一 どういう場面か:期間途中で解約したい、されたい
期間の定めのある契約を、途中でやめたい。あるいは、相手方からやめたいと言われた。
このとき出てくるのが、解約一時金や中途解約違約金の条項です。契約を離脱する側に金銭の支払を課すもので、名称は「解約一時金」「違約金」「解約金」などさまざまです。
解約一時金の定めは、解除権の行使を受ける側にとって有利な条項であり、解除権の行使を事実上抑制する機能があります(注1)。額が大きくなるほど、契約から抜けられなくなります。
この抑制の機能が、条項の存在理由であると同時に、無効とされる理由にもなります。離脱を思いとどまらせる程度を超えて、離脱そのものを封じてしまうと、条項は効力を失います。
この記事は、レビューでどこを見て、どこまで直すかを扱います。
二 何を見るか
1 条項の性質が書かれているか
解約一時金の法的性質は一義的ではありませんが、類似の機能をもつ条項として損害賠償額の予定や違約罰があります(注1)。
したがって、額だけを書いて性質を書かない条項は、別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」で見た損害賠償額の予定と同じように扱われ、一時金とは別に損害賠償を請求することができないと解されるおそれがあります。
解約一時金とは別に損害賠償請求を行う必要が生じ得る場合には、別途損害賠償請求権を行使することを妨げない旨を規定しておくことが望ましいといえます(注1)。
2 水準はどう決まっているか
賃貸借を例にとると、いちばん重い形はこれです。
(期間内解約) 第○条 賃借人は、賃貸借期間満了前に本契約を解約する場合、期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う。(注2)
残存期間の全額です。契約したばかりであれば、ほぼ全期間分の賃料を払わなければ抜けられません。
この形が公序良俗違反で一部無効とされた事案があります。裁判所は、建物賃貸借契約において期間途中での賃借人からの解約を禁止し、解約があった場合には違約金を支払う旨の約定自体は有効であるとしたうえで、次のように述べました。
しかし、違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる(注3)
この事案では、約3年2か月分の賃料相当額を請求できる約定について、平成6年3月5日から1年分の賃料および共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効とされました。同じ判決で、賃料の3か月分程度の違約金を定めた別の契約については、公序良俗に反するとはいえないとされています(注3)。
この事案では、次の賃借人が数か月で見つかっていたことなどを踏まえて、1年分は残り、3年2か月分は残らず、3か月分は問題にならないとされました。事案に依存する数字ですが、水準を考えるときの手がかりになります(注3)。
判断の基準は、賃借人が消費者か事業者か、契約締結に至るまでの交渉経過、建物の用途や仕様等を考慮したうえで、新たな賃借人を確保するのに必要な合理的期間の賃料相当額に見合う違約金額といえるかどうかです(注2)。
3 中途解約権とセットになっているか
期間の定めのある賃貸借契約では、中途解約を認める条項がない限り、賃借人は当然に中途解約できるわけではありません(注2)。
つまり、違約金条項は、中途解約を認める見返りとして置かれるのが本来の姿です。一定期間分の賃料相当額を違約金として支払うことを条件に中途解約を認める、という組み立てです。
レビューでは、この対応関係を確かめます。中途解約権を与えていないのに違約金だけを定めている条項は、対価関係を欠きます。逆に、中途解約権を与える条項とセットになっていれば、違約金の水準を説明する根拠が立ちます。
4 相手方が消費者ではないか
賃貸人が事業者で賃借人が消費者に当たる場合は、消費者契約法9条や10条も問題となり得ます(注2)。
消費者契約法9条1項1号は、解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金の定めについて、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とします。
最高裁は、大学の在学契約について、平均的な損害とは、一人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的、客観的に生ずると認められる損害をいうと判示しています(注4)。自社に実際に生じた額ではなく、同種の契約について一般的・客観的に生じる額です。
平均的な損害を超えることの主張立証責任は、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には無効を主張する消費者の側が負います(注4)。事業者側から見れば、算定の根拠を示せる状態にしておくことが、条項を守ることにつながります。
三 直し方
賃貸借の違約金条項であれば、期間で区切る形に改めます。
(期間内解約) 第○条 賃借人は、賃貸借期間満了前に本契約を解約する場合、○か月分(なお、残存期間がこれより短い場合は当期間分)の賃料相当額を違約金として支払う。(注5)
括弧書きが要点です。残存期間が違約金の対象期間より短いときに、まだ来ていない期間の賃料まで取ることにならないようにしています。
○か月をいくつにするかは、二の2の枠組みで決めます。新たな賃借人を確保するのに必要な合理的期間です。特殊な用途や仕様の建物であれば長く、汎用性の高い物件であれば短くなります。
解約一時金の条項であれば、加えるのは損害賠償との関係です。
(解約一時金) 第○条 甲が本件契約を中途解約した場合、甲は乙に対し、解約一時金として金○○円を支払う。ただし、乙が甲に対し、解約一時金とは別に損害賠償請求権を行使することを妨げない。(注6)
ただし書を置くかどうかは、立場によって変わります。請求される側であれば、逆に「解約一時金の支払をもって、中途解約に伴う一切の金銭的請求に代える」と書きます。
四 相手方への説明のしかた
違約金の水準を下げる交渉では、条項の目的に立ち返ると話が進みます。
違約金条項の趣旨は、次の賃借人が入居するまで賃料収入を得られず、募集時期によっては賃料値下げを余儀なくされる場合の損害を填補することにあります(注2)。目的が損害の填補である以上、その損害を超える額を取ることは、目的の外にあります。
したがって、説明はこうなります。この期間で新たな借り手を確保できる見込みがあるなら、その期間分で足りるはずです。それ以上の期間を求めるのであれば、確保が難しい理由(用途の特殊性、設備の仕様、立地)を示していただきたい。
額の水準ではなく、期間の見積りを議論の土俵にすると、双方に根拠が要ることになります。
フランチャイズ契約の解約一時金が公序良俗違反とされた事案では、裁判所が判断の枠組みを詳しく示しています。
フランチャイズ基本契約などの継続的契約の解約一時金などの条項の公序良俗違反を判断するに当っては、当該条項の趣旨、目的、内容、それが当事者双方に与える利益不利益、それが締結されるに至った経緯、契約両当事者の経済的力関係等のほか、契約の該条項は契約の一方当事者が自己の取引上の優越的地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に相手方に不利益となる取引条件を設定したものとみられるものでないかどうか(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律二条九項等参照。)など、証拠にあらわれた諸般の事情を総合的に考慮してその有効無効の範囲、程度などを決するべきである(注7)
考慮要素が多いことは、交渉の材料が多いことでもあります。この事案では、契約書に署名した時期が既に多額の設備投資に着手した後であったこと、解約一時金の性格が明確でないこと、それを支払わせる合理的根拠が見出せないことが挙げられ、500万円の解約一時金の定めは無効とされました(注7)。
五 どこまで直すか
優先して直すのは、次の2つです。
残存期間の全額を違約金とする条項。二の2で見たとおり、水準として無効とされる可能性が具体的にあります。期間で区切る形に改めるところまでは、必ず求めます。
性質が書かれていない解約一時金の条項。一時金と損害賠償の関係が決まらないため、紛争になったときに双方が別の前提で主張することになります。どちらの立場でも、書き足す実益があります。
これに対して、水準そのものの交渉(3か月を6か月にする、など)は、事案の見通しで判断します。新たな相手方を確保できる期間の見積りに争いがなければ、水準の争いは実質を伴いません。
相手方が消費者である取引では、優先順位が上がります。消費者契約法9条1項1号は超える部分を無効とするだけなので、条項が丸ごと使えなくなるわけではありませんが、平均的な損害の額を説明できないまま高い水準を書いておくと、適格消費者団体による差止請求(消費者契約法12条3項)の対象にもなり得ます。
本稿で扱わなかったこと
違約金と損害賠償額の予定・違約罰の書き分けは、別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」が扱います。二の1で触れた420条3項の推定の話です。
予定額を超える損害が生じた場合の扱いは、別稿「予定額を超える損害が生じた場合」が扱います。
消費者契約法の規律の全体像は、別稿「消費者契約法による規制」が扱います。
中途解約権そのものの設計(予告期間、解約できる時期)は、別稿「中途解約条項:留保しないとどうなるか」が扱います。本稿は、その解約に伴う金銭の定めに絞りました。
優越的地位の濫用は、別稿「割賦販売法・特定商取引法・独占禁止法による規制」が扱います。四で引いた判決が、公序良俗の判断の中でこの視点を取り込んでいます。
参考文献等
註
(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問10(解約一時金を設定する場合)
(注2)同設問27(期間の定めのある建物賃貸借において中途解約に伴う違約金条項の効力が問題となる場合)
(注3)東京地判平成8年8月22日判タ933号155頁(平成7年(ワ)第22661号)
(注4)最判平成18年11月27日民集60巻9号3597頁(平成17年(受)第1437号・第1438号)
(注5)前掲注2の改善例
(注6)前掲注1の改善例
(注7)浦和地判平成6年4月28日判タ875号137頁(平成3年(ワ)第457号)
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