当事者の表示と、複数当事者間の契約:「甲は乙に対し」で足りなくなるとき

10 共通条項の条項別解説

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか

1 誰に契約の効果が帰属するか

署名欄は、契約書の中でいちばん事務的に見える部分です。実務書は、その役割を1行で示しています。

当事者表示の意味は、契約の効果が誰に帰属するのかを確認することにあります。(注1)

条項をどれだけ詰めても、その効果が誰に及ぶかが決まらなければ意味がありません。署名欄は、そこを決めています。

名前の書き方も同じです。契約書の署名捺印は、契約の効力が及ぶ当事者を特定し、その当事者が契約を締結したことを証するためにあります。当事者の記載は、契約の当事者となる者が特定されており、その人物が自身を指すものとして署名捺印したことが証明できれば足ります(注2)。通称でも当事者が特定できれば足り、その日限りの名前では足りません(注2)。

2 商号・本店所在地・代表者

会社が当事者の場合の書き方は、次のとおりです。契約当事者が会社であるならば、会社の住所および会社名を記載したうえで、契約締結権限者が署名押印ないし記名押印をするのが一般的です(注1)。

住所には注意すべき点があります。会社の住所はその本店所在地にあるものとされるので、通常は商業登記簿上の本店所在地を記載することになります(注1)。本店所在地とは別の場所で実質的な営業を行っており、その営業上の活動として契約を締結する場合には、住所としては現在の主たる営業所を記載したうえで、商業登記簿上の本店所在地を括弧書きで記載しておくと、より正確になります(注1)。

代表者の肩書きも同じです。契約の効力が会社に帰属するためには、契約締結者がその会社を代表ないし代理する権利を有していることが必要です。そこで、契約締結者の氏名の前に、会社を代表ないし代理して契約を締結する権限を示す文言(「代表取締役」「支店長」「営業部長」等)を付加しておくことが必要になります(注1)。


二 よくある条項例

最も基本の形です。

甲 大阪府大阪市○○区○○1-1-1 株式会社A 代表取締役 ○○ ○○ ㊞ 乙 東京都○○区○○1-2-1 B株式会社 代表取締役 △△ △△ ㊞(注3)

主たる営業所で締結する場合は、登記簿上の本店を添えます。

甲 大阪府大阪市○○区○○1-1-1 (登記簿上の本店所在地:兵庫県神戸市□□区…) 株式会社A 代表取締役 ○○ ○○ ㊞(注4)

連帯保証人を立てるときは、欄を分けます(注5)。


三 問題点

1 三者以上のとき、義務の名宛人が読み取れない

ここからが本題です。複数当事者間での契約では、誰が誰に対してどのような権利を有しているのかが一義的に明らかでないことがあります(注6)。

原因のほとんどは、雛形の流用です。二当事者の契約書を三者以上の契約に改変して使用する場合には、各規定が複数当事者に対応するものとなっているか、十分な確認が必要です(注7)。

二者間の雛形の条項は「甲は乙に対し」で書かれています。そこに丙を足すと、「甲は乙および丙に対し」なのか「甲は乙に対し、乙は丙に対し」なのかが決まりません。当事者を1人足す作業は、署名欄に1行足す作業ではなく、全条項の名宛人を点検する作業です。

2 連帯なのか、分割なのかが書かれていない

同じ側に複数の当事者が並ぶ場合に問題になります。同一の立場あるいは近い立場にある当事者が複数いる場合(たとえば物を2名以上で購入する場合等)には、相手方に対する債務が連帯債務となるのかならないのかについて、解釈が分かれるケースがあります。連帯債務でない内容で契約を締結する場合には、あくまで独立して義務を負うものとして「非連帯」であることを明記しておく必要があります(注8)。

条文の原則はこうなっています。

第四百二十七条(分割債権及び分割債務) 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。(注9)

連帯になるのは、法令の規定または当事者の意思表示による場合です(民法436条)。書かなければ分割が原則ですが、「別段の意思表示」があったかどうかの解釈で争いになります。そのうえ、数人がその一人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、商法511条1項により連帯債務が原則になります。企業間の契約では、この特則も踏まえて、連帯か非連帯かを明記する、という順序です。

3 解除を1人でできるのか

三者以上の契約では、解除の場面で手続が止まります。

第五百四十四条(解除権の不可分性) 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。(注10)

この規定に従うと、解除権の行使は全員から全員へ行わなければならないことになります(注11)。もっとも、この規定は任意規定と考えられているので排除することは可能で、解除権の不可分性を排除する場合には、単独で行使できる旨を規定しておく必要があります(注11)。

解除した後の関係も残ります。甲・乙・丙で契約が締結されており甲が契約を解除した場合に、乙丙間での契約上の取り決めについても効力が消滅するか否かは解釈の余地があるため、契約上、このような場合の取扱いについても明記しておくべきです(注12)。

4 グループ会社を巻き込む書き方

「甲及びその子会社は、本契約上の義務を負う」という条項を見ることがあります。契約書に署名していない子会社に、この条項だけで義務を負わせることはできません。子会社自身の合意か、権限のある代理による締結が必要です。

取りうる形は2つです。子会社を当事者として署名欄に並べるか、甲が子会社に遵守させる義務を負う形にするか。後者であれば、義務者はあくまで甲であり、子会社の不遵守は甲の債務不履行として処理されます。


四 改善例

1 当事者が増えたら、略称を名前にする

「甲」「乙」から始まる十干は甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸なので、10当事者までは可能です(注13)。もっとも、当事者の数が増えてくると略称がどの当事者を指すのか分かり難くなるので、佐藤株式会社を「佐藤」と呼ぶように、企業名の省略表記自体を当事者の略称にすることも考えられます(注13)。

当事者が3者以上になったら、十干を使い切る前に切り替えます。

2 義務の名宛人を、条項ごとに書く

三者以上の契約では、次の3点を条項ごとに確かめます。

確かめること書き方
誰が義務を負うか「乙および丙は」と並べるか、「乙は」と限るかを条項ごとに決める
誰に対して負うか「甲に対し」と書く。相手が複数なら「甲および丙に対し」と書く
複数が並ぶとき連帯か「連帯して」または「各自独立して」を入れる

3 連帯・解除・解除後の関係を条項で決める

条項例は、次のとおりです。この3点にそれぞれ対応しています。

第○条 本契約における各当事者の債務は、それぞれ個別の債務を構成し、各自はこれを連帯して負担しない。(注14)

第○条 本契約において、甲が本契約の解除を行った場合であっても、乙丙間においては、本契約は有効なものとする。(注15)

第○条 本契約において、各当事者は単独で解除権を行使することができる。(注16)


五 書き分けの分岐

場面判断
二者間の契約署名欄は基本の形で足ります。主たる営業所で締結するなら登記簿上の本店を括弧書きにします
連帯保証人を立てる連帯保証人欄を分け、記名押印ではなく署名押印を求めます(注17)
三者以上で、2者が同じ側に立つ連帯か非連帯かを明記します。解除の単独行使と、解除後に残る当事者間の関係も決めます
三者以上で、3者の立場がすべて違う条項ごとに名宛人を書き分けます。二者間の雛形をそのまま使えません
グループ会社に及ぼしたい当事者として加えるか、甲が遵守させる義務を負う形にするかを選びます

本稿で扱わなかったこと

誰が会社を代表して契約を締結できるか(代表権・代理権の範囲、表見代理)は、契約の当事者を扱う章が本体です。本稿では、権限を示す文言を付すという書き方の話にとどめました。

署名と記名押印の証拠価値の違い、二段の推定は、電子署名を扱う記事と締結手続を扱う章の射程です。

連帯債務の効力(絶対的効力事由・求償)は、債権の総論を扱う章で扱います。

契約上の地位の移転や当事者の交替は、譲渡制限を扱う記事が引き受けます。


参考文献等

註

(注1)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)116〜117頁
(注2)前掲注1・28頁のQ9
(注3)前掲注1・115頁の条項例1
(注4)前掲注1・115頁の条項例2
(注5)前掲注1・115〜116頁の条項例3
(注6)前掲注1・118頁
(注7)前掲注1・120頁
(注8)前掲注1・119頁
(注9)民法427条
(注10)民法544条1項
(注11)前掲注1・120頁
(注12)前掲注1・120頁
(注13)前掲注1・35頁のQ21
(注14)前掲注1・118頁の条項例1
(注15)前掲注1・119頁の条項例2
(注16)前掲注1・119頁の条項例3
(注17)前掲注1・118頁


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