)。努力義務にする案は、販売店にとっては契約を解除されるリスクが軽減される点で望ましいものです。他方、いかなる場合に努力義務の違反となるか、ターゲット未達成の効果がどうなるかが明確でなく、メーカー側にとって受け入れがたい場合があります(注1)。仮に努力義務にするなら、努力を尽くしたと認められるための具体的行為や金銭的支出の基準を設けるなど、可能な限り明確にするよう求めるべきです(注1)。

違反の効果を落とす案については、損害賠償額が不明の場合や直ちに契約解除を求められる場合に比べて販売店にとって受け入れやすく、メーカー側にとっても未達成の場合のペナルティが明確になるというメリットがあります(注1)。

3 同じ論点を、別の本はどう書いているか

国際取引の実務書は、最低購入数量を達成できない場合の効果として、契約自体を解除できるようにすること、独占権を解除できるようにすること、販売店に不足分を強制的に買い取らせることの3つを挙げます(注2)。そのうえで、契約自体の解除は販売店にとってのリスクが大きくなるところ、サプライヤーは独占権さえ解除できれば他のルートでの販売が可能になるので、独占権の解除だけでも十分なヘッジになるといえる、と評価しています(注2)。

販売店の側から見ると、経営資源を投下する以上、独占権を確保したければ最低購入数量の達成を義務付けられるのもやむを得ないところです。もっとも、達成できない場合の効果をできるだけ緩和することがリスク回避には重要で、それまでの経営努力が水泡に帰するような契約自体の解除に結び付けられてしまうことは、絶対に避けたいところです(注3)。

同書が挙げる折衷例は、当初はテスト期間と考えて独占権を短期間にて与え、双方が妥当と考える購入目標を設定し、それをクリアすれば独占権をより長期にわたり認める(達成できない場合は非独占として継続する)という方法です(注4)。

2冊が独立に同じ方向(契約の解除まで結び付けず、独占権の側で調整する)を示していることが、この論点の落としどころの位置を教えてくれます。


三 直し方:相場から外れているものを見つける

1 相手方の案がどの型から外れているかを見る

相手方の案を見るときは、二の2の型に当てはめて、どこが飛んでいるかを探します。

  • 義務の強さが最大(確定義務)で、違反の効果も最大(即時解除+損害賠償+買取り)になっている
  • 効果が一方にだけ働く(こちらの未達成には解除、相手方の供給不足には何もない)
  • 条項の外にセットがない(独占権を与えないのに最低購入義務だけがある)

このうち3つ目は、相場の問題ではなく、対価の問題です。

2 別の道具で吸収できないかを見る

条項の文言で押し合うより、別の手当てで解決する場面もあります。製造物責任については、いずれの当事者が第三者から請求を受けるにしろ、両者トータルでの負担を減らすことが肝要です。生産物賠償責任保険により対処することが、実務上よく見られます(注5)。どちらが保険に加入し保険料を負担するかは、販売態様や両当事者の力関係により、種々のケースがありえます(注5)。

あわせて、第三者からのクレームや請求を受けた場合には相手方に通知して対処方法を協議決定し、費用および損失は責任のある当事者が負担する、という条項の形もあります(注5)。責任の総量を決める代わりに、責任の割り付け方を決める、という解き方です。


四 相手方への説明のしかた

「一般的には」という言い方は、根拠を示せるときだけ使います。

実務書が示す落としどころは、その論点でどういう案が検討されるかの類型です。提携契約の実務書は、そのうえで、義務違反の場合に独占販売権を非独占販売権に変更する権利を与える案が最終的な落とし所になるとしています(注1)。ただし、いずれも特定の数値が一般的だという意味ではありません。したがって、相手方に言えるのは次の形です。

  • 「この論点は、義務の内容そのものより、達成できなかったときの効果で調整するのが通例だと理解しています。効果のところをご相談させてください」
  • 「独占権をいただけるのであれば、最低購入数量はお受けします。両方を切り離すのであれば、数量の条件は下げていただきたいです」

数値の相場を語らず、条項の組み合わせで話す。これなら、裏づけのないことを言わずに済みます。


五 どこまで求めるか

状況求める先
相手方の案が、義務も効果も最大効果の側(違反したときに何が起きるか)を先に削る
セットになる条項をもらえていない条項の文言より、対価と独占性の議論に戻す
責任の総量で折り合わない保険・分担・協議手続など、別の道具で割り付ける
期間や金額で押し合いになっているテスト期間を置き、実績で条件を見直す形にする

(4行目は注4による)

条項ごとの相場を数値で覚える必要はありません。覚えるのは、対立したときにどの方向へ動かすと着地するか、という型のほうです。

本稿で扱わなかったこと

個々の条項の書き方と具体的な水準は、10章の共通条項の各稿(責任上限、秘密保持期間、解約の予告期間など)と、11章以降の契約類型別の各稿が扱います。社内でどこまで直すかの仕分けは06章の別稿「どこまで直すか」、交渉の準備としての譲歩の設計は別稿「交渉の準備:譲歩可能性の事前設計」で扱いました。販売店契約・代理店契約に固有の論点は17章が扱います。


参考文献等

註

(注1)淵邊善彦『シチュエーション別 提携契約の実務〔第3版〕』(商事法務、2018)33〜34頁
(注2)樋口一磨『ポイントがわかる!国際ビジネス契約の基本・文例・交渉』(日本加除出版、2019)146頁
(注3)前掲注2・146〜147頁
(注4)前掲注2・147頁
(注5)前掲注1・58頁


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