一 この条項は何をしているのか
1 書かなければ、法律だけでどこまで処理できるか
部品を仕入れて製品に組み込み、販売しました。しばらくして、特許権者を名乗る第三者から、その製品が自社の特許を侵害しているという通知が届きます。契約書に、第三者の権利についての定めは何もありません。
法律だけで処理すると、次のようになります(注1)。
売主が権利者から許諾を受けて目的物を製造し販売しているのであれば、その目的物については特許権は目的を達したものとして消尽し、特許権者がさらに買主や転売先に対して特許権を行使することは許されません。売主が特許権者や許諾を受けている者から目的物を購入して買主に転売する場合も同じです。この場合、買主は何もしなくても守られます。
問題は、売主が必要な許諾を受けていない場合です。このとき、売主のみならず買主も、権利者から目的物の転売等の差止請求および廃棄請求や損害賠償請求を受けることがあり得ます(注1)。
売主との関係では、必要な許諾を受けないで目的物を引き渡した行為は債務の本旨に従った履行とはいえず、売主は買主に対して債務不履行(不完全履行)に基づく責任を負います(注1)。ただし、買主の指示により定めた仕様に関して第三者の知的財産権の侵害を惹起したような場合には、過失相殺がなされ得ます(注1)。
つまり、条項がなくても債務不履行の一般則で戦えないわけではありません。それでも条項を置くのは、次の2つの理由からです。
2 訴訟外の請求には、売主を巻き込む手立てがない
権利者が買主のみを被告として訴訟を提起した場合、売主は訴訟の結果に利害関係を有する者として補助参加をすることができ(民事訴訟法42条)、売主が自ら参加しない場合には買主から売主に対して訴訟告知をすることができます(民事訴訟法53条)(注1)。
問題は、請求が訴訟の外から来たときです。
しかし、知的財産権の侵害に関する主張が訴訟外で第三者から買主に対してなされた場合に、売主を積極的に関与させる旨の定めは、法文上存しない。(注2)
そして、第三者からの請求は、訴訟にならずに協議で解決されることが多いようです。多くの企業においては、第三者からの請求等が生じたとしてもそれを訴訟等の公開の場で解決するのではなく非公開の協議等で解決することが多く、訴訟が提起された場合でも少なくとも6割から7割以上は判決ではなく和解により解決しているとみられます(注3)。そして、和解による解決の場合の多くは、請求等の是非について確たる判断がなされないまま解決に至ります(注3)。
請求の当否が決まらないまま、費用だけが出ていく。その費用を誰が負担するのかを決めておくのが、この条項の役割です。
3 買主は、自分では反論できない
もうひとつの理由は、防御の実際にあります。
買主としては、特に製法特許の侵害を主張されているような場合、売主が採用している製法が不明であることから反論が困難となることも多く、そのため、売主の積極的な関与を求める必要性が高くなります(注4)。
売主の側にも利益があります。自己の関与しないまま買主が敗訴したり損害賠償の合意をしたりして、その全責任について負担を求められるよりも、あらかじめ訴訟手続や和解交渉に関与する機会を与えてもらい、より有効な反論をして危険を低減できたほうがよいからです(注4)。
二 よくある条項例
(1)結果を保証する形
乙は、甲に納入する物品並びにその製造方法及び使用方法が、第三者の工業所有権、著作権、その他の権利(総称して「知的財産権」という。)を侵害しないことを保証する。(注5)
(2)保証の強度を段階で書き分ける形
ライセンス契約の場面では、4つのパターンがあります(注6)。
| 内容 | |
|---|---|
| ① | 侵害していないことの保証は一切しない |
| ② | 過去・契約締結時に侵害請求を受けた事実がないことを保証する |
| ③ | ライセンサーが知り得る限り侵害していないことを保証する |
| ④ | 将来にわたり侵害しないことを保証する |
(1)は④にあたります。
(3)上限を付ける形
甲は、乙に対し、本件特許権に係る発明の実施により第三者の権利を侵害しないことを保証する。ただし、本件特許権が第三者の権利を侵害することにより、乙が損害を被った場合、甲が乙に対して支払う補償額は、乙が甲に対し既に支払った実施料の総額を上限とする。(注7)
三 問題点
1 保証させても、侵害を証明できなければ動かない
この条項の最大の弱点です。
ADSLモデム用チップセット等の売買で、基本契約18条1項に(1)の条項がありました。買主は、特許権者から権利行使を示唆され、ライセンス料2億円を支払ったうえで、その分を売主への売買代金債務と相殺すると主張しました(注8)。
裁判所は、1項違反の主張を退けています。
本件チップセットが本件各特許権を侵害するものであると認めることはできない。したがって、控訴人による本件基本契約18条1項違反の主張は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない(注8)
買主は、原審で裁判所の釈明に対しチップセット自体を解析したうえでの立証を行うつもりがない旨を述べ、控訴審でも具体的な技術上の裏付けを伴った主張立証を行おうとしませんでした(注8)。
保証条項は、侵害が証明できて初めて使えます。そして、その証明をするのは、保証を取り付けた側です。他方、ライセンサーの側から見ても、侵害しないことを証明するのは現実には困難で、この種の条項からライセンサーの具体的な義務ないし責任を導くことは難しいといえます(注9)。だからこそ、侵害の主張を受けたときの協力や防御の義務は、保証とは別の条項として書いておく意味があります。
2 調査を尽くす義務なのか、結果の保証なのか
二の(2)の4つは、保証の強度の段階です。③は調査を尽くしたかどうかの問題になり、④は結果そのものを引き受けることになります。
③を書くなら、どこまで調べたのかが後で問われます。ある特許発明を実施しても第三者の特許権等を侵害しないか否かの調査を、FTO(freedom to operate)調査といいます(注9)。契約に先立って非侵害調査の結果を、その方法や範囲を含めて報告してもらうことを前提にする方法も考えられます(注9)。
3 保証の範囲が広すぎて、売主が飲めない
ライセンサーの立場からは、保証条項を規定しないか、規定するとしても効力を弱める方向にもっていきたいところです。具体的には、「知る限り」という限定を付すこと、保証の対象を日本の特許権に限定すること、損害賠償額に上限を設けることが考えられます(注9)。
対象を日本の特許権に限定するかどうかは、輸出があるかどうかで意味が変わります。特許権は国ごとに成立するので、買主が製品を輸出するなら、輸出先の国の権利まで保証の対象に入るのかを決めておくことになります。
4 保証を取り付けても、請求は買主に来る
第三者である特許権者が、ライセンシー(実施権者)を相手にして交渉や訴訟を行うことを望むこともあるので、保証条項があるからといって安心はできません(注9)。
三の1の事件でも、特許権者は買主に対してライセンスを申し入れています(注8)。売主に保証させていても、矢面に立つのは買主です。
四 改善例
条項に置くべきものは4つです。
| 要素 | 書くこと |
|---|---|
| ① 保証の強度 | 二の(2)の①〜④のどれかを選ぶ。③にするなら、調査の方法と範囲を報告させることまで書く |
| ② 保証の地理的範囲 | 日本の権利に限るのか、輸出先の国の権利まで含むのか |
| ③ 責任の上限 | 上限を置くか。置くなら、対価の総額を基準にするのが分かりやすい |
| ④ 侵害が問題になったときの手続 | 通知、資料の提供、対応の主導権、費用の負担。ここが実際に効く |
④を書かずに①だけを厚くしても、三の1のとおり動きません。④は別稿(侵害が判明した場合の対応義務と費用負担)が扱います。
五 書き分けの分岐
1 買主・ライセンシーの立場
④を厚くするのが最優先です。①で④を上回る保証を取り付けても、侵害の証明という壁が残ります。
そのうえで①を取りにいくなら、③(知り得る限り)で妥協せず④を求めることになりますが、相手が飲まない場合は、②(過去に請求を受けた事実がないこと)と、FTO調査の結果の報告を組み合わせる形が現実的です。
2 売主・ライセンサーの立場
④は受け入れて、①を絞ります。絞り方は、三の3で見た3つ(「知る限り」、日本の権利に限定、上限)です(注9)。いずれも交渉で通りやすい部類です。
買主の指示による仕様で侵害が生じた場合の扱いも、書いておく価値があります。一の1のとおり、法律上も過失相殺の対象になり得ますが、条項に書けば争点にせずに済みます。
3 どちらの立場でも
保証条項は、書いた時点では何も生みません。生むのは、侵害が問題になったときの手続と費用の分担です。①の文言を1時間交渉するより、④を1行足すほうが実益があります。
参考文献等
註
(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)70頁
(注2)前掲注1・70頁
(注3)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)78頁のColumn(第三者からの請求等がなされた場合に、その請求等の是非は判決で確定するのか)
(注4)前掲注1・71頁
(注5)知財高判平成27年12月24日判例タイムズ1425号146頁(平成27年(ネ)第10069号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB文献番号25447708)が認定する本件基本契約18条1項。売買代金請求控訴事件。判決文は当事者を「被控訴人」(売主)・「控訴人」(買主)と表記していますが、本稿では読みやすさのため「乙」「甲」に置き換えました
(注6)前掲注1・548頁
(注7)前掲注1・548頁の条項例1項
(注8)前掲注5の判決
(注9)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)Case21(第三者権利の非侵害の保証条項の意義が問題になった事例)の「改善のポイント」
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