一 問題の所在:民法にない条項が、なぜ和文契約にあるのか
民法に「表明保証」という制度はありません。それでも、株式譲渡契約にも、事業譲渡契約にも、売買契約にも、ライセンス契約にも、この条項は載っています。
表明保証とは、契約の一方当事者が、他方当事者に対して、主として契約の対象物等の内容に関して、一定時点における一定の事項が真実かつ正確であることを表明し保証することをいいます(注1)。
もともとは英文の株式譲渡契約、営業譲渡契約、合併契約等のM&A関連契約で用いられてきたものです(注2)。1990年代後半に日本のM&A契約で用いられるようになり、近年では売買契約をはじめ多くの契約書でも利用されるようになってきました(注2)。
なぜ要るのかは、株式譲渡の場面で考えるといちばん分かりやすくなります。株式を買うことは、それを発行する会社を買うことですが、果物や機械のような物品の売買とは異なり、会社はその中身や状態が見えにくい(注1)。そこで対象会社がどのような中身や状態であるのかを売主が表明保証し、表明保証された内容を前提として買主は株式を買うこととしたうえで、もし前提が崩れた場合には、取引を実行しないこととしたり、違反者が相手方に対して金銭補償することとしたりする(注3)。
この条項がしているのは、事実の申告ではなく、リスクの割り当てです。売主が「こうなっている」と述べ、そうでなかったときに誰がいくら負担するかを、あらかじめ決めておく。見えないものを買う取引を成立させるための仕組みです。
この記事は、その仕組みが日本法のもとでどう働くか、そしてM&A以外の契約でどう使えるかを扱います。
二 制度の枠組み
1 英米法から来たのは、条項だけである
M&A契約において多数の内容について表明し保証する条項は、レプワラ(Representation and Warranty の略)条項と呼ばれることもあります(注4)。呼び名からして、出自は英文契約です。
出自を確かめておく意味は、英米法では条項の外側に判例法の蓄積があるという点にあります。たとえば、買主が表明保証の内容が正しくないことを知りながら取引を実行し、実行後に売主へ補償を請求できるか(サンドバッギング)という論点について、アメリカでは州ごとに裁判所の判断が分かれ、認めるのが現在の判例法の大勢です(注5)。M&A契約の準拠法として重要な州のうち、ニューヨーク州とデラウェア州はこれを認め、カリフォルニア州は否定しています(注5)。
つまり、英文契約では、条項に書かれていないことを判例法が埋めています。日本に来たのは、その条項だけでした。埋めるものがないまま条項が動いているというのが、日本での出発点です。
2 性質論は分かれているが、行き着く先は同じである
表明保証の法的性質について、学説は分かれています(注6)。瑕疵担保責任のアナロジーで捉える立場と、損害担保契約ないし損害担保約束として捉える立場です(注7)。
実務にとって大事なのは、どちらの立場をとっても結論が変わらない点です。いずれの立場をとるのであれ、次の枠組みが妥当します(注7)。
① 表明保証条項では,当該条項に表示された一定の事項について表意者がその真実性を保証したときに,このことが表意者の債務の内容を構成している(真実性保証義務。結果債務の一種である〔ただし,保証された結果が何かは,前述した契約の解釈を経て確定される〕)。 ② したがって,当該事項と真実とが食い違っているときには,表明保証違反という表意者の債務不履行が認められる。 ③ そして,この場合に表明保証違反という債務不履行により相手方に生じる損害について,表意者は,「補償」を記述した条項により塡補を義務づけられることが帰結される(結果保証をしたことによる損害賠償責任)。ここで賠償されるべき損害は,履行利益である。 ④ もとより,表明保証条項と合わせて,債務者が保証違反を理由として塡補すべき額について特別の合意がされていたならば,それは損害賠償額の予定として捉えられることになる。(注7)
①の括弧書きが、実務上いちばん効きます。表明保証は結果債務であり、結果が出なければ違反になります。保証約束が問題となっている以上、無過失の抗弁は認められません(注7)。債務不履行に基づく損害賠償であれば、民法415条1項ただし書により、債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは賠償を請求できません。表明保証では、その抗弁が使えないことになります。
もっとも、契約の実務では、法的性質論に深入りする必要はなく、表明保証の事実が真実または正確でないことが判明した場合は損害賠償および契約を解除できる旨の特約を定めておけば足ります(注6)。条項の効力そのものは、通常、有効なものとして取り扱われています(注8)。
一方で、厳しい評価もあります。表明保証条項は、アメリカ留学を経た弁護士が所属する大手法律事務所が関与する契約書で使われて徐々に広がったものであり、これらの大企業と取引をする、概して力関係において弱い債務者や売主の立場にある者としては異議を述べても受け容れざるを得ない立場・状況にあることから、わが国において法理論的検証を十分に経ることなく広がっていったものと推測される、という見方です(注9)。この見方は続けて、わが国においては厳密には表明保証条項のほとんどは既に別の条項や法律で対処済みか、あるいは対処可能なもので、契約条項としては法律的に意味がないと考えられる、としています(注9)。
この指摘は無視できません。英文のひな型にあったから入れる、という理由しかない表明保証は、実際に意味がないことがあります。入れるかどうかを判断するには、次に見る契約不適合責任との差を押さえる必要があります。
3 契約不適合責任との違いはどこにあるか
現行民法のもとでは、売買契約において引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合、売主は買主に対して契約不適合責任を負います(民法562条1項)。この責任は売買契約における売主の責任として定められていますが、有償契約には可能な限り準用されます(注8)。
そうすると、目的物の状態については民法が用意した受け皿があります。それでも表明保証を置く意味は、2つあります(注8)。
1つは、範囲の明確化です。さまざまな契約において、何が「契約の内容に適合するか否か」は必ずしも明らかではありません。契約当事者が一定の事実等について表明保証することによって、相手方はその保証に違反したことによる責任を追及できることを明確にできます。
もう1つは、期間です。契約不適合責任には民法または商法に定める期間制限が付されていますが、表明保証に違反したことにより損害賠償責任を負担する旨を定めておくことによって、この期間制限を排除することも可能となります(注8)。
契約不適合責任は「適合しているか」を後から争う制度で、表明保証は「何が前提だったか」を先に書き留める仕組みです。この差が、レビューで表明保証を残すかどうかの判断材料になります。
なお、契約書の「保証」という語には2つの意味があり、注意が要ります(注10)。他人の債務を引き受けて自らも債務を負うという意味の「保証」、つまり保証人になるという意味のものと、この記事で扱う「約束する」「責任を持つ」という意味のものです。どちらの意味かは前後の文脈で判断することになります(注10)。条項の見出しが「保証」とだけ書かれている契約書では、まずここを確かめます。
三 解釈:違反の効果は何によって決まるか
表明保証違反の効果は、3つに分かれます(注5)。前提条件の不充足、解除権の発生、そして補償請求権の発生です。
このうち前の2つは、当事者を契約上の義務から解放するためのものです。これに対して補償は、契約締結時に売買価格へ織り込めなかった事情について事後的な価格調整を行う機能を果たすものであり、両者の間には質的な差があります(注5)。事業譲渡の場面でも、表明保証条項に違反した場合の法的効果としては、金銭的補償や、クロージングの前提条件を欠くものとして事業譲渡の実行をしないこととするのが一般的です(注11)。
重要なのは、この3つのどれが働くかを決めているのは民法ではなく、契約書だという点です。表明保証の法的性質には見解の対立があり、補償条項を置かないまま違反が判明した場合に、どの範囲で損害賠償を請求できるかは一義的ではありません。金銭の請求に確実に結びつけるのは、補償条項です。
裁判所も、条項を読んでこの構造を確認しています。株式譲渡の基本契約について、次のように述べた判決があります。
本件基本契約書11条は,企業買収に応じるかどうか,あるいはその対価の額をどのように定めるかといった事柄に関する決定に影響を及ぼすような事項について,重大な相違や誤りがないことを保証したもので,同12条1項は,その保証に違反があった場合に損害補償に応じる旨を定めたものであると解するべきであり(注12)
11条が保証をし、12条1項がその違反に金銭を結びつける。二段構えです。片方だけでは、違反したときに何を請求できるかが定まりません。
条項が揃っていれば、認められる範囲は狭くありません。消費者金融会社の株式譲渡で表明保証違反が問題になった事案では、3億0529万3523円の支払が命じられています(注13)。内訳は、譲渡価格が水増しされた額2億7538万5023円のほか、処理をあるべき形に戻すためのシステム修正費用168万円、訴訟のための意見書・陳述書の作成および証言に要した費用122万8500円、そして弁護士費用です(注13)。この契約の補償条項は、合理的な範囲内の費用(弁護士費用を含む)の負担まで明記しており、違反そのものによる損失を超えて、対応にかかった費用まで認められています。
四 契約実務への還元
1 どこまで表明させるか
表明保証の対象となる事項は、大きく2つに分けられます(注3)。
当事者に関する事項として挙げられるのは、契約の締結および履行権限、契約の有効性および執行可能性、倒産手続の不存在、反社会的勢力への非該当などです(注3)。対象会社に関する事項としては、株式、財務諸表、公租公課、許認可など、対象会社の価値を判断するうえで重要な事項が含まれます(注3)。
条項の形にすると、たとえば次のようになります。
第○条(表明及び保証) 甲は本契約締結日及び譲渡日において,以下の事項に相違ないことを表明及び保証する。 ④ 計算の適正 甲が乙に提出した甲の20○○年○月期の貸借対照表は,法令及び定款に適合し,かつ日本国において一般に公正妥当と認められる企業会計基準に準拠して作成され,監査法人の監査を終了しており,本貸借対照表に記載されていない簿外取引又は債務(保証債務,偶発債務を含み,支払期限が到来しているか否かを問わない。)は存在しない。 ⑤ 訴訟 甲を当事者とする,又はその資産に関する訴訟,その他の司法上若しくは行政上の手続,又は政府若しくは行政機関の調査は係属していない。 ⑦ 提供情報 本契約の締結交渉にあたり甲が乙に対して開示・提供した資料・情報が正確であり,対象資産に重大な不足が存在しない。(注14)
どこまで書くかは、そのまま交渉になります。売主はできる限り責任を回避したいため、「……は重要な点において違反がない」「売主の知る限りにおいて保証する」といった範囲を限定する趣旨の文言を使おうとします(注3)。買主はできる限り広くかつ詳細な表明保証を望むため、「全ての法令等を遵守しており、将来法令等の違反をするおそれもない」といった包括的・網羅的な規定を設けようとします(注3)。実際の交渉では、両者の主張のせめぎあいの中で規定ぶりを調整することになります(注3)。
このうち「知る限り」の効き方は、押さえておく値打ちがあります。弱い立場にある債務者や売主が表明保証条項に対抗する方法として、自己の「知る限り」という文言を入れることによって表明保証によって無過失責任となることを排除しようとすることが多く、その点について契約締結交渉における攻防が繰り返されます(注9)。二の2で見たとおり、表明保証は無過失の抗弁を許さない結果債務です。「知る限り」の3文字は、その結果債務を、知っていたかどうかという主観の問題に組み替えます。金額の話をする前に、まずここを見ます。
レビューで見るのは、限定文言がどこに掛かっているかです。「重要な点において」が財務諸表に掛かっているのか、条項全体に掛かっているのかで、効き方が変わります。この線引きは、別稿「重大性による限定(マテリアリティ)」の主題です。
2 M&A以外の契約で使う場面
表明保証はM&Aの専用品ではありません。売買契約でも、ライセンス契約でも使えます。
いちばん単純な形は、売買対象物の仕様についてのものです。売主が、引渡時点において売買対象物が添付別紙の仕様書に記載のとおりの仕様を満たすことを保証する、という条項例があります(注4)。
これを厚くすると、品質保証の形になります。売買契約において売買対象物が一定の品質等を具備していることを表明保証したうえで、これを担保するためのさまざまな義務を負担することや、保証に違反した場合の損害賠償責任について明記する例です(注15)。表明保証していることを相手方が確認するために、表明保証を行った当事者に対して、一定の証憑の作成・保管義務やその提出義務、さらには相手方の立入検査を受け容れる義務等を定めている条項例もあります(注15)。表明した内容を確かめる手段まで書いて、条項は完成します。
見落とされやすいのが、逆向きの使い方です。一定の事実等について「保証しない」旨を明確に定めておくことによって、当該事実等が存在しない場合であってもなんら責任を負わない旨を明らかにしておくことができます(注16)。例えば、知的財産権のライセンス契約で、ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンスの根拠となる知的財産権に無効事由等が存在しないことについて保証しない旨を定める条項例があります(注16)。
第○条(甲の不保証) 甲は、乙に対し、本件知的財産権につき無効事由が存在しないこと、および、本件知的財産権の使用が第三者の権利により制限を受けないことは、保証しない。(注16)
表明保証の条項は、責任を作るためだけのものではありません。責任がないことを確定させる道具にもなります。特許の有効性のように、当事者のどちらも確かめきれない事柄については、こちらのほうが実態に合います。
二の2で見た「表明保証条項のほとんどは法律的に意味がない」という指摘に対する答えも、ここにあります。民法や他の条項で対処済みの事柄を書き写しても、たしかに意味は薄い。意味が出るのは、契約不適合責任の受け皿から外れる事柄(相手方の権限、係争の有無、許認可、開示資料の正確性)を対象にしたときと、期間制限を動かしたとき、そして責任を負わない範囲を確定させたときです。
本稿で扱わなかったこと
表明保証違反に金銭を結びつける仕組みは、別稿「補償条項の設計」が扱います。三で見た二段構えの後段が、そちらの主題です。
買主が違反を知っていた場合に請求できるかは、別稿「譲受人の主観的態様と表明保証責任」が扱います。二の1で触れたサンドバッギングの論点です。
「重要な」「重大な」という限定の扱いは、別稿「重大性による限定(マテリアリティ)」が扱います。四の1で触れた交渉の中心です。
表明保証以外の英文由来の条項(完全合意、分離可能性、権利不放棄)を含めた流入の経緯は、別稿「英文契約由来の条項が和文契約に流入した経緯:来たのは条項だけだった」が扱います。
M&A取引に固有の設計(買収監査との役割分担、補償の上限と期間、ディスクロージャー・スケジュール)は、本稿では扱いません。
参考文献等
註
(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)271頁
(注2)堀江泰夫『契約業務の実用知識〔第3版〕』(商事法務、2025)223〜224頁
(注3)前掲注1・272頁
(注4)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)79頁
(注5)道垣内弘人ほか「〔座談会〕表明保証条項違反を理由とする損害賠償請求訴訟」(現代訴訟の論点と法理論の検討・第2回)論究ジュリスト22号(2017)156頁。アメリカの状況は同167頁、違反の効果の3分類は同171頁、補償の機能は同172頁(いずれも星明男発言)
(注6)前掲注2・225頁
(注7)北川善太郎=潮見佳男〔§415〕奥田昌道編『新版注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)債権の目的・効力(2)』(有斐閣、2011)56〜59頁。①〜④の枠組みは同59頁、無過失の抗弁が認められない旨は同58頁
(注8)前掲注4・80頁
(注9)植草宏一=松嶋隆弘編著『契約書作成の基礎と実践──紛争予防のために』(青林書院、2012)26〜27頁
(注10)前掲注4・86頁のColumn「契約書で用いられる「保証」の二つの意味」
(注11)前掲注1・290頁
(注12)東京地判平成19年7月26日判タ1268号192頁(平成18年(ワ)第4129号)
(注13)東京地判平成18年1月17日判時1920号136頁(平成16年(ワ)第8241号)
(注14)前掲注2・222〜223頁が掲げる条項。表明保証条項の抜粋であり、番号は原文のままです
(注15)前掲注4・84頁
(注16)前掲注4・83〜84頁および同84頁の記載例⑤
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