一 問題の所在:来年の売上を、いま担保に出せるか
売掛債権を担保に資金を借りたい。しかし来年の売上はまだ発生していません。譲れるのか。
譲れます。2017年改正で条文になりました。
債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。(注1)
問題はその先です。何年先まで譲れるのか。譲った後で、その債権を生む事業や不動産が他人に移ったら、債権はどちらのものになるのか。条文はどちらにも答えていません。
前者には判例があり、後者には判例も条文もありません。この記事は、その2つの線引きを扱います。
二 制度の枠組み
1 発生していなくてよい
条文は2つの項で組まれています。
2 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。(注1)
将来債権も譲渡することができ、譲受人は将来発生した債権を当然に取得する、という判例法理が明文化されました(注2)。新しく作られた規律ではありません。
2 対抗要件は、いまある債権と同じ方法で備える
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。(注3)
括弧書きが改正で入った部分です。将来債権の譲渡も通常の債権譲渡の対抗要件の方法により対抗要件を具備することができる、という判例法理が明文化されたもので、その他は改正前と同じです(注4)。
その判例は、集合債権譲渡担保の事案です。取立権限を設定者に残したまま担保に取る形で、設定者から第三債務者への確定日付のある通知に、担保権者から譲渡担保権実行の通知があった場合には担保権者に弁済されたい、という記載があったため、債権が移転した旨の通知といえるかが争われました。判決は、設定者を甲、担保権者を乙、第三債務者を丙として、こう述べています。
上記債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには,指名債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によることができるのであり,その際に,丙に対し,甲に付与された取立権限の行使への協力を依頼したとしても,第三者対抗要件の効果を妨げるものではない。(注5)
取立てを譲渡人に任せたままでも、譲渡は確定的です。同判決は、既に生じ、又は将来生ずべき債権は甲から乙に確定的に譲渡されており、ただ甲乙間において乙に帰属した債権の一部について甲に取立権限を付与し、取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきである、としています(注5)。
3 譲渡制限の意思表示は、対抗要件を備えるまでに入れば効く
将来債権に固有の規律が、3項です。
3 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項……の規定を適用する。(注6)
譲渡された後に条項を入れても、対抗要件が備わる前なら間に合う、ということです。対抗要件を具備する時までに譲渡制限の意思表示がなされた場合には、譲受人その他の第三者は悪意とみなされます(注7)。
なぜこの時点で切るのか。逐条解説が理由を書いています。
債務者対抗要件の具備により、将来債権が譲渡されていることを知った債務者は、当該債権を発生させる取引を行わないなどの対応を採ることが可能であるから、それ以降は、譲渡制限の意思表示(譲渡制限特約)による債務者の利益の保護を強く図る必要まではない一方、それ以前は、譲渡制限の意思表示(譲渡制限特約)による債務者の利益を保護すべきものと考えられた。(注2)
知らされた後は自衛できるから保護しない、という線の引き方です。
三 解釈:どこまで譲れるか
1 特定されていること
条文は「発生していなくてよい」としか書いていません。では8年先の売上まで譲れるのか。この問いに答えたのが、診療報酬債権の判例です。
医師が、8年3か月にわたって社会保険診療報酬支払基金から受けるべき診療報酬債権を、毎月の金額を定めて債権者に譲渡しました。国税の滞納処分でその一部が差し押さえられ、譲渡が有効かが争われました。原審は、数年を超える部分の有効性は否定されるべきだとしましたが、最高裁は破棄しています。
債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があることはいうまでもなく、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により右期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定されるべきである。(注8)
続けて、発生の見込みについてこう述べます。
契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。(注8)
期間の長さそのものは、有効性の基準になっていません。要るのは特定です。
2 公序良俗という歯止め
もっとも、無制限ではありません。同じ判決が、限界を示しています。
契約締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一部が否定されることがあるものというべきである。(注8)
見るのは期間だけではありません。譲渡人の資産状況、営業の見込み、契約の経緯まで含めた総合判断です。同判決は、医師が将来の診療報酬債権を譲渡したという一事から信用状態の悪化を推認することはできない、として原審の判断を退けました(注8)。
3 債権を生む事業や不動産が動いたら、どちらのものか
ここから先は、条文も判例もありません。
将来の売掛債権を譲った後で、その売掛債権を生む事業が第三者に譲渡された。将来の賃料債権を譲った後で、その不動産が売却された。発生する債権は、債権の譲受人と、事業や不動産の譲受人と、どちらに帰属するのか。
法制審では、この問題が正面から議論されました。取り上げられたのは、①不動産の将来の賃料債権の譲渡後に賃貸人が不動産を譲渡した場合、②将来の売掛債権の譲渡後に事業譲渡等によって事業が譲渡された場合、③将来の売掛債権の譲渡後に譲渡人に倒産手続が開始された場合の3つです(注9)。
譲渡人の契約上の地位を承継した者の下で生ずる債権にも譲渡人の処分権が及んでいるとして将来債権の譲渡を対抗できる、という意見と、譲渡人の地位が交代した後の契約関係から発生した債権には本来的に将来債権譲渡の効力は及ばない、という反対意見が対立しました(注9)。結末はこうです。
合意形成は困難と考えられたことから、明文化は見送られた。しかし、いずれも実務的に非常に重要な問題であり、上記に関する今後の担保法(特に、譲渡担保)及び倒産法の改正における議論や裁判例等の動向には十分に留意する必要がある。(注9)
その後、譲渡担保については、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)が成立しました。③について同法107条は、集合債権譲渡担保の設定者に破産手続が開始したときは、担保権は開始後に発生した債権には及ばないとし、再生手続・更生手続が開始したときも同様としたうえで、契約に別段の定めがあればこの限りでないとしています。同法は公布から2年6月以内の政令で定める日に施行され、107条は施行日前に締結された契約には適用されません(同法附則)。
同じ論点があります。将来債権の譲渡後に当該債権発生の基礎となる契約上の地位が移転した場合における債権の帰属や、将来発生する債権が譲渡人・譲受人いずれの下で発生するのか等の具体的論点について、改正法の定めはなく、解釈に委ねられました。そのため、将来債権の譲渡契約では、これらの論点について疑義が生じないような規定を設ける必要があります(注10)。具体例は、売掛債権と事業譲渡、賃料債権と不動産譲渡の2つで、法制審の議論と重なります(注10)。
契約上の地位の移転が、ここで効いてきます。地位の移転そのものについては別稿(債務引受・契約上の地位の移転)が扱いましたが、そこでも「譲渡人の行った将来債権の譲渡の譲受人に対する効力」は明文化の見送り項目に挙がっていました。同じ穴を、両側から見ていることになります。
4 国税との優劣は、対抗要件の時期で決まる
もう一つ、判例が線を引いている場面があります。
継続的取引に基づく1年分の売掛債権を譲渡担保に取り、確定日付のある通知で対抗要件を備えた後、譲渡人が国税を滞納し、その後に発生した債権が差し押さえられました。国税徴収法は、法定納期限等以前に譲渡担保財産となっていた事実を譲渡担保権者が証明すれば、譲渡担保財産から国税を徴収する規定を適用しないとしています(注11)。問題は、法定納期限等の後に発生した債権が「法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」といえるかでした。
国税の法定納期限等以前に,将来発生すべき債権を目的として,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され,その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には,譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生したとしても,当該債権は「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当すると解するのが相当である。(注12)
基準は債権の発生時ではなく、契約と対抗要件の時期です。担保権実行の通知まで設定者が弁済を受けられるという約定も、債権譲渡の効果の発生を留保する付款とは解されませんでした(注12)。
四 契約実務への還元
1 譲る側・譲り受ける側が気をつけること
三の1のとおり、要るのは特定です。発生原因、期間の始期と終期、額を書きます。期間が長いこと自体は理由になりませんが、三の2の総合判断があるので、譲渡人の事業を回らなくするような取り方は避けることになります。
対抗要件は、譲渡と間を空けずに備えます。逐条解説が、譲受人の側の注意としてこう書いています。
譲受人としては、将来債権の譲渡を受けた時点以降、債務者対抗要件の具備までにタイムラグを設ける場合には、その間に譲渡制限の意思表示(譲渡制限特約)がなされる可能性を考慮に入れる必要がある。(注2)
空けた期間に譲渡制限条項を入れられると、悪意とみなされます。そうなると債務者は履行を拒めるので、担保としての値打ちが落ちます。
三の3の論点は、条項で潰します。将来債権の譲渡契約に、譲渡人が事業や対象不動産を譲渡するときの取扱いを書いておくことです。
2 自社の債権を、知らないうちに担保に取られている側
立場が逆のときの話です。取引先が売掛債権を包括的に譲渡担保に入れていて、確定日付のある通知が届いて初めて分かる、ということが起こります。
打てる手は、通知が届く前にしかありません。取引基本契約に譲渡制限条項が入っていれば、対抗要件が備わるまでにされた意思表示として扱われ、譲受人は悪意とみなされます(注6)。悪意の譲受人には履行を拒み、譲渡人に弁済できます。ただし相当の期間を定めた催告を受けると、この抗弁は使えなくなります。この点は別稿(債権譲渡制限特約の効力)が扱っています。
取引先の信用が不安なときに、条項を後から入れても間に合わないことがあります。通知が届いた時点で、対抗要件は備わっているからです。
国税との関係も、この立場から見ておく必要があります。三の4のとおり、法定納期限等より前に譲渡担保契約が結ばれ、対抗要件も備わっていれば、譲渡担保権者が国税に優先します。取引先が滞納していても、支払先が国に切り替わるとは限りません。誰に払うべきかが分からないときは、債権者不確知を理由とする供託という道があります(民法494条2項)。
3 将来債権を譲る契約に、書いておくこと
三で見た穴を、契約書の側から埋める項目です。
| 決めること | 書き方の例 |
|---|---|
| 特定 | 発生原因(どの取引か)、期間の始期と終期、対象の範囲を書く |
| 対抗要件の時期 | 譲渡と同時に通知または承諾を得る。遅らせるなら、その間の譲渡制限条項の有無を確認する |
| 事業・不動産の移転 | 譲渡人が対象事業または対象不動産を譲渡するときは、事前の通知と承諾を要するものとする |
| 倒産手続 | 譲渡担保として譲る場合、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律107条の施行後は、破産では開始後に発生した債権に担保権が及ばず、再生・更生では契約に別段の定めがあれば及ぶ。再生・更生の場合の扱いを書いておく |
| 表明保証 | 対象債権に譲渡制限の意思表示がされていないことを、譲渡人に表明保証させる |
このうち効き目が読みにくいのは、事業・不動産の移転の行です。承諾を要すると書いても、三の3の帰属の問題そのものが解決するわけではありません。譲渡人と譲受人の間で責任を分けるところまでが、条項でできる範囲です。
五 まとめ:条文が決めたことと、決めなかったこと
| 決まっていること | 根拠 | |
|---|---|---|
| 発生していない債権を譲れるか | 譲れる。譲受人は発生した債権を当然に取得する | 466条の6第1項・2項 |
| 対抗要件 | いまある債権と同じ方法(通知・承諾/確定日付) | 467条、最判平13.11.22 |
| 何年先まで | 期間の長さだけで無効にはならない。要るのは特定(期間の長さは公序良俗の判断で考慮される) | 最判平11.1.29 |
| 上限 | 公序良俗(総合判断) | 同判決 |
| 譲渡制限の意思表示 | 対抗要件具備時までにされたものは効く | 466条の6第3項 |
| 国税との優劣 | 契約と対抗要件が法定納期限等以前なら優先 | 最判平19.2.15 |
| 事業・不動産が動いたとき | 決まっていない(明文化は見送り) | — |
表の最後の一行が、この記事のいちばん重要な部分です。そこは条項で決めるほかありません。
契約上の地位の移転そのものは別稿(債務引受・契約上の地位の移転)が、譲渡制限条項の効き方は別稿(債権譲渡制限特約の効力)が扱います。
参考文献等
註
(注1)民法466条の6第1項・2項
(注2)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための逐条解説 新債権法』(有斐閣、2021)303頁
(注3)民法467条1項
(注4)前掲注2・305〜306頁
(注5)最判平成13年11月22日民集55巻6号1056頁(平成12年(受)第194号)
(注6)民法466条の6第3項
(注7)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)156頁
(注8)最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁(平成9年(オ)第219号)
(注9)前掲注2・304〜305頁のコラム(将来債権の譲受人と将来債権を生じさせる契約上の地位の承継人との間の優劣)
(注10)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)636頁および同頁の注28
(注11)国税徴収法24条1項・8項
(注12)最判平成19年2月15日民集61巻1号243頁(平成16年(行ヒ)第310号)。判決が解釈したのは当時の国税徴収法24条6項で、現行法の24条8項に当たります
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