ウィーン売買条約79条との対比:国際売買では何が免責事由か

10 共通条項の条項別解説

【専門】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:準拠法を日本法にしたつもりだったのに

海外の会社と物品の売買契約を結びます。契約書には「本契約は日本法に準拠する」と書きました。不可抗力条項も、国内取引で使っている雛形をそのまま入れました。

これで日本の民法が適用される、と考えると危険です。単に「日本法を準拠法とする」と定めるのみでは、ウィーン売買条約の適用を排除することはできません(注1)。

そして同条約には、不可抗力に相当する免責の規定があります。要件も効果も、日本民法とは書きぶりが違います。この記事は、その違いと、契約書でどう手当てするかを扱います。


二 制度の枠組み

1 黙っていると適用される

国際的な売買取引に関するルールとして、国際物品売買契約に関する国際連合条約があります。平成20年条約第8号で、ウィーン売買条約と呼ばれています。日本も締約国です(注2)。

適用の仕組みが、まず押さえどころです。ウィーン売買条約が適用対象としている契約については、同条約の適用を除外する明示的な合意がない限り、同条約の定めが適用されます(注3)。

原則として、営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約について、①当事者の国がいずれも締約国である場合、または②国際私法の準則によれば締約国の法律が準拠法とされる場合に適用されます(注4)。日本は締約国ですから、①相手方の国が締約国である場合、または②日本法を含む締約国の法律が準拠法とされる場合には、明示的にその適用を排除しない限り、条約の不可抗力条項が適用になる可能性があります(注4)。

契約書に何も書かずに済ませると、日本民法ではなく条約が動く、ということです。

2 79条の免責要件

条約の免責規定は79条です。

(1) 当事者は、自己の義務の不履行が自己の支配を超える障害によって生じたこと及び契約の締結時に当該障害を考慮することも、当該障害又はその結果を回避し、又は克服することも自己に合理的に期待することができなかったことを証明する場合には、その不履行について責任を負わない。(注5)

免責を得るための要素は、次のとおりです(注6)。

要素内容
①「自己の義務の不履行が自己の支配を超える障害によって生じたこと」(不可抗力事由の存在と債務不履行の因果関係)
②ア「契約の締結時に障害を考慮することが自己に合理的に期待することができなかったこと」(予見可能性の不存在)
②イ「障害又はその結果を回避し、又は克服することが自己に合理的に期待することができなかったこと」(回避・克服可能性の不存在)

②はアとイの両方を主張・立証する必要があります。79条(1)が「契約の締結時に当該障害を考慮することも、当該障害又はその結果を回避し、又は克服することも自己に合理的に期待することができなかったこと」と定めているためです(注5)。なお、実務書には「アまたはイ」を主張・立証する必要があるとするものがありますが(注6)、条約の文言は両方を求めています。

条文の作りとして目を引くのが、「不可抗力」という語を使っていないことです。使われているのは「自己の支配を超える障害」です。国内の契約書で「その他自らの支配・統制の及ばない外部原因」と書く例がありますが、発想はこれと同じです。

免責の期間についても定めがあります。この条に規定する免責は、(1)に規定する障害が存在する間、その効力を有します(注7)。障害が消えれば、免責も消えます。

通知義務も条文に入っています。履行をすることができない当事者は、相手方に対し、(1)に規定する障害及びそれが自己の履行をする能力に及ぼす影響について通知しなければなりません。障害を知りまたは知るべきであった時から合理的な期間内に相手方が通知を受けなかった場合には、それを受けなかったことによって生じた損害を賠償する責任を負います(注8)。

国内契約の不可抗力条項に通知義務を書き足すことがありますが、条約はこれを条文に持っています。

3 日本民法の帰責事由との違い

民法415条1項ただし書と並べると、違いが3つ見えます。

証明すべき事項の細かさが、まず違います。民法は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」という包括的な定めです。条約は、障害の存在、因果関係、予見可能性の不存在、回避・克服可能性の不存在を、要素として書き分けています。

この違いは、立証の場面に出ます。契約に不可抗力条項を置いた場合には、すでに不可抗力として合意した事由が存在するので、発生した事象が当該事由に該当するか否かが主たる争点となることが予想されます。他方でウィーン売買条約に基づく不可抗力による免責の主張をする場合には、発生した事象の存在のみならず、因果関係や、予見可能性・回避・克服可能性の不存在を個別に主張・立証しなければならないため、その立証負担は容易ではありません(注9)。

免責される当事者の範囲も違います。条約79条は、免責される当事者を一方に限定していません(注10)。国内の条項例では「甲は責任を負わない」と、物やサービスを提供する側だけを免責する形が多くみられます(注10)。条約79条(1)は「当事者は」と書いており、どちらの当事者にも及びます。

そして、免責の範囲が損害賠償に限られることが、条文に書かれています。

(5) この条の規定は、当事者が損害賠償の請求をする権利以外のこの条約に基づく権利を行使することを妨げない。(注11)

79条で免責されても、相手方は契約の解除や代金の減額といった他の救済を求められます。日本法でも、現行民法では契約の解除に当たって債務者の帰責事由の有無は問わないため、不可抗力による債務不履行であっても相手方は解除できます(注12)。結論は近いのですが、条約はこれを条文に書いています。

4 下請やサプライヤーの不履行は、二重の要件になる

国内の不可抗力条項には「取引先の債務不履行」を免責事由として書き込む例があります。条約は、この場面を別に規定しています。

(2) 当事者は、契約の全部又は一部を履行するために自己の使用した第三者による不履行により自己の不履行が生じた場合には、次の(a)及び(b)の要件が満たされるときに限り、責任を免れる。 (a) 当該当事者が(1)の規定により責任を免れること。 (b) 当該当事者の使用した第三者に(1)の規定を適用するとしたならば、当該第三者が責任を免れるであろうこと。(注13)

要件が二重になっています。売主自身について79条(1)の要件が満たされ、かつ、その下請やサプライヤーについても79条(1)を当てはめたら免責されるであろうことが必要です。

サプライヤーが供給を止めたというだけでは足りません。そのサプライヤーの不履行が、サプライヤー自身の支配を超える障害によるものであり、かつ予見も回避もできなかったといえるかまで問われます。単に他社を選べたのではないか、代替調達ができたのではないか、という反論はここで効いてきます。

国内雛形の「取引先の債務不履行」という一語は、条約の下では、この二重の要件を書き換える合意として読まれることになります。その意図で書くのであればよいのですが、深く考えずに国内雛形を持ち込んでいる場合は、条約が定める枠組みを丸ごと外していることになります。

5 相手方の作為・不作為による不履行

もう一つ、条約には対になる規定があります。

当事者の一方は、相手方の不履行が自己の作為又は不作為によって生じた限度において、相手方の不履行を援用することができない。(注14)

80条です。買主の指示や協力の欠如が原因で売主が履行できなかったとき、買主はその不履行を持ち出せません。民法536条2項が、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒めないとしているのと、同じ方向の規定です。


三 契約実務への還元

1 適用を受け入れるなら、条項で要件を具体化する

条約の適用を前提にする場合、不可抗力条項は書かないという選択もあり得ます。79条があるからです。

しかし、書いたほうが有利になります。理由は二の3で見たとおり、立証負担の違いです。条項に事由を列挙しておけば、争点は「その事象が列挙された事由に当たるか」に絞られます。列挙がなければ、予見可能性と回避・克服可能性の不存在まで、自分で立証することになります。

不可抗力条項による救済を重要なオプションとしたい当事者は、あらかじめウィーン売買条約の適用の有無も踏まえて検討する必要があります(注9)。

条項を置く場合、条約との関係で意識しておく点が3つあります。

  1. 免責の対象。条約79条は双方の当事者に及びます。国内雛形をそのまま持ち込むと片面的な条項になり、条約より狭くなる場合があります。
  2. 通知。条約79条(4)は通知を怠った場合の損害賠償責任を定めています。条項に通知義務を書くときは、通知を免責の条件とするのか、条約と同じく損害賠償の問題にとどめるのかを決めます。
  3. 効果の範囲。条約79条(5)は免責が損害賠償に限られると明記しています。条項で解除の可否まで書くのであれば、その旨を条項に置きます。

2 排除するなら、明示する

条約を使わないと決めた場合、書き方に注意が要ります。適用範囲に関する合意の方法は、4つに分けられます(注1)。

方法内容排除の効果
①締約国の法律を準拠法とするが、ウィーン売買条約は適用しないと定める排除される
②準拠法を明示せず、単にウィーン売買条約は適用しないと定める排除される
③単に非締約国の法律を準拠法として定める排除される
④単に締約国の法律を準拠法とすると定める排除とは解されない

④が落とし穴です。単に「日本法を準拠法とする」と定めるのみでは、ウィーン売買条約の適用を排除することはできないので、注意が必要です(注1)。日本は締約国なので、日本法を準拠法とする合意は、条約を含む日本法を指定したものと理解されるからです。

排除するなら、準拠法条項に一文を足します。「国際物品売買契約に関する国際連合条約は本契約に適用しない」と書けば足ります。

3 どちらを選ぶかは、立場で決まる

条約を排除するかどうかは、有利不利で決めます。

売主の側は、条約79条の免責がやや取りにくいことを意識します。障害の存在だけでなく、予見可能性と回避・克服可能性の不存在まで求められるからです。もっとも、これは条項で補えます。

買主の側は、条約が適用されると、売主が広い不可抗力条項を持ち込んでも、条約の強行的な規律に反しない限りは条項が優先することを意識します。条約は当事者の合意を尊重する建て付けなので(条約6条。12条による制限があります)、条項は条約の規定に優先して適用されます。ただし、条項が有効かどうかは条約の規律の外にあり(条約4条(a))、準拠法となる国内法によって判断されます。

結局のところ、条約を排除しても排除しなくても、不可抗力条項をきちんと書いておくことの重要性は変わりません。変わるのは、条項がなかったときに落ちる先が、日本民法415条1項ただし書なのか、条約79条なのか、という点です。

英米法圏の相手方との契約では、この点がさらに効きます。英米法の場合、契約責任は厳格責任であるため、契約責任を免責する不可抗力条項の規定が重要となります(注15)。相手方が条項の重みを日本の当事者より強く受け止めている可能性がある、ということです。

4 レビューで見る順序

国際売買の契約書で不可抗力条項に当たったときは、次の順に確認します。

まず、条約が適用される契約かどうか。相手方の営業所がどの国にあるか、その国が締約国かどうかを確かめます。物品の売買であることも要件です。

次に、準拠法条項を読みます。「日本法に準拠する」とだけ書いてある契約書は、条約が適用される可能性が高い状態です。排除したいのであれば一文を足し、受け入れるのであればそれでよい、と社内に説明できるようにしておきます。

そのうえで、不可抗力条項を条約と突き合わせます。免責の対象となる当事者、通知義務の扱い、効果が損害賠償に限られるかどうか、そして下請やサプライヤーの不履行の扱いです。二で見たとおり、この4点は国内雛形と条約とで作りが違います。

条約を排除したうえで日本法だけで処理すると決めたなら、不可抗力条項は国内取引と同じ考え方で書けます。ただしその場合も、相手方の期待は英米法の感覚に寄っていることがあります。免責の範囲を条項の文言で確定しておく必要性は、国内取引より高いといえます。


参考文献等

註

(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)620頁。同書は曽野裕夫「ウィーン売買条約(CISG)の意義と特徴」ジュリスト1375号(2009年)7〜8頁を引きます
(注2)前掲注1・619頁
(注3)前掲注1・619頁
(注4)前掲注1・619頁。同書は矢倉信介「不可抗力条項と企業の契約責任──日本法及びウィーン売買条約の観点から」JCAジャーナル58巻11号(2011年)6頁を引きます
(注5)国際物品売買契約に関する国際連合条約(平成20年条約第8号)79条(1)
(注6)前掲注1・620頁。同書は矢倉・前掲注4の6〜7頁を引きます
(注7)同条約79条(3)
(注8)同条約79条(4)
(注9)前掲注1・620頁
(注10)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)91〜92頁
(注11)同条約79条(5)
(注12)前掲注10・93〜94頁
(注13)同条約79条(2)
(注14)同条約80条
(注15)前掲注1・616頁注16


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