契約不適合責任を免除・軽減する条項の限界

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:売主が「一切責任を負わない」と書いてきた

中古の機械を買う、使用中の建物を買う、在庫品をまとめて引き取る。こうした取引で相手方から届いた契約書に、次の一文が入っていることがあります。

甲は乙に対し、本件目的物の一切の性状について契約不適合責任を負わないものとする。

売主としては、現状のまま引き渡すのだから責任は負わない。買主としては、そのつもりで安く買っている。当事者の理解は一致しているように見えます。

それでも、この一文だけでは足りません。効かない場面があり、書き方によっては範囲が決まらないからです。

もう1つ、逆の形もよく見ます。

(瑕疵担保責任) 第○条 乙は、本件目的物に瑕疵があった場合、甲に対して損害賠償請求をすることができる。(注1)

こちらは責任を認める側の条項ですが、2つの問題を抱えています。民法改正後は契約不適合責任として記載すべきであること、そして契約不適合責任の対象または対象外となる具体的内容が一切記載されていないことです(注1)。

この記事は、契約不適合責任を免除・軽減する条項をレビューするときに、どこを見て、どう直すかを扱います。


二 何を見るか

1 民法572条:知りながら告げなかった事実には効かない

免除条項そのものは有効です。従来の瑕疵担保責任は任意規定であり、免除条項そのものは有効と考えられているため、売主にとって同条項を定めておく必要性は高いといえます(注2)。

限界は、次の条文です。

(担保責任を負わない旨の特約) 第572条 売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。(注3)

売主が当該不適合を知りながら告げなかった場合は責任を免れないので注意が必要です(注2)。

レビューで見るのは、条項の文言だけではありません。売主が何を知っていたかを、契約締結の過程で確かめておく必要があります。知っていた不具合を告げずに免責条項を置いても、その部分は効きません。

2 消費者契約法との重なり

相手方が消費者であれば、免除条項は別の規制にかかります。事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効であり(消費者契約法8条1項1号)、一部を免除する条項も、事業者側の故意または重大な過失によるものについては無効です(同項2号)(注4)。さらに、一部を免除する条項は、重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていなければ、それ自体が無効になります(同条3項)。

もっとも、契約不適合の場面には適用除外があります。有償契約で引き渡された目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しないときに、事業者が履行の追完をする責任または不適合の程度に応じた代金もしくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合には、8条1項1号・2号は適用されません(同条2項1号)(注4)。

賠償責任を外す代わりに追完か減額で応じる設計であれば、種類・品質の不適合については8条1項1号・2号による無効を避けられます。BtoCで免除条項を置くなら、この形に寄せるのが実務的です。

3 範囲が書かれているか

よく見る不備がここです。一の2つ目の条項例には、契約不適合責任の対象または対象外となる具体的内容が一切記載されていません(注1)。

契約内容に適合するか否かは、契約当事者の合意内容、合理的意思解釈から判断されます(注5)。したがって、品質・性能・数量等を契約書において細かく定めておくことが、売主の責任の範囲を明確化し、紛争予防につながります(注5)。

免除する側から見ても、同じことがいえます。一切の契約不適合責任を免除することが難しいケースであっても、契約締結時点で判明している目的物の特性および不具合等について契約書に記載し、当該項目については契約不適合責任を免除する旨規定することも可能です(注2)。

全部免除が通らないときは、項目を挙げて部分免除にする。これが実務の逃げ道です。

4 裁判例で見ておく:条項を削除しただけの事案

二の3で見た範囲の問題が正面から問題になった裁判例があります。ホテルの跡地を住宅建築目的で買った事案で、契約書には次の特約が置かれ、瑕疵担保責任の条項は取消線で削除されていました(注6)。

売主が以前ホテル経営をしており,その後建物の上部部分は撤去したが基礎部分及びそれに付随する諸設備,またプール用地の一部が官有地に埋設されていることを売主及び買主双方は確認し,引き渡しを行うこととする。(注6)

着工後、土地から旧建物の廊下・洗面室・浴室・居室等の構造物と大量の解体ガラが出てきました。売主は、条項を削除した以上、埋設物についても責任を負わないと主張しています。

裁判所は、まず、契約書の特約条項も併せてみれば、契約の対象となる土地の性状は旧建物の基礎部分の一部・浄化槽などの付属施設その他解体ガラの一部が存するものの住宅建築目的に資するものであり、それ以上に埋設物の存在が予定されていたとはいえないとして、住宅の建築に支障をきたす埋設物の存在は土地の瑕疵に当たるとしました(注6)。そのうえで、免責の合意の範囲を次のように切っています。

これらの事実を併せ考慮すると,本件売買契約において,原告と被告は,旧建物の基礎部分や浄化槽等の付随設備,解体ガラの一部の搬出に係る費用等について,本件土地の売主である被告に対して瑕疵担保責任を負わせない旨合意したことが認められ,反面,本件売買契約の前提とされていない本件埋設物の存在によって生ずる損害についてまで被告の責任を免除する旨の合意が成立したとはいえない(注6)

条項を削除しても、免責の範囲は、特約条項の記載と契約前の説明から当事者が前提にしていた性状までしか及びませんでした。認容額は619万5000円です(注6)。

この事案では、特約条項に書かれた「基礎部分及びそれに付随する諸設備」「プール用地の一部」という記載と、売主側の説明内容が、免責の範囲を画する決め手になりました。二の3で見た部分免除の技術は、この判決の裏返しです。

5 「瑕疵」のまま残っていないか

条項の表題や本文に「瑕疵担保責任」が残っている契約書は、いまも珍しくありません。

改正後民法では、いわゆる特定物ドグマを否定し、瑕疵担保責任を債務不履行責任の特則と位置付けており、従来の「瑕疵」という文言を使用せず「契約の内容に適合しないもの」と規定しました(注5)。もっとも、従来の「瑕疵」の概念を積極的に変更する趣旨ではないと解されています(注5)。

したがって、契約書においても契約不適合責任という文言を使用することが望ましいといえます(注5)。文言を直したから結論が変わるわけではありませんが、条項の中で旧法の用語と新法の救済手段が混ざると、どの規律を前提にした条項なのかが読めなくなります。


三 直し方

1 責任を認める側:通知期間と追完の手続まで書く

改善例は、次の形です(注7)。

(契約不適合責任) 第○条 乙は、本件目的物が契約内容に適合しない場合(ただし、次条に定める事由は除く。)、適合しないことを知った時から1年以内に甲にその旨通知し、かつ相当の期間を定めて履行の追完を催告した場合に限り、履行の追完を請求することができる。 2 前項の催告にもかかわらず、乙が定めた期間に甲が追完しない場合、乙は、甲に対し不適合の内容に応じた代金の減額を請求できる。 3 本条の規定は、乙による損害賠償請求又は解除を妨げない。(注7)

一の2つ目の条項例と比べると、足されているのは3か所です。「次条に定める事由は除く」(免除する範囲への接続)、「知った時から1年以内に……通知し、かつ相当の期間を定めて履行の追完を催告した場合に限り」(手続)、そして代金減額と損害賠償・解除の関係を項に分けたことです。

2 免除する側:特性を書き込み、救済手段を書き切る

免除する場合の改善例は、次の形です(注7)。

(契約不適合責任) 第○条 甲は乙に対し、以下に定める事由〔特性の例示列挙〕を含む一切の契約不適合責任を負わないものとし、乙は甲に対し、本件目的物が契約に不適合であることを理由として売買代金の減額、追完、解除又は損害賠償請求をすることができない。(注7)

改善例②は、判明している特性を例示したうえで一切の責任を免除する形です。二の3の部分免除(列挙した事由に限って免除する形)とは別の選択肢です。要点は2つあります。〔特性の例示列挙〕の部分に、契約締結時点で判明している目的物の特性・不具合を書き込むこと。そして、免除の効果として何が封じられるのかを、代金減額・追完・解除・損害賠償と個別に書き切ることです。

一の1つ目のような「一切の性状について契約不適合責任を負わない」だけの条項は、改善例②と比べると、封じる救済手段が明示されていません。救済手段を書き分けておかないと、封じたはずの請求が別の名前で戻ってきます。

3 免除する範囲と、認める範囲を、条文で接続する

三の1の改善例が「ただし、次条に定める事由は除く」としているところが、この2つの条項の関係を作っています。責任を認める条項と免除する条項を並べて置き、前者が後者を参照する形です。

免除条項だけを置いて責任を認める条項を置かない設計もありますが、その場合は免除の範囲外で何が請求できるのかが民法の原則に戻ります。どこまで戻るのかを条項で決めたいなら、2つを並べます。並べる場合は、改善例②の「以下に定める事由〔特性の例示列挙〕を含む一切の」を「以下に定める事由については」とする部分免除に直しておかないと、2つの条項がかみ合いません。


四 相手方への説明のしかた

免除条項の削除を求めると、売主側からは「現状有姿で安く売っているのだから当然だ」という反応が返ってきます。

正面から争うより、二の3の整理を使うほうが早く通ります。全部免除を残すか外すかではなく、免除する事由を列挙する形にできないかを提案する。売主にとっては、判明している不具合を書き出すだけであり、免責の範囲はむしろ明確になります。買主にとっては、書かれていない不具合が出てきたときの逃げ道が残ります。

民法572条を持ち出すときは、書き方に注意が要ります。「知っていたことを隠していませんか」と読める言い方をすると、交渉が止まります。条項の限界の説明として出し、目的物の状態を書き出す作業に接続させると、話が前に進みます。

相手方が消費者の場合は、二の2のとおり条文の話になります。賠償責任の全部免除は無効であること、追完または代金減額で応じる設計にすれば条項が残ることを示せば、代案として受け入れられやすくなります。


五 どこまで直すか

優先して直すのは、免除する事由が書かれていない条項です。二の3のとおり、範囲が決まらなければ、免除条項があっても争いになったときに機能する保証がありません。売主側でレビューしていても、ここは直す価値があります。

次が、封じる救済手段の書き分けです。三の2のとおり、代金減額・追完・解除・損害賠償を並べて書きます。1つでも落ちていると、そこから請求が入ります。

「瑕疵担保責任」という表題は、優先度が下がります。二の5のとおり従来の概念を積極的に変更する趣旨ではないので、そのままでも結論が変わる場面は多くありません。ただし条項の中身が旧法の救済手段(解除と損害賠償だけ)で組まれているなら、中身のほうを直します。

そして、免除条項を置いたら、契約締結の過程で共有した情報を記録に残します。何を説明し、何を渡したか。民法572条の適用が問題になったときに効いてくるのは、条項の文言ではなく、この記録のほうです。

本稿で扱わなかったこと

契約不適合責任の全体像と、4つの救済手段の関係は、別稿「契約不適合責任の全体像」が扱います。

通知期間の起算点と長さの設計は、別稿「通知期間の設計」が扱います。三の1の改善例が「知った時から1年以内」としている部分の裏返しです。

請負における修補・報酬減額・出来高請求は、別稿「請負における修補・報酬減額・出来高請求」が扱います。

損害賠償責任そのものを免除・制限する条項の限界は、別稿「免責条項の限界:公序良俗・信義則」と別稿「消費者契約法による規制」が扱います。本稿の二の2は、そちらの要約です。

不動産売買における現状有姿引渡しの実務は、本稿では扱いません。


参考文献等

註

(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問23(売主の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を定める場合)が掲げる条項例および問題点
(注2)同設問23の解説2
(注3)民法572条
(注4)消費者契約法8条1項1号・2号、同条2項1号、同条3項
(注5)前掲注1の設問23の解説1
(注6)東京地判平成24年9月13日(平成21年(ワ)第19439号、LEX/DB文献番号25496708)。改正前民法(瑕疵担保責任)下の事例です
(注7)前掲注1・設問23の改善例①・改善例②


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