債務不履行責任と不法行為責任の関係:責任制限条項は不法行為にも効くか

10 共通条項の条項別解説

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:条項を作り込んでも、別の請求で回避される

契約書に、こう書いたとします。

乙が本契約に違反したことにより甲に損害を生じさせた場合には、その損害を賠償する。ただし、乙が賠償する損害の上限額は、金100万円とする。

上限100万円。交渉に時間をかけて勝ち取った条項です。

ところが相手方は、契約違反ではないと言い、不法行為(民法709条)だと主張して、1,000万円を請求してきました。契約書に書いてあるのは「本契約に違反したことにより」生じた損害の上限です。不法行為に基づく請求には、この条項が及ばないのではないか。

責任制限条項を作り込んでも、不法行為構成で回避されれば意味がありません。

この記事は、そこを扱います。2つの責任がどう違い、どちらでも請求できる場面で契約条項がどこまで効くのか。そして、条項の書き出しをどう定めるべきか。

損害の範囲そのものは別稿「損害の範囲と予見可能性」が、賠償範囲を限定する条項の書き方は別稿「賠償範囲を限定する条項の設計」が扱います。本稿は、その前提として条項の射程を決める話です。


二 制度の枠組み

1 2つの責任

契約の履行に関して一方当事者が他方に損害を負わせた場合、契約上特段の定めがなくても、①債務不履行責任、②不法行為責任、または③不法行為責任の特則としての製造物責任としての損害賠償責任を負うことがあります(注1)。

本稿は①と②を扱います。

債務不履行責任(民法415条)の発生要件は、①債務不履行の事実があること、②債務者に帰責事由があること、③債務不履行と因果関係のある損害が発生していること、と解されています(注2)。

不法行為責任(民法709条)の発生要件は、①故意または過失、②権利または法律上保護される利益の侵害、③損害の発生とその額、④①と②および②と③の因果関係、と解されています(注3)。

2 「帰責事由=過失」ではない

改正で変わった点があります。

②の帰責事由は、伝統的には過失責任主義と結びつけて、債務者の故意・過失またはこれと同視すべき事由と理解されてきました。しかし現行民法は、免責されるかどうかを「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断するとしています(民法415条1項ただし書)。契約から生じた債務であれば、免責の可否は契約の趣旨に照らして判断されるので、現行民法の下では「帰責事由=過失」ではありません(注4)。

もっとも、「契約……に照らして」が何を指すかには注意が要ります。逐条解説はこう述べます(注5)。

「契約……に照らして」とは,「契約書」を偏重することを意味するものではなく,当該契約の基礎や背景にある「契約の目的,契約締結に至る経緯その他の事情を基礎に据えて,そして取引上の社会通念を考慮に入れて導かれる契約その他の当該債権の発生原因の趣旨に照らして判断される」ことを意味する(注5)

契約書に書けば書いただけ判断が動く、というほど単純ではありません。契約書の記載内容に加え、契約の性質、当事者が契約をした目的、締結に至る経緯を始めとする一切の事情を考慮し、取引通念をも勘案して評価・認定されます(注5)。

3 立証責任の違い

実務上いちばん効くのがここです。

債務不履行では、現行民法415条1項ただし書が免責事由を規定し、帰責事由については債務者がその不存在を主張立証すべきことを明らかにしています(注2)。免責要件をただし書に置くことにより、免責要件の主張・立証責任を債務者が負うことが明確化されました(注6)。

不法行為では逆です。故意または過失は、請求する側(被害者)が主張立証します。

同じ事実から出発しても、どちらで攻めるかで主張立証の負担が入れ替わります。債権者にとっては債務不履行構成のほうが有利であるのが通常ですが、後で見るとおり、不法行為構成を選ぶ理由も存在します。

4 消滅時効の期間が違う

期間の違いもあります。実際には、この違いが請求の選択を決めることがあります。

債務不履行に基づく請求権は、債権一般の規律によります。債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年で時効消滅します(民法166条1項)。

不法行為に基づく請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年です(民法724条)。

短期の側は、債務不履行の5年に対して不法行為は3年。長期の側は、債務不履行の10年に対して不法行為は20年です。どちらが長いかは、どちらの起算点で見るかによって逆転します。

人の生命・身体が害された場合には、両方が延びます。債務不履行では10年が20年に(民法167条)、不法行為では3年が5年になります(民法724条の2)。この場面では、どちらで請求しても期間がそろいます。

改正で変わった点もあります。不法行為に基づく損害賠償請求権の長期の権利消滅期間の性質について、消滅時効期間であることが明文化されました(注7)。消滅時効であれば完成猶予・更新の適用があり、信義則違反・権利濫用の主張も可能になります。長期間権利行使しなかったことが真にやむを得ない被害者の保護に対する障害は、絶対的なものではなくなりました(注7)。

実務では、期間より起算点のほうが難しいところです。客観的起算点と主観的起算点という二つの起算点を導入したことで、客観的起算点がより客観化し、債権者の保護が後退する可能性が指摘されています。主観的起算点(権利を行使することができることを知った時)についても、債権者がどこまで知っていればよいかは、個別の事案では必ずしも明確ではありません。客観的起算点の客観化の可能性と、主観的起算点の不明確さには、十分に留意する必要があります(注8)。

5 弁護士費用の扱いが違う

もう一つ、実務で効く違いがあります。

債務不履行では、訴訟に要した弁護士費用は損害として認められにくい傾向があります(注9)。金銭債務については、最高裁が民法419条を理由に、弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないとしています(注10)。金銭債務以外でも、土地の売買契約上の引渡債務および所有権移転登記手続債務の履行を求める訴訟の弁護士報酬について、債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできないとされています(注11)。

不法行為では、被害者が訴訟の追行を弁護士に委任した場合、事案の難易、請求額、認容額などから相当と認められる額の範囲で、弁護士費用も損害として認められます(注12)。

同じ紛争でも、構成によって回収できる額が変わります。この違いは、どちらで請求するかの選択に影響します。詳しくは別稿「損害の範囲と予見可能性」の四で扱います。

6 どちらが問題になるか

契約の履行に関し契約の当事者に損害が発生した場合は、通常は債務不履行責任が問題になります(注13)。もっとも、第三者に対する不法行為責任について契約で定めることは多く、また、債務不履行責任の免責条項が不法行為責任に適用されることもあります(注13)。

契約書の条項が、契約当事者間の債務不履行だけを見て書かれているとは限りません。次の三では、この「適用されることもある」の中身を見ます。


三 解釈:契約条項は不法行為責任を制限できるか

1 判例は、及ぶとしている

ここが本稿の中心です。

宅配便で運送された宝石が紛失した事案があります。運送人の約款には責任限度額を30万円とする定めがあり、荷受人はこれを超える約459万円を請求しました。その大半(約394万円)は、宝石の所有者らに賠償したことで、所有者らが運送人に対して持つ不法行為に基づく損害賠償請求権を取得した、という構成の請求です。

最判平成10年4月30日は、こう述べました(注14)。

右の趣旨からすれば,責任限度額の定めは,運送人の荷送人に対する債務不履行に基づく責任についてだけでなく,荷送人に対する不法行為に基づく責任についても適用されるものと解するのが当事者の合理的な意思に合致するというべきである。けだし,そのように解さないと,損害賠償の額を責任限度額の範囲内に限った趣旨が没却されることになるからであり,また,そのように解しても,運送人の故意又は重大な過失によって荷物が滅失又は毀損した場合には運送人はそれによって生じた一切の損害を賠償しなければならないのであって(本件約款二五条六項),荷送人に不当な不利益をもたらすことにはならないからである(注14)

理由は2つです。そう解さないと責任限度額を定めた趣旨が没却されること。そして、故意・重過失の場合は制限が外れるので、相手方に不当な不利益をもたらさないこと。

2 「当事者の合理的な意思」という根拠

注意して読むべきは、根拠の置き方です。

判決が根拠に据えたのは、条項の文言が不法行為を明示的にカバーしていることではありません。「当事者の合理的な意思に合致する」と述べています。条項の解釈の問題として処理しているわけです。

この判決には、もう一段の判断もあります。荷受人(この事案の請求者)は、そもそも運送契約の当事者ではありません。最高裁は、宅配便の特質と責任限度額を定めた趣旨に照らせば、荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されないとしました(注14)。

契約の当事者でない者にまで、条項の効力が事実上及んでいます。ただし、その根拠は契約ではありません。信義則です。

3 もっとも、外れる場面もある

判例の理由づけの2つめが、そのまま限界にもなっています。故意または重大な過失がある場合です。

ホテルの宿泊約款に、フロントに預けなかった物品について種類・価額の明告がなければ15万円を限度とする特則がありました。宝飾品約2,846万円が盗難に遭い、ホテル側の重過失が争われた事案です。

最判平成15年2月28日は、こう述べました(注15)。

このような本件特則の趣旨にかんがみても,ホテル側に故意又は重大な過失がある場合に,本件特則により,被上告人の損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは,著しく衡平を害するものであって,当事者の通常の意思に合致しないというべきである。したがって,本件特則は,ホテル側に故意又は重大な過失がある場合には適用されないと解するのが相当である(注15)

約款には重過失の除外規定が置かれていませんでした。それでも、故意・重過失の場合には適用されないとされています。

原審は逆の判断をしていました。除外規定がない以上、重過失の場合にも適用されるべきだ、と。最高裁はこれを破棄しています。書いていないから適用される、という読み方が否定された形です。

この2つの判決は、どちらも約款の責任制限について、条項を置いた趣旨から当事者の合理的な(通常の)意思を読み取り、射程を決めています。平成10年判決は宅配便の低額運賃・大量輸送という特質と約款の故意・重過失の除外を、平成15年判決は明告のない高価品についての特則の趣旨を、それぞれ根拠にしました(注14)(注15)。条項の射程は、文言だけでなく、条項を置いた趣旨から判断されます。

なお、免責条項や責任制限条項について、裁判所が具体的事案における当事者間の衡平を考慮して射程範囲を制限し、債務者の責任を認めた例があり、制限解釈が行われる場合があります(注16)。


四 契約実務への還元

1 「本契約に関し」だけでは足りないことがある

判例が不法行為にも及ぶとしているなら、条項の書き方を気にする必要はないでしょうか。

そうとは限りません。平成10年判決が及ぶとしたのは、責任限度額を定めた趣旨が没却されるという理由からでした。趣旨が明らかでない条項では、同じ理由づけが働くとは限りません。

書き出しの表現には、実務上いくつかの幅があります。

書き出し射程
「本契約に違反して」債務不履行を指しているように読める
「本契約に関し」やや広いが、不法行為を含むかは明らかでない
「本契約の履行又は不履行に関して」履行の過程で生じた損害を広く含む

条項例には、「甲又は乙は、本契約の履行又は不履行に関して相手方又は第三者に損害(弁護士費用を含む)を与えたときは、これを賠償する責任を負うものとする」という形があります(注17)。第三者に対する損害まで射程に入れています。

自社が責任を制限する側なら、書き出しを広く取ります。「本契約に関連して生じた一切の損害(債務不履行、不法行為その他請求の原因を問わない)」といった書き方です。判例がある以上これがなければ効かないというものでもありませんが、争点を一つ減らせます。

2 故意・重過失の除外は、条項を生かすために入れる

もう一つの結論はこちらです。

責任制限条項に「ただし、故意または重過失がある場合はこの限りでない」という除外を入れることは、一見すると自社に不利です。ところが平成10年判決の理由づけを見ると、この除外があることが条項全体の合理性を支えています。故意・重過失の場合には一切の損害を賠償しなければならないから、荷送人に不当な不利益をもたらさない、という論法だったからです。

平成15年判決は、除外を書いていない宿泊約款の特則について、故意・重過失がある場合には適用されないとしました(注15)。除外を書かなくても同じ解釈がされる可能性がある以上、はじめから書いておくほうが条項全体の合理性を説明しやすく、交渉でも残りの制限を受け入れてもらいやすくなります。

この点は別稿「責任上限条項の設計と相場」が扱います。

3 自社が請求する側に立つとき

視点を裏返します。相手方の契約書に責任制限条項があるとき、不法行為構成で回避できるでしょうか。

平成10年判決の考え方からすると、責任制限条項の趣旨が明らかで、故意・重過失の場合の除外もある条項なら、不法行為構成で回避するのは難しいと考えておくべきです。構成を変えれば制限を免れられるという前提で条項をレビューすると、判断を誤ります。

回避できる可能性があるのは、次の場合です。相手方に故意または重大な過失があるとき。条項の趣旨から見て、その損害が制限の対象として想定されていないとき。そして、消費者契約法や公序良俗によって条項自体の効力が否定されるときです。

条項を読むときは、まず「効く」という前提から入る。そのうえで、外れる筋があるかを探す。順序を逆にすると、レビューの結論が甘くなります。

本稿で扱わなかったこと

免責条項・責任制限条項の効力が法律によって否定される場面を、本稿では扱っていません。消費者契約法8条以下、公序良俗(民法90条)、利息制限法、割賦販売法・特定商取引法による制限があります(注18)。事業者間の契約で消費者契約法が問題になることはありませんが、自社が消費者向けの取引を行うなら、条項の設計そのものが変わります。

損害の範囲をどこまでとするかは別稿「損害の範囲と予見可能性」が、範囲を限定する条項の具体的な書き方は別稿「賠償範囲を限定する条項の設計」が扱います。本稿は、それらの条項がどの請求に及ぶかという射程の話にとどめました。


参考文献等

註

(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)607頁
(注2)同607頁
(注3)同609頁
(注4)同607頁
(注5)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための逐条解説新債権法』(有斐閣、2021)121頁
(注6)同120頁
(注7)前掲注5・91〜92頁
(注8)同86頁
(注9)前掲注1・611〜612頁
(注10)最判昭和48年10月11日集民110号231頁(昭和45年(オ)第851号)
(注11)最判令和3年1月22日集民265号95頁(令和1年(受)第861号)
(注12)最判昭和44年2月27日民集23巻2号441頁(昭和41年(オ)第280号)
(注13)前掲注1・608〜609頁
(注14)最判平成10年4月30日集民188号385頁(平成6年(オ)第799号)
(注15)最判平成15年2月28日集民209号143頁(平成13年(受)第1061号)
(注16)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問11(債務者の責任を免除、制限する規定の効力が問題となる場合)
(注17)前掲注1・612頁の条項例②
(注18)前掲注1・609頁


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