一 問題の所在:「瑕疵」がなくなって何が変わったか
2017年の民法改正で、売主の担保責任から「瑕疵」という語が消えました。代わりに入ったのが「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」という言い回しです(民法562条1項)。
言い換えただけのようにも見えます。実際、従来の「瑕疵」の概念を積極的に変更する趣旨ではないと解されています(注1)。従来、瑕疵や数量不足の有無は具体的な契約の趣旨に照らして判断されてきたため、実務に沿った形に用語が改められたにすぎません(注2)。
しかし、建て付けは変わりました。改正民法は、目的物の品質等に契約不適合があった場合の売主の追完義務を明定することによって、目的物が特定物か不特定物かにかかわらず、売主に契約不適合なき物の給付義務があるとする契約責任説の立場を採用したことを明らかにしています(注3)。そして、売主の担保責任が問題となる場面ごとに買主の救済手段の要件・効果を書き分けていた改正前民法の規定は、全て削除されました(注3)。
削られた分は、どこへ行ったのか。この記事は、契約不適合責任の枠組みと、削られた部分が契約書に返ってきていることを扱います。
二 制度の枠組み
1 買主が採れるのは4つ
契約不適合が生じたときに買主が採り得る手段は、次の4つです(注4)。
| 手段 | 根拠条文 | 売主の帰責事由 |
|---|---|---|
| 履行の追完請求(修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し) | 民法562条 | 不要(注5) |
| 代金減額請求 | 民法563条 | 不要(注5) |
| 損害賠償請求 | 民法564条・415条 | 必要(債務不履行の一般原則) |
| 解除 | 民法564条・541条・542条 | 不要(債務不履行の一般原則) |
売買以外の有償契約には、その性質が許さない場合を除き、民法559条を通じてこの節の規定が準用されます。請負における修補請求も、この経路で認められます。
追完請求権については、方法の選択が問題になります。目的物の修補、代替物ないし不足分の引渡しのいずれを求めるかは、一次的には買主が選択できます(注6)。もっとも、買主に不相当な負担を課するものではないときは、売主は、買主の選択した方法とは異なる方法で履行の追完をすることができます(民法562条1項ただし書)(注6)。
2 代金減額請求は、改正で新しく入った
改正前民法の瑕疵担保責任の規定では、数量不足および権利の瑕疵の一部について買主の代金減額請求権が設けられていましたが、物の瑕疵については認められていませんでした(注7)。
新設の理由は2つあります。目的物の品質等の契約不適合についても、買主が契約不適合の目的物で認容する代わりに相応の代金を減額するよう求めるというのは簡易かつ公平な解決方法であること。そして、売主に目的物の品質等の契約不適合につき帰責事由がないために損害賠償請求ができない場合にも、契約不適合がある以上は相応の代金の減額を認めるのが公平であること(注7)。
代金減額請求権は、売主に落ち度がなくても使えます。従来の法定責任説における無過失信頼利益賠償の一部は、改正民法では代金減額請求権によってカバーされることになります(注8)。
減額の算定について、民法に規定はありません。実際に引き渡された目的物の現に有する価値と、契約の内容に適合していたならば目的物が有していたであろう価値とを比較して、その割合を代金額に乗じたものが想定されており、この価値の基準時は契約時であると解されています(注9)。
3 種類・品質・数量で、期間制限が分かれる
4つの救済のうち、566条の期間制限(通知をしなければ失権する短期の制限)がかかるのは、種類・品質の契約不適合の場合だけです。買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、4つとも行使できなくなります(民法566条本文)。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、この期間制限はかかりません(同条ただし書)。
数量の契約不適合と権利の契約不適合には、この短期期間制限がありません。期間の設計は、別稿「通知期間の設計」が扱います。
4 整理された分だけ、一般原則に投げられた
改正の意味を、逐条解説はこうまとめています。
改正民法における売主の契約不適合責任は,債務不履行の一般原則との関係が整理されてわかりやすくなった反面,損害賠償及び解除の要件等は,改正前民法の細かい規律から,債務不履行の一般原則に委ねられた。そのため,具体的にどのような場合に損害賠償や解除ができるのかなどにつき,一般原則の解釈論に重たい負担が残されることになった(注10)
債務不履行の一般原則からは直ちには導けない規律として売買の箇所に別途置かれているのは、562条の追完請求権、563条の代金減額請求権、そして566条の短期期間制限です(注10)。それ以外は、損害賠償なら415条、解除なら541条・542条に戻ります。
一の設問への答えが、ここにあります。削られた規定の分は、債務不履行の一般原則と、当事者が書く契約書の両方に振り分けられました。
三 解釈:「契約の内容に適合しない」は何を基準に判断するか
1 基準時は、契約締結の時
判断の枠組みを示した最高裁判決があります。土地の売買後に、契約締結当時は規制対象でなかったふっ素が基準値を超えて含まれていることが判明した事案です(注11)。
売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき(注11)
この事案では、契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、買主の担当者もそのような認識を有していませんでした(注11)。そして、契約の当事者間において、土地が備えるべき属性として、契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない、とされています(注11)。
結論は、瑕疵に当たらない。原審は、有害物質が含まれていないことは土地が通常備えるべき品質・性能に当たるとして瑕疵を認めていましたが、破棄されました(注11)。
契約で特に予定していない限り、後から社会の認識が変わっても、契約締結時に遡って責任にはなりません。改正前民法570条の「瑕疵」についての判断ですが、何が予定されていたかを契約締結当時の取引観念で判断するという枠組みは、「契約の内容」の判断にもそのまま使えます。
2 「契約の内容」は契約書だけで決まるわけではない
もっとも、契約書に書いてあることだけで決まるわけでもありません。
現行民法における「契約の内容」も、契約書の記載のみならず、契約の性質、目的、締結に至る経緯その他の契約をめぐる一切の事情に基づき、取引通念を考慮して判断されます(注12)。契約内容に適合するか否かが契約当事者の合意内容、合理的意思解釈から判断されるというのも、同じことです(注13)。
改正前の議論でも、この視点は強調されていました。瑕疵の存否は、結局、契約の趣旨を踏まえて目的物が有するべき品質、性状等を確定した上で、引き渡された目的物が当該あるべき品質等に適合しているか否かについての客観的・規範的判断に帰着すると考えられ、裁判実務においても、民法570条の「瑕疵」に該当するか否かは、基本的にこのような手法で判断していると考えられます(注14)。
つまり、契約書は判断材料の中心ですが、唯一の材料ではありません。書いていなければ、契約の性質や締結の経緯から補われます。
四 契約実務への還元
1 仕様書が、責任の範囲を決める
三の裏返しが、実務でいちばん効く帰結です。
後に「契約の内容」をめぐる争いが生じることを避けるべく、「契約の内容」が契約書の記載そのものから一義的に理解できるものにしておくことが望ましいといえます(注15)。品質・性能・数量等を契約書において細かく定めておくことが、売主の責任の範囲を明確化し、紛争予防にもつながります(注13)。
売主の立場からは、もう一歩進んだ書き方ができます。種類・品質の不適合については、「不適合」という表現にやや曖昧さが残るので、商品の仕様・品質基準を定めている場合には、「契約不適合とは、当事者間で定めた『○○仕様書』との不一致をいう」といった定義規定を設け、契約不適合の範囲を限定する方法があります(注15)。
定義条項で「不適合」を仕様書との不一致に固定すると、三で見た取引観念の判断が入る余地が狭まります。買主から見れば、仕様書に書かれていない性能は責任の外に出るということでもあります。仕様書に何を書くかが、そのまま責任の範囲になります。
2 救済手段の関係を、条項で決めておく
二の1で見た4つは、自由に組み合わせられるわけではありません。
代金減額請求をしつつ契約の解除をすることはできませんし、完全な履行を求める追完請求をしつつ履行利益に係る損害賠償請求をすることもできません(注16)。これらは、その性質からして両立し得ないことによるものですが、契約書には、疑義を避けるべく、どのような条件でどの救済方法を認めるのかを明確に定めることも一案です(注16)。
なお、代金減額請求をしてもなお損害があれば別途損害賠償請求が可能です(注16)。契約書の契約不適合責任の条項として代金減額請求の規定があるというだけでは、代金額を超える損害賠償請求が排除されているとはいえず、排除するには明確にその旨定める必要があります(注16)。
この点を正面から判断した裁判例があります。小型風力発電機の継続的な売買で、基本契約8条が、検査によって容易に発見することができなかった瑕疵が発見されたときは引渡時から12か月以内に限り無償での修理または代金の全部もしくは一部の返還を請求することができる、と定めていた事案です(注17)。売主は、この条項が瑕疵担保責任の範囲を代金額に限定するものだと主張しました。
同条は、本件製品に瑕疵が存在する場合に、代金の全部又は一部の返還を請求し得る旨規定するにとどまり、これを超えて、代金の全部を超える損害賠償請求を許さない旨規定するものではないから……、同条の文言から、損害賠償の範囲が限定されている旨読み取ることはできない。さらに、本件基本契約15条1項は、同契約の解除によって発生する損害の全てを賠償しなければならない旨定めているところ……、同項と8条とを整合的に理解するという観点からみても、同条が損害賠償の範囲を代金額の範囲に限定する規定であると解することはできない(注17)
救済手段を書いた条項は、それだけでは他の救済手段を封じたことになりません。裁判所は、損害賠償条項(15条1項)との整合的解釈まで持ち出しています。上限を設けたいなら、契約不適合責任の条項の中で正面から書くことになります。
二の1の追完方法の選択も同じです。買主の選択と異なる方法での追完を売主に認める民法562条1項ただし書の規律の適用を排除したい場合には、契約書において定めておく必要があります(注6)。
3 検査・検収の条項と、二段構えにする
契約不適合が見つかる場面は、2つあります。納品時の検査で見つかる場合と、検査を通ったあとに見つかる場合です。
取引基本契約書の雛形の例では、検査時に不適合を発見した場合のルールを4条で、検査後に不適合を発見した場合のルールを9条で、それぞれ定めています(注18)。
第9条(契約不適合責任) 1 商品に第4条第1項に定める検査では発見できない不適合(数量不足を除く。以下本条において同じ)があったときは、納品後6か月以内に甲が不適合を発見し、乙に対し、○営業日以内に具体的な不適合の内容を示して通知し、その後、同条第2項に定める履行の追完を催告した場合に限り、乙は、甲の選択に従い、同条第2項に定める履行の追完をする。 2 前項の履行の追完を催告したにもかかわらず、甲が定めた期間内に乙が履行の追完をしないときは、甲は乙に対し、不適合に応じた商品の代金の減額を請求することができる。 3 本条の規定は、甲による損害賠償の請求を妨げない。(注19)
これに対して、実際には「契約不適合責任」という表題で「契約不適合があった場合には損害を賠償する」といった漠然とした規定がなされていることが多いといえます(注18)。
そのような規定は、契約不適合がどの段階で発見された場合の規定であるのか、検査時の通知義務等を果たさない場合でも後日の賠償請求を認める趣旨なのか、権利行使がいつまで可能なのか、などが実は不明確である場合が多い(注18)。したがってこれらについて、任意規定が適用されても不測の損害が生じることのないよう、詳細に規定をすべき場合もあります(注18)。
4 レビューでは、3か所を並べて読む
相手方から示された契約書で契約不適合責任の条項を見るときは、次の3か所を並べます。
| 見る場所 | 確かめること |
|---|---|
| 仕様書・別紙 | 品質・性能・数量が書かれているか。四の1の定義規定で「不適合」がここに固定されていないか |
| 検査・検収の条項 | 検査の方法・基準・期限。合格の効果(何が確定するのか) |
| 契約不適合責任の条項 | 検査後に発見された場合の救済手段・通知期間・期間制限 |
この3か所が接続していなければ、条項があっても働きません。検査で発見できる不適合と発見できない不適合の切り分けがないまま「契約不適合があったときは賠償する」とだけ書かれていれば、どちらの場面の規定なのかが読めないからです。
そして、自社が売主側なら、締結の過程で示した仕様書・カタログ・見本を保存します。三の2のとおり、「契約の内容」は契約書だけで決まりません。何を示して契約に至ったかが、責任の範囲を動かします。
本稿で扱わなかったこと
通知期間の設計と、民法566条・商法526条の関係は、別稿「通知期間の設計」が扱います。二の3で触れた1年の起算点は、そちらで詳しく扱います。
請負における修補・報酬減額・出来高請求は、別稿「請負における修補・報酬減額・出来高請求」が扱います。二の1で触れた民法559条による準用の先です。
契約不適合責任を免除・軽減する条項の限界は、別稿「契約不適合責任を免除・軽減する条項の限界」が扱います。四の1の定義規定による範囲の限定は、免除条項と隣り合わせの技術です。
損害賠償の範囲と予見可能性、賠償額の上限は、別稿「損害の範囲と予見可能性」と別稿「責任上限条項の設計と相場」が扱います。
納品・検査・検収の条項そのものの設計と、品質保証条項は、本稿では扱いません。
契約書と仕様書の優先順位は、別稿「契約書・別紙・仕様書・発注書の優先順位条項」が扱います。四の1で仕様書に責任の範囲を委ねる以上、仕様書が本文に優先するかどうかは決めておく必要があります。
拡大損害と製造物責任も、本稿では扱いません。
参考文献等
註
(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問23(売主の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を定める場合)の解説1
(注2)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)42頁
(注3)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための逐条解説新債権法』(有斐閣、2021)494頁
(注4)民法562条・563条・564条。請負について同じ4つを挙げるものとして、前掲注1の設問30(契約不適合責任に基づく権利行使の期間制限が問題となる場合)の解説1
(注5)前掲注2・43頁
(注6)同42頁
(注7)前掲注3・508頁
(注8)同508頁
(注9)前掲注2・43頁。同書は一問一答279頁注を引きます
(注10)前掲注3・496頁のコラム「契約責任のシンプルさによる新たな課題」
(注11)最判平成22年6月1日民集64巻4号953頁(平成21年(受)第17号)
(注12)前掲注2・42頁。同書は法務省民事局参事官室「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」〔2013年4月、同年7月4日補訂〕478頁を引きます
(注13)前掲注1の設問23の解説1
(注14)前掲注3・493頁
(注15)前掲注2・42頁
(注16)同43頁
(注17)東京地判令和5年3月29日判例タイムズ1522号199頁(令和1年(ワ)第27064号、D1-Law判例ID 29077966)。改正前民法(瑕疵担保責任)下の事例です
(注18)前掲注2・65頁
(注19)前掲注2・26頁の取引基本契約書雛形9条
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