一 この条項は何をしているのか
1 書かなければどうなるか
自社が仕入れて販売した商品について、消費者から「使ったら壊れた」「異物が入っていた」という苦情が来た。売主と買主の間に何の定めもなければ、どう処理されるのか。
買主と売主の間の問題としては、契約不適合責任の枠組みで処理されます。引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないとき、買主は売主に履行の追完を請求でき(民法562条1項)、種類・品質の不適合については、買主が不適合を知った時から1年以内に売主に通知しないと、その不適合を理由とする請求ができなくなります(民法566条本文)。事業者どうしの売買(商人間の売買)では、さらに、買主は受領後遅滞なく検査し、不適合を見つけたら直ちに通知しなければならず、すぐには見つけられない不適合も6か月以内に見つけて通知しなければ、同じく請求ができなくなります(商法526条2項)。
ただ、クレームを言ってきた消費者は、売主と買主の間の仕入契約の当事者ではありません。消費者は、自分が商品を買った販売店(ここでは買主)に対しては、売買契約に基づいて契約不適合責任を追及できます(民法562条以下)。これに対し、製造者など自らの契約相手ではない者に対しては、一般に不法行為責任を追及することになり、商品の欠陥による製造物責任を主張する場合などがあります(注1)。
そのような請求が契約当事者の一方に来ても、その当事者は適切に対応できないことがあります(注1)。A社が製造した製品をB社に販売し、B社がそのまま他の取引先に販売していた場合に、第三者から製造物責任の追及がB社になされても、B社は製品を製造していないので、適切に対応・反論できないことが考えられます(注1)。
クレームの矢面に立つ当事者と、原因を知っている当事者が違う、というのがこの条項の出発点です。
2 条項を置く意味は、手続を決めること
クレーム発生時の原因調査や対応などは、明確に規定しておくべきです。その際、各当事者の立場によって、手続や費用負担について考慮すべき内容が異なります(注2)。
第三者からの請求に関する条項は、請求があった場合の手続と、請求により負担することになった費用の負担を定める例が多いところです(注1)。請求が法的に正しいのか、当事者間の債務不履行に起因するのかを判決などで確定させないまま和解的な解決をすることもあるので、解決に向けた判断をどちらが行い、その負担をどちらが負うかをあらかじめ定めておくことで、当事者間の紛争を避けられます(注1)。
二 よくある条項例
よくある条項例は、次のとおりです(注2)。
第○条(クレーム処理) 甲(売主)又は乙(買主)は、本件商品の品質、安全性等に関して消費者等の第三者により苦情、返品要求その他のクレームを受け、又は自ら問題を発見したときは、直ちに相手方に通知し、対応を協議する。(注2)
売主・買主共通のチェックポイントは、クレーム発生の場面での原因調査・対応の手続負担を明記すること、費用負担の範囲を定めることです(注2)。
三 問題点
1 通知の後、何をいつまでにするかが決まっていない
二の条項例で決まっているのは、直ちに通知して協議することだけです(注2)。原因を誰が調べるのか、調査結果をいつまでに出すのか、回収などの措置を誰が判断するのかは書かれていません。
消費者対応では、最初の回答までの時間が問題になることが多いのに、協議がまとまるまで誰も動けない条項になっています。
2 費用負担が決まっていない
二の条項例には費用の定めがありません(注2)。
費用の範囲には、書いておかないと争いになる項目があります。目的物の欠陥等があったときに回収(リコール)や在庫の廃棄をすることがありますが、それは欠陥等の存在から直接義務付けられるものではなく、当事者の自主的な判断で行うこともあるので、回収や廃棄による損害が賠償の範囲に常に含まれるとは断言できません(注1)。弁護士費用などについても、第三者からの請求との間に相当な因果関係がなければ、条項に書いたとおりに全額の賠償が認められないこともあります(注1)。
3 第三者からのクレームを、誰が受けるか
消費者からのクレームは、多くの場合、商品を売った買主の側に来ます。一の1の例のとおり、原因を知っているのは製造した側です(注1)。
受けた側がそのまま対応を続けるのか、原因を知る側に対応を引き取らせるのかを決めておかないと、消費者への回答が遅れ、当事者間の費用の争いも大きくなります。
四 改善例
改善例は、立場ごとに書き方が分かれます。売主側変更例は、共同で原因を調べ、費用は責任の範囲に応じて協議で決める形です(注2)。
1 甲又は乙は、品質、安全性その他本件商品に関して消費者等の第三者より苦情、返品要求その他のクレームを受け、又は自ら問題を発見したときは、直ちに相手方に通知し、対応を協議するとともに、共同してその原因を調査する。 2 甲は、前項の調査の結果、本件商品の品質、安全性その他の問題が発見された場合は、乙との協議の上、本件商品の自主回収その他適切な措置をとる。また、甲及び乙は、当該クレームの対応のために各当事者が現実に負担した費用につき、各当事者の責任の範囲に応じて、協議の上でその負担割合を定めるものとする。(注2)
買主側変更例は、調査と措置を売主の責任と負担で行わせ、買主の費用を売主が全額負担する形です(注2)。
2 甲は、前項の通知を受けたときは、直ちにクレームの内容及び原因を自己の責任と負担において調査するものとし、その結果、万一本件商品の品質、安全性その他の問題が発見された場合は、甲の合理的判断に基づき、本件商品の自主回収その他適切な措置をとるものとし、乙に何らの迷惑をかけないものとする。また、乙がクレームの対応に要した費用(弁護士費用を含む)は、甲がその全てを負担する。(注2)
三の1の期限の問題は、どちらの変更例でも残っています。たとえば「甲は、前項の通知を受けた日から○営業日以内に、調査の経過および当面の対応方針を乙に報告する」という一文を足すと、協議が長引いても消費者への回答の目安が立ちます。
五 書き分けの分岐
立場の違いは、次のとおりです(注2)。買主としては、問題のある商品を供給した売主に責任があると考えるので、原因調査や事後対応をすべて売主の責任と費用で行わせたい。売主としては、最終的には自己の帰責性に応じた対応をすべきことは当然としても、初期対応を買主と共同で行い、最終的な対応も協議の余地を残したい(注2)。
| 論点 | 売主(製造・供給する側) | 買主(販売する側) |
|---|---|---|
| 原因調査 | 共同で行う | 売主の責任と負担で行わせる |
| 回収などの措置 | 買主と協議のうえで判断する | 売主の合理的判断で速やかに行わせる |
| 費用負担 | 責任の範囲に応じて協議で決める | 弁護士費用を含め売主が全額負担する |
| 回収費用・逸失利益 | 賠償の範囲に含めない | 含めることを明記する |
(注2)(注1)
表の最終行は、回収や販売中止による逸失利益、回収費用、検査費用、弁護士費用まで賠償の範囲に明記する記載例(注1)を踏まえたものです。
なお、商品の問題で買主に損害が生じた場合の賠償責任は、発生原因に応じて、契約不適合責任や製造物責任などの個別の定めに従って処理されます(注2)。クレーム処理条項で決めるのは、その前段の手続と費用です。
本稿で扱わなかったこと
契約不適合責任の要件と救済手段は、別稿「契約不適合責任の全体像」で扱いました。製造物責任と、納品・検査・検収の条項は、11章(売買・継続的取引・製造委託)で扱います。
参考文献等
註
(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)74〜77頁
(注2)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)52〜54頁
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