予定額を超える損害が生じた場合

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:予定額では足りない

契約書に違約金の定めがあり、相手方が違反した。ところが集計してみると、実際の損害が違約金の額を大きく上回っている。差額も請求したい。

このとき、契約書の一文で結論が決まります。違約金として設定した金額では、実際の損害額を填補できない場合があり得る。そして違約金は賠償額の予定と推定されるため、この推定を覆さない限り、契約で規定した違約金を超える金額の請求はできません(注1)。

紛争が起きてからでは、取り得る手はほとんどありません。この記事は、条項をレビューする段階で何を見て、どう直すかを扱います。

なお、逆に予定額が過大な場合の扱い(公序良俗違反による減額)は、この記事の範囲外です。別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」の三で扱っています。


二 何を見るか

1 「違約金」としか書いていないか

まず見るのは、条項がこの形で終わっているかどうかです。

(違約金) 第○条 乙が本契約に違反したときは、甲に対し、違約金として金○○万円を支払う。(注2)

一文で完結しています。違約金の額は書いてありますが、それが上限なのかどうかは書いてありません。

民法420条3項により、この条項は損害賠償額の予定と推定されます。したがって、債権者は実際の損害額が予定額を上回ったとしても増額を請求することができません(注1)。

推定が働く以上、書いていないことは債権者に不利に出ます。この一文で終わっている条項は、額の多寡にかかわらず、レビューで拾う対象になります。

2 超過分を請求できる旨があるか

次に見るのは、超過分の扱いです。債権者が違約金を超える金額を請求する場合には、当該違約金が賠償額の予定ではないことを立証しなければなりません(注1)。

立証に成功する見込みは高くありません。契約書に「違約金」と書いてあり、それ以上の手がかりがないなら、420条3項の推定はそのまま通ると考えられます。

したがって、超過額を請求したいのであれば、契約書において「違約金の額を超える損害が発生したときは、その超過額を請求することができる」等と規定しておかなければなりません(注1)。

3 どちらの側で読んでいるか

同じ条項でも、立場によって直す方向が逆になります。

立場見るところ望ましい形
違反されて請求する側(債権者)超過分を請求できる旨があるか超過額を請求できる旨を書く
違反して請求される側(債務者)予定額が上限として機能するかこの額をもって賠償に代える旨を書く

どちらの側でも、書き足す必要があるという点は共通します。「違約金として金○○万円」だけの条項は、どちらの立場から見ても未完成です。

4 同じ契約に遅延損害金の条項がないか

見落としやすいのが、契約の別の場所に置かれた金銭に関する定めとの関係です。

代金の支払遅延に対する遅延損害金の条項も、金銭債務の不履行についての賠償額の定めです。違約金条項と遅延損害金条項が同じ契約に併存していると、支払遅延が起きたときにどちらが適用されるのかが争点になりえます。

レビューでは、違約金条項の適用対象を義務の種類で限定しているかを確かめます。三で見るとおり、「本契約に違反したときは」を「本契約に定める義務に違反した場合」に改めるのは、この整理の第一歩です。適用対象を書き分けておけば、超過額を請求できるかどうかを条項ごとに判断できます。

5 特別法がかかる取引でないか

条項の書きぶりの前に、額そのものに法律上の上限がかかる取引かどうかを確かめます。

賠償額の予定については、利息制限法4条・7条、労働基準法16条、特定商取引法10条などが制限を置いています(注3)。消費者契約であれば、消費者契約法9条1項1号が平均的な損害の額を超える部分を、同項2号が年14.6パーセントを超える部分を、それぞれ無効とします(注3)。

上限がかかる取引では、超過分を請求できる旨を書き足しても意味がありません。書き足す作業に入る前に、この確認を済ませます。


三 直し方

請求する側に立つ場合、加えるのは1項です。

(違約金) 第○条 乙が本契約に定める義務に違反した場合、甲に対し、違約金として金○○万円を支払う。 2 甲に前項の違約金の額を超える損害が発生したときは、甲は、乙に対し、その超過額を請求することができる。(注4)

改善例は、もとの条項の「本契約に違反したときは」を「本契約に定める義務に違反した場合」に改めています(注4)。違反の対象を義務として特定しておくと、二の4で見た遅延損害金条項との関係を整理しやすくなります。

請求される側に立つ場合は、逆の一文になります。

2 甲は、乙に対し、本契約の違反により生じた損害につき、前項の額を超えて賠償を請求することができない。

どちらも、420条3項の推定に頼らず、当事者の意思を条項の中で完結させる書き方です。推定に任せておくと、相手方から「これは違約罰である」「これは上限ではない」という主張が出る余地が残ります。

なお、超過額を請求できる旨を置いた場合、その超過額については立証の負担が戻ってきます。予定額の部分は立証なしで請求でき、それを超える部分は民法416条の枠組みで立証する。この二段構えになる点は、条項を置く側も理解しておく必要があります。


四 相手方への説明のしかた

超過分を請求できる旨を加えると、相手方から「青天井になる」という反応が返ってきます。

説明の順序は、次のようになります。

まず、この条項がなくても、違約金が損害賠償額の予定と推定されるのは民法420条3項の効果であって、当事者が積極的に合意した結果ではないこと。条項を加えることは、法律の原則に戻すという意味を持ちます。

次に、加えた場合でも、超過額については損害の発生と額をこちらが立証しなければならないこと。立証できなければ請求は認められません。「青天井」という懸念は、立証責任によって現実には抑えられます。

そのうえで、それでも上限が必要だという話になれば、責任上限条項の議論に移ります。違約金の額とは別に、賠償額全体の上限を設ける。この整理のほうが、双方にとって見通しがよくなります。

順序を逆にしないことが要点です。違約金の額そのものを上げる交渉から入ると、相手方は額の水準だけを見て抵抗します。条項の構造の話(推定を外すかどうか)と、額の水準の話は、切り離して進めるほうがまとまります。


五 どこまで直すか

すべての違約金条項に超過額の請求を書き足す必要はありません。優先順位は、違反によって生じる損害の見通しで決まります。

損害の額が読める義務では、予定額で完結させたほうが扱いやすくなります。納期遅延に対する遅延損害金のように、日数と金額から積算できるものです。この場合、予定額をもって賠償に代える旨を書き、そこで閉じます。

損害の額が読めない義務では、超過額の請求を書き足す価値があります。秘密情報の漏えい、競業避止義務違反、知的財産権の侵害など、損害が事後にしか分からず、しかも大きくなりうる義務です。

書き足しの交渉が通らなかった場合の判断も、この区別で決まります。損害の読める義務であれば、予定額の水準を上げる交渉に切り替える。読めない義務であれば、違約金条項そのものを落として民法の原則に戻すという選択もあり得ます。額の合意がないことは、請求する側にとって必ずしも不利ではありません。

本稿で扱わなかったこと

違約金と違約罰の書き分けそのものは、別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」が扱います。本稿の三で書き足す一文は、そこでいう「どちらのつもりかを明記する」作業の一部です。

予定額が過大で減額される場面も、同じ別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」が扱います。

賠償額全体に天井を置く条項は、別稿「責任上限条項の設計と相場:上限は対価とセットで決まる」が扱います。四で説明の落としどころとして挙げたものです。

中途解約に伴う違約金は、別稿「解約一時金・中途解約違約金条項の効力」が扱います。


参考文献等

註

(注1)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問13(契約で規定した違約金を超える損害が生じた場合)
(注2)同設問13の条項例
(注3)同設問13。同書は利息制限法4条・7条、労働基準法16条、特定商取引法10条等および消費者契約法9条を挙げます
(注4)同設問13の改善例


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