一 この構造は何をしているのか
「第10条第1項ただし書各号に該当する情報」と言われて、条文のどこを指しているか、すぐに指でたどれるでしょうか。
契約書は、「条」「項」「号」の順に並んでいることが最も一般的です(注1)。条・項・号は、条文の中の場所を示す住所のようなものです。
住所の書き方がずれると、引用した先がずれます。契約書では、そのずれがそのまま権利義務の範囲のずれになります。
二 条・項・号の階層
秘密保持の条を例にとると、呼び方は次のとおりです(注1)。
- 条の中で「1」「2」と番号が振られた段落が「項」、項の中で「一」「二」と並ぶものが「号」
- 号の数字は漢数字のほか、(1)(2)(3)や①②③で表記されることもある
- 項の中で「ただし、」から始まる部分が「ただし書」、それより前が「本文」
- 項に号が含まれている場合、各号以外の部分が「柱書」
たとえば、次のような条です(注1の例を簡略化したもの)。
第10条(秘密保持) 1 甲及び乙は、相手方の秘密情報を第三者に開示してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する情報については、この限りでない。 一 開示を受けたときに既に公知であったもの 二 正当な権限を有する第三者から適法に入手したもの 2 前項にかかわらず、甲及び乙は、法令に基づき開示すべき情報を開示することができる。
この例では、「甲及び乙は、〜開示してはならない。」が第1項本文、「ただし、〜この限りでない。」が第1項ただし書、「一」「二」が第1項第1号・第2号、号以外の部分が第1項柱書です(注1)。
複雑な契約では、条の上に章や節を置いて階層化するものもあります(注2)。
三 問題点
1 「第3条2項3号」と「第3条第2項第3号」
引用の書き方には、「第3条第2項第3号」と「第」を重ねる書き方と、「第3条2項3号」と省く書き方があります。意味は同じで、どちらが正しいというものではありません。変更覚書の書式例も、「原契約第○条,第○条及び第○条第○項は,適用しない」と重ねる書き方をしています(注3)。
困るのは、1通の中で両方が混ざることです。検索や置換で「第2項」を探したときに「2項」の箇所が漏れます。
2 「前項」と「前項本文」
柱書やただし書を区別する意味は、引用の範囲に出ます。二の例で「前項」とだけ書けば、第1項の本文もただし書も各号も含みます。本文だけを指したいなら「前項本文」と書かなければ、ただし書まで含んで読まれます。
法令の用語でも、この違いは意識されています。「前項の場合」は前項全体を受けて追加的に説明する際に使われるのに対し、「前項に規定する場合」は前項全体ではなく、「〜する場合においては」「〜するときは」といった仮定的な条件を示す部分だけを受けて使われます(注4)。
3 「前条」「前2項」「次条」の指す範囲
契約書で直前の条・項・号を引用するときは「前条」「前項」「前号」とすることが多く、2つなら「前2条」、3つなら「前3条」とし、4つ以上のときは一般に「前4条」とはいわず「第○条から前条まで」とします(注5)。直後のものは「次条」「次項」「次号」とし、直後の複数の条は「次条及び第○条」「次条から第○条まで」とします(注5)。なお、「前二条」「前各項」とはいいますが、「次二条」「次各項」とはいいません(注6)。
「前条」「次項」という書き方は、番号を書かないぶん、条を足したり削ったりすると指す先が黙って変わります。送付前には、条項番号に抜け漏れ(第5条の次が第7条)や重複がないか、他の条項に言及している場合に正しい条項番号が書かれているかを確認します(注7)。既存の条項を削除した場合や新しい条項を追記した場合は、特に注意が必要です(注7)。
四 改善例(読み方・書き方)
読むときは、引用を見たら引用先の条文を開き、本文・ただし書・柱書・各号のどこまでを含むかを確かめます。
書くときは、道具と約束事で、ずれを防ぎます。
Wordのアウトライン機能を使えば条文番号を自動で生成でき、番号の重複やずれを防ぐことにつながります。相互参照の機能を使えば、他の条項番号に言及している条項を確認しやすくなります(注8)。条項を削除するときに、番号を維持したまま本文に「意図的に削除」と書いて条項ずれを防ぐ方法もあります(注7)。
社内の約束事としては、たとえば次のように決めておきます。
| 決めておくこと | 例 |
|---|---|
| 引用の表記 | 「第3条第2項第3号」に統一する |
| 範囲の限定 | 本文だけなら「前項本文」、号だけなら「前項各号」と書く |
| 離れた条の引用 | 「前条」を使わず、条番号と見出しで書く(「第12条(損害賠償)」) |
| 条を足し引きしたとき | 「前」「次」「第○条」を検索して、指す先を1つずつ確かめる |
五 書き分けの分岐:法令の作法と契約書の作法の違い
契約書は法令ではないので、法令の書き方をすべてそのまま持ち込む必要はありません。
表記の問題では、「及び」と「および」のどちらを使うかはある程度好き嫌いの問題で、公用文のルールに従うのが無難ですが、元の契約書で「および」となっている箇所をすべて「及び」に直すことに意味はありません(注9)。一方で、1つの契約書の中で表記が併存していれば形式面の不備であり、法律の世界では同じ意味の用語は同じ用語で表現するのが通常ですから、違う表記が違う意味を示唆してしまう場合もあります(注9)。
| 場面 | 作法 |
|---|---|
| 自社のひな型 | 社内で決めた表記に統一する |
| 相手方のひな型 | 相手方の表記に合わせ、1通の中の混在だけを直す(注9も参照) |
| 修正で条を追加・削除する | 引用の番号と「前」「次」の指す先を確かめ直す(注7) |
本稿で扱わなかったこと
契約書全体の部分構成は、別稿「契約書の骨格:表題・前文・本文・後文・別紙」で扱いました。「及び」「並びに」などの接続の用語は別稿「『及び』『並びに』『又は』『若しくは』:どちらとも読める箇所を見つける」、定義語の追い方は別稿「定義条項の読み方:定義された語がどこで効くか」で扱います。Wordの変更履歴と比較の使い方は別稿「Wordの変更履歴・比較を使ったレビュー実務:返す前に消すもの、残すもの」、存続条項の条番号の書き方は別稿「どの条項を残すか:ほとんどは確認、ときどき創設」、1条項の修正が他の条項に及ぼす影響は別稿「条項どうしの相互作用:条項は単独では動かない」が扱っています。
参考文献等
註
(注1)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)72〜73頁
(注2)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)36頁、39頁
(注3)前掲注2・101頁
(注4)吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』(日本評論社、2022)83〜85頁
(注5)前掲注2・53頁
(注6)前掲注4・78〜79頁
(注7)前掲注1・67頁
(注8)前掲注1・44頁
(注9)前掲注1・73〜74頁
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