秘密情報の範囲の定め方

10 共通条項の条項別解説

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか

1 書かなければ、守られる情報が狭くなる

秘密保持条項がなくても、情報が一切保護されないわけではありません。不正競争防止法が営業秘密を保護しているからです。

ただし、営業秘密として保護されるには3つの要件がすべて必要です。秘密として管理されていること(秘密管理性)、生産方法・販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)(注1)。

この3要件は、実際にはかなり厳しく働きます。社内でアクセス制限が設定されていない情報(単に社外秘とされているだけの情報など)は、通常、秘密管理性を欠きます。製品に瑕疵があるといったネガティブ情報や社内の不祥事に関する情報は、有用性を欠くとされるのが原則です(注2)。

いっぽう、企業が相手方に守ってほしいと考える情報は、営業秘密に限りません。アクセス制限をかけていないが社外には出したくない情報も含めて、広く対象にしたいのが普通です(注2)。

さらに、逆向きの効果もあります。営業秘密に該当する情報を相手方に開示する場合、少なくとも秘密保持義務を課していない限り、秘密管理性と非公知性の要件を欠くことになり、営業秘密としての保護そのものを失います(注2)。開示するなら条項を置くほかない、ということです。

技術情報では、もう一つ効きます。特許を受けるには新規性が必要ですが(特許法29条1項各号)、秘密保持契約を結ばずに相手方へ発明の内容を知らせると、原則として新規性を失い、特許を受けられなくなると考えられます(注3)。

2 定義が、そのまま義務の範囲になる

秘密保持条項は、たいてい2つの部分でできています。何が秘密情報かを決める部分と、その秘密情報について何を禁じるかを決める部分です。

このうち前者が、条項全体の射程を決めます。義務の内容をどれだけ丁寧に書いても、対象が定まっていなければ、どの情報について義務を負っているのかが分かりません。定義の幅が、そのまま義務の幅です。

開示された情報が秘密情報に該当するか否かによって保護の対象となるかが変わるので、開示される情報のうち何が秘密情報に該当するのかの定義を明確に定めておく必要があります(注4)。


二 よくある条項例

1 包括型

いちばん多い形です。

甲および乙は、本契約または個別契約の履行を通じて知りまたは知り得た相手方に関する一切の情報を第三者に開示または漏洩してはならず、かつ、かかる情報を本契約または個別契約の履行以外の目的のために使用してはならない。(注5)

「知りまたは知り得た相手方に関する一切の情報」。範囲を可能な限り広く定める書き方です。

2 限定型

対象を絞る形です。絞り方は3つあります。

内容で絞る。「相手方の○○製品の製造にかかる技術上の情報(相手方から開示、提供された図面、仕様書等の書面に記載された情報をいう)」のように、情報の中身で特定します(注6)。

手続で絞る。「開示または提供の際に秘密情報であることを書面にて明示した情報」とする形です(注7)。

媒体で絞る。「開示提供した当事者によりパスワードの設定その他の記録された情報の閲覧等に制限が課された媒体に記録された情報」とする形です(注8)。

営業秘密の特定方法として、①概括的な概念による特定(情報カテゴリーを示して外延を規定する)、②媒体による特定(記録された媒体の名称や番号等で特定する)、③詳細な特定(情報の内容そのものを記載する)という3つが挙げられており、参考になります(注9)。

3 「秘密」とだけ書く形

絞ったつもりで絞れていない例もあります。

甲および乙は、本契約または個別契約の履行を通じて知りまたは知り得た相手方の秘密を第三者に開示または漏洩してはならず……(注10)

「秘密」「機密(情報)」といった表現では、いかなる情報が秘密保持義務の対象となるのかが明らかになっているとは言いがたく、実際の契約の履行の場面で、どの情報につき秘密保持義務を履行すべきかがわからないリスクがあります(注10)。範囲を限定したつもりでも、包括型と同じかそれ以上に、どこまでが対象かが分からなくなります。


三 問題点

1 広ければ守られる、ではない

開示する側の発想は単純です。広く書けば漏れがない。開示する立場にある場合には、秘密保持の対象となる情報の範囲をできるだけ広く規定することになります(注11)。

ところが、広く書くことには、デメリットがあります。

秘密情報の範囲を広くするほど、どの情報が秘密保持義務の対象かを当事者が意識できなくなり、かえって秘密保持義務が守られなくなるおそれがあります(注12)。

必要な情報もそうでない情報もすべて同じように扱われた結果、かえって必要なレベルの情報管理がされない事態も招きかねません(注13)。

情報開示者にとっても、秘密保持の対象が抽象的すぎると、対象範囲が特定されず、契約そのものの有効性に疑義が生じるため、限定を設けることが必ずしも不利とはいえません(注14)。

受け取る側には、副作用が生じます。過度に広範な秘密情報の定義をもつ契約は、受領した秘密情報の管理を困難にするうえ、情報のコンタミネーションを引き起こし、将来の独自事業の足枷となる可能性があります。さらに、自社事業部門の担当者が情報管理に関するモラル・ハザードを起こして、不必要な情報まで開示してしまうおそれも生じさせます(注15)。

理由は別々ですが、向きは同じです。広い定義は、条項が守られる確率を下げます。

2 抽象的に書くと、裁判所が絞る

書き方が抽象的だと、条項の射程が後から狭められることがあります。

取引基本契約に「技術上および業務上の秘密」について秘密保持義務を負うと定められていた事案で、大阪地判平成24年12月6日は、この文言をこう解しました(注16)。

その文言に加え,被告の負う秘密保持義務が本件基本契約期間中のみならず,契約終了後5年間継続すること(本件基本契約47条2項)に照らせば,原告が秘密とするものを一律に対象とするものではなく,不正競争防止法における営業秘密の定義(同法2条6項)と同様,原告が秘密管理しており,かつ,生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な情報を意味するものと解するのが相当である(注16)

一の1で見たとおり、秘密保持条項は営業秘密より広い範囲を守るために置きます。ところが抽象的に書くと、その広さが失われ、不正競争防止法の営業秘密と同じ範囲まで戻されました。

理由づけの中で、存続期間が長いことが挙げられている点も見ておく価値があります。広く、長く縛ろうとするほど、条項全体が限定解釈される方向に働くおそれがあります。

3 受領者にとっての負担

受け取る側から見ると、包括型は管理コストの問題になります。秘密保持義務の対象となる情報に制限がなければ、情報受領者は情報開示者から開示された情報のすべてについて厳重に管理しなければならないことになります(注17)。

限定がなければ、当事者間の世間話についてまで秘密保持の対象とされかねません(注14)。

4 口頭で伝えた情報

書面なら「秘密」と押せますが、打合せの席で口頭で話したことはどうなるか。

秘密情報には、書面や資料等の有体物のみならず、口授された情報やデータ等の無体物も含まれる点を確認しておく規定例があります(注18)。手続で絞る形を採るときは、ここが穴になります。

対処として、口頭で秘密指定が行われた場合は一定期間内に書面で再度指定が行われたものに限定する、という書き方があります(注19)。条項例では「開示後7日以内に書面にて情報の範囲を特定して秘密である旨の通知が開示当事者よりなされたもの」としています(注20)。口頭に限らず、開示後1週間以内に書面で秘密と明示した情報も秘密情報に含める、という定め方もあります(注21)。


四 改善例

1 まず、自社がどちら側かを決める

条項の文言を検討する前に確かめることがあります。この取引で、自社は開示する側なのか、受け取る側なのか。

条項例のように双方の義務として規定されているケースもあれば、一方当事者の義務のみを定めているようなケースもあります。双方の義務として規定されている場合であっても、自らが開示をすることが多いのか、それとも開示を受けることが多いのかを確認することが必要です(注22)。

条項が相互的でも、情報の流れは相互的とは限りません。双方が秘密保持義務を負う形の条項でも、実際に開示するのが一方だけなら、その条項は実質的に片方だけを縛ります。

2 開示する側

範囲は広く取ります。ノウハウを含めて開示した情報の一切が含まれるように規定することで、漏れのないようにすることもできますし、秘密情報に該当しないために保護の対象でないとの主張を避けることができます(注13)。

ただし三の1で見たとおり、広ければよいわけではありません。開示する側としても、一概に広くするのではなく、「秘密」等を表示することで範囲を絞る方法もあります(注13)。

技術情報やノウハウ等の営業秘密が開示される場合には、当該ノウハウ等を双方当事者が記載から合理的にその内容を判別できるように具体的に特定し、そのうえで「その他、甲及び乙は、本契約の遂行により知り得た相手方の技術上又は営業上その他業務上の一切の情報」といった包括的な条項を定める、という組み合わせがあります(注23)。具体的な特定を先に置き、包括条項を後ろに置く。この順序であれば、認識しやすさと漏れのなさを両立できます。

3 受け取る側

範囲を限定し、明確にします(注24)。

限定の仕方は、二の2で挙げた3つのいずれかです。変更例では手続による限定を採り、「当該情報が記録された媒体に『秘密』『㊙』『Confidential』その他秘密である旨を示す表示がなされたもの」とし、口頭情報については「開示後7日以内に書面にて情報の範囲を特定して秘密である旨の通知が開示当事者よりなされたもの」としています(注20)。

この形は、開示する側も飲みやすい形です。開示する側にとっても、表示という一手間で範囲が確定するので、後で「あれは秘密だった」「聞いていない」という争いが避けられます。

なお、相互に情報を開示する場合は、秘密保持条項は双方に平等に適用されるように規定する必要があります(注22)。


五 書き分けの分岐

場面採る形
自社が主に開示する側で、開示する情報が特定できる内容で絞ったうえで、末尾に包括条項を置く
自社が主に開示する側で、何を開示するか事前に決まらない包括型。ただし社内で秘密表示の運用を作る
自社が主に受け取る側手続または媒体で絞る。口頭情報は書面での事後指定に限定する
双方が開示する手続で絞る。双方に平等に適用されることを確認する
情報が技術情報・ノウハウ具体的に特定したうえで包括条項。特許出願の予定があれば開示前に条項を置く

自社が受け取る側で範囲を絞る交渉をするときには、伝え方に注意が要ります。あからさまなリスクヘッジ条項を設けることは、開示を受ける側としての誠実性を疑われかねないので、必要最小限の規定のみを置くとともに、義務の範囲が狭くなるよう文言上の工夫をします(注22)。

「守る気がない」と読まれると、取引そのものが進みません。絞る理由を、管理を確実にするためだと説明できる形にしておきます。

秘密表示を求めるときは、次の2つの事情を示して、秘密情報を特定することが双方の利益になると説明します(注25)。過度に広範、不明確な形で秘密情報が定義されると、秘密保持義務の完全な有効性に疑問があり、法的な義務の範囲がかえって不明確になること。秘密情報を特定することで、情報の管理が容易になり、意図せぬ漏えいリスクを低減できること。どちらも、開示する側にとっての利益としても説明できる事情です。

それでも折り合えない場合の出口もあります。M&Aを行う際のように情報遮断措置の構築を検討するか、そうでなければ、案件の重要性等をふまえ、速やかに協議を打ち切って、別の案件に限られたリソースを割くという判断もありえます(注25)。

なお、秘密表示は習慣であるから、特定の案件の特定の秘密情報にだけ秘密表示をさせるのは実務上困難です。秘密情報の管理に関する社内規定等を整備し、社内研修を行うなどして、日常から秘密表示を習慣化させる工夫が重要です(注26)。条項を勝ち取っても、運用が伴わなければ守れません。

本稿で扱わなかったこと

範囲を決めたあと、その秘密情報について何を禁じるか、いつまで禁じるかが残ります。第三者への開示禁止と目的外使用禁止の書き分け、役職員や専門家への開示の扱い、存続期間。別稿「秘密保持義務の内容と存続期間」が扱います。

除外事由も本稿では扱いません。公知・既知・独自開発・正当取得の4つをどう書くか、立証責任をどちらに置くかは、別稿「秘密情報から除外される情報」が扱います。範囲を広く定めても、除外事由が広ければ実質的な射程は狭くなるので、この2つは対で読む必要があります。

秘密保持契約(NDA)に固有の論点は、本稿では扱いません。本稿は、通常の契約書の中に置かれる秘密保持条項を対象にしています。


参考文献等

註

(注1)不正競争防止法2条6項
(注2)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)125〜126頁
(注3)塩野誠=宮下和昌『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』(東洋経済新報社、2015)95頁注125
(注4)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)282頁
(注5)前掲注2・112頁の記載例①
(注6)同119頁の記載例⑤
(注7)同121頁の記載例⑦
(注8)同121頁の記載例⑧
(注9)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)622〜623頁。2015年1月28日付けで全部改訂がなされる前の経済産業省「営業秘密管理指針」が挙げるところによります
(注10)前掲注2・120頁の記載例⑥および同頁
(注11)前掲注4・284頁
(注12)前掲注2・119頁
(注13)前掲注4・285頁
(注14)前掲注3・97頁
(注15)橋本孝史「『秘密保持契約書』の交渉──秘密情報の範囲を中心に」ビジネス法務2022年8月号36〜37頁
(注16)大阪地判平成24年12月6日(平成23年(ワ)第2283号)不正競争行為差止等請求事件
(注17)前掲注9・622頁
(注18)前掲注3・97頁注128
(注19)同97頁注129
(注20)前掲注4・283〜284頁の開示を受ける側変更例
(注21)前掲注2・121〜122頁の記載例⑨
(注22)前掲注4・284頁
(注23)前掲注9・622頁
(注24)前掲注4・283頁のチェックポイント③
(注25)前掲注15・37頁
(注26)同37頁注6


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