一 問題の所在:途中で終わった仕事の代金
建物の工事が7割まで進んだところで、契約が終わったとします。発注者が解除したのかもしれませんし、請負人が続けられなくなったのかもしれません。請負人は、7割分の報酬を請求できるでしょうか。
引渡しを受けた後に不具合が見つかったときも、同じように迷います。直させるのか、報酬を減らすのか、金銭で賠償させるのか。どれを選べるのかは、契約書を読んでも決まらないことがあります。
2017年の民法改正で、請負の担保責任の規定は削られました。瑕疵が重要でない場合において修補に過分の費用を要するときは修補請求ができない旨を定めていた改正前634条1項ただし書は削除され(注1)、修補に代えて、または修補とともに損害賠償を求めることができるとしていた同条2項も削除されています(注2)。
削られた条文の分だけ、契約書に書くことが増えました。この記事は、請負で契約不適合が生じたときに注文者が採れる手段と、仕事が途中で終わったときの出来高請求を扱います。
二 制度の枠組み
1 売買の規定が準用される(民法559条)
出発点は、この条文です。
(有償契約への準用) 第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。(注3)
請負人が契約内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡した場合、注文者が契約不適合を理由として採り得る法的手段は、次の4つです(注4)。
| 手段 | 根拠条文 |
|---|---|
| 修補・追完請求 | 民法562条・559条 |
| 報酬の減額請求 | 民法563条・559条 |
| 損害賠償請求 | 民法564条・415条・559条 |
| 解除 | 民法564条・541条・542条・559条 |
売買の担保責任の規定が、そのまま請負に流れ込む形です。請負固有の規定として残っているのは、担保責任の制限(民法636条)、期間制限(同637条)、そして後述する割合的報酬(同634条)です。
2 修補請求と、その限界(民法412条の2第1項)
注文者は、請負人に対して目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しなどの追完を請求できます(注5)。改正前634条1項ただし書のような明文の限界は、条文上は見当たりません。
もっとも、限界がなくなったわけではありません。民法412条の2第1項に基づき、履行不能(修補不能)と評価されるときは、注文者は修補請求ができません(注1)。そして、契約不適合の事由が重要でない場合で修補に過分の費用を要するときは、一般的には履行不能に当たると解されているようです(注1)。
問題は、その先です。
しかし、修補不能と評価されるかどうかは、請負契約の内容及び取引上の社会通念に照らして判断されるものであるところ(民412の2①)、このような評価は具体的な事情によって左右される可能性があります(注1)
条文が消えた分、判断が事案ごとの評価に委ねられました。そこで、特に発注者としては、履行不能の一般原則によるのではなく、契約の特質を勘案しながら、修補請求ができない場合を契約書中に具体的に定めておくことが考えられます(注1)。
3 修補に代わる損害賠償(民法415条2項)
改正前634条2項があった頃は、修補請求ができることに加えて、修補に代えて、または修補とともに損害賠償を求めることができました(注2)。
改正後は、この規定が削除されています。修補が可能な場合、直ちに修補に代わる損害賠償はできず、まずは請負人に修補を請求し、それにもかかわらず修補がなされない場合に、填補賠償として修補に代わる損害賠償が請求できるという定めになりました(民法415条2項)(注2)。
順番が固定されたということです。しかし、請負契約において契約不適合が生じた場合、発注者としては、そのような仕事をした請負人に修補させることを望まない場合も少なくありません(注2)。
4 報酬の減額請求(民法563条・559条)
仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合に、注文者が請負人に相当の期間を定めて修補を催告し、その期間内に修補がなされなかったときは、注文者は、不適合の程度に応じて報酬減額の請求を行うことができます(注6)。
ここで押さえるべきは、請負人の帰責事由の有無を問わないという点です(注6)。請負人に帰責事由があれば、別途、損害賠償請求を行うことができます(注6)。
催告が要らない場合もあります。修補が不能である場合や、特定の日時または一定の期間内に仕事が完成しなければ契約をした目的を達することができない場合等には、注文者は、催告をすることなく報酬減額の請求を行うことができます(注7)。
5 注文者が受ける利益の割合に応じた報酬(民法634条)
一の設例に戻ります。請負では、報酬は仕事の完成に対する対価ですから、民法上、仕事の完成時が報酬の支払時期とされます(民法633条)(注8)。仕事が7割で止まれば、原則として報酬は請求できません。
これに対する手当てが、民法634条です。
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬) 第634条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。 二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。(注3)
仕事全体が完成していなくても、①注文者の責めに帰することができない事由によって完成できなくなった場合、または②請負契約が仕事の完成前に解除された場合に、仕事の結果が可分で(可分性の要件)、かつ、注文者が利益を受けるときは(利益性の要件)、その部分を仕事の完成とみなして、割合的に報酬を請求できることとされています(注8)。
三 解釈:請負人に落ち度があっても出来高は請求できるのか
1 ①にも②にも、請負人の落ち度がある場面が入る
見落とされやすいのが、634条の2つの場合に何が含まれるかです。
①の「注文者の責めに帰することができない事由によって完成できなくなった場合」には、当事者双方の帰責事由によらないときのみならず、請負人の帰責事由に基づき履行不能となった場合が含まれます(注9)。
②の「請負契約が仕事の完成前に解除された場合」にも、請負人の債務不履行により注文者が契約を解除した場合が含まれると解する見解が一般的です(注9)。
したがって、契約において別途の定めをしなければ、請負人の帰責事由に基づく中途終了の場合でも、請負人による出来高請求が認められることとなります(注9)。この場合に、注文者が請負人に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めることは可能です(民法415条)(注9)。
工事を投げ出した側が出来高を請求してくる。条文の文言だけを追うと見落としますが、そういう構造になっています。
2 「注文者が受ける利益の割合」と実費は違う
民法634条は、「注文者が受ける利益の割合に応じて」報酬を請求することができると定めています(注10)。
他方で、出来高算定が争われるケースでは、請負人から、実際に要した費用(工事原価等)に諸経費及び消費税相当額を加算して算定する実費積上方式が主張されることがしばしばあります(注10)。しかし、この実費積上方式による算定額が、「注文者が受ける利益の割合」を上回ることは十分に考えられます(注10)。
費やした金額と、注文者が受け取った価値は、一致しません。請負人が非効率な工程を踏んでいれば、実費は膨らみますが、注文者が受ける利益は増えないからです。
したがって、請負業務について、期間が長期に及び、かつ、多数の工程を要するような場合には特に、中途の業務の出来高の評価基準や評価の方法、報酬の算定基準等について、あらかじめ覚書等で定めておくことが望ましいといえます(注10)。
3 算定方式は1つではない
出来高算定では、実費積上方式のほかに、次の方式が考えられます(注11)。
| 方式 | 算定のしかた |
|---|---|
| 実費積上方式 | 実際に要した費用(工事原価等)に諸経費および消費税相当額を加算する |
| 控除方式 | 中途終了時に残る仕事を完成させるための費用を算定し、これを代金総額から控除する |
| 施工割合方式 | 各工事項目について実施済みの割合を査定し、各工事項目ごとの代金額にその割合を乗じる |
覚書では、請負の業務内容や、中途終了の事由などに応じて、このような算定方式を定めることとなります(注11)。
控除方式を採った裁判例があります。マンションのリフォーム工事の請負契約で、約款に「契約解除のときは、出来形部分は甲(注文者)の所有とし、甲乙協議のうえ清算する。」とだけ定められていた事案です(注12)。
既成工事部分の出来高を算定するに当たっては、本件工事代金から未成工事部分の見積金額を差し引いて算出するのが相当である(注12)
工事代金288万円から未施工分の見積額134万4100円を差し引いた153万5900円が出来高とされました(注12)。「協議のうえ清算する」としか書いていなかったため、この事案では算定方法を裁判所が決めることになりました。
同じ判決は、もう1点を述べています。見積書に記載され契約内容となっていた工事を変更して施工した部分は、契約内容に反する工事であるから、出来高の関係では未成工事として取り扱うのが相当だ、という判断です(注12)。契約内容どおりでない施工は、出来高に数えられません。
3つの方式は、どれが正しいというものではありません。工程が明確に区切れる工事なら施工割合方式が馴染みますし、残工事の見積りが取りやすいなら控除方式が早い。決めておくこと自体に意味があります。
四 契約実務への還元
1 修補請求ができない場合を書く
二の2の裏返しです。改善例は、次の形です(注13)。
(契約不適合) 第○条 甲は、乙から引き渡された建物について、契約の内容に適合しない事由(以下「契約不適合事由」という。)があることが判明した場合、乙に対して修補を求めることができる。 2 前項の定めにかかわらず、契約不適合事由が重要でない場合で、修補に過分の費用を要するときは、乙は、同項に定める修補義務を負わない。(注13)
第2項が、削除された改正前634条1項ただし書を契約で戻したものです。履行不能の一般原則に委ねると事案ごとの評価に左右されるので、条項の側で線を引いておきます。
2 修補に代わる損害賠償を、直ちに求められるようにする
二の3のとおり、改正後は修補を先に請求しなければなりません。これを外すなら、契約書に書きます(注14)。
(契約不適合) 第○条 甲は、乙から引き渡された目的物について、契約の内容に適合しない事由(以下「契約不適合事由」という。)があることが判明した場合、乙に対して修補を求めることができる。 2 甲は、前項に定める修補に代えて、又は修補とともに、乙に対し、契約不適合事由に基づく損害の賠償を求めることができる。(注14)
第2項が、修補が可能な場合であっても、注文者が修補に代えてまたは修補とともに損害賠償を請求できることを明示したものです(注14)。
3 報酬減額請求を、通すか外すか
ここは立場で逆になります。条項例も、両方の立場のものがあります(注15)。
注文者の立場からは、催告なく行使できる旨と、減額割合の基準時を定めます。
第○条 甲は、乙から引き渡された目的物について、契約の内容に適合しない事由があることが判明した場合、乙に対して修理、代品の納入又は報酬の減額を求めることができる。 2 前項に定める報酬の減額請求がなされた場合、減額割合は、目的物の引渡し時を基準として算定する。(注15)
請負人の立場からは、報酬減額請求そのものを排除します。
第○条 甲は、乙から引き渡された目的物について、契約の内容に適合しない事由があることが判明した場合、乙に対して修理又は代品の納入を請求できる。 2 前項の場合、甲は、乙に対し報酬の減額を請求することはできない。(注15)
排除したい理由は、二の4で見たとおり、報酬減額請求が請負人の帰責事由の有無を問わずに行使され得るからです(注16)。
4 出来高の算定方法を、覚書で決めておく
三の2・三の3のとおりです。改善例は、次の形です(注17)。
(契約が終了した場合の措置) 第○条 本契約が中途で終了した場合、請負人は、本契約に基づく目的物について、出来高に応じた代金と引き換えに注文者に引き渡す。 2 前項の出来高査定及びその支払方法は、当事者間で本契約と同時に締結した覚書で定めた方法に従い決定する。 3 第1項にかかわらず、本契約が、請負人の責めに帰すべき事由により目的物の完成前に終了した場合、請負人は、注文者に対し、出来高に応じた代金を請求することができない。(注17)
第2項が算定方法、第3項が三の1への手当てです。
第3項には留保が付きます。出来高部分の状況(例えば、完成間近であるなど)や請負人の帰責事由の内容等の具体的事情によっては、信義則等によって、同項の効力が全部または一部否定される可能性もあると思われます(注18)。
書いておけば必ず効く、という条項ではありません。それでも、何も書かなければ三の1のとおり出来高請求が通るので、置いておく意味はあります。
5 覚書は、契約と同時に作る
四の4の改善例が「本契約と同時に締結した覚書」としているところが実務的です。中途終了が現実になってから算定方法を協議すると、協議がまとまりにくくなります。
覚書に落とすのは、次の3点です。
- どの方式で算定するか(三の3の3つのうちどれか)
- 工程をどう区切るか(施工割合方式を採るなら、工事項目と各項目の代金額)
- いつ、誰が査定するか
五 書き分けの分岐:注文者側と請負人側
| 立場 | 望ましい形 |
|---|---|
| 注文者(発注者) | 修補に代わる損害賠償を直ちに請求できる旨を書く(四の2)。報酬減額請求を催告なく行使できる旨を書く(四の3)。請負人の帰責事由による中途終了では出来高請求を認めない旨を書く(四の4) |
| 請負人 | 修補義務の限界として、修補請求ができない場合を書く(四の1。注文者にとっても予測可能性を確保する意味があります)。報酬減額請求を排除する(四の3)。出来高の算定方式を覚書で確定させる(四の4) |
正面から衝突するのは、報酬減額請求です。注文者から見れば、請負人の帰責事由を問わずに代金の側で調整できる手段であり、請負人から見れば、帰責事由がなくても報酬が削られる条項になります。
落としどころとして使えるのは、減額の上限と手続を付けることです。減額請求そのものは残したうえで、催告期間を明記し、減額割合の算定方法を定め、上限を報酬額の○%とする。「使えるが、使い方が決まっている」形にすると、双方が呑めます。
そして、この条項群を置いたら、期間制限とセットで確かめます。種類または品質の不適合については、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、修補請求も報酬減額請求も行使できなくなるからです(民法637条1項)。条項で救済を厚くしても、通知が遅れれば全部落ちます。ただし、請負人が引渡しの時(引渡しを要しない場合は仕事の終了の時)に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、この期間制限はかかりません(同条2項)。
本稿で扱わなかったこと
契約不適合責任の全体像と、「契約の内容に適合しない」の判断枠組みは、別稿「契約不適合責任の全体像」が扱います。
通知期間の起算点をどう設計するかは、別稿「通知期間の設計」が扱います。本稿の五の末尾で触れた民法637条1項の1年は、そちらで詳しく扱います。
契約不適合責任を免除・軽減する条項の限界は、別稿「契約不適合責任を免除・軽減する条項の限界」が扱います。
請負と準委任の区別は、本稿では扱いません。本稿は請負であることを前提にしています。
仕事が中途終了した場合の出来高請求を業務委託契約の文脈で扱うことや、システム開発における完成・未完成の判断も、本稿では扱いません。
中途解約条項そのものの設計は、別稿「中途解約条項:留保しないとどうなるか」が扱います。
参考文献等
註
(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問31(契約不適合責任に基づく修補請求の可否が問題となる場合)の解説1
(注2)同設問32(契約不適合責任に基づく修補に代わる損害賠償が問題となる場合)の解説2
(注3)民法559条・634条
(注4)前掲注1の設問30(契約不適合責任に基づく権利行使の期間制限が問題となる場合)の解説1
(注5)民法562条1項・559条
(注6)前掲注1の設問33(契約不適合責任に基づく報酬減額請求の可否が問題となる場合)の解説1
(注7)同設問33の解説1。民法563条2項・559条による
(注8)同設問34(仕事が中途終了した場合の出来高請求が問題となる場合)の解説1
(注9)同設問34の解説2
(注10)同設問34の解説3
(注11)同設問34の解説4
(注12)東京地判平成15年11月27日(平成15年(ワ)第1598号、判例秘書L05834921)。改正前民法下の事例です
(注13)前掲注1の設問31の改善例
(注14)同設問32の改善例および解説3
(注15)同設問33の改善例①・改善例②
(注16)同設問33の問題点②
(注17)同設問34の改善例
(注18)同設問34の解説4
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